『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  26

2011-02-28 08:14:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンは続けて言った。
 『パリヌルス、この船を俺に売れ』
 『これは売れない。しかし、次の交易までに新しい船を造ってやる。それを売る』
 『よしっ!それでいい。何艘造る』
 『そんなに数がいるのか』
 『2艘』
 テカリオンは、ここで首を傾げて、続けて言った。
 『いや、3艘造れ。それを買う』
 『判った。こちらの船大工のこともある、それ以上は無理だ』
 パリヌルスは、新しいビジネスチャンスをものにした。彼はこの分野に、このようなビジネスがあるとは気がついてはいなかった。かすかなつながりの旧友から貰い受けたビジネスであった。
 パリヌルスは舟艇に交易船の乗組員を乗せて投錨地点に誘導したうえで乗員を浜へ運ぶように部下に指示した。
 テカリオンたちを浜に迎えて昼食の場を設ける、その準備が整いつつあった。浜焼きバーベキュースタイルの昼食である。イリオネスたちからギアスまでの6人、それに準備した者たちも加わって16人、テカリオンたちも姿を見せた。
 パリヌルスは、イリオネス、オロンテス、オキテスを波打ち際に誘い、小声で舟艇の建造の話をした。彼らは無言で肯いていた。
 パリヌルスは、この仕事のゴーサインを確信した。

第3章  踏み出す  25

2011-02-25 10:44:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが視野の左の端に船影を認めたのは回廊に登って小一時間後のことであった。
 彼は急ぐこともなく従者数人をひきつれて、砦の浜の波打ち際に立った。彼は遠くの船を見つめながら、そのときを待った。
 船影が大きくなってくる、パリヌルスは、例の舟艇に乗って、洋上で彼らを迎えた。テカリオンは舟艇に乗り移るやパリヌルスの肩を抱く、パリヌルスもそれに答えて、テカリオンの肩を抱き、旧交のよしみを一瞬に復活させた。
 互いに見つめあい、健勝を確かめた後、数人を交易船に残し、五人の乗組員を乗せて浜を目指した。パリヌルスは、乗組員の二人に水深の説明をした。その当たりは浜から100メートルあたりの地点であり、操船の注意点を説明して、投錨地点を示した。
 『おっ!この船、なかなか便利そうでいい船だな。船足も速いではないか』
 テカリオンの話にうなづきながら、船の中ほどにある帆柱のもとに設けてある着脱式のキールボードを引き抜いて、そのまま浜に乗り上げ、乗っている者たちを降ろした。一連の作業をテカリオンは感じ入った風情で眺めていた。
 『パリヌルス、船尾の三角帆もだが、この大きさで浜に乗りつける、着脱式のキールボードとなかなかの細工が施されている。気に入ったぜ、パリヌルス、いやあ~、この船は全く持っていい船だ』
 彼は見ほれていた。

第3章  踏み出す  24

2011-02-24 07:29:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが始めて足を踏み入れる原野であった。歩を進める原野のなかに道がある。といってもそれは道なき道である。原野に住む小獣たちが歩んだ道である。彼らは、そのような道を探し、たどり、歩いていった。
 歩き始めて小一時間、ユールスが音を上げた。ユールスの背丈を超える草丈、草とすれて出来た傷が生々しく痛々しかった。目には涙がにじんでいるが泣きはしなかった。
 アエネアスは、改めて、父として我が子を眺めた。彼は父として情愛の関所をどこに設けようかと一瞬躊躇した。
 『ユールス、どうだ、歩き続けることができそうか』 彼はユールスの目をみた。彼の目は『ノー』を訴えていた。
 『皆、どうだ、ここいらで朝めしといこう。小休止だ』 休憩をとることにした。
 アエネアスは、従者の中で屈強な若者を選んで、ユールスを背負ってくれるよう頼んだ。一行は用意周到でもあった。従者の中の一人が草つるで編み上げた背負い袋を用意していたことである。この背負い袋は猟をして、獣を入れて担ぐために用意してきていたのである。
 朝飯を終えた彼らは、いっときの休憩の後、太陽の位置を仰ぎ見て、時の進み具合を確かめて歩き始めた。彼らは砦の方角を振り返って見た。砦は豆粒のように小さく見とめられた。

