『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  770

2016-04-29 05:07:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはというと、昼めしの場に来るときに手につまんできた板きれに木炭を這わせて何かを描いている。それは新艇の船底の概略図であった。
 彼は描いた図をじい~っと見つめる、頭の中に想起した部材をどのようにして新艇の船底に取り付けるかに思考を集中した。
 昼めしのパンに噛みつき、咀嚼して、胃の中に落とし込む。そのリズム合わせて思考を進ませていく、あらゆる角度から検討する、何とか三択の領域までに思考を詰めた。あとは三者の話し合いの俎上に載せるところまでに思考結論を到達させた。
 オキテスがパリヌルスに話しかけてる、ドックスが耳を澄ます。
 『お前、何かを考えているようだが、考えがまとまったのか?』
 『おう!まとまりかけている。ヘルメスが帰港したら、第三の建造の場に集まろう。それまでに考えがまとまる。三人の、いや、四人だな、頭脳を集めて、結論を出して、即、ヘルメスに手を加える。その段取りだが』
 『その段取りだが了解した。ドックス、よろしく頼むぞ』
 『了解しました』
 『以上だ!』
 三人の昼めしは終わった。各自の持ち場へと散っていく。
 時が訪れる、ヘルメスが帰ってくる、待ちかねていたパリヌルスが動く、ギアスに指示する、ヘルメスを第三の建造の場の近くの海上につけた。
 『おう!ギアス今日もご苦労!今日はだな、ヘルメス艇の海上走行について、お前の意見を聞きたい、それが用件なのだが、オキテスもドックスも待っている。建造の場に来てくれ』
 『はい、判りました』
 『それからだが、ヘルメスを陸へ揚げて手を加える。漕ぎかたの一同を待機させておいてくれ。帆柱を艇から外すように指示してくれ』
 『判りました』
 建造の場に四人が顔をそろえる、パリヌルスが一同に声をかける。
 『メンバーがそろった。オキテス、俺が話を進めて、いいな』
 『おうっ』
 『まず、ギアス、お前の意見を聞きたい、訊ねることに答えてくれ。ギアス、お前はだな、我々一族の中で、船上で過ごす時間が長く、航海経験も一番多い、そのうえ、船の運航に関する知識、感性にも優れている。それゆえにお前に聴きたい』
 『はい、どういったことでしょうか?』
 『聞きたいのは航走中の船の横ブレについてだ。ヘルメスに乗っていてだな、艇が横ブレすることがあるだろう。艇の進行方向を維持していくうえで困るような横ブレを感じたことがあるか否か?そして、進行方向を整えるのに苦心する、進行方向維持操船に力を尽くすわけだが、特に嵐に遭遇したときの操船状況について話してほしい』
 『判りました。話します』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  769

2016-04-28 09:36:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは答えて、パリヌルスの目を見つめた。
 『パリヌルス隊長、言われる通りです。進水を控えて、それまでに、その2点の構造を新艇に施したい、そのように考えて相談に及んだわけです』
 『それでは聞くが、ヘルメス艇には、今、お前が言った構造が施されてはいなかったはずだな』
 『言われる通りです。その構造はヘルメスには施してはいません』
 『まあ~、そのことについては俺たちが試乗した折には、配慮していなかったことなんだな。ほれ、出来た、それ、乗ってみよう。そういった、それくらいの感覚で試乗している。配慮が足りていないといわれればそれまでだが、オキテス、どうであったろう、ちょっと振り返って思い出してみてくれ。ドックス、これは俺たちにとってでっかい反省点だな。この件については、今日と明日でキッチリ解決する』
 『解りました』
 『ご両人、この件について、俺が意見を言っていいかな』
 『おう、パリヌルス、言ってくれ、聞く』
 『今日、キドニアからヘルメスが帰ってきて、ギアスにこの件についての意見を聞く。また、それまでに、今、ドックスが言った件に対する設計を終える。次、ヘルメスの船底の状況を点検する。ドックス、頼みたいのは、そのあとだ。俺の設計をヘルメスに即刻、施してもらいたい。明日の出航に間に合わせたい。それで明日は、オキテスがキドニアに出かける、ヘルメスの走行テストをしてもらう。彼がキドニアから戻るのを待って、オキテス、ギアス、二人の走行感想を聞く。俺は、この件の対処案を3件くらい立案しておく。これを4人で判断して即決する。その段取りでどうだ、二人の意見は?』
 『おう、それでいい、OKだ!』
 『ドックス、お前はどうだ?』
 『それでいいです。やります』
 『今日、ヘルメスが帰港したら、即、やる!二人ともよろしく頼む』
 『おう、解った!』
 『解りました!』
 三人は意を合わせた。
 『おう、パリヌルス、頃合いだ。三人で昼めしにしよう、仕事に意欲的になると腹が減る』
 『そうだな、昼めしにしよう』三人は昼めしの場に足を向けた。
 昼めしの場には、400人を超えると思われる者たちが一斉に昼めしに取り掛かっている、壮観である。彼らの楽しみの時であり、身も心も憩う場である。今、彼らが話題にしているのは、進水の行事のことである。進水は、彼らにとって、初体験の行事である、頬を染めて、声高らかに、想像にまかせて話し合っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  768

