『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  240

2014-03-31 07:39:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスとイリオネスの会話は続いた。
 『統領、腕のなまっている自分が見えますよ』
 『そうか、一からやり直す。その気構えでいる。考え事をしていると忘れるのだ、感情を棚上げしていることをだ。やる気、気迫、決断は感情がエネルギーとなる。想いが物事を征していく、決断を下す情を育まなくてはな』
 二人は広場への道を歩調を合わせて歩んだ。
 トロイの民が居住を定めた地域は、現在、ニューキドニアと呼ばれている。文中では、現在の地名で語っていくことをお許し願いたい。
 オロンテスら一行は、ニューキドニアの浜を出てキドニア(現在、ハニアと呼ばれている)の船だまりまで約8キロの回路を漕走していた。海は凪いでいる、微風である。漕ぎかたは片舷6人の12人、操舵手が1人、オロンテス以下5人、それにパリヌリス、オキテス、ギアスの総勢22人が艇上にいた。艇速は時速10キロ弱で波を割って進んでいた。キドニアの船だまりまで小一時間である。艇の上は静かである。誰も口を聞こうともしない。彼らは緊張の重圧に耐えていた。一陣の風が吹きすぎる櫂のしずくが頬に当たる。はっとする。はるかにキドニアの街区が見えてきた。
 『隊長、あと少しで船溜だり着きます』とギアス。
 『おっ!そうか』とオロンテス、オキテスが返す。海路の一時間は短かった。ギアスが大声で告げる。
 『船だまりにはいります』
 艇を荷下ろしの場に静かに寄せた。オロンテスがギアスに声をかけた。
 『ギアス、荷運びに6人くらい助っ人を頼む』
 『判りました』と答えて指示を出した。
 陸に揚げた荷を前にして、彼は一同を見渡した。
 『皆、聞いてくれ。今日、我々がする仕事は、経験のしたことのない、初めての仕事だ。俺も大変緊張している。何がどうなのかも判らない。先ずは、俺のやることをジイ~と見てついてきてくれ。失敗を恐れずに物事をやる。道はおのずから開けてくると、俺は信じている。以上だ』
 オロンテス自身、何を言っていいか判ってはいなかった。彼は、その場で、その時に最善を尽くす、この期に挑む心意気であった。
 彼らは、パンの入った大籠を背にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  239

2014-03-28 15:30:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは現状で行うべきを行い、確実にいい結果としていく。チャンスは向こうから訪れると受動のスタンスとした。その時を待とうと心に決めた。彼の頭の中に、この期待を願望として居座ることを許した。『いつか、いずれの日にか』であった。今は、眼前の目標に向かって進む一歩であった。
 アヱネアスは考えを巡らせて、ただなんとなくといった風情で浜に立っていた。イリオネスは、その姿に近づきがたさを感じて声をかけることを躊躇していた。しかし、彼はやむにやまれず、アヱネアスに声をかけた。
 『統領、いかがされましたか?』
 海は満潮の時らしい、波打ち際に立っているアヱネアスの足を打ち寄せる波が洗っていた。
 『おう、イリオネス、何だ?』
 『しばらくの間でしたが、じい~っと立っておられましたので声をかけました』
 『お~お、そうか、俺は考え事をしていた。何というかな、夢で終わるか、それは達成することのできる希望なのか、眼前の目標を俯瞰的に眺めていた。それも我を忘れてだな。波が足洗っていることに気づかなかったとは、、、』
 『そうですか、ならばよろしいです』
 二人は、話し合いながらキドニア方向の海を眺めた。
 『お~お、舟艇の姿がもう見えないな』
 『そのようです。彼らにとって仕事。私らにとっての希望を積んでかの地を目指しています。彼らの帰りを待ちましょう』
 『そうか、イリオネス、行こう』
 アヱネアスは、考えていたことを話さなかった。また、話すべきことでもなかった。『これが一族を率いていく者の思考の堂々巡りか』と独りごちた。
 『おう、イリオネスどうだ。皆出かけたな。何となくといった気分だな。お前と俺は留守番役か。イリオネス、お前どうだ。俺は、時々、腕や足、身体がうずく。汗を流して何かをやりたい。そんな衝動が体中に沸いてくる、お前はどうだ?』
 『それは、私にも言えます』と相槌を打って、何事かを考える様子を見せた。
 『統領、これなんかはいかがでしょう。彼らは昼めしを終えたら撃剣の訓練をやります。一緒にいかがです。今日からやりませんか』
 『おう、それはいい、いいな、やろうではないか。イリオネス、昼めしを終えたら呼びに来てくれ』
 『判りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  238