第3章  踏み出す  23

2011-02-23 08:18:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが声をあげた。
 『イリオネス、素晴らしい!君の話の進め方は素晴らしい。この話の段取りで相手と渡り合おう。それで明日の昼前は交易の話の詰めをやって、つぎは、交易品の品々を見せる。昼めしのあとは船に積み込みという段取りでどうだ』
 『おおっ!それでいい、それで決まりだ』 とイリオネス。
 『それからだが、価格の交渉はイリオネス、貴方に一任だ。オロンテス、お前はイリオネスの価格の交渉を助けるのだ。いいな。少しでも価格の高くなる交渉を助けるのだ。相手は海千、山千の交易商人だ、足元を見られたら、トコトンやられるぞ、覚悟して当たるのだ。いいか』
 『判った。忠告をしかっと受け止めた』
 オロンテスは、胸を『ドン』と叩いて覚悟の程を示した。このあとパリヌルスとオロンテスは、交易品の品目と量、次回の交易のことに及んでの計画をたてて、四人で話し合っておいた。
 イリオネスは、これで交易についてのことは成ったと実感していた。
 話を終えた四人は、各持ち場に戻った。
 パリヌルスは南面の回廊に登りエーゲ海を眺めた。
 今日の海の眺めも、航海日和りの風が渡り、波打っていた。

第3章  踏み出す  22

2011-02-22 08:33:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、君はどう思う。彼らが交易の件で、この浜に来るのは、つぎはいつ頃だと思う』
 『そうだな次に来るのは、一ヵ月後か、はたまた、二ヵ月後くらいだろう』
 『俺は考えるのだが、交易の日日ち的なスケジュールと交易品目とその量だと思う。この計画を綿密にたてて事を処理していかないとしくじるぞ』
 イリオネスは、二人の言っていることをうけて指示を出した。
 『判った、これについては両人、小一時間ぐらいで大まかでいいから案を頼む。アーモンドについては大体判っている、戦利品の類についても判っている。問題は麦のことだ収量と処理について、どのように事を運ぶかだ。こちらの意図が知られては困るから、充分に注意して時間運びをやろうではないか』
 両人は了解した。イリオネスが訊ねた。
 『交易船の船主は何んと言ったかな。名前だ。パリヌルス』
 『テカリオンです。レスボス島の商人です』
 『パリヌルスは、船主と知人の間柄のようだが、あとの三人は初対面だ。まず、相手と心と心の橋がけから始めよう。我々が相手から手にするのは情報なのだ。うまく話を進めるように気を配ろう。間を上手にとって、オキテス、君の出番だ。そして、夕食と行こう、夕食には酒を酌み交わして、パリヌルス、旧交を温めて話を進めるというのはどうだ。話を進める段取りはこれでどうだ。俺は、挨拶のあとは聞き役に徹する。よろしく頼むぞ』

第3章  踏み出す  21

2011-02-21 08:04:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 北部エーゲ海の空はみごとに晴れて、深く、澄み、青く高かった。
 空を駆ける太陽の速度が真夏の頃に比べると速くなってきている、東に姿を見せた太陽の昇る速さ、そして、一日を終えての太陽の沈み行く早さに感じられた。
 アエネアスは、ユールスと3人の従者の5人で砦の東方に広がっている原野を目指して砦をあとにした。
 歩を進める足は、朝露にぬれた。彼ら5人の出発は、日の出直前の早朝であった。歩速をユールスに同調させていた。5人は、黙して進んだ。
 砦ではいつもと変わらない朝が始まっていた。
 朝食を終えたイリオネスは、昨日の会議のメンバーを招集して打ち合わせを終えたあと、イリオネス、パリヌルス、オキテス、オロンテスの四人を残して、アレテス、ギアス、アカテスの三人は担当の持ち場へと腰を上げた。
 残った四人は、今日のスケジュールを打ち合わせた。
 『パリヌルス、交易船が浜につくのは、いつ頃だな』
 『そうだな。昼めし時の少し前頃ではなかろうかと思っている。あいつらも足元のグラつかないところで、めしを食べたかろう』
 『判った。先ず昼食だ。全体で談話のあと、交易の話といこう、この四人で話を進める。商談はアーモンドのことから始めようと思うが君らの思いはどうだ』
 『いいだろう』
 オロンテスが口を開いた。

第3章  踏み出す  20

2011-02-18 07:52:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、次の課題について考えた。
 この課題も心に重くのしかかった。どのようにしたらいいものかと、行きつ戻りつして考えた。それは砦の者たちのことであり、エノスの浜の者たちのことであった。彼の心は大きくうねった。
 トロイからこの地に着いたアエネアスたちをあたたかく温度を保って迎え入れてくれたトリタス、浜衆と集落の者たちに、どのように今度の予定している事態を伝えようかと考えた。建設した砦のこと、この地一帯を統治している領主に対しても、どのように対応しようかと気をもんだ。
 そのときまでには、まだ時間がある。彼は結論を急がないことにした。いずれ皆に諮らなければいけないことである。このことを頭の一隅においておくことにした。
 ゴーサインは出した。彼の思いと行動を逡巡させる何事もなかった。明日に予定している交易船の船主との会合には臨席せず、その一切をイリオネスと担当者たちに任せて、彼は3日くらいの予定でユールスを連れて、原野の中に野ウサギ等の小獣を追う旅に出ることにした。

