『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  93

2012-07-12 07:07:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人が話している間に舟艇は浜に着いた。
 『おっ、お前たち休んでくれ』
 オキテスは舟艇をこいでくれた者たちにひと声をかけた。
 二人は、浜で作業をしている一群の者たちに近づいていった。
 『おう、お前たち、無事にこの地に着いたようだな。変わりはないか。ところでオロンテス船長はいるかな』
 『あっ!パリヌルス隊長にオキテス隊長ではありませんか。オロンテス船長は、いま、交易の市場に出向いていますが』
 『俺たちが来たと伝えに走ってくれないか。二人で行け!』
 『判りました』
 パリヌルスら二人に少々時間が出来た。
 『パリヌルス、ところでお前の考えている案件は何なのだ。それから、やっておかねばならないこととは、さわりだけでも話してくれ』
 『判った。先ず、日々の食糧のことだ。次に、副菜のことだ。足りているのか、また、どうなのかだ。クレタに着くまで賄えるかどうかと言うことだ。それからパンを焼くことについて打ち合わせておかねばならん。いつ、どこでやるかを思案している。次に一同が新鮮なものを口にしていない何とかしなければと考えている。そういったことに関連するが、このあとクレタまでの航海日程と海路をどのようにとって行くかを考えている』
 『おっ、そうか。多人数で考えることではない。我々三人で充分だ。。オロンテスが来たら即刻打ち合わせに入ろう。大事な案件だ』
 二人は話の区切りにきて、声のするほうに顔を向けた。オロンテスが帰って来た。
 『おっ、ご両人、よく見えられた。いま、交易の市場を見ての帰りです。ちょっと気になることがありましたので。、、、、そのちょっと気になることを決めるのに、どうすればと思案していたところです。それにしてもお二人いいところへ来てくださった』
 オロンテスの安堵する表情が見て取れた。

 *深くお詫びいたします。句読点の打ち所と欠字のミスをいたしました。
 第5章クレタ島 91 第3行目です。
    んできた、一群の者たちを怪訝な目つき眺めて  
    んできた一群の者たちを怪訝な目つきで眺めて    と訂正いたします。
 
                             山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  92

2012-07-11 06:22:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判った、いいだろう。直ぐ出かけよう。この日和だ、秋の日は短い、急ごう!』
 オキテスは言い終ると舟艇のチーフと二言、三言言葉を交わした。パリヌルスはアレテスを呼んで事の次第を話したうえ、舟艇に乗り込んだ。
 『パリヌルス、オロンテスの方角は?、、、、判った!者ども帆を降ろせっ!三角帆はそのままだ。進路は北へだ』
 『オキテス、オロンテスの居場所はだな、この浜の北端を過ぎたら船首を北東へ向けてくれ。それで行き着くあたりにいるはずだ。彼らの船を目当てに進んでくれ』
 舟艇は思いのほか船足が速かった、あっという間に浜の北端を過ぎて船首を北東に向けた。
 『よしっ、この風だ、メインの帆を半分上げろ!三角帆はそのままだ』
 舟艇は波を割って進んだ。ミコノスの街区に近い浜に時間をかけずに近づいた。
 『浜に沿って、北へ進んでくれ』
 オロンテスの船の姿が見えてきた。
 『おうっ、あの船を目指してくれ』
 『おうっ、オキテス、この舟艇だが俺たちが考えた以上の走りだな。俺は舟艇を見直したぜ。走りの安定性も素晴らしくいい、上々だ。また、三角帆もなかなか便利な帆形だ。考えるときが来るかも知れないな』
 オキテスは揚陸されている二隻の船を目指すよう指示した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  91

2012-07-10 07:04:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は身を起こした。各船を見廻りながら浜を歩いた。
 この浜を使っている島民たちが、どこからこの浜に着いたか判らない軍船3隻とその船に乗り組んできた、一群の者たちを怪訝な目つき眺めて通り過ぎていく風景が見て取れた。
 太陽は耀いている、海風がやや強く吹き付けてくる、空は高く澄んでいた。海は青く、銀色の波頭を飛ばしていた。沖行く小船が目についた。
 彼は明日を懸念しながら目の前の情景を見つめていた。彼はその海の風景の中に点に見える、近づいてくる一艘の船に気がついた。
 『あのような船どこかで見たことがある』
 確かに知っている船型の船だ。メインの帆に船尾の三角帆である。その船がこの浜を目指して近づいてくる。船速は早い、見る見る接近してきた。船上の者が手を振っている。オキテスであった。彼の頭を占めていた明日への懸念がいずこかへ吹き飛んだ。 この風景を目にした瞬間に彼をじらしていたもやもやが消えてなくなった。オキテスの手振りに手を振って答えた。舟艇は速かった。程なく浜に乗り上げてきた。とびおりるオキテス、パリヌルスはオキテスの肩をしっかりと抱いた。
 『おっ!オキテス、うまくいったか?』
 『パリヌルス、お前の計らいで、うまくいった、有難う。礼を言うぞ!』
 『そうか、そうか。それで俺は安堵した』
 『それにしてもデロスのあの地点からここまであっという間に来てしまう。お前の計算どおりだ』
 『オロンテスのところへも、あっと言う間に行けると思う。昨夜から気にかかっていることがある。オロンテスのところへ出かけないか。三人で決めておかねばならない案件がある、その上でやっておかねばならないこともある』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  90

