『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  305

2014-06-30 06:59:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、お前らの仕事に対する姿勢が気に入った。スケジュールを決めろ!段取りを決めてくれ。それに従って俺たちも動く、真剣勝負だ、判っているな。考えることも必要だが、話がここまで来ている、心は決まっている。時は今、感じて動くところへ来ている。判るか、動こう!ここで立ち上がらなければ男ではない!パリヌルス、俺もお前も熱い!熱があれば事は必ず成る。いいな』
 場の者たちの思案風情が、襲い来た一陣の風に吹き飛んだ。
 一同が賛同の喊声を上げた。事のゴーサインが決まった。スダヌスとパリヌルスは、硬く手を握り合った。その渦中にあってイリオネスは、冷静に事態を見通そうと努めていた。アヱネアスは、感無量の体である。彼はイリオネスに声をかけた。
 『軍団長、お前、このことをどのように考えている。パリヌルスらもアレテスらも、極めてとも言っていいくらいに丁寧に事を運んでいるではないか。俺は事は成るとみている。スダヌスの言うとおり、考える時限は過ぎている。感じて動いてしかるべき時である。スタートさせろ!俺に異存はない』
 『判りました』
 イリオネスは立ちあがり、一同と目を合わせた。彼らの熱の帯びた目線は、イリオネスを見返してきていた。
 『スダヌス浜頭も、また我々サイドの者たちも、この仕事に対する熱意、事前の進捗状態も判った。統領も私も理解した。パリヌルス隊長、この仕事を進めてくれ。スダヌス浜頭、この仕事の詳細は、パリヌルス、オキテス両隊長から聞いて判っている。宜しく頼みます』
 次いでイリオネスは、オキテスらの方に体を向けて口を開いた。
 『諸君!仕事始めの令を下す。以上だ』
 一同から歓声があがり、拍手がわいた。ここにこの仕事がスタートした。
 陽は中天に差し掛かろうとしている。パリヌルスは、アレテスに声をかけた。
 『もう、いい頃合いだ。昼めしの支度を頼む。干し魚は足りそうか?』
 『え~え、それは大丈夫です。私は仕度をさせてきます』
 『おう、頼む』
 アレテスは仕度に場を離れた。パリヌルスは、一同の方に体を向けた。彼は、空を見上げてうなずき口を開く。
 『皆さん!少々早いが、昼食の頃合いです。完成とは言えないが、我らが作った干し魚の試食をやります。皆さんからの意見を頂きます。宜しく頼みます』
 彼は、試食のための昼食会をすることを伝えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  304

2014-06-27 06:14:46 | 『次の一手』プレゼンテーション資料
 スダヌスが訊ねてくる。
 『なるほどな、、、、魚を加工?その目的は何なのだ?』
 『それは、私が集散所の魚の売り場を見て歩いて、感じたことを言うと、こうです。売り場には、魚を日持ちさせるように工夫、加工された魚が少ないということが、ひとつ。次に言えるのは、航海に出る船に乗っている者たちの食材として船に積み込むことができるように魚を加工して売る、この2点です』
 『おう、パリヌルス、お前、なかなかなことを言ってくれるな。今、お前の言った、この2点について考えるとだな、航海している船では、火は使えない、どのように加工するかが課題だ。売り場に並べてみて、客が何を選んで買っていくかを探らなければならん。何が良くて、何がいけないのか。売れ筋をつかんでいかねばならん』
 『そうです。スダヌス浜頭の言われる通りです』と言って、パリヌルスは、アレテスのほうを向いた。
 『アレテス、あれを頼む』と声をかけた。
 アレテスは、試しに作った干し魚を取りに、ギョリダを連れて場を離れた。二人は、試作の干し魚を持ってきて一同に披露した。
 『この干し魚は、ここで披露するために三日間で作りあげたものです。まだまだ完成にほど遠いものですが、手に取ってみていただきたい。一晩塩漬けにして、天日と風で乾かしたもの、さらにそれを生木を燃やして煙でいぶしたもの、また、それを焼いて、口に入れるまでにしてから煙でいぶした干し魚です。一応、今日の昼めし時に食べていただく予定です。尚、生ものの魚を日持ちさせるのに塩漬けにするわけですが、塩を増量して、塩味をきつくすると日持ちを長くすることができるということが経験でわかっているわけです。当然、干し魚作る折にそういった条件を考えて作ることにしています』
 『おう、パリヌルス、お前ら、そこまで研究して、この問題に取り組んでいるのか。見上げたもんだな』
 スダヌスは感心したように言葉を吐いた。
 『私らの考えでは、できるだけ手数をかけずに日持ちのする旨い干し魚を作る、それを念頭において事に当たっている現状です』
 『おう、なかなか、いい心がけだ、感心感心。よし!事を前向きに真剣に考える。ご一同、如何ですかな。俺はこの仕事に取り掛かる腹は出来ている。やろう!』
 スダヌスは、一同と目線を合わせて、決断を言葉にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  303

