『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  370

2014-09-30 07:30:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭に喜んでいただけるとは、、、。私にとってとてもうれしいことです』
 『そうですね。初めて目にするめずらしい道具のようですね。これは重宝すると思いますよ。ねえ~、あなた』
 アドーネ夫人もことのほかに喜んでくれた。
 その時、戸口の方からスダヌスのガラガラ声が聞こえてきた。集散所に出かけたスダヌスとアレテスらが帰ってきたようである。
 『おうおう、イリオネス話は聞き終わったのか』
 『おう、少し前に終わった。浜頭に例の『方角時板』を渡したところだ』
 『エドモン浜頭殿、その道具の扱い方を聞かれましたかな』
 『おう、それをたった今、聞き終えたところだ。世にもめずらしい道具だ、あれは重宝するぜ。スダヌスお前は、持っているのか?』
 『俺は使っている。確かに重宝している。海に出て日の暮れるのが、おっかないということがなくなった』
 『あの鉄の棒は、不思議な代物だ。見て手にしたのは初めてだ。全く得体のしれない鉄の棒だ。イリオネス殿ありがとう、心から礼を言いますぞ』
 『こちらこそ、頂き物について心から礼を申し上げます、ありがとうございます。スダヌス、聞いてくれ!エドモン浜頭から頂き物を頂戴した』
 『お~お、そうか、それはいいことをしたな、感動感動!よかったな。お前、別れが惜しいだろうが、辞するときだ。丁重に挨拶して、行こう』
 『判った』
 イリオネスは、身体をエドモン浜頭に向けた。
 『エドモン浜頭、大変、世話になりました。ありがとうございました。クノッソスに後ろ髪が引かれます。帰途に就くべき時が来たようです。浜で昼を過ごしたのち、出航いたします。西の方へ出向かれた折には、ニューキドニアに立ち寄ってください。ありがとうございました』
 エドモン浜頭とイリオネスは、肩を抱き合った。それを終えて、彼はアドーネ夫人の肩をやさしく抱いて、別れの言葉をかけた。スダヌスも浜頭、アドーネ夫人と別れの挨拶を交わした。
 『スダヌス、また、イリオネス殿と一緒に来てね』
 これを耳にしたスダヌスは、アドーネ夫人の額にか~るく口づけをした。
 『イリオネス行こう!』
 『おう!』
 二人は、アレテスらを従えて、エドモン浜頭の館を辞した。
 イリオネスは、惜別の情をにじませてスダヌスに声をかけた。
 『クノッソス、イラクリオンに別れか、、、』
 『なあ~、イリオネス、お前とニケに乗って旅をする。実に楽しい!こんな時が続けばいい、、、。また二人で船旅をしたいものだ』
 二人の感情が縄になって絡んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  369

2014-09-26 07:16:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは頷いた。
 『今の話はちょっとたどたどしかったですな。いざ、世の移り変わりを説明するとなると言葉が詰まりますな。私の話で理解いただけましたかな』
 『え~え、充分です。浜頭の丁寧な話しぶりでよ~くわかります。深遠なクレタの歴史、そして、今のイラクリオンの様子、私らにとって、とても大きな意味のある話でした。いろいろとありがとうございました』
 話を聞いていたアドーネ夫人がおもむろに言う。
 『貴方、なかなかの物知りで話し上手ですね。私もついつい聞き入ってしまいましたわ。貴方の話しぶりに感銘を受けましたわ!』
 アドーネ夫人は感動していた。
 イリオネスは庭に目をやった。曇っていた空が晴れ渡り、庭に明るい陽ざしがさんさんとふっている。
 『浜頭、庭に明るい陽ざしがあります。『方角時板』の説明をしましょう。道具をもって庭に出ましょう』
 『おう、判った。アドーネ、お前も来い』
 『え~え、まいります』
 三人は連れ立って庭に出た。空を仰ぎ見るイリオネス、それに倣って空を見あげる二人。イリオネスは、石でできた椅子の上に安定に気遣いながら時板を置いた。彼は慎重に事を運んでいる。
