『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1195

2017-12-29 08:49:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、今日の業務対処に遺漏はないかと振り返る。オキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、これからの諸事について打ち合わせる。ギアスとゴッカスを呼んできてくれ』
 イリオネス、オキテス、ギアス、ゴッカスの四人が顔をそろえる。
 『おう、諸君!ご苦労。ギアスにゴッカス、漕ぎかたらの昼食は終わったかな?』
 『はい、終わりました』
 『試乗会の催行、ご苦労であった。今日のこれからを打ち合わせる。オキテスと俺とは、エドモン、テムノス両浜頭と話し合いをする。スダヌス浜頭は話し合いの席に同席する。ギアスとゴッカスは、参集している者らの試乗希望者を艇に乗せて、2~3回、試乗会をやってくれ。二艇同時運航でやる。沖への漕ぎ出しは遠くなくてもいいと考えている。日没時までに終了すること、いいな。その頃には俺らの話し合いも終わっている。終了したら、この場が全員の集合の場だ。以上だ』
 『解りました』
 打ち合わせを終えて、ギアスらは、艇に戻っていく、イリオネスとオキテスは浜頭らのいるところへと行く。
 『エドモン浜頭、テムノス浜頭お待たせしました。これからですが、皆さんと相談いたしたい事案を持っています。よろしく願います』
 『おう、そうか。俺らのほうでもあなた方の船舶建造について、このようにされたらどうかなと考えている件がある。また、今日の試乗会のことで打ち合わせたい意見もある。いろいろ話し合おうと考えている』
 『解りました、よろしく願います。それをおえてから、集散所のほうに挨拶に行こうと考えています』
 『おう、そうだな、それがよろしかろう。いずれにしても、明朝出航で帰るわけだからな』
 『エドモン浜頭、話し合いの場ですが、どこでやりましょうか?』
 『青空を天井にして、五人が座って話せる、ちょっとした木陰があれば、それでいいではないか』
 『では、先ほどの昼食の場でやります』
 『おう、それでいい』
 浜頭三人、そして、イリオネスとオキテスの五人が昼食に使った場を清掃整理して話し合いの場とする。
 場に座した五人が酒杯を手にする、ぶどう酒を杯に満たす、口に含む、のどを潤す、座の前の砂地に杯を突き刺したてる。
 エドモン浜頭が四人と目を合わせる、おもむろに口を開く。
 『おう、一同、肩に力が入っているな、それはいかんな。力を抜いて、身構えを解いて話し合う。話の段取りはだな、まず、俺の方から話す、今日の試乗会での客人らが何を思案して、如何なる答えをほしいのかについて話す。次に、イリオネス殿、あなたの事案を承ろう。それを終えて、これからの船に関しての話をしよう。それから明日の予定を話し合う。そして、集散所に挨拶に出向く。それでいいのではないかと考えているが、一同の考えは?』
 イリオネスが応える。
 『はい、浜頭の言われる話の進行でよろしいと考えます』
 『よっしゃ!』
 エドモン浜頭が穏やかな目線で一同と目を合わせた。

 *ご挨拶申し上げます。
 この一年、ブログ小説『トロイからの落人』にアクセス、お読みいただき、誠にありがとうございました。謹んでお礼を申し上げます。
 今日を含めて3日で2017年が去年となります。
 皆さまにとって素晴らしい2018年が扉を開きます。皆さまの良き年であることを心から、力いっぱいお祈りいたします。

             2017年12月29日     執筆 山田 秀雄  編集 山田 萌愛
                *明ける年の執筆スタートは、2018年1月8日です。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1194

2017-12-28 08:52:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ダントス所長がエドモン浜頭の杯に酒を注ぐ、感謝の念のこもった口調で声をかける。
 『やあ~、エドモン浜頭、今日のこの催しにいろいろと心遣いいただいてありがとうございました。両浜頭に大いに感謝いたします。お二人の臨席でこの試乗会に箔が着くというものです。心から礼を申し上げます』
