【1/2Time】父の車

今日は「父の日」
スーパーの店頭に、父の日のギフトらしきラッピングされた商品が陳列されていました。
その中身が・・・男性用のデオドラントソープと、男性用ファブリーズ（笑）
プレゼント自体は嬉しいんだろうけど、複雑な気持ちになるんでしょうね。

閉鎖した私のサイト「1/2THROTTLE」から、父の車の話をお届けします。


「父の車」

私の父親は自営業を営んでいて、家には両親の乗用車の他に、業務用の車が４台ありました。
軽トラ、小型のトラック(2トンくらい？）、バン（と呼んでいた）、ボンゴ（たぶん）。
車の側面に書かれた会社名（自営なので苗字）がちょっと恥ずかしかったけど、社長を名乗る父をとても誇らしく思っていました。
　
仕事の車の他に、父はマツダのルーチェに乗っていました。
ゴルフに行く時と、年末年始の家族旅行くらいしか出番のない行楽カーで、いつも濃いカーコロンの匂いがしていました。
車に弱かった私はその独特の匂いがとにかくダメで、嗅いだ途端に車酔いが始まってしまいます。
旅行はたいてい県外の温泉地に出かけるので、その長い道中はまさに地獄でした。


（父のルーチェ、右側の建物が父の会社、真ん中のチビが私で隣は姉）

いつもカーステレオからは、父と母が好きだった西部劇やヨーロッパの映画音楽が流れていましたが、ある時、立ち寄ったドライブイン（今で言う「道の駅」）でカセットテープを買ってくれたことがありました。
そのカセットは「宇宙サウンド」というタイトルで、ＳＦ映画やアニメの音楽を集めたものでした。
曲目には、宇宙戦艦ヤマトやスターウォーズのテーマなど、知った曲も入っています。知らない曲ばかり聞かされて退屈していた私は、そのタイトルを見てとても喜びました。
ところが、それもつかの間。
カーステレオから流れてくるのは音ばかりで、歌が入っていません。しかもヤマトとスターウォーズ以外は、聴いたこともない曲や意味不明の効果音ばかり・・・。
シンセサイザーがスケール感たっぷりに奏でる謎の「宇宙サウンド」は、乗った時から始まっていた私の車酔いに拍車をかけました。
それ以来、私はスターウォーズのテーマを聴くと胸がムカムカしてきます（笑）


（これも父の車、この頃から車酔いに苦しんでいた気がします）

電設屋だった父の普段の足は、白い軽トラでした。
荷台に積みっぱなしの資材がガチャガチャと騒がしく、足元にはネジや工具が散乱していて、車の中はいつも粉っぽい独特の臭いがしていました。
ピカピカのルーチェに比べると、タバコ臭くて汚い車でしたが、私は車酔いしない軽トラの方が好きでした。
ルーチェの後部座席では、いつも酔って母の膝にうつぶせて寝ていたので、軽トラのシートに座った時の高い目線は新鮮で、遠くに連れて行ってもらえなくても乗るだけでワクワクしました。
今でも軽トラを見ると、灰色の作業着から伸びる日焼けした腕を懐かしく思います。

私が免許を取った時には、もう軽トラもルーチェも、家も、父の姿もありませんでした。
両親は離婚し、家は借金返済のために手放し、そこにあったものは全部なくなってしまいました。

もっと早く免許を取っていたら、家にあった色々な車に乗れたのに。
　
免許取りたての日。
嬉しくて、父に黙ってルーチェを持ち出して、友達の家に遊びに行く。
その日の夜、ボディに派手な擦り傷をつけて帰って来たら、父はどんな顔をして私を叱ったのでしょうか？

そんな父とは、もう何年も会っていません。
嫌な思い出もたくさんあったけど、怒った顔が思い出せないくらい、記憶は浄化されてしまいました。
ひとつだけ思いつくとすれば、擦ったところを適当にペンキで塗ってしまうことくらい。

（おわり）


（これも父の車だと思うのですが、名前が分かる人がいたら教えてください）