2014-03-27 07:39:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスの胸には、ミニマムな今のトロイへの思いがふつふつと沸いてきていた。この思いが、己を忘れて考えるくらいに四六時中、胸中にとぐろを巻いて居座っていた。
 彼は広大なクレタの海を見つめていた。忘我の境地へと誘われていく、抗することができなかった。
 『おい、アヱネアスよ、どうしたいのだ』耳奥で誰かが話しかけてきていた。声が大きくなってくる。『いわれなくても判ってることだ!』話かけの余韻が遠のいていった。
 この時代の人々は、事の成否を二者択一的に、イエスか、ノーか、で決していく傾向が強く中庸的な考え方が乏しい時代であったと思われる。心情として『お前がいるから事が成る』か『お前がいるから事が成らない』か。生か死か、勝ちか負けか、人間の存在、命の軽い時代であった。しかし、あのとき、トロイは敗れた、アヱネアスは恥辱をこらえて生を選んだ。敗者は多くを学習した、強者よりも敗者の理が世の中をよりよいものにつくりあげれるのではと考えている。他利を生かして利得する。トロイの民は事を決める場合には二者択一ではなく多者択一で最良を選ぶ事を学習して、臨機応変で事を運ぶことを身につけた。アヱネアスは、トロイ、このミニマム国家の建国を成し遂げたかった。
 彼は、その立場における者の戦略思考こそ、国家経営の要めであると確信した。戦略思考とその実行が人を育てると理解した。十余りの仕事のできる者に十五の仕事を与え二十の成果を求める、少々の苛酷を否めないが、戦略がそれを可能とした。未開の時代である、結果を求めやすいことも彼らに利した。戦略が存在し、人を育て、国家目標を実現していく、これこそ俺の国家統治の要諦であるとした。
 そうであらねば眼前の目標である、富国であり兵の強い国がつくれない、だが、国家を成り立たせる決定的な要因にかけている現状を強く認識していた。それは国の未来を担ってくれる子供らがいないことであった。これがクレタで解決できるか否かが大きな課題であった。これを思うとクレタにおいて建国という事業を為すことができるか否かが、途方に暮れる思念であった。この思念の原点に立つという自分の姿を思い描く、為し得ることができるか否か、自分の力量を疑った。それを為し得るイメージが描けなかった。それを『やる』『出来る』をいま語るとすれば、虚勢以外の何物でもなかった。
 彼は、キドニアに向けてはるかな沖へと進みいく姿が見えなくなる舟艇を見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  237

2014-03-26 07:31:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼はそのように言いおいて、真っ暗闇の海に身を浸した。彼はしばし黙考をする、今日をまぶたの裏にイメージして朝行事を終えた。一同の前に立つ、彼らと朝のあいさつを交わした。彼らに伝えるべき第一語が出てこない、とまどう、黙したまま一同を見渡した。彼は今日一日を短く伝え、『君らが作るものが世界を変えていく、心を込めて励んでくれ』と檄で言いたいことを結んだ。セレストスが大声をあげて令を発した。
 『おう諸君っ!行くぞ!』彼らはオロンテスとセレストスを先頭に立てて作業の場へと向かった。
 オロンテスはうれしかった。このようにして一同が仕事に励んでくれる姿を目にして感動せずにはいられなかった。彼は心の中で微笑んだ。『これで事は成る!』と決まった。仕事の場へと歩を運ぶ足は軽かった。彼と彼らを動かしている心情は、明日に向かって今日を生きるといった真摯な心意気であった。