 ヒモで吊るした鉄の棒の中心を時板の中心棒の真上に合致させた。時板の南北の線と鉄の棒の向きが一致するように合わせた。中心棒の影が時板に影を落とす、影は時板の東西の線と南北の線の交点から、短いながらも北西の方向に延びていた。西方向と北方向の線がつくる角度を3分して、その1、北寄りの方向に影がのびていた。イリオネスは事の次第を二人に説明した。彼は時板の北を指す線を指で指し、 
 『浜頭、見てください。昼になるとこの影がこの線に重なります。それから、影が少しづつ長くなりながら陽が沈むころには、この影がこの線に重なろうとするのです。季節によって少し差が出ますが。北の線を超えて東方向の線に向かうころから、今日の午後ということになります』と説明した。
 『浜頭、今、この影を見てください。影がこちらに延びています。この線と影の間隔を見て『昼までに、間があるなと』ということをこの時板から読み取るのです。陽ざしのないときはこれは使えません。その時は鉄の棒のみを使って、南北の方角を見ることに使います』
 『イリオネス殿、丁寧な説明ありがとう。これは便利このうえない道具ですな。雲に覆われた日、星の見えない闇夜でも方向を間違えることなく航海ができる。安心の道具として使います』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  368

2014-09-25 07:46:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『私らは、トロイの領主であったプリアモスとは血筋を異にしており、アヱネアスの元祖はトロイの地に来て、トロイの礎を築いた。今は亡きプリアモスは、アヱネアスの縁戚に連なる者と聞いています』
 『ほっほう、そうするとアヱネアス統領は、その元祖の血筋ですかな』
 『そうです』
 『判りました。いずれにしても民を統べていく、それはそれは大変なことです』
 話は一段落した。二人は休んだ。アドーネ夫人の仕立ててくれる茶を喫して和んだ。
 『では、聞きたいといわれたイラクリオンの世情について話しましょう。私らは昔のクレタの治政にかかわったクレタの王の事は話として語られることを聞いて『ほう、そうであったのか』と聞き流すだけで全くわかりません』
 浜頭はここで話をきった。彼は喉が渇いたらしい、冷めた茶を一気に飲みくだしてイリオネスの目を見た。
 『ここ数年という時期ですが、今の統治者がクレタの治政をするようになって、落ち着きを失っていますな。イドメネスがトロイ戦役に参戦して10年に及ぶ留守中にいろんなことがありました。この留守を預かったのが現在の統治者のアウニウスですが評判がよくありません。アウニウスはイドメネスの妻を籠絡して自分のものとする、その様な事情もあってかトロイから帰ってきたイドメネスをこのクレタに一歩も上陸させずに国外へ追っ払た。イドメネスはクレタ海を西に向かったと聞いています。その統治者は横暴で浅慮、このクレタをうまく統治していくのかと、私らが気に掛けているいった状態です。今の状態では貴方らのいる西地区へ力が及ぶのか気になるところです。そんなこんなで今のイクラリオンはというと平穏であるとは言えない状態になるのではないか、その様な予感がしますな。降ってわいたような奴らとアウニウスの手の者らとのトラブルが三日に一度は起きています。私らは、当たらず障らずでいます。西アジアの北の方ですが、ここ数年来、不作が続いているようですな、その地方の奴らが、徒党を組み、群れをつくり『海の民』となって、多島の海域を海賊となって荒しまくり、このクレタに流れてきていると話題にしています。もし、話題で収まらない事態になったとき、どのようにしようかと心配なことです。アウニウスがその奴らを始末できるのかと気に掛けている次第です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  367

