『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  二つの引き金  55

2007-05-31 08:28:14 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 身をひそめていた従者が駆け寄ってきて、パリスの持っている袋を受け取った。三人は、馬を隠したところへと急いだ。
 馬のところに来て、財宝を入れた袋を二人の従者が一つづつ持ち、パリスは、ヘレンを抱き上げ、二人で馬に乗った。三人は、掛け声一つで、馬に一鞭入れて、早足で駆けた。この地を去り、安全圏へと急いだ。
 空に、星だけが輝いている。暗闇のなかに道が淡く、目に映じている。三頭の馬は、地を蹴って急ぎ足で駆けている。何としても、月の出までには、パリスの考えた安全圏に入っていたかった。そうして、薄明の頃には、出航すろ。それが、パリスのヘレン掠奪、スパルタ脱出のシナリオである。今のところシナリオ通りで進んでいると思われる。
 一行の駆けている道は、エウロタス河に沿って、右側である。起伏は少なめで、駆ける方向、南に向かって、緩やかに下っているようである。(スパルタの標高は約200メートルくらいである)進行は思いのほか、はかどっているようであった。

第1章  二つの引き金  54

2007-05-30 07:15:58 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 部屋は暗い。その闇の中に、ヘレンは待っていた。
 パリスは、夜目が利く、隣のメネラオスの部屋へ入り見廻した。かなりの財宝が、部屋のあちこちにある。飾ってあるもの、床においてあるもの、パリスは、その財宝を、手当たり次第に持参した袋中に入れた。二つの袋は、それなりに膨らんだ。それを片手に持ち、ヘレンの手をひいて、暗闇の廊下を早足で、門の出口へむけて急いだ。とちゅう、犬の死体につまずいたようだ。二匹の犬は口から泡を吹いて、こと切れていた。二人は、出口の門扉を開いて外に出た。
 二人は、ここまで一言の言葉を交わすことなく来た。パリスは、小声でヘレンに声をかけた。
 『ヘレン!娘のヘルミオネは、どうするのだ。』
 『ここに残していく!連れてはいかない。』

第1章  二つの引き金  53

2007-05-29 08:18:12 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 草も木も寝ている。道中、難なくメネラオスの館の近くまでに来た。
 館の手前100メートル位の所にある樹林の中に、従者の一人と乗ってきた馬をひそませた。パリスは、そこから、従者の一人を連れて徒歩で館に向かった。
 パリスの頭の中には、邸内の詳細図が描かれている。二人は、塀に身を寄せて、邸内の気配を探った。番犬が2匹いたはずである。塀の外に従者をひそませ、パリスは、単身で塀を乗り越えた。犬が向かってくる。準備してきた毒汁をしみこませた肉の塊を袋から取り出し、犬の近づくのを待った。犬は来た。2匹である。肉の塊を犬に向けて投げた。間髪をいれず、犬は、肉に噛みついた。犬は、余り咆えない、だが、獰猛な犬種らしい。
 パリスは、迷うことなく、ヘレンの寝室に歩を運んだ。躊躇することなく、戸を開けて中へ入った。

第1章  二つの引き金  52

2007-05-28 08:18:37 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘレンの掠奪、スパルタ脱出の決行は、今夜から明朝にかけてである。
 パリスは、今一度、手筈をチェックした。心の琴線は凛と張っている。もし、いざというとき、へレンに裏切られるかもしれないのだ。そのときのことも考えて、実行手順をチェックした。
何といっても、ヘレンは、スパルタ領主メネラオスの妃である。その妃を掠奪するのである。お互いの国の大事件となることは、必定である。パリスは、そこまで考えたであろうか。ギリシアはどうであれ、自国は、一夫多妻の国なのだ。女一人ぐらいの掠奪にためらいはなかった。
 決行に出発する時となった。空に月はない。月の出は夜明け近くのはずである。パリスは、船上の者たちに指示を与え、二人の従者を連れて、馬に乗り、メネラオスの館にむけて進発した。山の稜線が、星空を区切っている。地上は、漆黒の闇に近かった。

第1章  二つの引き金  51

2007-05-26 08:07:48 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 今朝も心地よい陸風が吹いていた。やがて凪ぎのときが訪れる。
 パリスは、船の舷に腰をおろして考えていた。
 <ヘレンが、メネラオスとスパルタを裏切るのか。または、俺を裏切るのか。はたまた、俺が、ヘレンにメネラオスとスパルタを裏切らせるのか。スパルタという国は、妻女に華やかな楽しい女の夢を抱かせてくれる国ではない。だが、俺なら、ヘレンに、それをしてやれる。>複雑な思いが交錯した。
 パリスのやろうとしていることは、大変なことなのだ。スパルタとトロイの両国の関係が、どのようなことになるかも判らないのにもかかわらずにやる。二人の思慮分別は、そこには至らなかった。恋慕は、二人を、全くものの見えない、盲目にしていたのである。
 しかし、パリスの心の片隅の冷静は、<決行>と<決行中止>を天秤にかけていた。答えは、<決行>が重かったのである。