第3章  踏み出す  19

2011-02-17 07:55:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、目線で連帯をつなぎあっていた。
 『では、担当と役務について話す。先ほども言ったように、イリオネスが総責任者として、長を務めていく、何かあるときは彼に指示を仰いでくれたまえ。パリヌルスに頼みたいのは、アフリカの北部を含めて地中海の西部一帯の海と陸地についての調査に当たってもらいたい。特にエスペリアといわれているところについて、伝聞によってでよろしいから探ってもらいたい。よろしく頼む。次は、オキテス、君はイリオネスと組んで、落城後のトロイの情況、そして、トロイを去ったギリシアの主だった者どもの消息、そのうえで現在のクレタ島の情況を調べてほしい。オロンテスは、イリオネス、パリヌルスに相談の上、収穫した畑作物、アーモンド、そして、これまでに集めた戦利品の一切を交易に出し、財貨に換える段取りを頼みたい。アレテス、ギアス、二人には、軍団の戦闘力の向上について担当してもらう。アカテス、お前はだな、俺の父アンキセスと話が合う。父の建国に関する思いを茶飲み話で探ってもらいたい。これについては、俺に相談してくれ。俺の指示だと気づかれたらまずいから気づかれないようにやってくれ。一同、判ったな。頼むぞ』
 言い終えて、アエネアスはイリオネスに向かって話した。
 『ところで、イリオネス、担当と役務については、今、言ったとおりだ。適切な指示でこの仕事を遂行してほしい。以上だ。会議はこれで終わろう。一同に会議の終わりを伝えてくれ。そのうえで、いま、ここで打ち合わせたことは、極秘扱いとして、他へもらさないように一同に念を押しておいてもらいたい。下手にもれると混乱を招く、このこと、しっかりと取り締まってほしい』
 イリオネスは、会議の終了を皆に伝えた。

第3章  踏み出す  18

2011-02-16 07:22:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 広間に一歩を踏み入れた。
 全員が起立してアエネアスを迎えた。彼らから拍手が起きた。
 『お分かりいただけますか、一同の気持ちが。一同の気持ちが一つになっています。この地、トラキアから旅発ちましょう』
 イリオネスが感動に震えながら、アエネアスに伝えた。事は決した。
 『諸君っ!ありがとう』
 アエネアスは感動の言葉を返した。
 『早速だが、調査の工程と担当を決めようと思うのだが、一同の都合はどうだ』
 『よろしいです。皆の胸のうちは統領からの指示をまっています』
 『パリヌルス、聞きたい。交易の船が来るのは?そして、船主は誰かわかるのか』
 『交易船が浜に着くのは明日です。船主であり荷主は、テカリオンと言う、レスボス島の商人です』
 『判った。ところでアレテス、アカテスはどうしている。身体の具合は、もう、もとのアカテスに回復しているか』
 『アカテスは、もう、元気になっています。ちょっと時間がかかりましたが、もう安心です』
 『よし判った。アカテスもここに呼んでくれ。あいつは、我が家の羅針盤みたいな存在なのだ。父アンキセスと話が合う』
 アカテスがメンバーに加わった。アエネアスは、事の次第を要領よく説明して、彼を席につかせた。
 アエネアスは、始計第一で事を進めた。算を多くすることで失敗を少なくする、この信念で作業を進めた。
 『では、諸君、聞いてくれ。イリオネスが、この役務の中心になって作業を進める。よろしく頼む。諸君たちは、イリオネスの指示に基づいて作業を進めてほしい。続いて、各自の担当役務を申し渡す。何時、何が起きてもいいように知り得た情報をここにいる誰もが共有していてくれるように、俺は望んでいる、宜しく頼む』

第3章  踏み出す  17

2011-02-15 08:07:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、わかりました』
 イリオネスは短く答えた。
 『イリオネス、お前なら俺の考えを理解してくれると思っている。俺がいては一同の中に話しにくい者もいると思う、俺はしばらく座をはずす。おまえたち、遠慮なく話し合ってくれ。ではな』
 アエネアスは、広間を出て回廊に登った。彼の気持ちはすがすがしかった。今日も天気は晴朗である、乾いた空気、吹きすぎていく風は心地よい、遠くに広がりを見せるエーゲ海を見渡した。彼は何となく感じる不思議さに気づいていた。話していたのは己であるのに自分ではないような気がしていた。『事が成る』のに不思議な一面があることに気がついた一瞬でもあった。
 『往こう!』 霞んで見える『エーゲ海の向こうに俺の建てる国がある』 彼は、この思いを強くした。決断するまでは重かった。決断してしまえば重くはない、心の中に抱いていた未来の恐怖は消えうせていた。
 回廊にイリオネスが姿を見せた。
 『あっ!統領、こちらにおいででしたか。一同の議論が出尽くしました。おいでください。皆がまっています』
 二人は、歩を広間に向けた。