2014-06-26 06:45:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 漁は大漁であった。彼らにとって、ミラクルともいえる漁の成果であった。そのねぎらいをも込めて催行した浜焼きの宴はこのうえなく盛りあがった。
 アレテスとギョリダは今日のヒーローである二人は、スダヌスの問いかけに謙虚に答えた。
 『漁の成果は、その日、その時の出目だと思います。今日の漁は、私たちの運が良かっただけです』
 『そうだわな。でっかくて広い海だ。我々でどうのこうの出来はしない。俺ら漁師にとっても海の中は迷界だからな。漁には運不運がつきまとう』
 スダヌスは、二人の返事にうなずいた。更に、アヱネアスらにも漁の模様を語って心情を吐露した。
 宴は深更に至るまで続いた。この時代の深更は今様時間の8時頃ですでに深更であった。
 宴ははねた、パリヌルスは、スダヌスたちを寝所となる建屋へと案内した。彼は、道すがら明日の予定について簡単に説明した。

 日が替わり話し合いの時が訪れた。話し合いの場は小島である。スダヌスたちはスダヌスの船で、アヱネアスらはいただきものの小船で島に渡った。
 イリオネスは、小船を見た。
 『お~、なかなか使い勝手のよさそうな船ではないか。これは統領から一言、礼を言ってもらわないといかんな』
 『お願いします』とパリヌルスが答えた。程なく、一行は小島の浜に降り立った。
 一行は、島の中央に準備されている話し合いの場に着いた。スダヌス側がスダヌスの息子たち二人とスダヌスが右腕としている二人の五人、アヱネアスらは幹部五人とアレテス、ギョリダを加えた七人で話し合いが始まった。
 まず、パリヌルスが口を開いた。
 『ご一同、おはようございます。今日の話し合いの進行係は私が努めます』
 『お~お、それがいい!』
 一同の賛同を受けた。
 『話し合いに入る前に、統領からの一言を受けます。統領お願いいたします』
 『話し合いを始める前に、私からのひとことです。スダヌス浜頭。このたびはありがとう。心から礼を申し上げる。あの小船だが大切に使わさせていただきます。誠にありがとう。礼を言わせてもらいます。今日は我々が進めようとしている漁について、スダヌス浜頭を交えての話し合いである。充分に納得できるように話し合ってもらいたい。パリヌルス、進めてくれ』
 話し合いはスダヌス浜頭の昨日の漁についての話から始まった。彼は、一同を見まわした。目が合う、阿吽の呼吸でうなずき合った。
 『いやいや、昨日は、皆さんのやられる漁をこの目でとくと見させてもらいました。私も漁師だが我々漁師の漁とはかけ離れたスケールの漁をやられのには驚きましたな。これこの通り、漁の主役をやられた二人を称賛するとともに、このやり方を思いつかれた方々に賛辞を贈る次第です』
 この言葉に一同から拍手が起きた。一同は互いに敬意を表して手を握り合った。パリヌルスは一同を見まわして口を開いた。
 『では、本題にはいります。スダヌス浜頭、如何でしょうか、一度の漁であれだけの量の漁獲があるわけです。しかしです、魚の売りさばきについては漁をやる時間帯の問題もあります。集散所の売り場に魚を出品するとなれば、魚の魚種もさることながら魚の鮮度が重要視されます。昨日の漁のやり方で獲った魚は、集散所の売り場への出品は出来ないことです。そのようなわけで、獲れた魚に手を加えて、加工したうえで集散所の売り場にと考えてはどうかと考えているところです。また、早朝の漁については今後の課題としています』
 彼は最初の提案を述べた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  302