 夜が明ける、陽が昇る、朝の光射すニュウキドニアの浜はかってなかった活気にあふれていた。その活気の中に焼きたてのパンのふくよかな香りが漂って、高く立ちのぼって消えていく、そのパンの香りを追って身を動かす男たちの姿があった。
 焼きあがったパンは、大きな籠にに入っている籠は、藤蔓で編まれて造られていた。大籠は10を数える、ギアスは舟艇の上に立って運ばれてくる荷を積んでいた。見守るオロンテス、見つめるパリヌルスとオキテス、肩を並べてアヱネアスとイリオネスが姿を見せた。朝の挨拶と掛け声が飛び交った。舟艇の周りは喧噪の雰囲気風情であった。港といえない浜である、出航の準備が整った。
 オロンテスがアヱネアスに歩み寄る、二言、三言、言葉を交わす、イリオネスが声をかけてきた。
 『オロンテスご苦労!パンはうまくできたか?勝負どころの第一日だ!』
 『はい、上々の出来です。出発のときです。では、行きます、吉報をお待ちください』
 彼らは艇上に移り、ギアスに離岸を促した。舟艇は波上を統べるように沖に出てキドニアに向かった。艇の上の者たちの心情は一方向であることが艇の上の雰囲気で知れた。
 パリヌルスもまた彼らの目を見て『事は成る』を確信した。主だった者たちと目を合わせてうなづきあった。
 彼らは、作業管理に心を砕いている。小戦略を収束して、中戦略にまとめあげ、その領域の作業を統括管理していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  236

2014-03-25 07:38:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、二人の顔を見つめて厳しい口調で言葉を吐いた。
 『パンは、粉の出来具合が命なのだ。いいパンを焼く、全て、この第一段階の粉の出来具合にかかっている』
 『いやいや、全く、もって君の言うとおりだ。物を作る、物を造るということは大変なことであると判っている。まったく大変なことなのだ。オロンテス、お前は大変に苦労をしている。それが判るだけに、今のお前の事が、、、だ』
 『判ってくれるか。俺は、常に思っていることは、今やるべきことに自分の持っている全てを尽くす、その一言しかない。必ず報われると信じている』
 『お~お、それだ。感心、感心!』
 『その気脈をいいカタチで一同に通して事をやる。おのずといい結果となる。自分が手をかけられない、その分を気脈を通していく、むつかしいことだが真の心が通じる』
 『これはこれは、オロンテスからいいことを教わる。ありがとう』
 『人手がいるようであったら、この手を貸す。どうだ?』と言ってオキテスは両手を差し出した。
 『おう、ありがとう。いまは、充分に足りている』
 『ところで明日の事だが、俺たちも同行するがかまわんか?』
 『いいとも、こっちからもそう願いたいことだ。うれしい』
 『それについて打ち合わせておきたい』
 『判った。あちらへ行こう』
 三人は連れ立って打ち合わせの場に移った。三人の話はまとまった。
 『では、そういうことでいいな』
 オロンテスは作業の場へと戻り、二人は広場への道をたどった。二人は口を利くことはなかった。明日という波乱の日を控えた静けさが漂っていた。

 この集落に居住している者たちの中で朝一番早いのは、『自分を除いてほかにいない』とオロンテスは思っていたがそうではなかった。浜に来てみてそれが判った。
 今朝は、気が張っている。オロンテスは、飛び起きた。丑三つ時を少し過ぎた真夜中である。彼は、集落の中を通り過ぎて、広場を駆け抜けた。一目散に駆け抜けた。クレタは暖かいと言えども、今は初冬である、それなりの冷気の中を浜へ走った。浜辺には20人余りの男たちが朝行事を終えて、列を整えてセレストスの話を傾聴している。
 オロンテスはその風景を目にした。彼らはオロンテスに気づいた。オロンテスのほうに体を向けて、一斉に口をそろえて朝の挨拶を叫んだ。
 『棟梁っ!おはようございます』
 彼らの声は闇のしじまを切り裂いた。
 オロンテスは、驚いた。驚いている場合ではないと自分を律した。
 『おう、おはよう!俺は朝行事を済ます、ちょっと待ってくれ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  235