 『いえいえ、ダントス所長、この催しがよかったかよくなかったかは、今後の状況展開で決まると考えています。フオローワークが肝心です。私らも集散所の発展に力を注ぎます。約束します』
 エドモン浜頭は、ダントス所長との話を終えて、イリオネスに声をかける。
 『イリオネス軍団長、ここらで昼食の締めの『乾杯!』といきますかな』
 『判りました』
 『オキテス、昼食会が終わる。手土産の堅パンのケース、準備できているか?』
 『はい!出来ています』
 『エドモン浜頭殿、締めの『乾杯!』よろしく願います』
 会同している一同が立ちあがる。
 『おう、オキテス、皆さんの杯に酒を満たしてくれ』
 イリオネスが指示する、オキテスが一同の杯に酒を注ぐ、エドモン浜頭が親しみを込めた目線で一同と目を合わせる、イリオネスに声をかける。
 『イリオネス殿、昼食、馳走になりました。ありがとうございました』
、一同から『おうっ!』と声があがる。
 『ご一同!試乗会を楽しんでくれましたかな』
 『おうっ!』
 この声を耳にして、エドモン浜頭が声を張りあげる。
 『乾杯!』
 『おうっ!』と応えて、杯を口に運ぶ、杯の酒を飲み乾す、杯を放りあげる、杯が頭上に舞う。
 彼らは、試乗会の催行を一同の総意で行ったといった感覚で昼食会を終えた。
 イリオネスは、堅パンの入ったケースをダントス所長をはじめリドラス担当長、クランドス浜頭、リンドス浜頭ら客人に心を込めて手渡した。
 『おう、ありがとう』と礼の言葉が返される。イリオネスが手を伸ばす、固い握手が交わされる。場にいる者たちが彼らを見送る。
 イリオネスがリドラス担当長と岸壁に参集している者たちのことについて二言三言打ち合わせる。
 『解りました。いいでしょう。その件については、あなた方に任せます、よろしく頼みます』
 『承知しました』
 イリオネスは、予定していた試乗会を終える。
 このあとはサービス試乗会の午後の部を催すことを考えていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1193

2017-12-27 08:24:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そのように言っていただけるとは、仕事冥利に尽きます。ありがとうございます』
 『二艇の操船をしていた、ギアス、ゴッカス、そして、操舵していた者たち、漕ぎかたのみんなにご苦労であったと伝えてくれ』
 『はい、解りました。ありがとうございます』
 彼らは試乗状況を話題に酒を酌み交わす、昼食の場はにぎわう。
 リンドス浜頭がリドラス担当長に声をかける。
 『リドラス担当長、この試乗会、いい催しであった。世の中が進んでいる、それを感じたな。集散所の力も大したもんだ。このあと、この催しのウワサが広がるぞ』
 『そうですかな?!』
 『ウワサを立ち消えさせないようにすることだな。そして、船の事ならマリアの集散所に聴け!と言うようになるかもな』
 『その対応を考えろといわれるのですかな』
 『いやな、船の上で話し合ったのだが、エドモン浜頭、テムノス浜頭、両浜頭の言い分にうなずける。試乗した二艇に採用されている新構造だが、その構造がクレタにおける船の造りの常識を超えている。感心というより、目からウロコであったな。りドラス担当長、船の件、前向きに検討することを約束する。この場を借りて伝えておく!俺の気持ちだ』
 『リンドス浜頭、いい話ありがとうございます』
 『リドラス担当長、クランドス浜頭も私と同様な気持ちだと考えられる。聞いてみなければわからんが』
 『そんな、私を喜ばせて、リンドス浜頭!私にとって、それはうれしい、うれしい言葉であります』
 リドラス担当長は目の前にある酒ツボを手に取ってリンドス浜頭の酒杯を酒で満たした。
 クランドス浜頭は、ダントス所長と話し込んでいる。
 『所長、このあとはリンドス浜頭と話し合うが、考えは前向きである。二人で船の評価を話し合った。売り渡し価格の件もあるが、あとから試乗した、あの船に魅力がある。俺らと所長、リドラス担当長の四人で検討の話し合いを考えている。ところで船の売り渡し価格が決まっているのか?』
 『あ~あ、その件ですか。売り渡し価格については、ここ数日で決まると考えています』