2014-06-25 07:20:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、何気なく東の方へ眼差しを向けた。彼は、そこにキドニアから帰ってくる舟艇を目にした。
 彼はオキテスに声をかけた。
 『オキテス、俺、ちょっと浜に行ってくる。夕めしの事だが全員で浜焼きの宴でもと考えている。お前の思いは?』
 『おう、それがいいな。魚を旨いときに食べる、これが一番だ。見たところ魚が有り余るくらいある、それでいこう』
 パリヌルスは、いただきものの小船に乗って浜へと急いだ。ギアスの舟艇の浜への到着のほうが早かった。一足遅れたパリヌルスは、小船から飛び降り舟艇に走り寄った。
 『おう、オロンテスご苦労、話がある』
 『何だ?漁のほうはどうだった?』
 『おう!釣果は上々であった、喜べ。それでだが、オキテスと話をして決めたのだが、今日の夕めしは、浜焼きの宴でどうかということになった』
 『そうか、魚はうまいときに口に入れるのが一番だ。それで準備を整えろというのだな、判った。全員を動員してやる、任せろ』
 『おう、その一言が心強い。ありがとう。おれはこれで、小島に行って来る。アレテスを力いっぱいねぎらってやらなくてはな。あ~、それから、スダヌスらは驚いていたな、あの漁風景に』
 『そんなにすごかったんか?』
 『話は、あとでゆっくりしてやる』
 『判った』
 パリヌルスは小島へとって帰った。パリヌルスは、オキテスに浜焼き宴の支度準備の件を手配したことを伝え、スダヌスと今日のこれからを打ち合わせた。
 『スダヌス浜頭、今夕は、浜焼きの宴で貴方がたを歓待したい、向こうの浜で全員参加でやります。皆さんも全員で参加してください』
 『おう、そうか。全員、喜んで参加する。いずれにしても話は明日だ、夜より賢い朝がいいということだ。しかし、パリヌルス、今日はいいところを見せてくれたな。あの漁風景を見て、俺の肝はつぶれたぜ!全く、お前らに言う言葉が見当たらん。アレが漁を知らないお前らのやることか、ハッハハ!』
 『スダヌス浜頭、漁の結果は見られた通りです。それをどう捌いていくかが、当面の課題です。宜しく頼みます』
 『判った、了解した』
 スダヌスは、拳を固めて、胸を叩いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  301

2014-06-24 07:28:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスは驚いた。『これは漁師の漁ではない』と舌を巻いた。
 スダヌスら漁師たちがやっている漁の風景ではなかった。魚がガンガン釣りあがってくる。
 『このありさまは何だ?』驚きであった。彼が想像もしていなかった漁の風景である。彼は、漁師としての認識を変える必要ではなく『これは、認識を変えることを強要されている』その思いに打ちのめされそうになった。
 彼は、彼の一行が、この漁の風景に見入る様子をうかがった。全員が驚きの目を見張っている。開けた口をそのままにしている。彼の息子たちはというと、その驚きようは仰天といったところで腰を抜かさんばかりの風情であった。
 パリヌルスとオキテスは、スダヌスらに言葉の一片をもかけなかった。二人は彼らの驚くさまを見つめるのみであった。スダヌスも二人に声をかけようとはしなかった。
 チョロチョロで始まった漁は、始めてから1時間半の時間が経過している、竿の立ちかたに間が出てきた。アレテスが僚船のギョリダに手信号を送っている。二人の間にOK信号が交わされた。漁の終わりを告げていた。
 アレテスから二人あてに手信号が来る。漁の終了を告げ、島に引きあげると言ってきた。パリヌルスとオキテスはうなづきあった。『いいだろう』と目が語り合う、パリヌルスは、アレテスに了解の信号を送った。
 小島から漁に出て2時間余りの時間が経っていた。漁は終わった。ガラガラ声、饒舌のスダヌスからの声がけがない、無口で引きあげの途についた。
 漁に出ていた者たち全員が浜に帰って来た。パリヌルスら二人は、急遽、アレテス、ギョリダに走り寄り声をかけた。二人の思惑と目的は釣果であった。二人はまず釣果を聞いた。
 『見られた通りです。申し分のない釣果です』
 『ご苦労であった。君らの奮闘に賛辞だ。ようやってくれた、ありがとう』
 『ありがとうございます』
 『今日これからの事は、あとで打ち合わせる、いいな。少々、待っててくれ』
 四人が話し合っているところに、スダヌスが息子たちを連れてやってくる。四人は彼らを迎えた。
 『いやいや、ご一同、皆さんに向かって言葉がありませんな。漁は見事でしたな、素晴らしいというほか何もありません。見事な漁の風景を見せていただいた。全くかける言葉がありませんな。あれこれ言うことより、これこの通り、素晴らしい、見事でした、おめでとう!』
 スダヌスは、アレテス、ギョリダ、パリヌルスらの手を握って、絶賛すると同時に感動を伝えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  300

