『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1000

2017-03-31 08:18:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスら三人の打ち合わせが終わる、オロンテスはアレテスのキドニア行き昼便で集散所へ向かう、パリヌルスとオキテスはドックスに声をかけて建造の場へと向かった。
 三人の話し合いは、試作艇の舵の件に集中した。
 『昼めしを食べながら、この件について話し合う。必ず、パリヌルスからいい知恵が出てくる。ドックス、方向が決まったら、即、取り掛かってくれ』
 『解りました』
 『ドックス、段取りは、装備の造作が出来上がったら、直ちに試走する、いいな。明日、完全仕上げだ。俺の考えでは、舷に装備するも艇尾に装備するも造作、作業はさして変わりないと考えている』
 『艇の舷に装備する櫂舵をそのまま艇尾に装備しても、その形態は、取り付け個所を変えただけで何の意味もない。それは合理的とは言えない。水流に対して斜めにしか作動しなければ、操舵効果を発揮せず、取り付け場所を艇尾にしただけになる。装備する以上、よく考えてその仕事をするということだ』
 『そうか、言われてみればうなずける。パリヌルス、いい装備を考えてくれ。頼む、この通りだ』
 オキテスは、パリヌルスに頭を下げた。
 『心得た。任せておけ』
 パリヌルスは、右手に木炭、膝の上に木板、左手に昼めしのパンをもって口へ運ぶ、咀嚼に口を動かす、その律動が思考のリズムである、脳をしぼる、考え浮かぶ知恵を滴らせた。
 艇の進行先をつかさどる舵の働きを考える、艇が進む、舵構造は水中の水の流れに対応している、水中で水を切っている、操舵する、その抵抗が艇を目指す方向に進ませる。舵構造は、水の流れにまっすぐに対峙する、操舵が構造に意思を伝える、舵の水切り構造が働く、艇が操舵によって目指す方向に進む。
 パリヌルスの頭は、思考の理路を歩んで頭中より答えを引き出した。彼は声を上げる。
 『おう、ドックス、舵のカタチができた。ヒナ型を造る。構造図はこれだ』と言って木板の1枚をドックスに手渡した。
 彼はオキテスに声をかける、2枚目の木板をオキテスに見せる、ドックスにも声をかけてその木板をみせる。
 2枚目の木板には、海上に浮かぶ戦闘艇の艇尾を横から見た図が描かれていた。
 『これが舵の操舵担当が操作する腕木だ。これを動かせば、海中の水切り板が動いて水を切る。艇はいく先を決めて進むということだ。解るな』
 『うっう~ん、解る』とオキテス。
 『よくわかります。理屈も納得です』とドックスが答えた。
 『ドックス、とりあえずヒナ型を造って舵構造のイメージをつかめ。舵構造の概略について、これから説明をする』
 ドックスは、2枚の木板に描かれた舵構造の図をまじまじと見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  999

