『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1152

2017-10-31 08:31:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほっほう、そうですか。マリアの集散所から、キドニアの集散所へ、イリオネス殿のところで建造した船の引き合いが届いた、そういうことですな』
 『はい、そうです』
 『それで、今月中に発注したいといっている。そういうことですか。イリオネス殿の方としては、納得して発注していただきたい、その機会の提供ということですな』
 『はい、そうです』
 『それでテムノスとしては、それなら、力を貸してやろうと同道してきたわけか。話が見える、見えてきています。私も、今、手がすいています、タイミングとして、マリアに所用があります。テムノスと話し合って、この私も手伝いましょう。明日、マリアへ同道いたします』
 『ありがとうございます』
 『それで、ひとつ尋ねますが、船の取引価格ことですが、どうされていますかな?』
 『船の取引価格については、その一切を集散所のほうに一任しています』
 『それは賢明なやりかたです。取引価格は集散所に任せておかれて大丈夫です。クレタ島全域の価格が統一されます。このクレタ島で発生する船舶の取引頻度、取引量、それらに関する、船舶の価格相場、取引形態等、集散所に任せる。安心の取引ができるというものです。また、船舶を求める方にとっても集散所を介することで取引を安心して行えるということです』
 『解りました。このクレタ島における大型商品の取引に関してのことを理解いたしました』
 『このクレタ島の東地区において、マリアの集散所は、島民にとって信頼されている集散所なのですな』
 『明日、エドモン浜頭がマリアへ同道下さる、ありがとうございます。私らにとってとても心強いことです。私らの営業の予定は、明日は集散所と打ち合わせを行い、明後日には、船の試乗会の催行を予定しています。よろしく願います』
 『船を引き合いされた方が誰であるか、それはわかりませんが、発注ということになるよう手伝います。そのように計らいます』
 『解りました』
 エドモン浜頭とイリオネスの話し合いが終わる、エドモンがテムノスと目を合わせる。
 『おう、テムノス、いま、イリオネス殿と話し合った件だが、明朝、出航前にマリアにおける対処を打ち合わせるがいいかな?スダヌスも同席してくれ』
 『解りました』
 テムノスとスダヌスが返事を唱和する。
 『イリオネス殿、そういうことです。明日、マリアの集散所へ同道いたします。私もあなた方が造った船にひとかたならぬ興味があります。テムノスからは船を購入したことは聞いて知っています。試乗会の催行に力を貸します。以上です』
 『このような仕儀になろうとは考えてもいませんでした。私らもこの業務に力を尽くします。よろしく願います』
 『明日の出航ですが、マリア着、昼前頃の予定でイラクリオンを出ましょう。係留については私が案内します』
 『解りました。その予定で出航の準備を整えます』
 『では、半刻後くらいには夕食の準備が整います。ご両人でこちらにおいで下さい』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1151

2017-10-30 08:19:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうだ!ところで、イリオネス殿、今日ここへ来られた漕ぎかたらは何人ですかな?浜小屋の準備をしなければなりません。聞かせてください。準備いたします』
 『エドモン浜頭、気遣いいただいて痛み入ります。50人余りです』
 『解りました』
 『申し遅れました。こちらにいるのが、このたびの航海を隊長格で責任担当をしているオキテスです。よろしく願います』
 オキテスが立ちあがる。
 『私が航海の責任役務及び営業部門の総括をしているオキテスです。よろしくお願いいたします』と自己紹介の辞を述べる。
 エドモンがうなずく。
 『おう、テムノス、どうだろう、今夕、夕食をみんなでやらないか!』