2014-06-23 07:28:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『スダヌス浜頭、紹介します。こちらが隊長のアレテス、そして、こちらが漁を采配しているギョリダです』
 二人は、名を名乗り、スダヌス浜頭と手を握り合った。スダヌスは、短く来訪の意味を二人に伝えた。三人は、これから、この小島で起きることを三人三様で頭の中に描いていた。
 スダヌスは思った。『こいつら漁師でもないのに、どのように漁を展開するのか?』不可解であった。
 漁の準備はできている。用具等は、すでに2隻の用船に積んである。ギョリダは、ちょくちょく空を見上げてタイミングを計っている。
 陽が雲の陰に隠れた、その時が訪れた。
 『今だっ!』
 ギョリダが突如大声をあげた。
 『全員、乗船!急げっ!漕ぎかた位置につけっ!』
 全員が用船めがけて走る、海の浅瀬に飛沫を上げる、腰まで海につけて船に取りつく、全員乗船を終えた。
 またもや、ギョリダが大声をあげる。2隻に分乗している全員に届く大声である。彼は檄を発した。
 『これより漁に出る!漕ぎかたはじめっ!』
 船は漁場を目指して波を割った。泡立てた航跡を引いていく。スダヌスの船は彼らの船を追った。パリヌルスとオキテスはスダヌスの船に乗っていた。
 2隻の釣り用船は、小島から北東に1.5キロ余り離れた地点に停船して、碇石を海中にほうりこんだ。
 ギョリダはしばし考えた。『ここでいいのか?』そして、船から身を乗り出して海の中を覗き視た。
 彼は『もういいだろうか?』と空を見上げて釣糸を海に降ろすタイミングを計った。
 陽が流れてきた雲に隠れ始めた。彼は大声で指示を出した。
 『釣りの開始だ!釣りかたはじめ!』
 全員、一斉に釣糸を海に垂れた。ギョリダは、モゴモゴとつぶやいた。
 『はじめチョロチョロだ、パッパにまだ間がある』
 彼の思惑の的中である。彼は静かに様子を見渡した。
 チョロチョロが始まった。
 『おう、いいぞ!いい兆候だ』
 魚が、間をおいて、あちこちで釣れ始めた。彼は、ジイ~ットときの熟するのを待った。時が熟したらしい、竿が立ち始めた、魚が釣れ始めた。
 スダヌスは、釣果より彼らの仕事ぶりを観察した。彼は、目の前に展開している漁の景色をじい~っと見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  299

