『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  687

2015-12-29 06:07:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『小部屋の準備、承知しました。オキテス殿、むつかしくは考えませんよ、それでいいのですね』
 『それでいいですとも。これで一件落着。ところで、今日の会議は?』
 『何も難しいことはないと考えています。新艇の価格決定の日程に関してだと思います。新艇完成まで2カ月を切りましたから』
 『解った。心して出席する。宜しく頼む』
 オキテスとスダヌス、二人は、魚売り場を見て廻った。
 『スダヌス浜頭、会議の場で』と言いおいて、オキテスは売り場をあとにした。
 オキテスの心はざわついている、落ち着かない、あてもなく各売り場を見て廻る、彼はうつむき、考えごとをしての歩運びである、聞きなれた声が耳に届く、顔をあげる、パン売り場についていた。
 『おう、オキテス隊長、お帰り!用件うまくいったかな?』
 『おう、オロンテス、統領の来訪を明後日として決めた。それでどうだ』
 『おう、それでいい、この件は急いだほうがいい』
 『そうだな、俺も時を計らずに仕事に集中していて見落としていた。新艇の完成時期が2カ月を切っているのだな。オロンテス、俺たちが関係している事案を急がねばならない』
 『そうだな、解った。オキテス、昼時だ!広場で昼めしにしないか』
 『おう、いいだろう』
 二人はパンを持って、広場の一隅に腰を下ろした。
 二人の話は、会議の件に集中する、その成り行きをシミュレーションした。
 『どうだ?オロンテス、今日の会議は、もっぱら聴き役に徹しようと考えている、お前はどうだ?』
 『私もそれがいいと考えています。動向の聴き取り、これが大切だと考えています』
 『お前と俺の意志はそれで決まりだ。今日はハニタスを立ててやろうではないか。スダヌスから聞いたのだが、新艇建造の用材価格が決着したそうだ。それも安いそうだ』
 『ほう、そうか。それは我々にとって幸いする』
 売り場のスタッフが二人を呼びに来た。
 『オロンテス棟梁、ハニタス殿から伝言です。早速、詰所の2階の小部屋に来てくれとのことです』
 『おう、判った。オキテス、行こう!』
 立ちあがる二人、歩き始める、目標に向かう強い足取りであった。



   ごあいさつ申し上げます。
   今年も今日を含めて、三日となりました。
   今年もアクセスいただいたこと厚く御礼申し上げます。
   来る年があなた様にとって、幸せな年でありますように
   力いっぱい!祈ります。では、いいお年をーーー。
   
     2015年12月29日    山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  686

2015-12-28 04:56:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、マスター、今日は遅かったな。待っていたのだぞ!』
 『あ~、それはそれは、申し訳ない、お許しをーーー』
 売り場のスタッフたちはてきぱきと事を運んでいく。
 『そうか、今日は風がきつめに吹いている。海は荒れていたか?大変だったな。いつものパンを3つくれ』
 『は~い、お待ちどうーーー』
 『ありがとうございます。お客様、お待たせしたお詫びです。口にしてみてください。新しく焼いた堅パンです。塩味と羊乳蜂蜜味です。どうぞ』
 客は手にした堅パンを口に運んだ。
 『おう、これは噛み応えがある。噛んで砕けば口の中にうまさが拡がる。マスター、これはいけるかもな』
 『ありがとうございます』
 『マスター、この風は、心配せずとも、昼過ぎにはおさまる』
 客は売り場をあとにした。パン売り場の今日が始まった。

 オキテスは、スダヌスの売り場を訪ねている。
 『浜頭は、おいでですかな?』
 『あっ!どちら様で?』
 『はい、ニューキドニアのオキテスと言いますが』
 『浜頭は詰所の方に出向いていますが、もう帰ってくる頃ですが、お待ちになりますか。呼びに行ってきます』
 『そうですか、お世話かけます。待ちます』
 オキテスは売り場を見て廻る。話し合った彼は、浜頭を呼びに詰所の方へ出向いた。
 オキテスの待った時間は、つかの間であった。スダヌスが小走りで駆けてくる。
 『お~お、オキテス殿、道中、風、強かったでしょう。ようこそ、ようこそ。今日のこの風、午後にはおさまりますよ、帰りは心配いりません。挨拶が長くなりました、ご用件は?今日の会議の件ですかな?今もハニタスと話し合ってきたところですわ。ガリダからの用材の事ですが、考えていたより安くあがりそうですな。あ~あ、用件、用件を伺います』
 『浜頭、統領が明後日、ここへ来ると言っています。浜頭の都合はどうかと思い、その打ち合わせです』
 『それはそれは、統領がここへ来られると、何かむつかしい用件かな?』
 『用件については聞いてはいない。むつかしい用件ではないはずです』
 『体はあいています、ここにいますが。言ってくだされば、私がニューキドニアに出向いたのに、何か急ぎの用件でもできたのかな?』
 『いや、私の察するところでは、むつかしい用件でもなけえれば、急用でもない。ただ、顔を見て、話し合いたいことができたといったところだと考えています。話し合える小部屋でもあれば、いいといったところです。軽い気持ちで会っていただければ、それでいいのです』
 『判りました。喜んでお待ちいたします。イリオネス殿も一緒かな?』
 『それはどうかな?決めてはいないと思います』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  685