 『いいですね!やりましょう』
 『よしっ!決まりだ』
 エドモンは列席の一同と目を合わせる、イグデスに声をかける。
 『イグデス、イリオネス方の漕ぎかたの皆さんを浜小屋に案内して、夕食のつまみに魚の干物を差し上げてくれ。若い衆に手伝わせて火を通して渡してくれ。こちらの皆さんとの夕食の準備は俺が段取りする。イグデス、お前も夕食の場に出席すること、いいな』
 『解りました』
 イグデスは場を離れていく。
 『イリオネス殿、オキテス殿、今夕は食事を一緒にしましょう』
 『ありがとうございます』
 エドモン浜頭との対面の話が終わる、緊張が解ける、間ができる、ちょんの間のくつろぎであった。
 エドモン浜頭が姿勢を正す、一同と目を合わせる、目が炯炯とした光を放っている、場が一瞬にして締まる。
 『ところで、皆さん!そろっての来訪、花見遊山の来訪ではないと見受ける、テムノス殿、来訪の用件を聞きたい』
 『今日のここを訪ねた用件は、イリオネス殿の用件が主なることです』
 『解った。スダヌス、君の用件は?』
 『はい、私の用件は、イリオネス軍団長一行の案内役であることとテムノス殿の手伝い役です』
 『解った』
 『イリオネス殿、本日の来訪の用件を承ります。話してください。この私にできることでしょうな』
 『はい、このたびの営業航海に関して、私が不明とするところを教えていただき、指導していただければ幸いです』
 『指導?了解いたしました。如何なる仔細があるかわからないが、お話しください』
 『ありがとうございます』と言って、イリオネスは身をただした。
 イリオネスは、このたびの航海に到ったいきさつについて話した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1150

2017-10-27 10:07:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同が席に就く、エドモン浜頭が口を開く。
 『イリオネス殿、まだ、会ったことはないが、アエネアス殿は、元気に過ごしていられますかな?』
 『はい、元気に過ごしています。これを我らが統領から預かってきております。受けとりください』
 イリオネスは、アエネアス統領からの贈り物をオキテスから受け取り、礼を尽くしてエドモン浜頭に手渡す。
 『おう、ありがとう。喜んで頂戴いたします。帰られたらよろしく伝えてください』
 エドモンは、受け取った包みのひもを解く、箱からいただき物を取り出す、一同の目に広める。
 それは美事な細工が施された、美麗極まるトロイ時代、プリアモス王家に伝わっていた金でできた細工物であった。
 『お~お、これはこれは、美事な品ですな!このエドモン、ありがたく頂戴いたします。感激です!帰られたらアエネアス統領によろしく伝えてください』
 エドモンは、イリオネスに向かって、丁重に頭を下げた。
 『テムノス殿、見てください』
 エドモンがテムノスに手渡す、見入るテムノス、その細工物の美麗さに驚く、スダヌスがのぞき込む、彼もその類まれなる細工に見とれた。
 息子のイグデスがぶどう酒と火を通した干魚を運んでくる。
 『おう、皆さんつまんでください長途の航海、疲れたでしょう』
 『いや、そうでもありません。いい天気、いい風に恵まれての心いい船旅といったところでした。乗り組んでいた全員、ほとんど疲れがないといった具合です』
 『おう、イグデス、これを見ろ!アエネアス統領からの戴き物ものだ』
 イグデスがその戴き物をじい~っと見つめる、彼は感動を隠さず、その見事さに驚きの目を見張った。
 イリオネスがオキテスに声をかける。
 『オキテス、息子さんに渡してくれ』
 イリオネスらが携えてきた堅パンのケースをイグデスに手渡す、イリオネスが口上を述べる。
 『エドモン浜頭、これは私らのところで焼いた堅パンなるものです。皆さんで笑味してください。ちょっとした航海の携行食糧にもなります』
 『そうですか、ありがとう!いただきます。イリオネス殿からいただくものは珍しいものばかりですな』
 エドモンが礼を述べる。