2014-06-20 07:52:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスの船が浜に着いた。パルヌルスが目にとめたのは、スダヌスが曳航してきた小船であった。小船にはスダヌスの息子たちが乗っていた。
 『お~い、パリヌルス!来たぞっ!』
 スダヌスのガラガラ声が耳に届いた。彼の船は浜に乗り上げてくる。連れて、曳かれてきた小船も浜に乗り上げてくる、スダヌスは船から飛び降りて、パリヌルスの前に立った。彼は、じい~っとパリヌルスの目を見つめたかと思うとやにわにパリヌルスの肩をしっかりと抱きしめた。交わす言葉はない、互いに『オウッ』『オウッ』だけである。スダヌスはつづけてオキテスの肩をも抱いた。二人は互いに力を込めて相手の肩を抱きしめた。
 『おう、オキテス殿、達者でしたか?』
 『おう、見ての通りだ、達者である。浜頭も変わらず元気ですかな?』
 『これこの通りだ。さあ~さ、ご両人っ!受け取ってくれ。この船だ。帆柱がついていない、遠出には不向きだが、漕ぎ座が12の船だ。それでいいか!?』
 それでいいかに力が入っていた。
 『これで充分ですと。まだまだ使える船です、ありがたい!浜頭、ありがとう。ありがたく使わせてもらいます』
 パリヌルスは、感謝の言葉を述べた。続いて、オキテスも感謝の礼言葉を告げた。
 『おう、使ってくれ。船も喜ぶ。道具は使われてこそ道具なのだ。船が喜ぶ』
 二人はスダヌスから船を受け取った。
 二人は、二言三言、打ち合わせてパリヌルスがスダヌスに伝えた。
 『おう、判った。すぐ、このまま小島に行こう』
 パリヌルスは、小船に漕ぎかた10人を乗せ、操舵手一人を配して二人は乗船した。パリヌルスもオキテスも漕ぎ座に就いた。オキテスの掛け声で漕ぎかたの操る櫂は海面を泡立てた。彼らはスダヌスの船を小島へと導いていった。
 小島のアレテスたちはこの情景を見ていた。アレテスらは、浜辺に並び、客人のスダヌスの一行を迎えた。パリヌルスは、今日の作業の進め具合をアレテスと打ち合わせた。アレテスがギョリダに声をかける。
 『ギョリダどうだ、出漁のタイミングは?』
 彼は空を仰いだ。
 『出漁までは、チョッピリ間があります。太陽があの浮かんでいる雲に身を隠す頃が出漁のタイミングです』と言って空に浮かんでいる雲を指さした。
 『そうか、判った。パリヌルス、オキテス隊長。聞かれた通りです。少々の間があります』
 『判った。アレテス、ギョリダ来てくれ。スダヌス浜頭を紹介する』
 二人は、パリヌルスに連れ立って、スダヌスと顔を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  298

2014-06-19 07:26:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『隊長、このように言って、用材の伐り出しなんですが、ガリダの手の者に任せたほうがいいように思われます。私たちは必要とする用材を的確に指示する。それに徹するほうがいいと考えられます』
 『よしっ、判った。お前の言うようにする』
 舟艇はキドニアの船だまりに着いた。マクロスは、ギアスと帰りの船便について打ち合わせて、一行は、ガリダの館砦に向かった。
 ギアスは集散所のパンの売り場に立っている。彼は背後に、ギアスの名を呼んでいる聞きなれたガラガラ声を耳にした。彼は振り向く、そこにはスダヌスの姿があった。
 『おっ!スダヌス浜頭。おはようございます』
 『おう、おはよう、ギアス。お前ら早いではないか、どうした?』
 『浜頭こそ、早いではありませんか。今日は用材調達隊を乗せてきた関係で早めのキドニア到着です』
 『俺らはいつもこんなもんだ。今日の俺らはだな、これから、お前たちの浜に行く、何か用事があればことづかってやるが』
 『それは別にありません』
 『そうか、よし、判った』
 見るとスダヌスの息子たちも彼の後ろに立っていた。
 『親父、もういつでもいい。行こうや』
 『おう、そうするか』と言って、持っていた木札10枚をギアスに渡し、 
 『パンをもらおう。その籠ともよこせ!』
 彼は息子たちに、パン籠を持たせ場を離れていった。
 
 パリヌルスとオキテスは、アヱネアスとイリオネスと今日の予定を打ち合わせて、浜でスダヌスの到着を待った。
 小島ではアレテス以下全員が総出で今日の出漁のタイミングをはかっていた。
 ギョリダは、思案緊張の面持ちでいる。『今日の目指す釣果を首尾よくやれるかな』その一事であった。
 アレテスは、その様な雰囲気の中にあって、全員の統率に当たっていた。
 パリヌルスとオキテスは、浜を目指して波を割ってくるスダヌスの船を見とめた。パリヌルスは、空を仰いで太陽の位置を見定めて、今日の段取り運びのタイミングを組み立てた。今日の仕事の重点は、出漁のタイミングとその結果である。如何様な釣果が出るか。内心では、『まず、仕損じることはなかろう』と確信を持つ反面、気をもんだ。
 気をもんで、どうにかなるものではないと解っているのに心が揺れた。
 『まあ~、どうでもいい。結果を信じる』
 もどかしい自分を感じていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  297

