『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  60

2012-01-31 09:19:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスの練ったパン生地は、彼の発想に基づくものであった。この時代、日常口にするパンとは、パンの旨さが格段に違っていた。彼は、出来上がりに大いに満足していた。

 この時代、主食としたパンは小麦の粉と大麦の粉とを混ぜ合わせて無醗酵で生地を作って焼きあげた硬いパンであった。
 ギリシアは、パンを作る事も諸国をリードしていたらしい。この時代、まだ、醗酵技術を使ってパン生地を作り、焼きあげるパンは出来てはいなかった。とにかく、粉を練って焼く、全く原始的手法による硬いパンであった。醗酵技術でパンができるようになるのは、この時代から400~500年後の紀元前6世紀頃である。始めは醗酵にワインを使用したパンであった。尚、ハチミツが使われてパンが焼かれるようになるのは、更に100年後の事である。
 古代ローマでは、紀元前4世紀末頃になってギリシアからパン焼きの職人を連れてきてパンつくりの技術を定着させたようである。更に時代が下って、紀元前100年ごろには、ローマ市内にパン焼きがまを備えたパン屋が300軒ぐらい軒を連ねていたといわれている。

 秋の陽が南中を目指して昇っていく。浜衆、集落の者たちが総出で砦の浜に昼食会の準備を進めていた。小舟が食材を運んでくる、各所に焚き火が燃える、昼食会の準備が整えられつつあった。
 焼きあがったパンを抱えたオロンテスが浜に姿を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出 59

2012-01-30 09:17:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは焼きあがったパンを試食した。
 『う~む、ちょっと足りないかな。まあ~、いいか。これまでのパンと全然違う、旨いっ!』
 彼は、試みたことに自分ながら感心した。アンテウスと他の二人も呼び寄せて試食をさせて、三人の感想を聞いた。アンテウスは頬を紅潮させて言う。
 『棟梁っ!このパンは旨いっ!毎日食べているパンと全然旨さが違います』
 『セレストスにリュウクス、お前らはどうだ?』
 『アンテウスの言うとおりです。こんなに旨いパンは初めてです。この旨さの不思議さは何なんです。毎日口にしているパンとまったく違う旨さです。塩あんばいもちょうどいいです』
 『いつものパンと色合いもちょっぴり違うし、香ばしさがあります』
 『そうか、これで『よし』とするか。だが、パンを焼く時間のことだ。アンテウス、各かまどの火加減を充分にチエックしてくれ。焼きあがったパンの大きさからみて、パンの肉厚を調整する。焼きあげる時間が大切なのだ。アンテウス判るか、そういうことなのだ。火加減に充分、気を配ってくれ。そして、皆に一口づつ食べるようにしてやってくれ』
 オロンテスは、パンの風味を整えるために『ぶどう酒』と適量の『塩』を練りこんでパン生地を作っていたのである。また、パンを焼きあげるタイミングを考えて、パンの肉厚を考えた。作業は思いのほか順調に進むことを確認した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  58

2012-01-28 09:25:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、広場を歩き回って適切に指示をしている。スペースの整備はたちまちのうちに終わった。
 『よ~し、出来たか。三人とも班員を連れて持ち場につくのだ。今日一日、懸命に作業をやってくれ。明日の今頃は、船出のときだ。いいな』
 『判りました』
 彼らは持ち場についた。
 オロンテスは、東の空に目を運んだ。黄金色の明け茜に空を染めて朝陽が顔をのぞかせた。今日の第一射がとどく。彼は昇る大日輪を仰ぎ、何かを祈り上げた。
 作業の始まりは、オロンテス、セレストスが担当するところからであった。班員を集めて、生地造りの麦の粉の練り方をやる、次いでパンの形を作る。彼は手本を見せたうえで、号令を発した。
 『始めっ!』
 全員が作業に取り掛かった。彼は全員に向かって、作業をやるときは声を出すように指示した。
 その頃には、アンテウスの班では、パン焼きかまどに火入れを始めていた。リュウクスの部署では、パンの荷造り用のヒモ、ナワの類をチエックしていた。
 パンの第一号が焼きあがった。オロンテスがパンの焼きあがり具合をチエックした。彼は各かまどを見て廻り、パンの焼きあがり具合ができるだけ均一になるように各かまどの担当者に、火力と焼き加減をアドバイスした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  57

2012-01-27 09:39:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『それでは、これより作業班を編成して、作業を開始する。一同、判ったな。作業内容は3つの種類に分けられている。麦の粉を練って、パン生地を作り、パンの形を作る班。それを受け取ってパンを焼き上げる班。焼きあがったパンを荷造る班である。まず、砦で皆のパンを焼いている者は手を上げてくれ。手を上げた者はアンテウスのもとに集まってくれ』
 手を上げた者は、80人くらいいた。彼は一つのかまどに二人を割り振れると判断した。
 『次は、パン生地を作る班だ。やったことのある者は手を上げてくれ』
 彼は、集団を見まわした。20人くらいである。彼は思案して、集団から30人、パン焼き班から5人を抜いて加え、35人余りで班とした。残った40人を荷造り班とした。
 班編成は終わった。オロンテスは忙しい。彼はアンテウスら三人を呼んだ。
 『次は、作業スペースを整える。いいな』
 彼は、作業スペースの簡単な図面を木板に書いていた。その図面を三人に示して指示した。 
 『これを参考にして、作業スペースを整えるのだ。班員を手伝わせてやるのだ。急ぐのだ。じきに陽が昇る』
 『判りました』
 各所に彼らの叱咤の声が飛んだ。作業スペースが手際よく整えられていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  56