2014-09-24 07:28:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では、話を続けましょう。クノッソスの王の館が出来上がっていく、王の心中に野望がわいてくる。クレタ全島を交易の島にしてはと考えた。宮殿と集散所を復活させる、島民どもも昔をしのんでいる。昔以上にしてやらねばと考え、クノッソスと同様のものを規模を小さくして、以前のものより3倍くらい大きくして、元の宮殿集散所の場所に造れと命令を下したのですな。それがマリア、ザクロス、フエストスの現在の建物です。それから、この島の東地区は大いに繁栄したといわれています。この島に不幸をもたらすテラ島が大爆発するのは、その頃から時代が下ること170~180年下っての事らしいですな。この大爆発がこの島に地震、降灰の大災厄をもたらすのです。災厄は全島に及びました。建物は壊れるは、農作物の不作が20年30年と続く、それでも、なお、不作が続き、草も生えない状態が続いたといわれています。それで島民の多くの者たちが、島を捨てて他の土地に移り住んだと言い伝えられています。だが、この島には、ナラやカシの森があちこちにあって木材、木材の加工、造船、土器、青銅器造り等は続けられたらしい。前にも増して木材の伐採が盛んになったらしい、そのあたりの事については定かではありません。それから、100年後あたりから、ギリシアはアカイアの者らが、この島に住み着き始めたと言われています。そのころから100年、また、このクレタに地震です、この地震のもたらした災害は大きくはなかったらしく、震源となったところも定かではなかったのです。それよりも困ったのは人災です。ギリシアは、アカイアの者らが交易とは口では言うが、海賊かと思われる暴虐でもって島の各所に住み着き、島の統治権を王からとりあげ、遂に島の政ごとを行うようになって現在に至っているということです。ギリシア人の暴虐な振る舞いは、その民族の民族性でしょうかね。貴方がたも奴らに虐げられた人たちといえそうですな。同情いたします』
 『まあ~、そういったところですが、私らはトロイ民族でありながら、トロイの民族とは、異なる使命を持っている民族と言えるのです。不思議に思われるとは思いますが、、、』
 イリオネスは、漠然としている真意を口にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  366

2014-09-23 08:34:20 | 使命は建国。見える未来。消滅する恐怖。
 エドモン浜頭のやわらかい目つきが真剣なまなざしに変わった。彼はどのように言おうかと考えた。
 『ミノス王、彼の言い分は、どうもこのようであったらしいと思われる。このクレタの民は平和を好み、平和をこよなく愛している、心優しい民だ。関係する諸国とは和で結ばれていかねばならん。交易による立国、俺の寝起きする館は、商住隣接で建ててくれというわけで、館と集散所が合体した建物としたのですな。くずれてしまった建物の数倍大きな建物を崩壊した建物の上に建てたのです。その館があまりにも豪壮にして立派な建物であったので、人々は『これは館ではない、ミノス王の住む宮殿だ』ということになったのです。王の考えのすごいところは一番下の階に1000個以上に及ぶ小部屋をつくり、訪れる旅の交易人の宿に使った。また、この数ある小部屋を4階建ての建物の基礎として、でっかい館を建造したのではないかと考えられます。如何に、このミノス王の治政が素晴らしかったかと思われるところですな。クレタの繁栄が、このクノッソスを中心にして展開したものと思われます。この島うちでは争い事が起こっていない、クレタの島民は、本当に心の優しい民なのです。地続きで他国と接することもない、海を隔てた諸国との交易に多忙で武器を手にして戦うこともなく、いや、その様な争いをする暇がなかったといえますな。交易による利益に重きをおいて経世済民の政治をしたと思われます』
 イリオネスは、エドモン浜頭の話に真剣に耳を傾け拝聴といった姿勢で聞き入った。彼はここまで仔細に及ぶ話を聞けるとは思ってはいなかった。浜頭の主観も入っていると思われるが、すべてが納得できる事柄であった。
 『いやいや、イリオネス殿、私の話はいかがですかな?』
 『はい、聞いていまして、とても興味の深まる話です。このミノス王の政治思考は大変に素晴らしかったことがしのばれます。心が震えました』
 『そうですか。話しながら、自分の話に感じ入っています。これが今ならという感慨に感じ入っています』