2017-03-30 07:31:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、レテムノンへの新艇納入航海について、統領と軍団長にその旨をこの場において通達することを伝え、場の一同に説明した。
 『では、一同に説明する。新艇の納入は、注文主の要望を受けてレテムノン港において、新艇の引き渡しを行う。新艇納入航海の出航日時は、アエネアス統領暦、7月14日、陽の出に出航する。目指す行先は、半島岬の南東に位置するレテムノン港である。新艇は自走、伴走艇には試作艇を使用する。この業務の遂行に就く人員は38名を予定している。航海途中において、スダヌス浜頭が案内役として合流する。この業務の責任担当はオキテス隊長である。試作艇の艇長はギアス艇長が担当する。なお、新艇および試作艇の漕ぎかたの人選はギアス艇長に一任する。以上である。質問があれば聞いてくれ』
 ギアスが質問に立ちあがる。
 『パリヌルス隊長、質問です。7月14日に出航して、新艇の納入を終えて帰着予定は?』
 『納入航海の日程は、3日間である。航海途上に天候等の異変がないものとしての日程である。天候の異変、風待ち等、そのような事態発生の折には、その限りでない』
 『了解しました』
 パリヌルスはオロンテスに話しかけた。
 『オロンテス隊長、この航海日程3日間の食糧計画と食糧の準備をオキテス隊長と話し合って、よろしく願います』
 『了解。航海する人員は、大体40人ということで、いいのかな?』
 『それでいいと考えているが、オキテス隊長と打ち合わせていただきたい』
 パリヌルスは、軍団長のほうへ体を向ける。
 『軍団長、ギアス艇長に下命のほどよろしく願います』
 『おう、解った』
 命令伝達の準備が整う。
 『軍団長、お願いします』
 イリオネスが立ちあがる、パリヌルスの声が飛ぶ。
 『ギアス艇長、前へ!これより命令の伝達を行う』
 イリオネスの前に間をおいてギアスが立つ、二人は目を合わせる。
 『ギアス艇長、このたび、オキテス隊長に従って遂行する新艇納入航海の伴走艇の艇長の任務を命じる』
 『はい!了解しました。オキテス隊長に従って業務の遂行に努めます』
 『ギアス、頼むぞ!』
 イリオネスがギアスの手を握る、オキテスがギアスと握手を交わす、場に拍手が沸いた。
 パリヌルスが一同に声をかける。
 『今、一度、一同に聞く!質問はないな?』
 場の者たちと目を合わせるパリヌルス。
 『おう、俺にはない』と答えるオキテス。
 『はい!ありません』とギアス。
 『では、これにて会議を終える。一同、ご苦労であった』
 パリヌルスがオロンテスに声をかける。
 『オロンテス、もうそろそろかな。アレテスの昼便は?』
 『おう、そうだな。今日、集散所と新艇納入に関して詳しいことを打ち合わせてくる』
 オキテスが二人の傍らに立つ。
 『オロンテス、集散所との打ち合わせよろしく頼む。また、航海中の食糧の件よろしく頼む』
 『おう、心得た。頼み事はそれだけだな、任せておけ!』
 『その件、よろしく頼む』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  998

2017-03-29 07:48:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスが戦闘艇の試作艇に講じた2つの工作及びパリヌルスの衝角構造の形状の効果は、新しい意図をもって建造する戦闘艇を奇しくも科学的根拠不明のままの画期的な船としていた。
 戦闘艇は、風力効果の向上を目指した帆面積の拡大と風ハラミをよくした縫製工作、鋭角的な形状のレッジバウではなく船首に起きる波の抵抗を減殺するバルバスバウ的効果の衝角構造、船体後方の渦の発生を少なくする衝角構造体の末尾の流線形状工作で風力および漕力をもって航走する性能の向上した船として出来あがっていた。
 打ち合わせ会議は続く、パリヌルスは、一同と目を合わせる。
 試作艇に試乗しての感想、講評は出尽くした感じが場に漂っている、そのように感じたパリヌルスは場を見回して口を開いた。
 『試作艇の試乗感については、天候および海上の状況、条件におけるものであって、多様な条件下における感想並びに講評は、レテムノンへの新艇納入航海を終えてのち、改めて、話し合いの場を設けようと考えている。次は、この戦闘艇のこの部位の構造をこのようにしたらということについて一同の意見を聞きたい』と言って場を見渡し話を続ける。
 『ここをこのようにしたらとか、思いついたことがあれば言ってほしい』と言って、場の者たちと目を合わせた。
 オキテスの手が上がる。
 『おう、オキテス隊長!』
 オキテスが立ちあがる。
 『昨日の試作艇の航走で俺が感じたことを率直に言うとだな、艇尾の櫂舵は、両舷に設ける必要がないと考えられる。櫂舵の水切り部を大きくして左舷もしくは右舷の1座であればいいと考える。俺の考えとしては艇尾の中央に舵座を設ければいいのではないかと船を考えるときに考えている。この際に船尾中央に舵座1座の船を造ってみたいと思っている。また、この際だ、この試作艇でやってみたいとも考えている。これは実験であり、これからの船はそのようになると考えられることであろうと思っている』
 『おう、それは大胆であり、すごい発想だな。今日の午後、それについて考えてみようではないか。とりあえず、試作艇の櫂舵1座の方法を講じる、これは決定とする、ドックス船棟梁、即、取り掛かってほしい』
 『了解しました』
 ドックスが返事を返す。
 パリヌルスが頃合いを知るために太陽の位置の高さと方角を見て確かめる、会議続行の時間的余裕を測った。
 『ほかに意見はないか』と場を見渡す。
 『統領、軍団長、いかがですか?』
 アエネアスがイリオネスと目を合わせる。
 『おう、パリヌルス、今の俺には、これといった意見はない。軍団長、どうだ?』
 『私ですか、私も統領と同様、今はありません。パリヌルス、次の議題に進んでくれ』
 『解りました。では、次の議題へ進む。議題は、レテムノンへの新艇納入航海について、一同に説明する』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  997