 『解った。それが決まり次第検討の話し合いをすることにする』
 『解りました。クランドス浜頭、ありがとうございます』
 クランドス浜頭は、場の雰囲気、話のノリで話が先走ったのではないかと一瞬考えた。彼は手にしていた酒杯を口に近づけた。
 『ありがとうございます』の所長の言葉で自分の考えをダントス所長に伝えたことを是とした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1192

2017-12-26 08:29:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 場にくつろぐ彼らは、オキテスにうながされて、各自の座の前の砂地に突き立てられている酒杯を手に持つ、オキテスがぶどう酒の壺を手に取って、一同の杯にぶどう酒を注ぐ、イリオネスの杯にも酒を注ぐ。
 イリオネスが立ちあがる、場がし~んとする。
 『皆さま、今日はようこそ、試乗会においで下さりありがとうございます。エドモン浜頭殿、『乾杯!』の声がけをよろしく願います』
 エドモン浜頭がイリオネスの言葉にこたえて言う。
 『いや、この場は、ダントス所長に願いましょう。私は締めの『乾杯!』の声がけをやります。ダントス所長、『乾杯!』声がけよろしく願います』
 ダントス所長がエドモン浜頭の声がけに応じる。
 『おう、了解、やりましょう』
 一同が酒が満たされた杯を手にして立ちあがる。
 『クランドス浜頭殿、リンドス浜頭殿、今日はようこそ足を運んでくださった、ありがとうございます。心から礼を言います。また、エドモン浜頭殿、テムノス浜頭殿、試乗会のバックアップありがとうございます。関係各方々の賛同もあり、初めてこのような催しを行いました。各位の力尽くしに礼を言います。では『乾杯!』といきます』
 試乗会に会同した一同と目を合わせる。ダントス所長は心の高ぶりを抑えられない声が大きくなる。
 『本日の試乗会の開催に、乾杯!』
 『おうっ!』と応えて、一同が杯を差しあげる、口に運ぶ、一気に飲み干す。
 昼食会がスタートする。オキテスが会する彼らにぶどう酒を注いで回る。
 クランドス浜頭が酒壺を手にする、オキテスに声をかける。
 『おう、オキテス殿!ご苦労でしたな』
 オキテスが手にしている杯に酒を注ぐ、イリオネスと目が合う、イリオネスの杯に酒を満たす。
 『イリオネス殿、遠いところご苦労でしたな、俺たち、リンドス浜頭と俺だが、このような機会をつくってくれてありがとう。船を買い求める、でっかい買い物だ。心が逡巡する、買い求める不安もつきまとう。このような機会に求めようとする船と出会う、確かめる、安心して買い求めることを検討できる。不安を払拭して、それを求めることができるというものだ。よくぞ、試乗会をやっててくれた。これで発注を検討できる。今日の試乗会に満足している』
 次いで、オキテスに声をかける。
 『オキテス殿、俺たちが船を吟味するのに、いろいろ気を使ってくれた、礼を言いますぞ、ありがとう。船の引き合いをしたことを喜んでいる。ということだ』
 オキテスは、その言葉を聞いて頬をを赤らめる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1191

2017-12-25 08:38:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとゴッカスは、試乗している客人の思案に思いをはせることなく操船に取り組んでいる。二人は打ち合わせる。
 『ゴッカス、東へ転進して、どれくらい走ったと考える?』
 『そうですね、20スタジオンを優に超えていると考えられます』
 『そうか、いいだろう。ここらで浜へ向けて転進する』
 『了解しました。早速指示して艇を浜へ向けます』
 『おうっ!』
 オキテスは、艇上の客人らにこの旨を伝える。ゴッカスは艇の転進操船を指示する。艇は進行方向を南へと転じて浜への進路に就く、吹きつける西からの風、艇は風に抗って漕走する、しぶきが飛んで頭上に舞う。
 浜において、彼らの帰港を待つイリオネスは、試乗から帰ってくる客人一行の歓待準備に余念なく取り組んでいる。
 テーブル等の準備はしていない、浜に座しての歓待の場づくりである。彼は木陰を探す、浜にはそのような場所がない、波打ち際から1スタジオン弱、奥まったあたりの木陰に場を設けた。
