『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1007

2017-04-11 07:21:38 | 使命は建国。見える未来。消滅する恐怖。
 日が改まる、いい朝である、浜がざわついている。
 朝行事を終えたパリヌルスがオキテスと出会う、歩み寄る二人。
 『おう、おはよう』とパリヌルス。
 『おう、おはよう』と受けるオキテス、二人が顔を見つめ合う。
 『レテムノン行の出航が明日となったな』
 『おう、そうだ』
 『お前、今日は忙しいだろう。納入新艇の整備、それに加えて、試作艇の整備もある』
 『試作艇の整備の件は、ギアスとドックスに任せてある。俺は納入新艇の整備に集中だ。午前中に終えようと考えている』
 『そうか、解った。今日の午後だが、時間をとって話しておきたいことがある。試作艇についてだ。ギアスも加えて話しておきたい』
 『解った。昼めしを終えたあとにその時間をつくる』
 『おう、その時に次の納入航海の件についても打ち合わせておきたい。いいな』
 『おう、了解』
 二人の立ち話が終わる。
 朝行事にイリオネスが姿を見せる、二人が顔を合わせる、朝の挨拶を交わした。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう。お前ら早いな。朝行事終えたのか?』
 『はい、終えました。出航を明日にひかえて、いろいろ多用でして』
 『そうだな、解る。明朝の出航だな』
 アエネアスが来る、ユールスを連れている。
 『あっ!統領、おはようございます。早かったのですね』
 『おう、そうだ。朝のこの時間は、息子ユールスとの交流どきなのだ』
 朝行事に来る者、終えた者、往き交う者らの挨拶を交わす声が耳を打つ、一族を統べる立場にあるアエネアスは朝のこの時に心の中で念じる、『彼らにとって、今日一日がいい日であるようにーーー』と思念する。
 『ところで、今日は何か用件があるかな?』
 『いまのところありません』
 『そうか、今日も建造の場にいる。用件があるときはそこにおいてだ』
 『解りました』
 彼らの朝行事どきの浜においてのミーテングが終わる。
 『おう、パリヌルス、昼めしのあとに会おう。時間はどれくらいだ?』
 『そうだな、一刻くらいだ、長くはならない。話は、次の航海の件と試作艇のことだ』
 『解った』
 二人は互いの持ち場へと歩を向けて場を去っていく。
 彼らは、物事の開始の場にスタンスする、一歩先を見る者、ゴールを見つめてプロセスをかんがえる者、プロセスのみを考える者、導く者、導かれる者、そして、なるようになると考える者ら、その者たちを統括する者、彼らの事に当たる姿は、純粋であり、真剣であり、真摯であり、邪念を持たず、まったく純な姿で生きている時代であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  382

2014-10-15 07:31:50 | 使命は建国。見える未来。消滅する恐怖。
 『おい、イリオネス、お前、潮っぱいぞ!』
 『そうですか、潮風になぶられ、陽に焼かれ、汗を流す。自分では気づかないですが、この船旅で潮吹く海の男になったかな』
 二人は大笑いした。
 『あ~、軍団長、お帰りなさい。無事の帰着何よりです』
 パリヌルス、オキテスが出迎えた。ニケに乗り組んでいたアレテス以下の者たちも浜に居並ぶ大勢の者たちに迎えられた。先着のクリテスはイリオネスに、先着の用務を終えたことを報告して、ニケの方に向かって走った。彼はアレテスにも同じように先着の用務を終えたことを報告した。そして、乗り組みの者たち一同を迎えた。
 アレテスは、『ホーカス、来い!』と声をかけて、ニケを整備してくれたドックスに歩み寄った。
 『ドックス、ありがとう!この通り全員無事に帰ってきた。このように一同、五体満足、無事の帰着だ。喜んでくれ。全てニケのおかげだと思っている。言い遅れたが、軍団長があの船に名前を付けたのだ。その名が『ニケ』なのだ』
 『アレテス、あの小船に名前を付けただと!軍団長が名付け親化、それはいい。アレテス、一同が無事に帰ってきてくれたことがこのうえなくうれしい!』
 二人は、肩を抱き合った。身を離したドックスは、傍らのホーカスと目を合わせた。
 『おう、ホーカス、ご苦労であったな』
 『はい、船棟梁、無事帰ってきました。船の大きさに比べて、長途の航海でしたが、無難に乗り切ることができました。確かな船造り、この一語に尽きます』
 ドックスはホーカスの肩をしっかりと抱いた。
 『おう、ホーカス、航海中のあの小船、ニケの事については、また、詳しく話を聞かせてくれ。とにかくご苦労であった。体を休めてくれ』
 ドックスは、ホーカスとの話を終えて、海の上のニケをしみじみと眺めた。
 『洋上を羽ばたいて駆けるニケか、それにしてもいい名前だ』彼は独り言ちた。
 統領以下、皆と帰着の言葉を交わしたイリオネスが、ドックスのところへ歩を運んでくる。それを目にしたドックスは、小走りで彼に近づいた。
 『軍団長、お帰りなさい。ニケともども無事の帰着、何よりとこんなうれしいことがありません。造りつけた構造、具合よく働いたでしょうか?案じておりました』
 『おう、ドックス、あのニケがあったればこそ、これこの通り無事の帰着だ、喜べ。ニケは快調に走ったぞ!ありがとう。お前に心から感謝だ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  366