2012-07-09 07:11:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスの船団は、宵闇の海上を南からの風を利して北上した。真っ暗闇のミコノス島の浜が右手側にあるはずである。
 彼は、副長のカイクスに指示を出した。
 『カイクス、松明信号を後続の船に送ってくれ。『岸に近づきすぎるな、深さに注意せよ!』だ』
 カイクスは信号を送った。間をおかずに次の信号を続けて送るように指示が来た。。
 『カイクス、次の信号だ。『浜に向かう、速度を落とせ!』だ』
 船団は無事に真っ暗闇の浜に着いた。彼らは真っ暗闇の中を松明の灯りを頼りに各船を揚陸した。
 パリヌルスは各船の船長、副長を招集して、食事のこと、宿営のこと、そして、警備のことなどを打ち合わせた。
 パリヌルスは星空を眺めながら、無事であった今日をふりかえり眠りについた。
 一夜は明けた。パリヌルスの船団もオロンテスの船団も異国での朝を迎えていた。ミコノス島のいずれの浜もそれぞれの朝を過ごしている。
 パリヌルスはアレテスら船長、副長たちに今日の作業を任せて、これからを思案した。如何なる変事が発生しようが、対処できる態勢を維持しつつ過ごさせた。
 パリヌルスは、旅の途中にありながら身をもてあましていた。彼は脳をしぼって考えに集中しながら身体をもてあます状態であった。計るべきことがあるにもかかわらず、計る相手が目の前にいない、心がじりじりする、何とかしなければならない。彼ら集団にとって、大事な案件なのである。
 中心となって集団を統率していく上で一握りのメンバーではあるが、核として、案件を計り、意志の統一をしておきたかった。
それくらいに大事な案件の数々であった。
 『うっう~ん、やりきれないっ!』
 今にも、感情が暴発するかと思われるくらいに心がちりちりとイライラした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  89

2012-07-06 06:42:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 支度を終えた統領とアンキセスが待っていた。
 『統領、まいりましょう。軍団長以下、出発の準備が整っています』
 『おっ、そうか。行こうか、父上まいりましょう。ギアス、そこの包みを舟艇に積んでくれ。貢物だ』
 『判りました』
 彼らは一行の待つ浜へと向かった。
 イリオネスとギアスの部下2名が旅支度を終えて待っていた。浜に着いた統領をイリオネスが迎えた。
 『統領、出発しましょう。刻もいい頃合です。ご両人とも足ごしらえ大丈夫でしょうか。この島の石は角が立っていて取れていません。充分に気をつけてください。どうも海沿いで行くほうがいいように思われます。道のりでいうと山裾を目指していくより、ちょっと、遠回りになりますが、いいと思います』
 彼はいい終えると身体をギアスのほうに向けて声をあげた。
 『ギアス、出発だ』
 彼ら6人は浜をあとにした。浜にいる者たちはアポロンの神殿に向かう彼らを見送った。

 話はミコノス島の南の海域を西へと進路をとって進んでいるパリヌルスの船団の状況に戻る。
 今日の航海も終わりに近づいていた。彼らは宵闇の海を進んでいる。彼らの目指す浜はミコノス島の西南端の細くくびれた先にある、北から南に向けて細く長く伸びた浜である。パリヌルスの予想では停泊については船の陸揚げのしやすい浜であるはずであった。彼は、この海域については詳しくはないが知っていたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  88