 『岸壁からは、少々遠いがしょうがない、それでよしとしよう』とひとりごちて、昼食の場を整えた。
 イリオネスは、昼食の場づくりを終えて、岸壁の上に立つ、彼らの帰着を待つ、沖に見えていた艇がまたたく間に指呼の距離に迫る。
 ゴッカス、グッダスの操船よろしく艇が岸壁に着く、イリオネスが試乗客人の一行を迎える、彼らを急ごしらえの昼食の場へと案内する。
 『客人ご一行の皆さま、私らが建造しました船に試乗いただき、誠にありがとうございます』
 彼は慣れない言葉がけにどぎまぎしながら、たどたどしく話しかける。
 『一度ならず、船を替えて二度にわたって試乗いただき、ご苦労でした。この頃合いです、ささやかではありますが昼食の支度を整えました。くつろいでください。案内いたします』
 エドモン浜頭がイリオネスの言葉に応える。
 『それはそれは、イリオネス殿ありがとうございます。配慮かたじけない』
 エドモン浜頭が軽く会釈をして話し続ける。
 『イリオネス殿、沖には試乗会催行に、いい風が来ていました。試乗された方々にとって、船の走りに好感を持っていただいたと察しています。これはいい催しであったと考えています。あなた方には天祐があります。テムノス浜頭も私もそのように感じています』
 『エドモン浜頭、ありがとうございます。さあ~、昼食の場へまいりましょう』
 一同は連れだって歩きはじめる、まばらに茂っているささやかな林間の木陰、そこに支度されたた昼食の場に着く。
 イリオネスの案内で場に座す一同、彼らはくつろいだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1190

2017-12-22 08:28:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、いろいろと考えながら、試乗者一行を席に案内している。
 試作艇の前甲板部にしつらえた座乗席には、クランドス浜頭、リンドス浜頭、ダントス所長、リドラス担当長に座してもらう、エドモン浜頭に仔細を告げて試乗客の優遇対策を講じた。
 オキテスは、ゴッカスと試乗航走のコース取りを打ち合わせる、うなずくゴッカス、試乗者一行の乗艇を確認する、
 『ゴッカス、艇を出してくれ!』
 漕ぎかた一同が一斉に海面を泡立てる、試作戦闘艇が岸壁をあとにする、クレタ海に出ていく、イリオネスが手を振ってこれを送り出す。
 艇上の試乗者らは、先に試乗したヘルメス艇と比べる、ひと味違う走行感を感じる、彼らは、これはと考える。
 オキテスは、試乗者ら一行に試作戦闘艇について説明する。
 『皆さま、この試作戦闘艇にようこそ!皆様方の試乗を私ら一同、大歓迎いたしております。ありがとうございます』
 一同と目を合わせて、深く頭を下げる。
 『この船は、先に試乗いただきましたヘルメス艇より、ひとまわり大きく造られています。漕ぎかた人数も24人と4人多くしています。船の構造による艇重のことが関係いたしますが、私らが目指している目標は船足の速い船を造るです。この船の走行感を体感していただければ幸いです。なお、航走コースは、先に試乗いただいたヘルメス艇のコース取りに準じたコース取りで航走いたします』
 一同はオキテスの説明に拍手で応える。
 艇は、24人の漕ぎかたの力漕で順調に波を割って北上している。
 陽射しが強くなってきている、風速、風力も増してきている、海上における船の帆走条件は、ヘルメス艇の航走時に比べて、はるかにいい構想条件となってきている。
 左手方向より受ける風の影響で船が右方向へ流される、操舵しているグッダスが艇の進行方向の維持に注力して操舵している。
 マリアの係留岸壁をあとにして、今様時間15分くらい、約20スタジオン(約4キロ)沖に来ている。
 オキテスとゴッカスが目を合わせてうなずき合う、オキテスが東方向への転進を一同に伝える、ゴッカスが操船の指示を発する。
 『操舵!東方向へ転進!漕ぎかたやめっ!櫂を上げ!全帆、帆張りっ!』
 艇は艇体を程よく傾けて進行方向を東に転じる、波を割る、波頭をちぎって飛ぶしぶきが舞う、帆張りした帆が風をはらむ、艇が波を割って駆ける。
 『おう、速い!』『これは、速いっ!』
 走行感の言葉が飛ぶ、艇上の者らがしぶきを浴びて濡れている。
 走る船足の速さは?走行安定性は?帆張り状態は?風ハラミは?