 『この前に見えたときに頂戴した『方角時板』重宝しています。本当にありがとうございまいた』
 テムノスが口を挟む。
 『エドモン浜頭、その『方角事板』とは、いかなるものですかな?この俺が初めて耳にする代物ですか?』
 『おう、それは言えてる。明日にでも目にかける。テムノス、見て驚くなよ』
 『それはそれは、明日が楽しみだな』
 話が一段落する、エドモンがイリオネスに問いかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1149

2017-10-26 07:41:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、エドモン浜頭の館への道を話しながら歩を進めていく。
 スダヌスが話し始める。
 『こう言ってなんだが、エドモン浜頭の館のある街区は整っている。クノッソス宮殿の近くに住むとこうなるのかな』
 テムノスが応える。
 『俺は年に五、六回くらい訪ねるのだが、浜頭の館がある街区は特別なのだ』
 『ほう、どう特別なのだ?』
 これについては、テムノスは応えない。
 彼らは話を交わしながら歩んでいく、一行は浜頭の館の門前に立つ、スダヌスが口を開く。
 『では、俺が行ってくる』
 館の門には扉がない、スダヌスがつかつかと入っていく、戸口立つ、館の中に向かって声をかける。
 『はい、只今!』
 返事が返って、扉が開く、顔を見せたのは、エドモン浜頭の一番上の息子である。
 『あっ!スダヌス浜頭!』
 『おうっ!イグデス!元気か?』
 『え~え、この通り!』
 スダヌスが両手を広げる、目を合わせる、イグデスの肩をしっかり強く抱きしめた。
 『浜頭、ようこそ!』
 『父上は、在宅かな?』
 『親父はいます、呼んできます。連れの方らは?』
 『レテムノンのテムノス浜頭と去る日こちらを訪ねたことのあるイリオネス軍団長殿だが』
 『あ~あ、思い出しました。あの時、マリアで顔を合わせた方ですな。少々お待ちください』
 イグデスが館うちへ戻っていく、スダヌスが振り返る、テムノスらを手で招く。
 『イリオネス殿、行こう』
 三人が足を運ぶ、エドモン浜頭が姿を見せる。
 『おう、スダヌス、元気であったか?であるらしいな。何より何より。俺は達者で元気、この通りだ』
 エドモン浜頭が三人のほうへ顔を向ける。
 『おう、テムノス殿この前はどうも、あの時は世話になったな、礼を言う』
 『今日はですな、迎えた客人がエドモン浜頭殿を訪ねるというものですから、それでの同道です』
 その言葉を耳にして、エドモン浜頭がイリオネスのほうに身体を向ける、驚きの目を見張った。
 『あっ!これはこれは、イリオネス殿ではありませんか。なつかしいですな、お変わりありませんかな、元気でしたか?』
 『久しぶりです、エドモン殿も元気でいられるようで何よりです。私も達者元気で、今日、ここを訪ねることができたこと心から嬉しく思っています』
 『ここで立ち話もなんです。奥へ入りましょう。テムノス殿、あなたがイリオネス殿と一緒とは?』
 『これはひょんな縁からです。詳しい話はのちほどに』
 『解った。テムノス浜頭、いろいろと話がある。今日はゆっくりしてくれ』
 エドモンは一行を応接の間に招じ入れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1148

2017-10-25 07:42:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが空を仰いで太陽の位置を確かめている、太陽が中天に位置している。
 『考えていたより早い到着であった。重畳!』独り語ちる。
 イリオネスは、イラクリオン到着を日没頃と覚悟していた。
 『おう、オキテス、思いのほか速くイラクリオンに着いた。2艇の係留を確かめたかな』
 『はい、確かめました。安心ください』
 テムノスとスダヌスも想定した時間よりも早くイラクリオンに到着したことに驚いている。
 漕ぎかたの一同も浜にあがってきている。
 『おう、オキテス一同を集めてくれ。少々休むとする。ぶどう酒で喉を潤し、堅パンでも口に入れる』
