悲喜交々のドラマを残して統一地方選挙が終わった。文字通り、西に東に注目の選挙があった。その中で、特に考えさせられたのがが長崎市長選挙だ。現職の伊藤一長市長が銃撃され死亡するという、予想だにしない選挙戦になった。
伊藤前市長の遺志を継ぐということで娘婿の横尾氏と、事件とまちづくりは別の問題だとして立候補した市の統計課長だった田上氏の一騎打ちだったが田上氏が僅か953票差で勝利した。横尾氏側にしてみれば、期日前投票のうち、伊藤前市長への票が多くあったであろうということや、投票のやり直し(検討すべき)ができないなどの壁があったことにやり切れなさを感じたであろう。
一方では、投票日の投票者数200830人のうち、約7.7%の15435票が無効票で、候補者でない者の名前を書いた票が8050票だった。その大半は伊藤前市長の名前を書いたとみられている。白票も5119票、雑事を書いたものが1228票あったという。これは、市民が伊藤前市長イコール横尾氏という捉え方をしなかったということだ。
政治家の世襲が、しばしば問題視されるが、一概に悪いとは思わない。要は、その人が候補者としての諸条件を兼ね備えているどうかが問題なのだ。今回の場合、横尾氏の立起表明を聞いていても、伊藤前市長の何を継ぐのか、長崎のまちづくりをどうするのかが明確に伝わってこなかった。(せめて、その要点だけでも)異常事態だから仕方ないとも言えるが、やはり候補者としての条件を満たしていなかったということになる。
伊藤前市長の娘が敗戦後の選挙事務所で、「伊藤一長は、この程度の存在でしたか、こんな仕打ちを受けるとは思いませんでした」と叫んでいたが、遺族の心情としては分かる。しかし、市民に向かって口にすべき言葉ではなかった。市民の伊藤前市長への思いはあったにしても、同情だけで横尾氏への投票には結びつかなかったということだ。「弔い合戦は強い」というのが一般的な見方だが、あくまでもケースバイケースだ。
田上氏は今まで、市役所の中で、まちづくりに多く関わり、実績を残してきているという。市民は伊藤前市長の行政的遺志を田上氏に託したのだ。田上氏の行政手腕を見守りたい。
統一地方選挙は終わったが、今度は私たちが選んだ人たちの活動をしっかりとチェックしていくことが大事だ。