2016-04-27 04:53:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスの発案によって作成された仕様書きと彼が描く新艇の姿形図で『新艇とはいかなる船なのか』が理解できる、それは意義のある資料であった。クレタにおいてそれは、この種の事業では初めての資料であったのである。
 パリヌルスは、出来上がった仕様書きを見て、内心で想った。
 『これで目指す、新艇5艇、早期完売の目標達成はなる』と確信した。
 新艇5艇の同時完成、仕様書きの作成でもって、過ぎ去ったクレタの造船事業の繁栄期においてなされなかった、画期的造船手法による新艇の建造、画期的販売方法で販売するべく、この種の市場に参入していこうとしている。彼らの気概が感じられた。
 彼が作成した仕様書きは下記のごとくであった。
 
      *新艇の仕様諸元
 
   新艇 全長  40キュビット     帆柱数  2本
      全幅  41/2キュビット    帆柱高さ 20キュビット
      艇深さ 31/3キュビット  帆枚数  4枚
      漕ぎ座数 左10座       乗員数  35人
           右10座       積載量  乗員数に準ずる
      櫂長さ  8キュビット     艇首部  甲板構造
      舵櫂   1本         艇全体  下甲板構造

 『おう、オキテス、朝めしの場で言っていた新艇チエックの要件とは何だ?』
 『ドックス、お前から、パリヌルス隊長に説明してくれ』
 『判りました』
 『パリヌルス、お前に相談しようということだ。難しいことだ。簡単なことなら、俺とドックスの知恵で事足りる』
 『おいおい、オキテス、持ち上げるのはよせ』
 『ドックス、仕様書きが書けたのか』
 『え~え、書き終わりました。相談事について説明いたします』
 『おう、話してくれ』
 『新艇が航走していくうえで外から受ける力に充分に耐えれるように造られています。しかし船としての直進性、いわゆる、横ブレに対する対応性が充分であるか、使用していくうえで、取り扱いに対する耐久性が充分であるかが懸念されることです。これについてどうするか、今のままで充分なのか、それが相談する要点です』
 『解った、艇が走行していくときに発生する横ブレに対して、新艇の現状では、その性能面で、少々心もとなく感じられるということか、また、新艇を日常、使用していくうえで現状の船底構造では、長い年月の使用に耐えられるかどうかという懸念か、ドックス、この2点だな』
 『はい、そうです』
 『新艇は、入念な部材設計と構造設計で造られているというものの、永年使用という考えに対応した充分設計がなされているのかということだな。ドックス』
 『はい、そうです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  767