2014-06-18 07:14:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ソリタンは、出発の際に用材調達隊が持参する伐採用具の鋸を見てその貧弱さに驚いた。
 クレタ島ではすべての建物が木材で建てられているといっていい。あの有名なクノッソスの宮殿も東地区の各地の宮殿、交易物の集散所もすべて木材で建てられている。また、東地区に存在する森林が枯渇するところまで樹木を伐採して、全盛を極めた造船業等、この時代、世界でも屈指の木工業の盛んなところであった。それらを背景に木材加工の道具が想像以上に進歩していたと考えられる。そのなかのひとつ、鋸は、トロイ民族の使用している鋸に比べて、クレタ人が使用している鋸は、大きさ、種類が切断する木材に合わせて使用する適性が考えられていた。しかし、この時代、鋸は青銅製であった。青銅は鉄に比べて柔らかい金属である。鋸が鉄製となるのは、こののち200年後である。
 予談を許されたい、鋸の歴史について触れる。鋸がこの世に姿を見せるのは、新石器時代である。紀元前6000年のころのものと思われる鋸刃を付けた石器が発見されている。これでもってヤスリを使うように使用したのではないかと思われる。この頃の鋸は、押し型、引き型の種別はされていなかった。それから、3000年の時を経てエジプトで青銅製の鋸が使われるようになったらしい。この時代エジプトで使用された鋸は、鋸を使用するときの鋸刃がたわまないようにとの配慮から引き型の鋸であった。紀元前800年ころと思われる鋸は、メソポタミア地方で発見された鉄製で押し型の鋸であった。そして、鋸の刃が「あさり」構造となるのが紀元前350年のころである。(「あさり」とは、鋸の刃の構造の事である。鋸の刃先が交互に外側方向に曲がっている。この構造の事をいう。木材を鋸の刃の厚み以上の幅で切断していくために設けられている構造である。この構造は、材料を切断するときの抵抗を少なくし、切断中に出る木屑を外に出やすくして作業の効率を向上させている)
 クレタ人が使用していた鋸は、伐採する樹木、木材の関係上トロイ人らの使用する鋸とは比較できないくらいに種類が多かった。そのうえ、鋸の刃の断面がうすい台形形状であり、鋸刃の「あさり」構造の前駆的形状をしていた。そして、引き型の鋸であった。クレタ島の存在する地球上の位置、そして、木工業の隆盛を極めたクレタ、そういった状況が鋸の構造に現れていたといって過言ではないと思われる。
 ソリタンは、舟艇の上で、それとなく持参する道具の事についてマクロスと話し合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  296

2014-06-17 07:22:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは小島から戻った。浜で作業している者たちと簡単に打ち合わせを済ませ、オキテスのいる広場へ向かった。
 彼らも打ち合わせが終わろうとしている。オキテスが締めの言葉をかけた。
 『マクロス、全権を、お前にゆだねる。いいな。同行は案内役のソリタン、それからトピタス、他8名総員11名で事に当たってくれ。明朝出発、都合3日を予定している。以上だ』と言って、一同を見まわした。
 『では、解散!マクロスとトピタスは残ってくれ』
 言葉を継いだ。
 『おう、パリヌルス、終わった。何か話があるのか』
 『おう、出来ることなら、この際だ。手配したい用件がある。話し合えるか』
 『おう、いいぞ。やろう』
 四人は車座に腰を下ろした。
 『用件はだな。今日、小島でアレテスたちの撃剣訓練の模様を見て、ふと浮かんだ考えだ。訓練の場では必ずと言っていい、けが人が出る。実戦用の剣を用いてやるからだが、しょうがないと言ってしまえばそれまでだ。剣と槍にかわる訓練用の道具を木で造ったらと考えた。木で造った剣、槍を使ってやれば、ケガといっても打撲で終わる。切り傷を負うことはない。オキテス、お前、どう思う。ガリダに手配して材料を準備してはどうかということだ』
 『パリヌルス、お前いいことを言うな。それはいい、俺は、お前の言うことに賛成だ。判った、手配といこう、決定だ。お前が発案者だ。早速だが素材を1本づつ造ってくれ。一行の出発は明朝だ』
 『判った、すぐやる。素材の数量、納期等を勘案して連絡する』
 パリヌルスは、トピタスを連れて場を離れた。彼は、剣と槍に相当する素材を1本づつを、トピタスに手伝わせて準備した。次に納期について一考した。ガリダにどのように指示するかである。数量は、木剣用800本、槍用500本として、納入は暦の始まる前までに間をおいて3回ぐらいで納入してくれるようにガリダに依頼する事にした。
 パリヌルスは、それら連絡事項をオキテスに伝えるとともにトピタスに素材見本を託する旨を伝えた。