2012-01-25 09:10:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 日足の短くなった秋の日の朝が明けた。まだ黎明の時である。浜は昨日の荷役の喧騒もなく静まっていた。
 それとは裏腹に陽の出前の薄暗さの中、西門前の広場には、今日のパン焼き作業にたづさわる者たちが集まってきた。オロンテスは冴えた目でこの風景を見つめていた。
 『お~い、アンテウス、全員を一箇所に集めろ。セレストスにリュウクスもいるか』
 『リュウクスはまだです。あっ、来た来た、只今、来ました』
 『アンテウス、作業班を編成する。全員で何人くらいいるのだ』
 『はい、150人余りのはずです』
 『よし、判った。整列させろ』
 『判りました』
 オロンテスは、整列した者たちを見回し声をかけた。
 『皆、おはよう』 
 列中の各所から朝の挨拶の声が届いた。
 『皆、朝早いにもかかわらず、よう集まってくれた。今日ここに集まっている我々は、航海中に食するパンの焼きあげを集中して行う。焼き上げるパンの総個数は、約8500食だ。俺の計画では、日没までには全個数を焼き上げる段取りで作業を進める。いいな。皆、頼むぞ!』
 『おうっ!』『おうっ!』『おうっ!』
 彼らは、意気軒昂なところを衆力として見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第4章  船出  55

2012-01-24 13:43:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判りました』
 『お前ら判ったと返事しているが、本当に判っているのか。いい加減な返事はだめだぞ。明日、お前らがやる作業がどんな作業か判っていないから、何を質問していいのか判らんのではないのか』
 三人とも顔を見交わしながら、うなづき返事を返した。
 『はい、おっしゃるとおりです。しかし、なんですな。棟梁はすごい、まさに万能と言っていいですね』
 『明日、仕事をしながら要領を教える。いいな』
 アンテウスは、感服した表情でしげしげとオロンテスの顔を見つめた。
 『それではこれで打ち合わせを終わる。明日は、一日中、このパン焼きの仕事に集中する。いいな、頼むぞ』
 彼らは、打ち合わせを終えた。
 
 イリオネスは、トリタスと話し合っていた。エノスの浜に着いて以来この半年、互いに親密度を育みながら、今日に至っていた。二人の間は、語りつくせない話題に満ちていた。うなづき、笑い、ときには涙声で話し合っていた。
 『ところで、イリオネス殿。明日のことですが』
 トリタスが、ここまで言ったときイリオネスが口を挟んだ。 
 『トリタス、そう身構えるな。なんだ?』
 イリオネスは、怪訝な顔つきでトリタスを見つめた。
 『え~え、私どもでは、ささやかな別れの昼食会を予定しています。浜衆、集落の者たち全員の心づくしです。うけてください。準備の一切は、私たちのほうで整えます。いいですね』
 『そうか、トリタス、お前、そのようなことまで考えていてくれたのか。有難う。喜んでうける。俺たちが手伝うことがないのか』
 『それはありません。準備の一切は、私たちがやります。気持ちよく出席していただければ、それでよろしいのです。それが私ども一同の気持ちです』
 『判った、喜んで出席する。有難う、重ねて礼を言う。統領もどんなに喜ばれるか、目に見える。有難う』
 二人は目を潤ませて、しっかりと手を握り合っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  54

2012-01-23 08:44:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスが差配する作業チームは、荷役作業、副菜つくり、明朝からのパン焼きの準備等を日没の頃には終えていた。
 彼らは、夕めしを終えて、明日行うパン焼きに関する事項について打ち合わせた。オロンテスは、作業の責任担当を三人に割り振った。 
 『アンテウス、お前は、パン焼き作業を責任担当するのだ。リュウクス、お前は、焼きあがったパンを荷づくる作業だ。俺とセレストスは、麦の粉を練りあげ、パン生地を作る作業を担当する。この3つの作業は、一連の作業であり、気が抜けない、三人とも頼むぞ。仕事の内容については、これから、大まかに説明する』
 オロンテスは一息入れた。
 『アンテウス、パンを焼くかまどは35基ある。日常のパンを焼いている者を各かまどに配置するのだ。そうすれば、パン焼き作業を無難にやれる。いいな。心の中では、うまいパンが焼けることを念じて作業をやるのだ。リュウクス、お前が担当するパンを荷づくる作業はだな。航海中の食事時間を見計らって、各船にパンを配らなければならん。一個40食ぐらいづつに荷づくるのだ。焼きあがったパンは、真ん中に穴が開いている、その穴に縄を通して荷づくるのだ。判ったな。次に、セレストス、お前は、パン生地を練りあげ、パンの形を整えて、パン焼き係に渡す。この作業を差配して、一連の作業が滞らないように計ることだ。三人とも作業内容を充分に納得したな。いいな。俺は作業全体を見ている。よろしく頼むぞ』
 オロンテスは、三人の目にじい~っと見入った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  53