2016-04-26 05:58:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 各建造の場に準備されている自前作りのモノサシといえば、ロープでできており、1キュビットごとに結び玉が作られていた。このロープを用いて二人は額に汗して採寸作業を行った。
 パリヌルスが採寸箇所を指示する、ドックスが結び玉ロープで採寸箇所のの寸法を測る。パリヌルスがドックスの告げる数値を木板に書き入れた。
 『ドックス、採寸必要箇所の採寸は終わったな。これからあとは、話し合いながら書き込む。こちらに来て座れ』
 『解りました』
 ドックスは作業している者たちに採寸作業が終わったことを告げ、パリヌルスに向かい合って座った。
 『パリヌルス隊長、これはいい思い付きですな。これを見れば、新艇がどんな船なのかが、直ちに理解できる。客にとってありがたい資料ですな。今、使っている船と比べて、どこがどう違うかがすぐに理解することができる。実物を見なくともどんな船かということが解ります』
 『お前もそのように思うか。俺の考えもお前が今言ったように考えている。だがだ、気にかかることもある。まあ~、仕事を終えてから考えようと思っている。ドックス、仕事だ、仕事を続ける。俺の聴くことに答えてくれ』
 『はい、聴いてください』
 『確認する、俺の質問に答えてくれ』
 パリヌルスは、採寸結果について確認質問をした。
 『次!帆柱の本数は?』
 『2本です』
 『帆柱高さは?』
 『20キュビット(9メートル)です』
 『漕ぎ座の数は?』
 『左右両舷合わせて、20座です』
 『乗船できる総人数は何人?』
 『それは、まだ決めていません』
 『それについては、俺は35人くらいが適当と考えている』
 『言われることが解ります。それくらいが言われる通り適当な人数です。40人は無理です。これを目安に積み荷する積載適量といえます。その線で行きましょう』
 『帆柱は2本、展帆総枚数4枚』
 『間違いありません』
 『ドックス、吃水は、どれくらいと考えている?』
 『はい、私は、1キュビットを超えると考えています。進水の時に確認するということでいきます』
 『よしっ!以上で仕様書き作業完了!ドックス、ご苦労であった』
 パリヌルスは、オキテスに渡す新艇の姿形図と仕様を新しい木板に書いて作った。
 オキテスが姿を見せる。
 『おう、パリヌルス、仕様書きの作業が終わったのか?』
 『ドックスの準備がよくできていたので予定より早く終わった。この姿形図と仕様書きは、お前に渡す分だ』
 パリヌルスは作成した新艇の姿形図2枚と仕様書き2枚をオキテスに渡した。
 『おう、ありがとう。この2枚では、集散所方に渡して、スダヌスに渡せば俺の分がなくなる』
 『そうか明日中に作る。ドックス、木板の作り置きがあるかな?』
 『いえ、ありません。作ります』
 『では、こうしてくれ。とりあえず10枚作ってくれ。そのあとに10枚ほど木板を作っておいてくれ』
 『解りました』
 『この木板に、この仕様書きをを書き写せ。これはお前の分だ』
 『ありがとうございます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  766

2016-04-25 05:43:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、おはよう!めしの真っ最中か。オキテスにドックス、二人がいるとはな』
 パリヌルスが数枚の木板を抱えて、二人の傍らに立った。
 『おう、おはよう。俺ら二人が一緒にいる、珍しいことではなかろうが。二人一緒が日常の当たり前なのだ』
 『そうだな、二人のタッグが新艇建造の軸だ。ドックス、めしを終えたら、仕様書きつくりの作業をやろう。俺はここで待つ』
 『おう、パリヌルス、今日のことだが、進水を控えて、緊急に、何としてもやらねばならん事がある。朝、ドックスと話し合ったのだが、新艇についてチエックしなければならんことがある。昼めし前にやろうと考えている。お前とドックスと俺、この三人でやらなきゃならんのだ。重要なチエックだ。艇の性能にかかわることだ』
 『解った。その時間は充分にとれる』
 『パリヌルス隊長、めしは終えました。行きましょうか』
 『オキテス隊長、行きます』
 『おう、了解。パリヌルス、よろしくな』
 パリヌルスとドックス、二人は、新艇建造の場へと向かう。
 『おう、ドックス、どの艇で採寸をやる?5艇全艇が規格の統一された部材で建造されている、ドックス、決めてくれ』
 『第三の建造の場でやりましょう。私が居場所としているのが、第三の建造の場なのです』
 『解った。その第三の建造の場でやる』
 二人が歩を運ぶ、建造の場に着く、作業者一同が迎えてくれる、ドックスが一同に声をかけた。
 『諸君、ご苦労!今日はこれから、新艇の採寸作業をやる、作業の邪魔は極力避けるようにやる。よろしく頼む』
 『解りました』
 告げ終わったドックスが採寸の用具を持って、パリヌルスの傍らに来る。
 『隊長、始めますか』
 『おう!』と答えて採寸項目を書いた木板をドックスに見せた。
 『この順序で寸法を取っていこう』
 『解りました』
 二人の採寸作業が始まった。
 採寸は、新艇の長さの採寸から始まり、艇の幅、深さ、帆柱の高さ、櫂の長さと採寸作業を進めていく。パリヌルスはドックスが告げる数値を木板の当該箇所に書き入れていった。
 