 彼ら一行は、試乗を終えたヘルメス艇を物差しにして、試作戦闘艇を評価する。
 航走状態を鋭く観察する、体感する、評価する、そして、何故を考察する。
 到達する思考の終点は、船としての頑丈さと価格であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1189

2017-12-21 08:55:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『クランドス浜頭、舵の操作は、右方向に向かいたいときは操舵棒を左へです。左方向に向かいたいときは操舵棒を右へです。すると艇尾が振れて、舳先が向かいたい方向に向いて波を割ります。私はここにいます、何かありましたら声をかけてください。櫂舵に比べて操作の効き具合が敏感です』
 『おう!心得た』
 クランドス浜頭は、カイクスの言葉を聞いて、ゆっくりと大きく、ジグザグ走行の操舵を行う、二度三度操作して、もう慣れた手つきで操舵する。
 クランドス浜頭は、操舵するたびに起きる艇の傾きに操船の快感を味わっているといった風情である。
 『操舵担当!リンドス浜頭に操舵席に来るように言ってくれ』
 『解りました』
 クランドス浜頭の声がかりでリンドス浜頭が艇尾にうつる。クランドス浜頭は従者と操舵を交替して、艇尾の操舵席においてリンドス浜頭と話し合う。
 『リンドス浜頭、操舵棒を握って、お前も操舵をやってみろ!』
 『おうっ!』と応えて操舵棒を握るリンドス。少しばかり緊張する。
 『リンドス浜頭、大きくジグザグ操作をやってみろ』
 リンドス浜頭は、言われた通りに操舵棒を右に振り、左に振って操舵感覚を体感する。
 『そうだな、クランドス浜頭、これはいい具合にきれてくれますな』
 『俺もそのように感じている』
 クランドス浜頭がオキテスの傍らに来て声をかける。
 『おう、オキテス殿、ありがとう。充分に体感したぞ』
 ヘルメス艇は、約20スタジオン(約4キロ弱)の距離を帆張りで駆け抜ける。
 オキテスは自信を持って一行に声をかける。
 『一行の皆さま、この船の走りを体感していただけたでしょうか?艇は漕走で浜へ戻ります。試乗いただきましてありがとうございました』
 ギアスも艇上の一行に低頭して感謝の意を伝える。
 ヘルメス艇は進行方向を変えて浜へと帰路に就く、強くなった風を斜め右方向から受けて、懸命の漕ぎで浜に向かう、ヘルメス艇の試乗をどうにか想定した時間内に終える。
 浜では、珍しい2本帆柱の船を見ようと人が集まっている、思いのほか多い、50人くらいはいるかと思われる。彼らは新しい船のカタチに興味を感じて集まってきた者たちである。
 浜に戻ってきた試乗の一行をイリオネスが迎える。
 オキテスが次に試乗する試作戦闘艇へと一行を案内する。艇上へいざなう、ゴッカスが艇上で一行を迎える。
 クランドス浜頭が艇上にあがる、印象を述べる。
 『おう、この船は先ほど乗った船に比べて、ひとまわり大きいな』
 この言葉をオキテスが耳にする、彼は営業トークを頭の中に組み立てた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1188

2017-12-20 08:35:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ギアス艇長、もっとおおらかに沖を目指しなさい。この西風ならいい風がきますよ。その時が帆張りのタイミングです』
 『ありがとうございます』
 マリアの海岸を離れること約20スタジオン(約3.8キロ)の地点を北へと櫂漕ぎで遊弋している、ギアスはいい西風を肌に感じる。