 二人は目を合わせて、頷き合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  365

2014-09-22 07:58:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『しかし、考えてみてください。イリオネス殿、500年1000年もさかのぼっての話となると、もう、そこは神話伝説の領域ですな。それが真実であったという証拠がありませんな。話はそれでもよろしいかな?』
 エドモン浜頭は、うかがうようにイリオネスの目をじい~っと見つめた。
 『浜頭、え~え、それでいいですとも、聞かせてください。伝説の中の真実、長大な時の流れの中の事実として後世に誰かが気づくということを信じています。何卒聞かせてください』
 『イリオネス殿、かなり眉唾ものですぞ。その様に思って聞いてください』
 『何事もそうですが、ものごとの始まりは、始めはチョロチョロとしたものです。川の源流見たいものです。クレタが今のようになる、チョロチョロはさかのぼること1500年も昔と言われています。クノッソスもそうですが、マリア、ザクロス、フエストスの宮殿集散所は、クレタに花が咲く500年前に建てられたといわれている。それ以前はどうであったのか、それについて語られていることは、今の宮殿集散所の場所にすでに宮殿集散所があったらしい。それがこの1000年の間にクレタを襲った三つの大地震の最初の大地震で跡形もなく崩壊したといわれている。おそらく石と土で造られていたのではないだろうかと考えられる。この大地震は、今から500年~600年前ごろの事だと伝えられているのです。この大地震の後からの時代にクレタを治めたのがミノスという王である。が、この王には数々の伝説が伝えられている。ここでの話は宮殿集散所の事について話します、それでよろしいですな』
 『それでよろしいです』
 話す浜頭、聞くイリオネス、二人は、茶を飲んでのどを湿らせた。
 窓から差し込む光、目に映る窓外の景色にひととき休んだ。
 浜頭は話し始めた。
 『このミノスという王は、それはそれは頭の良い賢い王であったらしい。くずれた宮殿集散所の上に立って、周囲を見回す、北にはクレタ海に臨む、この地を大層気に入ったらしい。よっしゃ!ここに俺が寝起きする館を建てる。それを建てろ!急いで建てろ!というわけで館を建てた。それについて王はいろいろと考えたのですな。石造りはダメだ。手間ヒマがかかる、木材を使え、そのほうが速く出来上がる。建物の設計はこれでいけ。そして工法は、これでいけと木材を骨組として石を組み、壁を塗って造作をやるのだ、敷地の区割りはこの通りとせよ。そうだ、島民の事も考えてやらねば、、、、、』
 浜頭は、ここで少し言いよどんだ。彼は何と言おうかと戸惑ったらしい。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY  第7章  築砦  364

2014-09-19 07:08:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アドーネ夫人は、ある種類の山野草を乾かしてつくったと思われる茶を煎じ入れ、持参してテーブルの上に置いた。茶を喫する三人に落ち着いた雰囲気が満ちてきた。
 『ところで、イリオネス殿、スダヌスの言伝てにあったクノッソスの昔のこと、イラクリオンのここ数年の世情について聞きたいとの由、まあ~、私の知っている範囲で話して差し上げようと思っていますが、それでよろしいのですかな?』
 『はい、それで結構です。宜しくお願いいたします』
 『詳しいのかと言われるとそうではない、知っている限りの事について話しましょう』
 浜頭は、そのように前置きして、クノッソス宮殿の過去について、訥々と丁寧に話し始めた。