 この時代の寸法の単位は、キュビットである。現在では使われてはいない単位である。キュビットは、身体尺である、手の中指の先から肘までの長さを 1キュビット としていた。この時代、その長さに地域差があり、統一された寸法ではなかった。その長さをメートルに置き換えると 1キュビット の長さはクレタ島では、45セントメートルとしていたらしい。文明発祥のシュメールでは、シュメールキュビットとして、キュビット原器が銅でつくられていて、シュメールキュビットとして、51.7センチメートルであった。コロンブス到達以前のアメリカのイサバでは、49.6センチメートルであり、古代エジプト、紀元前2750年ころのサッカラでは、52.4センチメートルとその地における 1キュビット の長さであった。ピラミッドもこのキュビットを長さの基準としてつくられているのである。余談ではあるが、ピラミッドがこのキュビットを使って建設されているわけだが、その寸法どりに2種類の長さのキュビットが使われているといわれている。長いキュビットは、王の腕の長さからの寸法であり、短いキュビットはピラミッド建設の人民の腕の長さから定めた寸法であるといわれている。
 その他の地域における 1キュビットの長さは、ペルシャでは、52~64センチメートル。古代ギリシアでは、47センチメートル。ローマでは、44.7センチメートル。アラブでは、48~64センチメートル。古代イスラエルでは、42.8センチメートルの時代があり、のちの時代に至っては、44.5センチメートルとしていた。

『トロイからの落人』  FIGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  765

2016-04-23 09:36:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ドックス、本題に取り掛かろう』
 『まず、式の運営担当を1艇当たり5名だな。各艇に携わっている者たち全員が艇を進水させる。式の運営責任担当者は、5名のうちから三人を選んで任命してくれ』
 『判りました。現在、各艇の建造にたずさわっているものが50人くらいですから、全員参加で人数も妥当であると考えられます』
 『それでいい!明日から数えて進水式当日まで5日間だ。その日その日の実行項目と段取りを決める、そして、それを木板に書き入れる』
 オキテスは、木板を手に取って、①から⑤までの番号数字を書き入れ、⑤の項目箇所に『進水式』と書き入れた。
 『あとは、ドックス、お前が書き入れてくれ』
 『判りました。隊長、あとでよろしいですから、目を通していただければ幸いです』
 『ヨッシャ!ドックス、それでいい!明日の俺はキドニア行きだ。招待客への連絡打ち合わせは、明日やってくる。式当日の宴の件は俺がオロンテスと打ち合わせる。艇の進水の全責任担当はお前だ。以上だ』
 『判りました』
 『式次第、統領、軍団長らとの打ち合わせは、万事、俺がやる。それで決定だ。朝めしを食べにみんなのところへ行こう。朝めし後、パリヌルスが来る。仕様書きの件よろしく頼む』
 二人は座を立って、朝めしの場へと歩んでいく。
 『ドックス、忘れるところであった。お前が言っていたもう一つの話とはなんだ。めしを食べながらでも話せることなのか?』
 『それは構いません』
 『よし、めしを食べながら話してくれ』
 二人は、みんなのいる朝めしの場に座した。
 『ドックス、いいぞ。話してくれ』
 『はい!実はですね、新艇構造上の問題です。航走している艇に働く外部からの力に抗する構造には充分に配慮して造作をしています。航走の時に発生する横に流されそうな状態になるとき、その横ブレを抑えるのに、現状の構造で充分であるかどうかを両隊長に見てもらいたいと考えています』
 『おう、解った。それについては、午前中に結論を出す。パリヌルスとの仕様書きにどれくらいの時間を必要としている?とにかく昼めし前にそのことをやる!その横ブレを抑える構造だが、ヘルメスにも当然、取り付けているのだな』
 『はい。ヘルメスに造作してあります。新艇は、ヘルメスより、船としての全長が少々長めです。そのようなわけで船としての深さも少々ですが深く造っています』
 『解った。パリヌルスと二人で状態を見て、充分に検討して結論を出す』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  764