 イリオネスがテムノスに声をかける。
 『テムノス殿、ご苦労でした。小休止しています。どうぞ、こちらへ』と言って誘う。彼ら一同はぶどう酒で喉を潤す、堅パンを口にしてくつろいだ。
 テムノスがイリオネスに声をかける。
 『おう、イリオネス殿、いい空模様、いい風に恵まれて、櫂漕ぎなしで長途の航路を無事に航走してイラクリオンに着いた。俺らが考えていたより、半刻以上も早くイラクリオンの浜に着いた』
 『そうです。私も驚いています』
 『この艇は、波割りのいい船にできている。スダヌスと艇の走りをよくよく観察して体感した。舳先の波割り、引く航跡、それらを見ての結果の話だ。二人ともこの艇はよくできていると感心したわけだ』
 スダヌスもイリオネスに話しかけてくる。
 『イリオネス軍団長、どうする?お前と俺でエドモン浜頭殿のところへ挨拶をしてから、テムノス殿を迎えに来るか。どう事を運ぶ?浜頭は館にいるだろうかな?』
 テムノスが話しかけてくる。
 『おう、俺も一緒に行く!ことは一度で終わる』
 『テムノス浜頭も一緒されますか』
 『おう、そうする』
 『解りました。スダヌス、そういうことだ』
 やろうとしていることが一決した。
 『休憩はここらでいいだろう。オキテス、ギアスとゴッカスに後事を指示してしてくれ。エドモン浜頭殿へのみやげ物を持参して一緒に来てくれ。統領から託されているものを忘れるなよ』
 『解りました』
 オキテスは、艇の点検整備をギアス、ゴッカスに指示して、一行に同行する準備を整える。
 『軍団長、準備ができました』
 イリオネスは、テムノス、スダヌスに声をかける。
 一行四人は、エドモン浜頭の館に歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1147

2017-10-24 07:18:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 マリアへの営業航海に就航している試作戦闘艇は、艇首甲板があり、続いて、座席が構成されている。最前列の席は漕ぎ座ではなく艇に座乗する者の座席となっている。左右両舷に2座が配されている。次の座からが漕ぎ座となっている。舷に沿って片厳12座、両舷合わせて24座が艇尾に向かって配されている。そして、艇尾に舵座が設けてあるといった構造である。
 イリオネスとテムノスが座しているのは最前列左舷の座である。
 オキテスがイリオネスに声をかける。
 『軍団長、イラクリオンの係留の浜へは、スダヌス浜頭の操舵によって着港させることになっています。イラクリオンの浜が指呼の前方に見えてきています』
 『おう、考えていた着港時間より、早い到着だ』
 『着港後はゴッカスの指示により、艇の点検整備作業となります』と伝えて、ゴッカスに作業の件を指示する。
 座を立って、艇尾に向かうゴッカス、スダヌスと着港について打ち合わせる。
 『おう、ゴッカス、帆張りはもう下ろしていいだろう』
 ゴッカスが指示を発する。
 『全帆をおろせ!漕ぎかた、漕ぎ開始!』
 スダヌスは慎重舵操作で浜の係留位置に艇を就ける。後続のヘルメス艇もギアスが慣れた要領で係留位置に就けた。
 イラクリオンの浜の東部、この一帯はエドモン浜頭が仕切っている浜である。その一画に2艇は無事に着いた。
 一行は、艇を下りる、浜に揚がる、一同は無事の着港を喜び合った。
 ギアスとゴッカスが顔を合わせる。
 『おうっ!ゴッカス、いい天気、いい風に恵まれた航海であったな。それにしても考えていた航走時間がかからなかった。イラクリオンについたのが早かったな。日没くらいかなと思っていた』
 『そうだな、太陽がまだこの高さにある。スダヌス浜頭にそのあたりのことを聞いてみようではないか』
 二人はスダヌス浜頭の傍らによる、問いかける。
 『スダヌス浜頭、艇の船足が速く、予定航走時間をかけずに到着したのでは?』
 『おう、そうだな、櫂を使うことなく、いい風に押されて艇がよく走ってくれた。そのおかげだな。いい走りでイラクリオンについた。速かったな。この時間でこれだけの行程を航走したのは俺も初めてだ』