2017-03-28 06:48:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、オキテスならではの船というものに関する感性を持っている。
 『まあ~、そうだろうな。昨日の試乗コースの海上状況と違う海上状態状況にさらされることになる』
 
 彼らが活躍している時代は、紀元前1000年の頃である。現代において古代と言われるこの時代における船とはである。
 人類が考えた水のあるところの移動手段に使用するものであり、必要的、経験的な経験則に基づいて、考え造られてきた大道具である。
 この時代においては、船なるものの科学的解析がなされているわけでなく、造船に関する船舶工学が存在しているわけでもない。船が必要であり、経験的に建造され、想像的、欲望的な則に基づいて船造りがされていたであろうと推察される。
 この時代、エーゲ海を航行していた船を見てみよう。ギリシア連合軍がトロイ攻略に使用した軍船、この軍船は兵士と漕ぎかた合わせて70人から90人くらいと100人近い人員が乗船が可能であり、船首には衝角構造を施した大きな横帆1枚を張って帆走し、漕ぎかたの漕ぎで漕走で航行する大船であった。彼らは、海上で遭遇する敵船との交戦を展開するについて船上の者らが弓で矢を飛ばす、相手船に乗り移って干戈を交える、相手船に自船を衝突させて破砕するといった戦法で交戦したのである。また、植民思考の強いギリシア人が渡海するに使用した中型の船舶、沿岸諸国との交易に使用した交易船、中型、小型の船で多島海域で航行する船を襲い、島々を荒らしまわった海賊船、漁民が漁に使用する小型の船等であった。
 軍船が船首に施した交戦のための衝角構造は、その波割り形態が似ているとはいうものの形態的に現代の造船思考のバルバスバウ的な思考は皆無であった。

 パリヌルスらが考えた戦闘艇は、最大乗船人員が38~40人くらいである小型船である。パリヌルスが考えたカタチの衝角構造は、そのカタチの先端が尖っているとはいうものの奇しくもバルバスバウに似た海上交戦に役立てる衝角構造であった。その衝角構造は、試作艇の水面下に位置する船首の下部に設けられ、航走時の波割りに効果していた。艇上の者たちが体感した波割りである。現代の船舶に採用されているバルバスバウ的効果を航走する試作艇はかもしだしていたのである。
 試作艇が航走するときの航跡の泡立ち状態については、ドックスは、経験的に知っていたらしい。衝角構造体の断面の面積がヘルメス艇の走行安定性に設けた船の海面上の横滑り防止体の断面面積の4倍の大きさなのである。そこでドックスは考えた。
 『お~お、これではいかん。少々工作しなければーーー』と考えた結果の工作である。
 『艇が航走する。艇尾の泡立ちが気になる、構造体の側面、水と接している側面に手を加える』であった。
 『俺がやったあの時の船造りに施した、あのカタチに仕上げる』
 彼は決断した。
 戦闘艇の艇尾にあたる衝角構造体の末尾部を許される範囲で流線形形状に削り工作した。
 試作艇の試走、試乗において、その工作効果を確認した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  996