 『先に行かれたマリアの宮殿集散所もそうだが、あれと同じ区割り構造で建てられた宮殿集散所が、クノッソスの南の高地を超えてクレタの南岸のフエストス、東の突端で海に面したザクロス、そして、マリアにある。それらの宮殿集散所の敷地の区割り、構造形態は、全て、クノッソスの宮殿集散所に倣って、設計の上、建設されたものなのです。建設された時代は、このクレタ人が築いた文化文明のもっとも隆盛の時代であり、このクレタが誇った木材資源の豊富な時代でもあったのです。そのようなわけで建物には木材がたくさん使われています。もっともそれには訳もあるのですが。マリア、ザクロス、フエストス、これら三つの宮殿集散所は、クノッソスの宮殿集散所のできた数年後に造られたものです。これらが今から350年前のクレタ島のはるか北にあるテラ島の大爆発!その時の大地震で大きく損壊したのだが木造であったこと、頑丈に立てられていたこともあり、それが幸いして思ったより損傷が小さかったのですな。現在の建物は、その時の損傷を修復して現在に至っているのです。その頃、この島にあった石で造った建造物の全てが大地震で壊れたというのに、木材を使って造った宮殿と集散所は一部の損壊と言うカタチで生き残ったわけですな。まあ~、その中でもしっかりした地盤の上にしっかりした構造で建てられていたクノッソスの宮殿集散所は損傷が極めて小さかったのです。それを修復して現在に至っているのです。宮殿が建てられてから500年の年月が経っている建物なのです。私が耳にしているのでは、1000年の間にクレタを襲った大地震は、三度もあるのですな』
 彼は茶を一口飲んでひと息ついた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  363

2014-09-18 07:53:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 続けて、イリオネスは礼儀としてアドーネ夫人の肩に手をかけて武骨ながらもやさしく抱いた。
 イリオネスは、携えてきた袋から『方角時板』を取り出して、エドモン浜頭に手渡した。
 『エドモン浜頭殿、これは私どもが開発して造った『方角時板』と名づけた道具です。使っていただければ幸いです。私どもが世話になったお礼の印です。お受け取りください。使い方は後ほど説明いたします』
 『ほっほう、目にするのは初めてです、めずらしいもののようですな』
 アドーネ夫人もしげしげと目線を注いで見つめた。
 『まあ~、ちょっと見てください。これは鉄の棒です。これだけでも用を足します』と言って、イリオネスは鉄の棒に結びつけてあるヒモの端を持って、目の前にぶら下げた。鉄の棒は平衡バランスをとって、ぶら下がり揺れて動きが停まった。
 『この棒の先が北です。こちらが南です』
 鉄の棒の一端がクノッソスの方角を指し示し、片側は浜の方を指していた。イリオネスは右手で鉄の棒を円回転させた。鉄の棒は何かの力を感じたように回転速度を落として静止した。鉄の棒の一端はキッチリ北を指し示し、反対の一端は南を指し示していた。彼はさらにもう一度同じ回転を鉄の棒に与え、静止を待った。またしても、鉄の棒は南北を指し示して停止した。
 『如何なる運動を与えても、このように南北を指し示して停止します。この鉄の棒さえあれば星のまたたいていない闇夜の航海でも迷うことなく、目的地に向かって船を進めることができます』
 エドモン浜頭は、驚きの目を見張って鉄の棒を眺めた。
 『浜頭もやってみてください』
 浜頭はヒモの端をもって、イリオネスがやったように鉄の棒を操った。鉄の棒は南北指して止まる。再三、再四試みた。三、四回とも鉄の棒は南北を指して停止した。
 彼の表情はほころんだ。めずらしいものを初めて手にした少年のように顔をほころばせた。
 『これを私に、、、』言葉を切って、また口を開いた。『これを私に、ありがたく頂戴いたします。イリオネス殿、ありがとう』
 互いが礼物の受け渡しを終えて、手を固く握り合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  362

2014-09-17 07:04:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス頭、朝めしはどちらでやりますか?小屋中か、それとも、浜で』
 『小屋中でやる。一同に今日の予定を伝える』
 『判りました』
 アレテスは、浜小屋に全員を集めた。朝めしの場は互いに昨日を語りながら、硬くなった、いや、硬く焼かれたパンを口に入れた。