 『皆さん!リンドス浜頭の言われた通り、今、西からのいい風を感じています。この艇は東へ転進して帆張りして航走いたします』
 『おうっ!』『おうっ!』
 艇上に声があがる、ギアスが指示を発する。
 『操舵担当、東へ転進せよ!漕ぎかた櫂をあげ!全帆、帆張りせよ!』
 操舵のカイクスが舵の操舵棒を左へと振る。左舷がせりあがる、右舷がやや沈む、進行方向左へと艇尾が振れ動く、つれて舳先が右方向へ波を割る、艇は難なく東へ進む。
 艇上の者たちから『お~っ!』の声があがる。
 帆張り作業の担当が帆張りにとり掛かる。
 1枚帆の構造と構造が違う、帆張り作業を軽々として終える。
 この作業風景を見て、二人の浜頭が、一行が感動の声を上げる。
 帆張り作業が終わる、帆が風をはらむ、艇が加速して波を割る、しぶきが飛ぶ。
 船足の速さに比して安定した走行に感じ入っている。
 試乗者一同が声を発することなく、その走りを体感している。
 ギアスは、操船よろしく、ヘルメス艇の走りに天祐を感じている。
 オキテスは、満足の風情でいる。
 誰もが口をつぐんでいる、船の走りの安定性を感じとっている。
 クランドス浜頭がオキテスに声をかけてくる。
 『オキテス殿、なかなかいい走りだ。操舵をやってみたいのだが』
 『はい、解りました。艇尾の操舵席のほうへ、どうぞ!』
 『二人でそちらに移るが、よろしいかな?』
 『どうぞ!ギアス、クランドス浜頭の席についてくれ。艇のバランスだ。俺もそちらに行く。カイクス、操舵の補助を頼む』
 『了解しました』
 カイクスがクランドス浜頭に声をかける。
 『クランドス浜頭、大きくジグザグ走行操作をして、新舵構造を体感してください』
 『おう!』
 カイクスは、操舵棒の握り手部分をクランドス浜頭に引き継いだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1187

2017-12-19 08:28:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『漕ぎかた一同!櫂を持て!用意!漕ぎかたはじめ!操舵担当、北へ進路をとれ!』
 『了解!』
 試乗者一行を乗艇させたヘルメス艇は舳先を北へ向け波を割り始める。
 岸壁の上に立つイリオネスは、沸々とたぎる思いを込めてこれを見送る。
 艇上のオキテスは、試乗者一同に歓迎の挨拶を述べる。次いで、試乗艇の進行コース説明をする。
 『皆様方は、クレタ海についてよく存じていられるが、私どもはクレタ島東地区のクレタ海についてはよくわかってはいません。船の進路について、これはいかんと感じられた折には、注意をいただければ幸いです。この試乗艇を10スタジオンから15スタジオンくらいマリアの北方沖に進め、風具合を読みとり、艇の帆張り航走をと考えております。よろしく願います』
 オキテスは艇の航走状態を確かめる。言葉を継いでいく。
 『また、この艇の試乗を終えて、次は、今、私らが建造している戦闘艇の試作艇に試乗いただきます。何卒、船の試乗感を体感してください』
 オキテスが言い終わる、一同と顔を合わせる、心込めて低頭する。
 『尚、聴きたいこと、操舵してみたい等の件がありますれば、この艇の艇長を務めているギアス、または、この私に用命ください』
 オキテスが言い終わる、試乗者一同から拍手で返事が届く、一行が乗る試乗艇ヘルメスは、北へ向けて航走を続けている。
 マリアの浜を出てヘルメス艇は、今様時間にして10分余り沖に出ている、航走距離は約10スタジオン(約2キロ弱)に到ろうとしている。
 西からの風が感じられるが強くはない。ヘルメス艇では、この風での帆走は不可能ではないが、帆張りして帆走するにはもの足りない。
 ギアスは、あと5スタジオン(約1キロ弱)沖に出ようと心を決める。