2017-03-27 08:41:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
ギアスが話し続ける。
 『私の経験上での話ですが、帆張りして航走する船で言えること事は、風が強くなり船速が速くなった場合において、櫂舵を操作しての走行方向の制御が不可能といった現象が起きます。そのような状態になったときの安心性が向上しているのではないかと想像されます。操船を責任担当している者は船上にいる者たちの生命を預かって操船しています。そう言う意味において、試作艇は安心性が高くなっている船と言えます』
 『ほっほう、ギアス、海上ではそのような現象が起きるのか、お前の言うことにうなずける』
 アエネアスは、イリオネスと目を合わせてうなずき合っている。他の者たちもギアスの話に聞き入っていた。
 パリヌルスが話しかける。
 『いま、ギアスの言ったことについて質問はないかな?』と、一同に向かって質した。
 漕ぎかたの二人は、ギアス艇長の言う通りだと相槌をうっている。
 パリヌルスは、話を進めていく。
 『では、私からのつぎの問いだが、ギアス艇長、波割り航走状態の体感は、どのように感じたかを話してくれ』
 ギアスが立ちあがり、この質問について話した。
 『波割りは、ヘルメス艇に比べて少々違て感じられます。どのように違って感じるのかと聞かれても、ちょっと説明しにくいのですが、衝角構造が施されている関係ではないかと考えられます。艇が波を割って進む折のしぶきの飛び方に違いがみられます。艇が進むとき海面を割って進みます。波割る時の抵抗に対しては、舳先の構造を鋭くとがらせれば、それだけで海面を割りやすいと考えられますが、水面下の衝角構造の波割りに注目しました。艇が海面を押すときに発生する波を減殺して、舳先の先の造波抵抗に対応してなめらかといった感じで波を割って進んでいました。それに加えてヘルメス艇との航走感が違うのは、航跡の引き方の違いも関係があるのかなと感じました。どう言えばいいかわかりませんが、艇尾が引く航跡の泡立ちが違っているように思います。艇の進み方、走行感がヘルメス艇とは違って感じられました。私が体感したのは以上です』
 これを聞いたオキテスが口を開く。
 『ギアス艇長、お前の感性はすごいの一語だ!よくぞ、そこまで試乗で感じ取ってくれた、俺は感じ入っている。お前の言ったことの全てにうなずける。席を同じくしている一同は、どのように感じられたかだ?』と一同に問いかけた。
 イリオネスが話し始める。
 『そうだな、ギアスの言ったことにうなずける。試乗時の海上状況と違う風向、風力状態では波高、波長が違う、そのような海上状況下における、試作艇の航走状態を知りたいものだ。オキテス、そのあたりに気を配って納入航海に行って来てくれ』
 イリオネスの言葉である、
 これを聞いたオキテスは、レテムノン行きの試作艇はーーーと考えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  995

2017-03-24 08:21:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『はい、解りました』と答えるギアスは、連れてきていた漕ぎかたの二人に試乗感を述べるように促した。
 漕ぎかたの二人が話し始める。
 『私は、毎日、ヘルメス艇を漕いでいます。昨日、漕いだ試作艇は、重くなった艇の重さに対応して、ヘルメス艇の20の漕ぎ座に比べて4座も増えております。漕ぐ力は、ヘルメス艇とほとんど変わりません。しかし、出走する、波を割り始める、うまくは言えませんが、出走時に漕ぐ力がいるかなという感じです』
 漕ぎかたの二人が目を合わせて話した。
 『試作艇の造艇についての工作はドックス船棟梁より聞いたとおりであり、また、いま、我々が使用している船は、帆を張って航走する帆走、漕ぎかたの櫂操作で漕いで航走する漕走、その二方法による航走に関する操船する側の事情について聞いてもらった。これから、一同の試乗しての体感について話してもらいたい。これについては、私の方から一同に問いかける』
 パリヌルスが述べて、一同と目を合わせた。
 『試作艇の航走中における、タテユレ、ヨコユレについて話してもらいたい』
 オロンテスが手を上げて、起ちあがり話し始めた。
 『昨日の試走時における風波の状態において感じたことは、ヘルメス艇とは、艇体の構造、いわゆる、海面と接する船底の構造に違いが感じられた。私は毎日ヘルメス艇に乗ってキドニアを往復しているが、タテユレ、ヨコユレが少々小さくなっていると感じられる。また、海上における横方向にスベルといった感じも抑えられて走行安定性が向上していると感じられる。操船担当のギアス、漕ぎかたの感じた試乗感はどうであったかを聞きたい』
 『オロンテス隊長の言う通り、彼もそうであるが、ギアス艇長、漕ぎかたの連中は、他の出席者たちに比べて、海上で過ごしている時間の長さが我々とは格段に違う。ギアス艇長、漕ぎかたの試乗感を述べてくれ』
 ギアスが立ちあがる、話し始める。
 『私の役務上、海上で過ごす時間は、オロンテス隊長、パリヌルス隊長の言われる通り、出席されている一同に比べて長い時間を海上で過ごしています。パリヌルス隊長の問いかけについて話します。試作艇は、艇の構造、それによる艇の重さの違いによってヘルメス艇に比べて、航走の安定性が向上していることは間違いないといえます。艇体の深さも深くなり、喫水もそれに準じて深くなっています。浮力に対する艇の重心も深いところにあるのではないかと感じられます。艇の構造が海上に浮かぶ浮体物としての安定した構造条件となっていると感じられます。ヘルメス艇に比べて安心した操船ができると感じています』
 ギアスは、このように述べて一息をつき場を見渡した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  994

