「今日は土用の丑の日?」
先日の驚きとは違う意味で驚きです。だって、このあたりの今日の最高気温、22度しかなかったんですよ。今なんか「短パンにTシャツ姿じゃ、絶対に寒いよ」ってな感じ、昨日までの暑さは何処に行ってしまったのでしょうか?
参院議員選挙のニュースに隠れ、大きな報道がなかったように思いますが、私の人格形成に多いに影響を及ぼした人物が、また一人お亡くなりました。
享年75才、7月30日、今朝早くに胃ガンのため帰らぬ人となったのは、作家であり生涯平和主義を貫き通した小田実(おだまこと)氏であります。
私が小田氏の文章を始めて目にしたのは、おそらくは高校時代であったと思います。それが『何でも見てやろう』だったか『ベトナムから遠く離れて』であったか『現代史』『平和をつくる原理』『ベトナムの影』・・・何だったでしょう?
ともかく、多感な私の心に大きく残る人物であったことは間違いありません。
『されど われらが日々――』の柴田翔、『光る声』の真継伸彦、『裸の王様』の開高健、そして『我が心は石にあらず』の高橋和己らと発行した『人間として』という同人季刊誌がありました。もちろん私はリアルタイムで読みあさったという年代ではありませんが、初刊だったか、巻頭で5人の座談会が掲載された巻を借りて読んだ記憶があります。
その中で、実に陰に考え込む高橋和己氏に小田氏が「自己否定は嫌いだから、人生を自己肯定して生きようとするんだよ」みたいなことを言って笑い飛ばすといった箇所があったように覚えています。(定かでないので間違っていたらごめんなさい。)
その時、いかにも小田実らしいとつくづく思いました。
「自己の信念を常に肯定して突き進む、行動する」これは、私などけして真似の出来ない人生哲学であります。
片道の飛行機代だけを持って他国を見て回る、いわゆる『貧乏旅行』の先駆者は小田氏でありましたし、その多くの経験の中で平和主義に芽生え、考えるだけでなく立ち上がるというその行動力、良い悪いは他人の評価であって自身に嘘だけはつかない、正しいと信じるものは前向きに肯定して進む正直な生き方、生きている価値というのはそういった中から生まれるものなのかもしれません。
小田氏を「マルクス主義に傾倒した左派の象徴」的にとらえる方もいますが、文章や行動をよくよく観察すれば、それが間違いであることに、どなたでもお気づきになるでしょう。正直に生き進む姿は、主義主張を超える次元にあるように思います。
ご本人も「マルクス主義者は真理を独占していると考えているが、人間の行動の動機は、財産欲による場合よりも性欲による場合が多い」てな事もおっしゃっていましたしね。
最近は、雑誌タイムの「Asian Heroes」に、中田英寿、イチロー、北野武らと共に選ばれたり、『北朝鮮日本人拉致問題』に対する発言で批判にあったり、また、それにキッパリと反論されたり、未だ健在ぶりを示しておられました。
私はまだまだ非常に若いと考えている。
変革すべき世界はまだまだ若いのだから---。
(小田実)
お亡くなりになったことは、私としては非常に残念であり、ただただご冥福を祈るばかりです。
さて、今日の一枚は、アート・ブレーキーとジャズ・メッセンジャーズの超メジャー盤を選んでみました。
ところで、このブログではメッセンジャーズのアルバム紹介が異様に少ない、そうは思われないでしょうか?
別に私が嫌っているわけではないのですよ。(ブレーキーのドラムがとんでもなく好きということもありませんが、笑)
最もジャズを聴いていた次期に、あえてメッセンジャーズを聴こうとしなかった。そして、それが知らぬ間にあたりまえになってしまっていた。みたいな・・・・原因があるとすればそれでしょうか。(まして、こんな誰しもが知っているアルバムをあえて紹介しなくてもねぇ)
ジャズ喫茶に通いつめる前、私が知っているジャズといえば、ディブ・ブルーベックの「TAKE FIVE」に、スタン・ゲッツ、ジョアン・ジルベルトの「THE GIRL FROM IPANEMA」(これは、ジャズという認識は無かったかもしれません。)、それと、ルイ・アームストロングね、そしてそしてメッセンジャーズの「MOANIN'」こんなものだったでしょう。
不思議ですよね。ジャズ喫茶に行き始めるとそれまで知っていたようなそれらは、聴かなくなってしまうんですよ。(笑)
日本にファンキー・ジャズを定着させた最大の功労者はブレーキーであるというのは、耳タコほど聞かされたことですし、1961年の来日後は、そば屋の出前持ちですら「MOANIN'」を口ずさんでいたという話も、私ですらこの曲を知ってたという事から考えて、あながち嘘ではなかったのでしょう。
アート・ブレーキーを観て、帰ってきたところである。音に対するあの過虐的なエネルギーが会場に集まった小市民達を一つの桎梏(しっこく)から解放する。あの音のイメージのなかにぐんぐんこじあけられて拡がっていく<自由>の、なかばガソリンくさい青空のような広がりを私は幻覚だとは思わない。
寺山修司が来日コンサートを聴いてすぐに書き下ろしたエッセイ『ジャズっ子の詩学』の冒頭です。
日本の小市民を桎梏から解放した「MOANIN'」、今晩は小田実氏の訃報を嘆く我が心をも、きっと解放してくれることでしょう。
MOANIN' / THE JAZZ MESSENGERS
1958年10月30日録音
ART BLAKEY(ds) LEE MORGAN(tp) BENNY GOLSON(ts) BOBBY TIMMONS(p) JYMIE MERRITT(b)
1.MOANIN'
2.ARE YOU REAL
3.ALONG CAME BETTY
4.THE DRUM THUNDER (MINIATURE) SUITE
5.BLUES MARCH
6.COME RAIN OR COME SHINE
追伸、
小田実氏をよくご存じでない方、著書をお読みいただくのも良いかとは思いますが、彼のホームページで、朝日新聞に連載された『アジア紀行』と、毎日新聞に連載された『西雷東騒』、さらにはホームページ・オリジナルの『西雷東騒』を読むことが出来ます。
死去に伴って同ページの閉鎖も懸念されますが、興味がある方はご一読いただければと思います。
『作家 小田実のホームページ』