2016-04-22 09:39:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは目覚めた。宿舎から外へ出る、空を仰ぎみる、満天に星を見る、浜へと坂道をたどる、波打ち際に立つ、薄明のかなたに目を移す、東の水平線が薄く明るんでいる朝未だきの頃である。
 あたりに人の姿は見ない、彼は、海に身を浸していく、誰もいない、俺一人の朝行事、一つ、また、一つ、水平線近くの星が光を消していく。
 薄明りの浜に人の気配を感じる、その方向に目線を移す、波打ち際に人の影を見とめた。誰であるかを感じ取ったオキテスは声をかけた。
 『おう、ドックス、えらく早いじゃないか』
 『あっ!おはようございます。隊長も早いではないですか。近頃、夜がめっきり短くなりました』
 ドックスが、水をかき分けながら、オキテスのいる海の深みに身を運んでくる、肩まで海に身を浸している二人の目が合った。
 『昨夕、隊長が言われた、進水のことがえらく気にかかり、早い目覚めです』
 『ドックス、何がそんなに気にかかる?』
 『船は、水に浮かべて、そのバランスが命です。バランスを気にかけながら、艤装造作をやる。やってみなければ解らないことが多々あります、これから完成まで気の休まることがありません。帆柱を立てる、新しい試みの帆装です。全体像が気にかかります。それともう一つ、大変気にかけていることがあるのです。詳しいことは打ち合わせの時に話します』
 『そうだな、解る解る!気にかけることが確かに多い。ドックス、お前がいる、パリヌルスがいる、俺がいる、新しい作業の仕組みを考えた統領、補佐をする軍団長の存在もある。先々の心配はいらん!お前がいるからこそ、いい船だ出来ていく。そちらの安心こそがでっかい』
 『期待には背かない気概で新艇建造に携わっています』
 『おい、長い時間、海に浸っている。寒さを感じる、あがるぞ!』
 二人は浜にあがった。
 『ドックス、いくぞ!』
 二人は建造の場へと歩み始めた。
 オキテスが昨夕に書き記した木板、そして、新しい木板を間において対座した。
 『おう、ドックス、進水の儀式をやる、その事情は、5艇同時完成を目論でいることにある。俺の考えでは関係筋の人にも式に参列してもらうことを考えている』
 『ほう、そうですか。大々的に我々の事業を他人に知らせることと考えてよろしいのですな』
 『そうだ。俺はそのようにしようと考えている』
 『いいですね!それにスタンスして進水の式をやればいいのですね』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  763

2016-04-20 10:05:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほう、そんな!?』
 オキテスは驚いた。
 『そんな、極秘事項があるのか?聴きたい、話してくれ』
 『解りました。話せば、単純なことなのですが。このように仕事をしていくうえでは、それは必要欠くべからざる、とても大事なことでです。このことには、未来があります。将来、この種の仕事を進めていくうえで、当然と言われる常識的作業手順となることです。必要であったことは、それを実現するために高水準の製材技術が必要であったことです』
 『ほう、そうか、ドックス、話を続けてくれ』
 『新艇建造に使用している部材は、ほんの一部を除いて、部材寸法を決めて、規格を統一して、製材した用材で建造しているのです。それが当然といえる理由も関係があるのです。建造作業に携わる作業者たちのこの仕事にかかわる技術、技倆水準にも関係があります。誰がやっても高い技術水準で建造される結果を得なければならないわけです』
 『そうか、そうであったか。新艇建造がそのような作業要領でされていたのか。そうでなかったら、新艇が、このように美しく仕上がるわけがない』
 『それが内密に統領から指示されたことだったのです。当然、その場には、軍団長も同席されていたのです』
 『そうだったのか、そのことに気付かなかった。この俺も大したことがないな。穴があったら入りたい、そんな気分だ』
 『はい、私も大変勉強になりました』
 『はは~ん、統領が話される中に、二つ、三つ俺たちが理解に苦しむ言葉があった。それがこれか、理解できた。ドックス、よくぞ話してくれた、ありがとう。パリヌルスに話してやらないとな』
 『そう、されますか。この件については、明日の仕様書き作業の折にパリヌルス隊長に話そうと考えていたのですがーーー』
 『それは俺から話す。よ~くわかった。そのような秘密があったとはな。ドックス、よう話してくれた。ありがとう』
 『進水の儀式をやるのですね。段取りはどうしますか?』
 『おう、その件だが、明日早朝、アサイチに話し合おう。朝めし前に終える』
 『解りました』
 二人は、建造の場の巡回と話し合いを終えた。
 オキテスが建造の場の全員を招集する。彼は、進水の儀式の催行を六日後に行うことを伝えた。
 『おうっ!』『おうっ!』の返事が返ってくる。
 西の水平線に下辺を接した太陽を見つめて今日を終えた。
 オキテスは、建造の場の落ち着ける場に木板を前にして座した。彼は、向こう6日間の日程を書き記した。
 彼らは意識することなくデイスケジュールを慎重にこなしている。簡単に超えることができると考えられるハードルも慎重に対処してクリアしていっている。彼らがモットーとしている、脚下照顧と確かな一歩で日常の業務が進められていっているといってよかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  762 