2017-03-23 08:30:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同の顔がそろう、席に着く、イリオネスの目線が鋭い、一同と顔を合わせる、そして、口を開いた。
 『おう、諸君!おはよう、いい朝である。昨日は、ご苦労であった。今日ここに顔をそろえた一同で戦闘艇の試作艇の試乗に関する講評を話し合う。そのうえで改良点のあるやなきやを論じる。試作艇は、明後日、新艇納入航海に出航する。それから、もう一件、レテムノンへの納入航海の件についての打ち合わせをする。なお、本日の議事の進行については、パリヌルスが司会役を務める』と言って、アエネアスに声をかけた。
 『統領から何かありますか?』
 『俺からか、話したいことは議事の進行中にその件について話す。俺の試乗感は、昨日の海の状態においてだが、小艇としては申し分のない船に仕上っていると感じた。会議を始めてくれ』
 『おう、パリヌルス、会議を始めてくれ』
 パリヌルスが立ちあがる、イリオネスと目線を合わせてうなずく、おもむろに口を開いた。
 『統領、軍団長、そして、一同、昨日はご苦労でした。我々が試乗した戦闘艇の試作艇であるが、明後日から本艇2艇の建造に取りかかる。そこで試乗した試作艇であるが、オキテス隊長およびドックス船棟梁の手になる極めて完成度の高い試作艇であった。この試作艇の試乗評価をして改良点を探る。そのようなわけで一同から評価意見をいただく、よろしく願います。まず、ドックス船棟梁』と声をかけドックスと目を合わせた。
 『ドックス船棟梁、戦闘艇の基本設計に対して、その対応を考慮して、工作を施した諸点について話してもらいたい』
 ドックスがうなずいて立ち上がる。
 『はい、解りました。このたび急ぎ建造した戦闘艇の試作艇は、新艇に比べて、艇重の重い浮体構造になっています。その試作艇を航走させるには、新艇を航走させる力より大きな力が必要です。戦闘艇は帆船です。自然力である風力を帆にはらんで海上を航走します。第一に考えたことは、帆の風ハラミを新艇の2割かた多くならないかと考えました。帆の面の大きさを2割かた大きくし、帆の風ハラミ量を少々ですが多くなるように縫製加工しました。また、戦闘艇の付加工作である衝角構造体の衝角構造はパリヌルス隊長の造形ですが、艇尾部分にあたる、その構造体の末尾形状をできるだけ曳き波の造波抵抗を減らすように形状工作をしました。以上が私が考えたうえで工作しました』
 一同はドックスの工作対処を聞きとめた。
 『ギアス艇長、櫂を操作して漕走したときの漕ぎの体感がどのようであったか、漕ぎかたの二人に櫂で漕いだ時の感じについて述べさせてくれ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  993