2014-03-24 07:47:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 島の北西端地点で南に転進して15分くらいを経て、浜に着いた。
 浜に着くなりパリヌルスはギアスに声をかけた。
 『ギアス、あの走りは、どういうことだ。説明をしてくれ』
 オキテスも怪訝な顔つきでギアスの表情を見つめた。
 『はい、今日は風向き、風の力がいい条件でした。この機会を逃すまいと試行した操艇を試してみたというところです。しかし、あの走りはまだ完成の領域に達してはいません。なかなか試行する機会がないものですから。断りなくやったことについては詫びを言います。すみませんでした』
 ギアスは少々低頭して詫びを言い、言葉を継いだ。
 『ただ、あの走りの技術が完成した折には報告しようと思っていました。いま、もう少し時間を下さい。試行を重ねて研究いたします』
 『判った。船尾の三角帆は、そもそもメインの帆の補助といったところのものとして取り付けたものであった。舟艇のかっこつけもあったのだが、走りの役に立つとは考えてはいなかった。ギアス、効果を出すには大きさだ!もっと大きくして試してみてくれ』
 オキテスも話に乗ってきた。
 『うっう~ん、課題だな。未来に向かって船が変わるかな?』
 ギアスの言葉がド~ンと飛躍した。
 『将来は、逆風でも船が進む時代が必ず来ますよ』
 『おまえっ!何ってこと言う!そんな時代が来るわけないだろうが』
 『いや、隊長お言葉ですが、いつの日か、そんな時代が来ますよ。私は、そう信じて毎日舟艇に乗っています。どこからでもいいから風さえあればと思うことがたびたびあります。風さえあれば思う方向に船を進めることができる。海が凪いでいて、どうしようもない時にそう思います。しかし、風なしではどうにもなりません』
 『ほう、お前、そんなことを思っているのか』
 話はとんだところに落ち着いた。
 『おう、パリヌルス、今日の日は、まだ時間がある。どうする、明日を控えている。オロンテスのところへ行ってみないか』
 『おう、そうしよう。忙しがっているかな?奴も一風変わったところがある、孤軍奮闘といったところだろう。まあ~、助っ人はいらんと言うだろう、が、懸念が消えん』
 二人は申し合せてオロンテスのところへ向かった。
 オロンテスは、製粉を担当している者たちと出来上がった小麦の粉を見つめながら話し合っている。
 『これは少々粗い。これくらいまでに仕あげよう。でないと、いいパンに焼きあがらん』
 『判りました』
 『これくらいでないと、焼き上げがしっくりいかない』
 『判りました』
 オロンテスは出来あがった小麦の粉を吟味した。
 彼は人の気配に気づいて顔をあげた。
 『おうご両人。いかがされた?俺は、いま小麦の粉の出来具合を吟味していたところだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  234

2014-03-21 07:40:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 波浪の気まぐれ、波の大小、あらゆる負荷に対する抗力を艇の使用目的を満足させ得る状態で、舟艇構造に反映させたかった。パリヌルスは、舟艇の状態の体感とその解析のみに集中して、ギアスの操艇と乗船感を感じ取っていた。小島の東北端で西に向かって1キロ余りを約8分で島の西北端に至った。南に向かう地点である。パリヌルスは、この地点におけるギアスの操艇と舟艇の状態と体感に注意を集中した。原始的感覚で舟艇の状態把握に努める姿がそこにあった。
 ギアスは、島との距離に十分に余裕間隔をとって舟艇を南に向けた。そのあとである、パリヌルスもオキテスも驚く操艇で舟艇は波を割って南下した。
 ギアスは風をしっかりと読み取っていた。メインの帆は進行方向にやや右前として斜めに7割がたに展帆して櫂漕ぎはやめ、船尾の三角帆と操舵で舟艇を進めた。
 小島の沿岸との距離も操艇を考えたうえで適当に保ち、大きくゆるいジグザグの航跡を洋上に残して南下した。
 このありさまに二人は驚いた、舌を巻いて驚いた。二人の関心は、舟艇の乗り具合どころではなくなった。
 『おいっ!パリヌルス。これはどういうことだ』
 『おう、オキテス。俺も驚いている。艇の進み具合をじっくり見てみよう。詳しいことは浜についてからギアスに聞くとしよう』
 『判った。全く驚いた。この走りには』
 二人は、艇の走行に頭を傾げながらも感動した。二人が体験をしたことのない操艇であった。
 舟艇は、大きくジグザグに進む、メインの帆に当たる風の向きは、進行方向に対して右後方45度くらいから吹いて来ている、艇尾の操舵手が三角帆を操り、操舵で進行方向左へ押しやられるのを制御している。それでも風力で艇が左へと寄せられる、艇の進行方向を操舵と三角帆を操作して、艇を右方向へと進ませる。風波に翻弄されず、艇の速度も落とすことなく、ぎごちない操作ではあるが艇は沿岸に沿って南下した。