 『そうですか、時間はどれくらいかかっていますか?』
 『通常であれば、レテムノンからイラクリオンまでは、三刻と四半刻といったところだが、この行程を二刻と半刻くらいで走破したように思う。ギアス、お前のヘルメスも速かった。先行している俺らの艇によくついて走ってきた!重畳重畳!』
 三人は、手を握り合って、この航路行程を速い船足で乗りきったことを喜び合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1146

2017-10-23 10:27:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イラクリオンの浜を視野にいれたスダヌスは、艇を難なく係留するため、ヘルメス艇より艇長の長い試作戦闘艇の舵の切れ具合と艇尾の振れ具合、舳先の方向むきの操舵感覚を把握するためにジグザグ走行を試みる。
 『ホッホウ、この感覚だな!』と、彼はその性向を掌握した。
 テムノスが艇尾より前席に移る。
 『あ~あ、テムノス殿ご苦労でした。新舵の具合はいかがでしたか?』
 試作戦闘艇の最前席に座しているイリオネスがテムノスを隣席に迎えた。
 その席に座したテムノスにさりげなく声をかける、その問いかけにテムノスが応じる。
 『お~お、イリオネス殿、新舵の具合をたっぷりと堪能しました』
 横並びの二人が顔を合わせる。
 『あれはなかなか具合がよろしい!櫂舵に比べて、操舵の切れ具合がはなはだよろしい!操作しての反応の即応性がいいね、櫂舵では即応効果があのようにはいきませんな。艇尾の振れ具合、操作反応とその方向制御になれがいります。舵構造としては、明らかに進歩しています。いい体験をしました』
 『そのように評価していただける。とても喜ばしい限りです』
 『あと半刻くらいでイラクリオンの浜に着きます。イリオネス殿の今日、明日の予定を聞いておけばいいのですが。私もエドモン浜頭と話し合いたいと考えています』
 『そうですか』
 『マリアにおけるあなた方の業務の手伝いをどのようにするかを考えています』
 『テムノス殿、ありがとうございます。力添え感謝いたします。行動予定を次のように考えています』
 イリオネスがテムノスと目を合わせる。
 『私のエドモン浜頭を訪ねるのは、前回の訪問より時日を経ての訪問です。今回の営業航海の事情を話し、明日、明後日の私らの予定を話したうえで、その対処かたを示唆いただき、留意しなければいけないことを聴こうと考えています』
 『解りました。試乗会の催行は明後日にやるといっていましたね。それだけ聞いておけば安心です。私として、どのように手伝うかをエドモン浜頭と打ち合わせます。そのうえでその件についてまたイリオネス殿と打ち合わせます』
 『ありがとうございます。マリア集散所のこの部門の担当者とは、見ず知らずの私らです、テムノス殿の力添えがあれば私らの業務展開がいい具合に進展すると考えられます。世話をかけます。よろしく願います』
 『解りました。いいでしょう。力を尽くします』
 二人の打ち合わせが終わる。
 艇の進む前方にイラクリオンの浜が見えてきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1145

2017-10-20 08:06:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『これについては、船種、用途、大きさですな。今、浜頭と私の乗っているこの程度の大きさ、新艇水準の大きさの船であれば、イリオネスのところの造船でいけると考えられます。これ以上の大きさの船となると注文主の発注を受けての建造となります。イリオネスらのところでは建造が無理と考えられます。また、新艇より小さい船は船大工で十分にいけます』
 『そのように考えるとイリオネスらが建造する大きさ船は市場の要求する大きさの船であったというわけだ。この2種の形態の船の建造で市場に乗り出していけばいいということになる』
 『いうなれば、彼らは、そういうカタチで船の建造事業を行い、市場の要求に応じていけばいいということになるわけですな。彼らの事業経営をそのように指導してやることが重要です』