2017-03-22 08:25:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス、明日のことだが、今、試乗した試作艇の試乗感について話し合う、出席かたを頼む。それから、レテムノン行きについても最終打ち合わせをしておきたい』
 『了解。午前中に終わるようにしてほしい。集散所とも打ち合わせをしたい。明日は、アレテスの昼便でキドニアに向かう』
 『そうしてくれるか、それは、ありがたい。よろしく頼む』
 オキテスは、ギアスに話しかけている。
 『ギアス、明日の午前中のことだが、試作艇の試乗感について話し合う。それと同時にレテムノン行きについての打ち合わせもやる。お前と漕ぎかた二人くらいを連れて出席してほしい。明日のキドニア行きの朝便は代わりの者に行かせて、お前ら三人は打ち合わせ会議に出席してくれ』
 『解りました。言われたように漕ぎかた二人を連れて出席します』
 パリヌルスとオキテスは、彼らに用件を伝えてうなずき合った。
 二人は、アエネアスとイリオネスに明日午前中に行う打ち合わせ会議の件を伝えた。
 『おう、その件、了解した。ところで、場所はどこでやることにしている?』
 『会議の場所は、統領の宿舎の前の広場でと考えています』とオキテスが告げる、パリヌルスが一言を言い添える。
 『それで、オロンテス隊長の時間都合がありますので、早朝からやろうと考えています。朝食後、直ちに集合、開始ということで』
 『会議にかける議題は?』
 『はい、議題は、試作艇の試乗結果の総括とレテムノン新艇納入航海の最終打ち合わせです。それとギアスにレテムノン行きの下命を願います』
 アエネアスとイリオネスがうなずく。
 『解った!』
 オキテスは傍らにいるドックスに会議の旨を耳打ちして出席を指示した。

 ニューキドニアの浜に朝が明ける。
 オロンテスは、セレストスに今日のスケジュールを説明し、『今日の午後には私がうかがう』と集散所のハニタスへの言伝を託して、キドニア行きの朝便を送り出した。
 パリヌルスは、今日の会議の議事進行を木板に書き付けている。
 オキテスは、レテムノンへの納入航海の往路より復路についての懸念に注力して考えている。
 ドックスはというと試作艇の建造に配慮工作した二件の説明要旨を頭の中にまとめている。
 オロンテスは、納入航海の出入り三日間の食糧計画を立案していた。
 会議出席者らが集まり始める。すでに統領と軍団長が席について何をか話し合っている。ギアスと漕ぎかたの二人が顔を見せる、ほどなく一同がそろった。
 パリヌルスがイリオネスに話しかける。
 『軍団長、今日の打ち合わせ会議の司会は、私が努めたいと考えています。よろしく願います』
 『おう、そうか。それがいい』

   *昨日の投稿で変換ミスをやりました。深くお詫びいたします。
    最終行です。
   オロンテス二話しかける    を     オロンテスに話しかける
   訂正いたします。
                          山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIOVES FROM TROY   第7章  築砦  992