 イリオネスは、一同に今日の予定を伝えた。アレテスは、作業について事細かく指示をした。
 『一同、判ったな。クリテスにテトスは、出かける支度をしてくれ。杖代わりの丸太ん棒は四人分を準備するのだ、いいな。二人はスダヌス浜頭と俺、四人でクノッソスの集散所に出かける。質問は?』
 『ありません』
 『よしっ!一つ付け加える。ホーカス、人員を割いて、浜小屋を掃除してくれ。以上だ』
 『判りました』一同が答えた。
 スダヌスが姿を見せた。それを機に彼らの今日が始まった。イリオネスら五人は浜を後にした。
 イリオネスは、エドモン浜頭の館の前で集散所へ向かう一行と別れた。彼は、館の前に立っているエドモン浜頭に迎えられた。浜頭は、イリオネスを丁重に迎え客間へ招じ入れた。
 『エドモン浜頭、おはようございます。このたびはいろいろとお世話いただき誠にありがとうございました。今日、昼過ぎには帰途に就こうと考えています。皆さんご一家には大変世話になりました。重ねて礼を申し上げます』
 『いやいや、こちらこそ行き届かぬことも多々あったと思います。イリオネス殿、丁重な挨拶痛み入ります。昨夜、スダヌスより聞きました。帰られましたら、アヱネアス統領に何卒宜しくお伝えください』
 ここまで言って浜頭は、大きな声で妻のアドーネを呼んだ。アドーネは、大きな包みを抱えて、客間に入って来た。
 『イリオネス殿、今日でお別れとは、寂しいですね。もっとゆっくりされてもいいと思いますが、お互いに都合のあることと察しいたします。これは、私どもの心づくしの品です何卒お持ち帰りください。また、スダヌスともどもおいでになるようお待ちいたしています』
 『ありがとうございます。喜んで頂戴いたします。是非とも再度お訪ねしたいと思っています』イリオネスとエドモン浜頭は、しっかり肩を抱き合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  361

2014-09-16 06:55:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、おもむろに口を開いた。
 『まず、俺の考えを言う。そのうえで、スダヌス、お前の考えを聞かせてくれ』
 『判った、段取りは、それからということでどうだ』
 『おう、それでいい。先ず、俺のやりたいことは、クノッソスの歴史を知りたい。そのうえでこのイラクリオンのここ数年の移り変わりと、今は、どうかということだ。次は、帰りはどうするかだ。いずれにしてもお前の身柄をスオダに送り届けねばならない。それともう一件は、食糧事情の解決だ』
 『そんなところか、イリオネス。お前の帰りたいは、今日か明日かどちらだ。それから、航海に要する時間の事だ。それを勘案して、段取り、手配りは俺がやる。エドモン浜頭の都合もあるだろう。どっちにしても、イラクリオンを朝出て一日で帰るか、昼頃に出て、二日がかりで帰るかだ。俺をスオダに届けて、その日は俺のところに泊まる。その行程だ。まず、帰りをどうするかを考えろ』
 『スダヌスお前のところまで、ニケで行くとすれば時間はどれくらいかかる?』
 『イラクリオンを昼過ぎに出れば、夕方には着く、そういったところだ』
 『そうか。今日、帰ろう。昼過ぎにイラクリオンを出航する。互いの都合もある』
 『よしっ、判った。次だ。食糧事情とやらを聞こう』
 『食事のメインであるパンだ。今日の昼の分については心配はない。だが、少しでいいから余裕を持っていたい』
 『判った、いいだろう。クノッソスの歴史、イラクリオンの近況などはエドモン浜頭から聞くしかない。段取りしてくる。それでだな、クノッソス集散所の木札が少々残っている、俺とアレテスで打ち合わせて食糧事情は解決する、それでいいな。ニケは小船だが、大船に乗った気持でいろ』
 スダヌスは、それだけ言って立ちあがった。
 『では、イリオネス、俺は行ってくる。アレテスは、出かける支度をして待っててくれ。いいな』
 『判った。スダヌス、よろしく頼む』
 打ち合わせは終わった。イリオネスは、アレテスに声をかけた。
 『アレテス、判ったな。お前は、クリテス、テトスをつれてスダヌスと行動を共にする。俺はエドモン浜頭の館に出向く。昼めしはここで済ませて、スオダに向けて出港する。以上だ』