 『そういうことになる』
 課題の論議が一段落して話が違う方向に振られていく。
 『おう、スダヌス、俺がいま、操舵している、この新舵だが船の未来を考えると、この新舵方式の構造になると考えられる』
 『そのように考えられますか』
 『また、2本帆柱、2段帆、この構造も未来を先取りしている構造といえる。将来は、このカタチの発展形になると自信をもって言える。その意味では彼らは大した者らである』
 『そうですか、彼らの先見性、構想力は見あげたものです』
 『スダヌス、これでお前と話し合って決めるべきを決めた。話し合った甲斐があったというところだ』
 『ご苦労でした』
 『しかし、お前もよく考えてくれた、ありがとう。また、イリオネスに代わって礼を言う』
 二人は目を合わせる、うなずき合った。
 『俺は、エドモン浜頭と話し合う。そして、マリアの集散所にテコ入れする。お前はキドニアの集散所にテコ入れをやれ。この俺が手を貸す』
 『解りました。力を尽くします』
 二人の話し合いは終わった。
 『おう、スダヌス、いま、どのあたりを進んでいる?』
 『もう、モノナフテスの岬の沖です』
 『そうか、この速さなら、あと半刻余りでイラクリオンに着くといったところだな。レテムノンを出てから櫂を使うことなく来たか』
 テムノスは航走を振り返る。
 『そうですね、いい風に恵まれました』
 スダヌスがゴッカスを手で招く。
 『おう、ゴッカス、今日はいい風に押されてここまで来た。あと半刻余りでイラクリオンに着く。イラクリオンの浜へは俺に操舵を任せてくれ、勝手知ったる浜だ。いいかな?』
 『スダヌス案内役に任せます。操舵担当のグッダスをこちらにつけておきます』
 『おう、そうしてくれ。このことをオキテス隊長に伝えておいてくれ。じきじきに隊長の許可もらうべきところなのだが許せ!』
 『了解しました』
 スダヌスがテムノスに代わって、試作戦闘艇の操舵棒を握る、艇はモノナフテスの岬の沖で進行方向を南東に転進する、帆に受ける風の風向角度が変わる。
 船速がややおそくなる、致命的な速度減ではない、艇はしぶきを飛ばして波を割って進んだ。
 テムノスが艇首のイリオネスの隣に座す、オキテス、ゴッカス、操舵担当のグッダスが艇尾の舵座に来る、スダヌスの舵操作を見つめる。
 オキテスがゴッカスとグッダスに声をかける。
 『ゴッカスにグッダス、指示しておく。イラクリオンの艇の係留について、スダヌス浜頭から係留の件についての要領を聞いておくこと。いいな』
 『解りました』
 『スダヌス浜頭、よろしく頼みます』
 『おう、了解!』
 オキテスが艇首に戻っていく、スダヌスは、ゴッカス、グッダスの二人とうなずき合い、操舵棒を握る、艇首のかなたにイラクリオンの浜を視野に入れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1144

2017-10-19 06:22:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『はい!考えます』
 二人は会話を中断して思考に集中する。艇は、好みの走行状態で波を割っている、身をゆだねる、時が進む、テムノスが声をかける。
 『スダヌス、何事か考えついたか?考える課題と言ってもむずかしく考えるな。我々がやっている集散所の日常の関連事だ!』
 『解りました』
 少々の間である、会話が途切れる。
 艇が揺れる、果てしない空、波打つ海洋、景色を眺める。
 いま、身を投じている課題の思考に集中している。テムノスは、エドモン浜頭と話し合う論点を懸命に考えた。
 『おい!スダヌス、話し合うべき課題が決まった!話し合い開始だ』
 『いいでしょう。始めましょう。私の提案を聞いてくれますか』
 艇にゆられながら身構えるスダヌス。
 『おう、いいぞ、話してみろ!』
 『今、そして、これからクレタ島で船舶を取り扱う主役は、大船は別として、中小の船を扱うのは、集散所であるのではないかと考えられます』
 『おう、然りだな、言えている』