2017-03-21 08:29:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 試作艇が帆張りを終える、帆走にうつる、風が艇を押す、波を蹴り割る、しぶきが飛ぶ。
 『おう、いいじゃないか』
 感嘆の声が上がる、まずギアスが驚いた、次いでオキテス、パリヌルスが驚く、三人が帆を見あげた。
 ドックスが帆張りした帆をじい~っと見つめている。
 帆がヘルメスの帆に比べて大きい、そのうえ、風ハラミ効果をよくするように縫製工作されている。帆は折からの西風をはらんで航走している。
 ギアスは、強いとはいえない風の強さで航走する艇の速度を体感で感じ取った。試作艇の航走に息をのむ、いい走りだ、帆の構造効果に目のうろこがはがれて落ちた。
 ギアスもパリヌルスもオキテスも口を閉じたままでいる。三人はドックスと目をあわせてうなずき合う。
 『お~お、工作した効果はあった』と帆張り効果に満足しているドックスの表情が読みとれた。
 艇上の者たちは終始無口で試作艇の試乗を終えた。
 パリヌルスは試作艇について、細かなチエックを終えている。
 オキテスは、最大許容積載量の人員を艇上にしての効果状況を測っていた。
 ドックスは、己の智慧を駆使して工作した試みの結果をチエックし、船としての構造効果、および、その相乗性をチエックしていた。
 彼らはヘルメス艇を思考基礎の物差しとして試作艇を評価していた。
 太陽がニューキドニアの浜を茜に染めて、今日一日終えようと海に身を沈めていく、浜に降り立った一行の陽に焼けた顔に映えている。
 アエネアスが一同に声をかけた。
 『おう、諸君!ご苦労。試作艇の試乗感、君らはどのように感じたかは、また話し合う機会を持とう。ヘルメス艇と比較しての俺の感想だが、乗艇していた人員の多さも関係があるが海浪に翻弄されにくい艇に仕上っている。いい感じの航走であったといえる。艇体としての深さ構造に関しては、外洋を航走するとき、あれでいいかを十分にチエックしてほしい。これが俺の試乗感だ。いろいろと考慮した構造、工作が見受けられる。建造にかかわった者たちの叡智をうかがい知ることができる、いい船に仕上っている。造艇関係者諸君に賛辞を贈ってやまない。一同!ご苦労であった』
 アエネアスを囲む一同から拍手が起きた。彼らは、アエネアスの試乗講評メッセージに好感を抱いた。
 パリヌルスとオキテスが二言三言ささやき合っている、パリヌルスがオロンテス二話しかける、オキテスがギアスに話しかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  991

2017-03-20 08:00:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスに問いかけるオキテス、問いかけの言葉に緊張感がある。
 『ギアス!風はどの方角からきている?』
 『はい、隊長っ!風は西からきています』
 『おう、よしっ!ギアス、いつもの試乗コースだ。小島の西岸を北上して沖へだ。いいな』
 『了解っ!』
 艇の状態チエックを終えてオキテスは、統領に声をかける。
 『統領、艇を出します』
 『おうっ!』
 『ギアス、出航っ!』
 ギアスが艇上を見る、漕ぎかたの連中と目を合わせる。
 『漕ぎかた、はじめ!』
 24本の櫂が一斉に海を泡立てる、波を割り始める試作艇、小島の南端に向かう、衝角が波を割る、艇の船足走行感、船速のノリの違いが感じられる、艇の引く航跡に目を移す、艇上の誰よりも早く、どことなくヘルメス艇との違う航走を体感していた。
 試作艇は、小島の南端を過ぎて、進路を北へと転じた。
 懸命に漕ぐ漕ぎかた、彼らもヘルメス艇との違う航走を体感している、艇上の者たちは口を開かず無口でいる、ただひたすらに航走を感じ取ろうと努めている。
 試作艇は、小島の北端を過ぎる地点に到っている。風読みをするギアス、果たして、この試作艇を押すいい風が来てくれるのか、彼は望んだ。
 『いい風よ、来てくれ!』と心中で強く強く念じた。夕凪の迫っているこの頃合いである、帆張りして『風がない』では様にならない、そのような状態にならないようにと念じた。
 パリヌルスは、試作艇の構造仕様に照合してチエックしている。海上状態と試作艇の航走状態を照らし合わせてチエックしている。彼もギアス同様、頃合いと風向、風力の状況の変化を懸念していた。
 オキテスは広い海洋を見つめている、風が起こす海浪と試作艇、波を割って進む試作艇が、これだけの乗員を載せて航走する状態の把握に感性を集中させていた。
 パリヌルスもオキテスも考えたのは、波の大きさと試作艇の安全性を担保する艇構造の有無について感じ取ろうとしていた。
 ギアスは、北方向へ試作艇を走らせながら、時間的に変わろうとしている航走条件を測り、方向転換地点を探っている。
 小島の北端を通過して15スタジオン(約3キロ)地点で方向の転換を決意した。その旨をオキテスに伝える。
 『おう、いいだろう。やれ!』
 その地点に到達する、ギアスが指示をとばす。
 『操舵担当、艇を右へだ!』
 『全帆、帆を張れ!漕ぎかた、やめっ!』
 風は強くはない、だが、艇を押すに順当と判断した。