2014-09-23 08:34:20 | 使命は建国。見える未来。消滅する恐怖。
 エドモン浜頭のやわらかい目つきが真剣なまなざしに変わった。彼はどのように言おうかと考えた。
 『ミノス王、彼の言い分は、どうもこのようであったらしいと思われる。このクレタの民は平和を好み、平和をこよなく愛している、心優しい民だ。関係する諸国とは和で結ばれていかねばならん。交易による立国、俺の寝起きする館は、商住隣接で建ててくれというわけで、館と集散所が合体した建物としたのですな。くずれてしまった建物の数倍大きな建物を崩壊した建物の上に建てたのです。その館があまりにも豪壮にして立派な建物であったので、人々は『これは館ではない、ミノス王の住む宮殿だ』ということになったのです。王の考えのすごいところは一番下の階に1000個以上に及ぶ小部屋をつくり、訪れる旅の交易人の宿に使った。また、この数ある小部屋を4階建ての建物の基礎として、でっかい館を建造したのではないかと考えられます。如何に、このミノス王の治政が素晴らしかったかと思われるところですな。クレタの繁栄が、このクノッソスを中心にして展開したものと思われます。この島うちでは争い事が起こっていない、クレタの島民は、本当に心の優しい民なのです。地続きで他国と接することもない、海を隔てた諸国との交易に多忙で武器を手にして戦うこともなく、いや、その様な争いをする暇がなかったといえますな。交易による利益に重きをおいて経世済民の政治をしたと思われます』
 イリオネスは、エドモン浜頭の話に真剣に耳を傾け拝聴といった姿勢で聞き入った。彼はここまで仔細に及ぶ話を聞けるとは思ってはいなかった。浜頭の主観も入っていると思われるが、すべてが納得できる事柄であった。
 『いやいや、イリオネス殿、私の話はいかがですかな?』
 『はい、聞いていまして、とても興味の深まる話です。このミノス王の政治思考は大変に素晴らしかったことがしのばれます。心が震えました』
 『そうですか。話しながら、自分の話に感じ入っています。これが今ならという感慨に感じ入っています』
 二人は目を合わせて、頷き合った。

第1章   トロイからに脱出   6

2009-03-16 07:05:54 | 使命は建国。見える未来。消滅する恐怖。
 そのようなアエネアスの心の機微を読んだかのように、炎の色の映える闇の中から、少人数のグループの襲撃が来た。神殿前の広場も安全地帯ではなくなった。敵の兵数も、アエネアスの手勢もほぼ同数と思われる、敵は、臆すことなく、剣をかざして討ちかかってきた。敵兵の身構え、隊形は隙だらけである。アエネアスの一群は、斬撃に討って出た。炎の色を照り返して闇を裂く撃剣は敵勢を圧倒して、斬り倒した。
 『おいっ!皆、変事はないか?屋敷にとって返す、続けっ!急ぐぞ。』危難を斥けたアエネアスは、城市の方に目をやったが、敵と斬り結んでいる風景を見出さなかった。彼の心中には、何とも言えない惨めさが沸いた。ついで、ひしっと、身をを押し潰す敗北を実感した。五体を襲う敗北感は、心をきりきりと苛んだ。アエネアスは、敵前逃亡の呵責に耐えることを覚悟した。彼は、燃え盛るトロイ城市を改めて見やった。