2012-07-05 18:41:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 続いて、イリオネスが話し始めた。
 『我ら一行は、いま、オキテスが言ったとおり今日一日、統領に随行して出かけてくる。よろしく頼む。私からは特に言うことはない。オキテスの指示に従ってくれ』
 『オキテス、そういうわけだ。我らは程なく出かける。以上だ』
 『判りました。道中、気をつけてください』
 『判った、有難う』
 打ち合わせには時間がかからなかった。
 見渡すかぎり岩石だけの島らしい。晩秋の風が吹きすぎていく。海は青く耀き、空は高かった。
 イリオネスが太陽を仰いだ。
 『うっう~ん、ちょっと刻がわかりにくい。太陽の位置が夏の頃に比べて低い位置にあるからな。あれを使って確かめる』
 彼は、袋の中から、方角時板を取り出した。
 『ギアス、ちょっと手を貸せ』
 時板を大岩の上に置き、ギアスに抑えさせ安定させた。彼は磁石の鉄の棒をおもむろに吊り下げ、方角を定めた上で時板の中心に立っている棒がつくる影を見つめた。
 『ほっほう、昼までこれだけの刻がある。ギアス、統領たちをお連れしてくれ。もう旅の支度が出来ているはずだ』
 『判りました』
 彼は舟艇に乗って船へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  87

2012-07-04 06:36:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 主だった者といっても6人くらいである。
 『おうっ,皆集まったか。オキテス』
 『はい、いま、副長を船に呼びに言っています。彼が来ると一同揃います』
 『そうか、揃ったところで声をかけてくれ。俺の方は揃っている』
 オキテスは、イリオネスの言葉を聞いて打ち合わせの場を整えた。程なく皆が顔をそろえた。
 『軍団長、皆揃いました。おいでください』
 『おう、揃ったか』
 アエネアスに続いてアカテス、イリオネスの三人が簡単にしつらえた場に腰を下ろして、打ち合わせが始まった。アエネアスが言葉が短いが心のこもった口調で昨夜の苦労をねぎらった。
 オキテスが木板に書かれたデロス島の略図を皆に見せながら説明にはいった。いま、自分たちがいると思われる地点とアポロンの神殿のあり場所を指で指し示した。神殿は、島の北西部にあることを示していた。
 『いま、我々がいる地点から神殿までは、12~13スタジオン(2.6キロ余り)くらいと考えられる。我々の歩く早さで、時間は小小半刻(30分余り)ぐらいと考えられる。統領に随行する者は、アンキセス、軍団長、とギネス、それとギネスの部下が2名の計6名である。刻を見計らって出発する。帰りは夕刻であろうと思う。留守を預かる者たちは、船の整備と補修、その他である。よろしく頼む』
 オキテスは、話を締めくくった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  86

2012-07-03 07:03:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『俺たちが船を付けたこの辺りだけかも知れないが、岩石だけが目立つ島だな。昨夜は大変であったろう』
 『いや、真っ暗闇の中で松明の灯りを頼りに停泊の場所探しは、大変であったことは間違いありません。苦労したのは、ギアスと彼の部下たちです。彼らは一風変わったこの島の状態を懸命に調べてくれたからです』
 『そうか、それは大変だったな。隊長として充分にねぎらってやってくれ』
 『ところで軍団長、朝食を陸にあがって皆に摂らせようと考えているのですが』
 『いいだろう、そうしよう。手配はオキテス、お前がやるのか』
 『私は副長に指示するだけですが。オロンテスの気配りが効いて、苦労せずに出来ます』
 『よろしく頼む』
 手際よく朝食が配られた。手際がいいはずである。朝食といっても堅パンと副菜の魚の干物の焼いたものであった。彼らは極めて空腹であった。パンをかじり、咀嚼して胃におさめた。
 『朝食を終えたら打ち合わせだ。主だった者たちを集めてくれ』
 『判りました』
 デロス島の空は抜けたように高く晴れていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  85

2012-07-02 07:06:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、見知らぬ土地、異国の島に停泊の場所を得て一夜を過ごした。
 夜の明けきらない薄明の中を舟艇が、大きな砂利の浜近くの浅瀬に船上の者たちを運んでいる。彼らの日常の活動は、半年を過ごしたエノスの生活が基準であった。異国の地にあっても癖になっている朝行事を事情の許すかぎり欠かすことはなかった。
 『おいっ、風が少々暖かく感じないか』
 『そうかな、言われて見ればそのようでもある』
 『海の水も温かく感じられる』
 『おっ、そうかそうか』
 彼らの会話はたわいなかった。そのような会話が交わされているところへアエネアスの一行が姿を見せた。
 陽が昇って、夜の明けきった島を海上から眺めて
 『この島には一木一草も見当たらないようだな。そのうえ、建物もこの辺りに見えないが。耳にはしていたが島として姿が荒涼としている。イリオネスどう思う』
 『はい、言われるとおりです。私も岩石だけが目立つこの海岸を見て、驚いているところです。昨夜、停泊の場所を探すのに、オキテスたちが難儀したであろうと考えていたところです』
 『そうであろうと俺も察している』
 船に数人の者たちを残して、皆が草木のない岩石だらけの浜に顔をそろえた。
 『軍団長、いかがです。この島の様相は?』
 オキテスがイリオネスに話しかけた。