2016-04-19 10:17:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らにとって久々である、アヱネアス統領からの檄の言葉である。
 会議の始まりに各自が覚えた胸奥に抱いている火種、灼熱の魂塊、真っ赤に灼ける魂塊、炸裂の時が訪れている、彼らのモチベートマインドが発火する、五人のハートが燃え上がった。彼ら五人は興奮の極みに達している、互いの手を握る、衝動が身を衝き動かす、魂塊が火を噴く、炎柱が天空を衝いた。
 『やる!ことを為せ!』
 『おうっ!』
 感動の声を交わす。互いの意志を確かめて、会議を締めくくった。
 一同は、各々の持ち場へと向かう。パリヌルスは、オキテスに話しかける。
 『なあ~、オキテスお前も俺も燃えている。この燃焼で建造に携わっている者、全員のハート火を点ける。時は進水の儀式だ。スパークだ。何としても全員を燃え上がらせる。そして、一気に成功に向かって突っ走る!いいな、仕掛け人はお前と俺だ。やろう!』
 『おう、解った、やる!』
 二人の意志が固まった。
 『おう、オキテス、お前、ドックスと進水のことを打ち合わせるだろう』
 『おう!』
 『俺は、明日、ドックスと仕様についての作業をする。そのことをお前の口からドックスに伝えておいてくれ。もう、この頃あいだ、浜を見て廻る』
 『おう、解った』
 パリヌルスはそのように言い置いて場を去った。
 オキテスは、建造の場の船台の上にある新艇をドックスと二人で見てまわった。
 『ドックス、よく出来上がってきている。重畳!進水を儀式としてやることになった。5日後だ、そのように各新艇を仕上げてくれ。艤装については、水上に艇を浮かべて、バランスを見ながら組み立てていく。大まかな工程を予定として計画してくれ』
 『解りました』
 『それと、もう一つ、用件がある、明日のことだが、パリヌルスが新艇の仕様を書き記すといっている。それについては、この俺も知りたいことなのだが、彼を手伝ってくれ』
 『解りました。それについては、充分に認識して仕事をしてきています』
 『ほう、そうか。それはよかった。頼んだぞ』
 『実は、オキテス隊長に報告しておかねばならない極秘としてきた重要なことがあります。統領から口止めされていたことです。そのことについて統領から、その内容について、オキテス、パリヌルス両隊長に知らせるようにと指示がありました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  761 

2016-04-18 05:00:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、そういうことだ。次の案件は?』
 イリオネスが声をかける、オキテスがオロンテスと目を合わせる、うなずくオロンテス、オキテスが姿勢を改めて口を開いた。
 『新艇の進水をやろうと考えています。建造の工程が順調に進んで進水ができるように、あと三、四日くらいで仕上がります』
 『おおっ!そうか。そこまで仕上がったか。部材の規格化を図って製材して、組あげた船だ。均整のとれた船であることには、自信が持てるとはいえ、進水をして前後左右の均整に狂いがないかを確かめなければならない。オキテス、進水の儀式をやろう』
 アヱネアスが言う。次いで、イリオネスが口を開く。
 『そうか、オキテス。建造工程もそこまで来たか。完成を目指しての句読点だな。ポセイドンにも伝えなければならん。オキテス、段取りはできているのか?』
 『いえ、それはまだです』
 『よし!進水の儀式をやる。ドックスとも打ち合わせて、日時を決めて段取りをしてくれ』
 『解りました。さっそく、やります』
 オキテスの案件は終わった。
 『おう、オロンテス、最後になったな、お前の案件を聞こう』
 『はい、私の方からは、特にこれという案件はありません。ただ、今、進めている事業に関して懸命に手伝う。これしか考えていません。何なりと軍団長からの指示、各部署からの応援要請に応えていきたいと考えています』
 『おう、そうか。パリヌルスにオキテス、聞いたな。そういうことだ、全員が持っている力を結集して、事業を成功させる。いいな』
 『解りました』
 一同が声をあげて賛同した。
 『統領から一同に伝達すべきことがありましたらお願いします』
 『おうっ!』
 アヱネアスが改まる、一同に向き合う、目を合わせる、口を開いた。
 『一同、日頃、ご苦労!我らが手掛けた事業が進んで、転から結に向かう時点に立っている。人智、力を結集して事に当たり、成功をゆるぎないものにしていく!脚下照顧、確かな一歩を前へだ!』
 『おうっ!』
 彼らは、声をあげた。