   *お詫びいたします。*
   昨日の投稿で大ミスをしました。深くお詫びいたします。
   1行目です。
   見えない海の中  とすべきところを
   消えない海の中  としました。

   見えない海の中  と訂正いたします。

                    山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  233

2014-03-20 08:17:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『隊長!やりました。思ったとおりでした。消えない海中をこの目で見た気分でした』とアレテス。今日の結果に彼は有頂天で理屈は不要であった。
 『オキテス殿!あの釣り針いい針でした。つり落としをやりませんでした』とギョリダが報告した。二人は彼ら二人に『よかった!よかった!』の快哉を連発して喜びを共にした。浜も喜びのるつぼであった。アレテスが声をかけてきた。
 『隊長!この喜び皆で味わいましょう』
 アレテスは始めようとしている食事の場へと二人を誘った。
 『ありがとう喜んで相伴にあづかる。ギアス、皆もつれて来い!』
 食事の場に来て二人は驚いた。釣りあげた魚が山となっている。二人が予想した以上の釣果を目にした。口を衝いて出た言葉は『これは、すごい!』であった。心の底から笑いがこみあげてきて二人の顔はほころんだ。結果が望んだ通りであればそれでいい、彼らにプロセスの解析は不要であった。
 パリヌルスとオキテスの思惑は、アレテス、ギョリダとは異にしている。アレテス、ギョリダの思惑は漁師的な思惑であり、パリヌルス、オキテスの思惑は今風に言うと事業家的思惑であった。
 食事の風景は、各自が手にしている串の棒を各自それぞれが魚に突き刺し、火にあぶる、口に運ぶといった原始の男たちの食事風景であった。彼らは、『うまい!うまい!』で腹を満たした。
 パリヌルスのささやき声がオキテスの耳を打った。
 『もうそろそろ行こう』
 『判った』
 『ギアス、行くぞ!』
 彼らは、アレテスらに礼を言って、浜を離れた。
 舟艇は、浜の岸に沿って北東へと波を割った。斜め後方からの風を帆に受けて艇は進んだ。帆走である、風にはその力が充分にあった。
 パリヌルスは、ギアスに二言、三言、気にかけていることを説明した。程なく島の北端に至った。艇は西に向かって回頭した。風向きは向かい風に変わる。ギアスの指示が飛ぶ、帆はおろし、漕走に切り替えた。漕ぎかた一同は声を上げて漕いだ。波はやや荒めである。しかし、艇を翻弄する波ではない。パリヌルスは漕艇に関しては気にする必要のない微妙な舟艇の軋みを感じ取っていた。艇を進める漕力、波の力とのせめぎ合いの軋みであろうと感じ取っていた。波の力と向かい風、この現状に抗する構造的な危惧は感じられなかった。
 舟艇は、その使用目的に関しての構造で造られている。パリヌルスは、波浪とその衝撃負荷に対する構造的な艇の対応力に注意を払った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  232

2014-03-19 07:49:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、そろそろ行こうか』
 『おう、行こう。彼ら新しい釣り針で漁をやっている。俺の心もざわついている。道具が結果を左右するさまを見てみたい』
 『お前もそう思うか。同感、同感』
 二人はギアスが準備を整えた舟艇に乗った。ギアスが話しかけてくる。
 『お二人とも、えらくうれしそうですね』
 『おう、俺たち、嬉しそうか。それはだなギアス、俺たちがここに抱いている期待感が裏切られなければに事だ』と言って左胸に拳を当てた。
 『そうだな、俺たちが何事かをやる、結果を考える、それは期待でもある。そして、『おう、うまくいった』で終えるか。『これは、うまくいかなかった』で終えるか。期待どうりの結果であった時のあの心地よさが何ともいえんのだ。最高だな!その結果に心を砕く、心血を注いで体を使う、汗を流す。いい結果のときの気分、期待した結果が得られなかった時の気分、感動と落胆、天国と地獄だ。まあ~、そいうことだ』
 『しかし、その結果が初めから見えているとき、途中から見え始めるときもあるが、全く見えていなくて、いい結果になったとき、こんなときは『おう、これはミラクル!』と感動する。この結果を求めて、最後まで、持てる力の全てを尽くす。人間の生き方って、まあ~、そんなものだろうと俺は思っている』
 『長談義になった。小島に着いたぞ!』
 『彼奴ら騒いでいる。何事だ?』
 『想い描いた結果が図星だったかな?』
 『どうも、そうらしい』
 『それはいい。彼奴らの喜びは俺の喜びだ。ギアス、浜へ乗り上げろ!』
 小島の浜は、歓喜に沸いていた。皆の思いが大ヒットしていた。アレテスとギョリダの思惑が見事に的中していた。それに輪をかけた新しい釣り針がワークミスを少なくした。相乗効果が収束しての結果が形となって、今日の大漁の魚の山が浜にできていた。
 二人は、波打ち際に降り立った。アレテスとギョリダが満面に笑みをたたえて駆け寄ってくる。パリヌルスはアレテスの肩を、オキテスはギョリダの肩を力いっぱい抱きしめた。二人は相手を変えて、またまた、力を込めて抱きしめた。彼らはこの奇跡的な釣果に歓喜していた。彼らに言葉はいらなかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  231