2012-01-20 08:58:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『リュウクス副長、かまど造りはいつまでに?』
 『日没までに仕上げるのだ。その上で一日中、パンを焼くのだ。入念に仕上げろ。焼いている途中で壊れるような、やわな造りいかんぞ!一夜でそれなりに乾く、明朝には使用可能だ。鉄板のサイズと照合して造るのだ。いいな』
 『判りました』
 リュウクスは、広場にかまど造りの区割りをした。
 オロンテスは、この風景を見ながら思案していた。
 『麦の粉を練ってパン生地を作るに際して、そうだな、ぶどう酒を入れよう。うまいパンに仕上がる筈だ。ぶどう酒は充分あるはずだ。それでいく』
 彼は、リュウクスの仕事ぶりを見て、安堵しながら荷役作業のほうへ向かった。
 積荷が順調に運ばれ、荷役作業の進捗をチエックした上で荷を積んだ小舟に乗って改造交易船に向かった。彼は、船に乗り移るや、即、船倉に下りていった。
 『いやあ~、みなの衆、ご苦労』 と言いながら荷積みの状態を見渡した。
 『ほっほう、このように積むのですか。これだったら航海中、ちょっとやそっとのゆれぐらいでは荷崩れしませんな。これは重畳、重畳!』
 彼は、もう一隻のほうも入念にチエックして、航海中に配る食物等の積み込みを検討した。オロンテスは、作業状態をチエックするときは、頭の中で一歩先を考えていた。そのうえ、用心深かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  52

2012-01-19 08:46:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『すると、今、使っているのと合わせて、合計25だな。それでは間にあわん。リュウクス、判るか。新たにつくる、かまどは20基だ、いいな。判ったか。明日一日で焼き上げるパンは、約8500食だ。判ったな。リュウクス、大変だぞ。使う麦の粉も大量だ。それに合わせて作業台もいる、砦にあるもので作業台に使えるものを全て広場に持ってきておくのだ。次は燃料だ。手すきの者たちを全て動員して、広場にそれらを整えろ!判ったか』
 『はい、判りました』
 オロンテスは、航海中に配る調理した塩漬け肉、魚の干物類を点検した。彼は出来上がっている量を入念にチエックした。
 『うっう~ん、これだけあれば、ミコノスまでの分は、充分にいけそうだ。明日一日、パンの焼き上げに集中できそうだ。先ずは重畳!』
 リュウクスは、手のすいている者たちを集めた。人数を数えてみると50人余りである。かまど造りに10人をさき、残った40人余りを作業台の準備に当たらせた。薪、燃料等の準備は、作業台の準備完了後の作業として、作業完了時限を決めて事に当たらせた。
 『お~いっ!作業台設定の作業は、ここから見た、この位置に太陽が来るまでに終えるのだ、いいな。作業にかかってくれ。時間は、有り余らんぞ、急いでやるのだ』
 『お~っ!』『お~っ!』
 彼らは威勢よく返事を返して作業に取り掛かっていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第4章  船出  51

2012-01-18 09:53:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、アンテウス、セレストスに指示して積荷の荷役に当たった。
 『二人とも判っているな。浜衆たちの小舟、当方の小舟、全てを動かして、積荷を懸命に運ぶのだ。沖の改造交易船にはオキテスの手の者たちが積み込みの要領を差配している。とにかく、懸命に運べ。いいな』
 彼は、荷役の作業に当たっている者たちを叱咤した。小舟は、積載予定の積荷をピストン輸送した。作業は思いのほか順調にはかどった。
 オロンテスは、頃合を見てリュウクスが担当している航海中に摂る食事準備の作業現場に足を運んだ。
 『リュウクス、作業の進み具合はうまくいっているか』
 『今日は、副菜の準備ですから、私の手に負えていますが、主食の作業をやる明日がとても気にかかります』 
 『そりゃそうだろう。この俺でさえ、うまくいくか、どうか気にしている。お前が心配して当たり前だ。だが、しり込みはいかんな。しくじってはならん。荷役の方は今日中に終わる。明日は、セレストス、アンテウス、俺も手伝う安心しろ。ところで明日の下準備だけは、今日のうちにやっておくのだ。いいな。いま、かまどはいくつで作業している?』
 『15ですが』 
 これを聞いたオロンテスは、思案した。
 『パン焼きに使う鉄板の数は35枚のはずだ。パン焼きに使うかまどの準備はどれだけを予定している』
 『広場に10基を予定しています』