 朝凪の終わる頃合いに浜を離れて、この地点に到達する、経過した時間を勘で計る。タイミングがマッチタイミングではない。
 彼は考える、今様時間10分後は?その時間に到達する海上地点の風具合を勘ぐった。
 彼の答えは『いいだろう』である。その旨をオキテスに伝えた。
 『うまくいくと考えています!』
 『お前の決断だ。任せる!』
 ヘルメス艇は、なおも漕ぎかたの力を借りてマリアのクレタ海の沖を目指して航走を続ける。
 ギアスが艇上の試乗者に向けて事情を説明する。
 ギアスは、説明と内心の苦衷に背に走る冷たい汗を感じていた。
 そのような時に試乗のリンドス浜頭から声がかかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1186

2017-12-18 08:01:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ようこそ、リンドス浜頭殿、多忙なのにようこそおいで下さいました。ありがとうございます。私ら集散所の所長以下、担当一同、船の建造方一同、大歓迎いたします』
 『おう、丁寧な歓迎の言葉ありがとう。クランドス浜頭殿も見えられたかな?』
 『はい、来ていただいています。エドモン浜頭殿、テムノス浜頭殿、ウチの所長と一緒に、ここに来ます』
 『何っ!エドモン浜頭、それにテムノス浜頭もここに来ているとは。二人に会えるとは、久しぶりだな!』
 ダントス所長と浜頭連が場に姿を見せる。一行を迎えるイリオネス、ダントス所長がリンドス浜頭に来場歓迎の挨拶をする。浜頭連がリンドス浜頭と顔を合わせる、挨拶を交わす、四人の浜頭が久しぶりの邂逅を喜び手を握り合う。
 エドモン浜頭がスダヌス浜頭を集まった浜頭一同に紹介する。彼らに顔を合わせて声をかける。
 『これで、キドニアのキドニス浜頭、パムテキオのパキオテ浜頭がいれば、クレタの浜頭の顔がそろうのだがな』
 これを耳にしたクランドス浜頭が首を縦に振ってうなずく、これを見てとるエドモン浜頭がうなずき返す。
 『こうして顔を合わせてみれば、広いと思っている世間も狭いものだな』と感嘆の言葉を口にする。
 続けて言葉を口にする。
 『ダントス所長、リドラス担当長、そして、イリオネス軍団長、俺は驚いた!テムノス浜頭も驚いている。そろいもそろって、イリオネス軍団長のところから船を買う、リドラス浜頭とクランドス浜頭も集散所を通じて船の引き合いをする。全くどうなっているのだ!心底驚いている』と言って一同の顔を見廻した。
 彼は言葉を継ぐ。
 『オキテス殿、試乗の準備は整っていますかな?』
 『はい、準備は整っています』
 ダントス所長が声をかける。
 『リドラス担当長、それに、オキテス殿、皆さんを船に案内申しあげてくれ』
 『解りました』
 オキテスがリドラス担当長に試乗会催行の次第を伝える。
 『了解しました。オキテス殿、それでよろしいでしょう。それでもって催行します。それを聞いておけば、営業の話の進め方を組み立てれるというものです』
 オキテスは丁寧に一行を案内して係留岸壁へと向かう。
 一行に乗艇を促す、艇上で彼らを迎えるギアス、オキテスは、一同に感づかれることなく、各人を座乗の最適位置に座してもらうように気を配った。
 オキテスはギアスと打ち合わせる。
 『ギアス、風の具合を読み取っているか?時間的にこの頃合いだ、沖に出て帆走のタイミングにおける風の具合を予想しているか?』
 『はい、オキテス隊長、風の具合は、いいであろうと予想しています。この私に任せておいてください』
 『おう、よしっ!艇を出してくれ!』
 ギアスが漕ぎかた一同に向けて、声大きく漕ぎかたはじめの号令を発した。