 『その集散所が海の近くに立地していることが、この種の取引に有利だと考えられます。そして、考えられることは、この種の取引経験がある集散所が有利に取引を展開させることができる。それ故に、この種の客が集まりやすい集散所立地が好ましいと考えられます』
 『おう、お前、いいところを突いている。船舶のような大型商品を取り扱う場合、そのような取引になれていることが取引環境がいいといえる』
 『言われる通りです』
 『そのように考えた場合、お前や俺のように海事関係の仕事で生きている者にとっては、キドニアまたはマリアの集散所を介することが好都合であるな』
 『言えています』
 『このクレタ島にある5つの集散所を総括しているとはいえクノッソスの集散所は、海から遠いとは思わないが近くではない。ほかにザクロス、フエストスと集散所があるが、集客といった観点から見て評価すると好適な立地の集散所とは言えない』 
 『そうですね!』
 『クノッソスの集散所は、総合した取引のスケールが大きいとは言うものの中小船舶を取引するには好適とは考えられない。お前はどのように考える?』
 『テムノス浜頭の言われる通りです。両手ばなしでうなずけます』
 『次だ。船舶の取引は、今後どんな風に展開していくと考えられる?』
 テムノスは、新たに課題を投げてきた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1143

2017-10-18 06:46:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスがテムノスに声をかける。
 『テムノス浜頭、あれですな、風景を見て到達地点を知り、行程とそこに到った所要時間を考えると、この艇はかなり速い速度で航走しています』
 『ほう、そうか。速いことは体感で分かってはいるが、どれくらいかについては定かではない。スダヌス、計ってくれているのか。それはありがたい』
 『レテムノンの港を出てから、今、イラクリオンへの中間地点あたりを過ぎようとしています。通常の船足なら二刻弱かかるところですが、一刻半弱くらいで通過しようとしています』
 『おう、それだったら、少々速いと言えるな』
 『艇首といいますか、船首の衝角構造で波割りの様子が少々変わっているという感じです』
 『波割りの様子が違う?!お前、聴き捨てならんことを言うな。衝角構造で波割りに変化を生じている?考えられない。航走行程と目標地点に到達する所要時間、これは動かしがたい結果だからな』
 『そうですね』
 試作戦闘艇は、艇に設けた衝角構造が、艇の重量、乗員の重量、そして、喫水の関係で、現代の各種船舶に採用されている『バルバス バウ』的効果を醸し出していたのではないかと推考される。
 『バルバス バウ』は、1900年代初頭に案出された喫水以下に位置する船首の構造である。
 『なあ~、スダヌス、このあたりからレガリアの岬あたりまでの沿岸の景色だが、変化がないな』
 『そうですな。人が棲んでいないと景色が変わらんですね』
 二人はうなずき合う、会話が止まる、風景を見ながら、テムノスは脳漿をしぼっている、彼が声をかけてきた。
 『スダヌス、次の論点について話し合おう』
 『はい、始めてください』
 『今、我々が乗っているこの船だが、売り物としての市場性はどのようなものだと考える?余談だが、こうして船の舵を操りながら、お前と話し合う、久しぶりだな』
 『そうです、振り返ると若かりし頃のことです』
 『こうして、舵を取りながらいると、この大きさの船としては乗り心地のいい船だな』
 『今日の浜頭、いつもの浜頭とは、少々雰囲気が違います。話される言葉、一語一語が冴えています!』
 『ほう、そうか』
 『語られる言葉が核心をついて、鋭い!振り返ると、あのころから時間が経ちました、世の中も変わりました』
 『おい!昔を懐かしんでいるな。次の論点の意見交換をやる』
 『ハイハイ、あの頃も船上で討論をやりました。テムノス浜頭は私の大親分です。今も変わりませんが』
 『次の討議の議題は、クレタにおける船舶の市場がどのように変わっていくかだ。それによって、この二艇が船を使用する者らに受け入れられるかを考えろ!』