第1章  二つの引き金  50

2007-05-25 10:53:58 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 時節は九月となっていた。これからは地中海からの南の風も吹く日がある季節を迎えようとしている。パリスは、この風に押されてトロイへ帰ろうとしている。
 パリスは、ヘレンを伴っての脱出行の思案に集中していた。メネラオスの館から船まで(約50キロメートルぐらい)の移動手段はどうするか。パリスの育ったトロイの土地柄のせいで馬の扱いについては慣れている。馬の早駆けで移動に費やす時間を把握した。スパルタ地内の道路状態に対する工夫も考えた。また、邸内のものに感づかれた場合の追っ手のことも考慮した。つぎに、出航する際の陸風の状態についても、エウロタス河の河口をはさんで三つの地点で出航予定時間に合わせて調べた。
 パリスの使用している船は、乗員20人~30人の一枚帆と漕ぎ座18の長い船であった。

第1章  二つの引き金  49

2007-05-24 09:34:59 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘレンは、待っていた。ベッドには、香しい薫が漂っている。パリスをベッドへと誘った。三日間連夜の同衾である。二人は、喜悦と陶酔の愛の行為を終えて、パリスは、ヘレンに小声でささやいた。ヘレンの耳朶に息を吹きかけながらのささやきは、ヘレンを妻とする計画である。ヘレンの手を引いてのスパルタからの脱出を、どのようにして実行するかを耳を通して、ヘレンの心にささやきいれた。ヘレンは肯いた。
 パリスは、三日後の深夜にヘレンを迎えに来ることを約束した。ヘレンは、この誘いにのった。
 夜が明けた。スパルタの原野を吹きぬけた風には、初秋の冷ややかさがあった。メネラオスの館を辞する日の朝である。パリスにとって、時の経つのがもどかしかった。朝食を終えて、辞するときとなった。三日間は短かった。そのことを別れの言葉としてメネラオスの館を離れた。

第1章  二つの引き金  48

2007-05-23 07:03:54 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パリスは、明日の午前中には、メネラオスの館を辞することにしていた。この館で過ごす夜も今夜で終わりである。
 パリスは、これからの予定の打ち合わせと、世話になった謝礼に使うための品を、港に停泊している自船まで取りに行かせた従者が昼過ぎに帰ってきた。パリスは、それらの品々を持参して、ヘレンとスパルタ側に、滞在中の世話になったことに丁寧に礼を述べた。ヘレンは別として、スパルタ側の応対ぶりは、言葉は丁寧ではあったが冷ややかなものであった。
 夕刻になって、かたちだけの別れの宴が開かれた。再会の思惑のリップサービスにだけに終始した。
 夜は更けた。今夜も深更にいたって、パリスは、ヘレンの寝室に忍んでいった。

第1章  二つの引き金  47

2007-05-22 09:28:27 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パリスは、4日くらいの滞在を予定していた。その旨をスパルタ側の側近に伝え、承諾を得ていた。パリスには、従者もいるのだが、スパルタ側の都合でパリスに案内人が一人つけられていた。スパルタにとっては、異国のものに見られては困るところもある。パリスは、滞在して二日目の夜も、ヘレンの寝室に忍び込み、愛を深みへと進めた。パリスの恋は、純粋であった。ヘレンの美しさに感動して、この時代の男として、純粋に男を表現した。如何なる危険を冒しても、ヘレンを自分の妻にしたいと決心をした。ヘレンには、ヘレンの我がままもあるが、メネラオスとの結婚生活では、華やいだ未来を描けないことに失望していたのである。そんなところへ突然現れた、パリスに、身を任せた。そんなパリスに、身をゆだねて、しまおうかなと思ったところを、後ろから、何かに背中を押されたみたいに、パリスに、のめりこんでいったような感じがした。ヘレンは、トロイというところが、一夫多妻の結婚慣習のあるところとは知ってはいない。ギリシアが世界であり、世界がギリシアであったのである。

第1章  二つの引き金  46

2007-05-21 08:47:56 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘレンは、パリスの為すがままを受け入れようとしている。心は、夫メネラオスを呼んでいるが、身体は、目の前のパリスをもとめて、悶えた。パリスは、軽く、乳房を、そして、秘園を愛撫した。ヘレンは、よがりの声を漏らし、秘園には愛液が潤っていた。パリスは、自分のものを静かに、ヘレンの体内に挿入させた。ヘレンは、喘ぎ、パリスに腕を絡ませた。パリスは、ヘレンの喜ぶところを探りながら愛撫を与えた。ヘレンは、久しい喜びにしたっている。パリスは、ヘレンのことを気にかけて、交合を休み、間をおいて、再び、ヘレンの中に挿入した。ヘレンの喘ぎは、前にも増して、激しくパリスに迎合した。ヘレンは、歓喜した、頂点に来た。パリスも精を放って果てた。
 短い夏の夜は、明けようとしていた。