2014-03-18 08:20:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 マクロスは、殺気を漂わせて答えた。
 『俺たちの事か。我々はこのたび小島一帯の地に居を定めたトロイの民だ。レフカオリの山麓の樹林帯の検分が、俺らの旅の目的だ』
 彼は気で圧した。
 『ほう、そうか。しばし待たれよ』
 声がけした者が砦らしからぬ建物の中に姿を消した。間をおかずに一人の男を伴って姿を現した。体格は大きい、容貌にいかつさはないが目線が異様に鋭い、その男は武器を身に着けていなかった。二人がマクロスたちに歩み寄ってくる。男が話しかけてきた。
 『そのほうらの用向きは耳にした。お前らの事は知っている。統領は達者か?先日お前らの居住地に招かれた折に会っている。聞くが、お前らの旅の日程はどうなっている?』
 『俺ら、一行の旅の日程か、現地一泊、二日の日程だ』
 『そうか、いいだろう。タブタ、こっちに来い』と言って、マクロスの背後にいる四人のうちの一人を手で招いた。
 『タブタ、一泊二日の旅だ、支度をして来い』
 彼は言い終わって、マクロスのほうを向いた。
 『お前の名を聞こう。俺は、一族を仕切っているガリダだ』
 『俺は、一行を率いていく任を負っているマクロスだ』
 『判った、マクロス。俺の方からも案内人をお前たちにつける。タブタというものだ。道中、何かと役に立つはずだ』
 話し合う二人の語調が変わってきていた。言葉に親しさを帯びてきている。
 マクロスは、ソリタンと目を合わせた。ソリタンの目は『OKしろ!』と語っていた。
 『ガリダ殿。それはかたじけない。ご厚意を歓んで頂戴する。お世話になる』
 少しばかりの間が空いた。その案内につくタブタが旅装を整えてやってきた。タブタはマクロスに簡単に挨拶をした。
 『タブタです。頭領の言いつけで案内の役を務めます。よろしく』
 『俺は、一行を率いているマクロスだ。このたびは世話になる、一泊二日の旅だ。宜しく』と返した。
 マクロスは、ガリダのほうへ身体を向けた。
 『ガリダ殿。この配慮を歓んでうけます。私、帰参した折には統領にこのことを伝え、改めて挨拶に伺います』
 『判った。道中の無事を祈る。タブタ、お役に立てよ!』
 『判りました』
 一行は土豪の頭領ガリダとの挨拶を終えて、レフカオリ山麓の樹林帯を目指した。
 マクロスとソリタンは、顔を見合わせた。
 『隊長、うまく行きましたね』
 『おう、うまくいった。しかし、あれだな、我々の統領も大したもんだ』
 マクロスは歩きながら一同に声をかけた。
 『お~い、者ども!歩きながらでいい、名を名乗って自己紹介をして、タブタと握手を交わせ。7人!一心同体でレフカの樹林帯を目指す!いいな』
 一同は、『おう!』と短く返事を返した。
 一行の旅の目的遂行の連帯感が一気に高まった。
 トピタスは、マクロスの人心掌握の技に感じ入った。