2015-12-27 08:23:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、遠くに去ったトロイ時代の事を思い出していた。
 『ほう、『60』とは、その様に便利な数字であったのか』
 アヱネアスがうなづく。雑談が肴の昼食会が終わった。各自が担当の役務に戻っていった。
 オキテスが声をかける。
 『オロンテス、明朝は一緒だな。よろしくな』
 オキテスは声をかけて、新艇建造の場へと足を向けた。

 ニューキドニアの朝が明ける。
 西風が強く吹いている、久しぶりの荒れ気味の天候である。
 海は荒れている。海底の砂をまきあげて濁っていた。ギアスとオロンテスが肩を並べて海を見つめている。
 『おう、ギアス、この風はどうだ?強さが増すか、小康するか、どちらだと考えている?』
 ギアスが空を見つめながらオロンテスに答える。
 『オロンテス隊長、雨の心配はありません。キドニア行きは大丈夫です。出航時間を少々遅らせましょう』
 一拍の間をおいてギアスがオロンテスに話しかける。
 『ヘルメスに積む荷物には、飛沫に対する覆いをお願いします』
 『おう、心得た!』
 オキテスが来る。心配りの表情をしてギアスに話しかける。
 『おう、ギアス、海が結構荒れているな。出航の方は大丈夫か?』
 『はい!隊長、これくらいでしたら大丈夫です。少しばかり出航時間を遅らせています。オロンテス隊長とは打ち合わせ済みです』
 『判った』
 彼らは波立つ海に身を浸して、朝行事を済ませた。アヱネアスも来る、イリオネスも荒ぶる海で朝行事を終え、心配顔で出航作業のヘルメスを見つめる。
 イリオネスは、言葉をかけようか、かけないでおこうかと迷った風情で目を向けている。彼らから返る答えが解るだけに迷った。
 『気を付けていって来い!』としか声がけができない、彼は躊躇せずにその言葉を彼らにかけた。
 『ギアス、くれぐれも言っておく、危ないと感じたら戻るか、至近の浜へつけて難から逃れろ!いいな!』
 『はい!解りました。では、行ってきます』
 ヘルメスは強い西風に押されて波を割って進む、帆張りは3分の2くらいにとどめている、沿岸から遠く離れず、安全航行でキドニアを目指す、飛沫に気を配って操船した。船だまりが見えてくる、ヘルメスは難なくキドニアに着いた。
 オキテスとオロンテスが艇上の者たちをねぎらった。
 『おう、オロンテス、今日の会議は、昼からであったな。俺はスダヌスのところへ行ってくる』
 『判った。昼めしは一緒だ。打ち合わせをしておこう』
 『おう、スダヌスとの話は、統領の件だ。初めから統領がキドニアに来るということで話を進める』
 『おう、それでいい!了解した』
 オキテスは、スダヌスの売り場へ、オロンテスは、パン売り場へと足を向けた。
 パン売り場では、客が待ちかねていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  684

2015-12-26 04:44:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『60』という数字は便利な数字であった。ページを割いて『60』という数字について語る。
 人類の文明開化は、BC5000年に始まっている。今をさかのぼること7000年も昔である。それは遠い遠い昔であるといっていい。
 文明を開いた人間たちが、どこから来たのかは定かではない、また、彼らが定住したところが古代バビロニアの地であったのかもわかってはいない。後世の人間たちは、彼らをウバイド人と呼んでいる。
 時代は下ってBC3800年頃にシュメール人と呼ばれる人間たちが、その地に定着してシュメール文明と呼ばれる、メソポタミア文明の基礎となる文明を開いて、地球上の中近東と呼ばれる地に、この時代、もっとも繁栄した地帯を築いたのである。
 彼らのやったことは凄いの一語に尽きる文明開化事業である。世界で最初であろうと思われる美術、建築、そして、律令、細やかな慣習、社会機構の構築、初めてのクサビ形文字の作成、船、車つき戦車などをこの頃のシュメール人は造ったと言われている。
 また、天文についても太陽の巡りと月の巡りを正しく理解して、太陽の運行周期に対して月の運行周期の12倍であることを確かめ、秒、分、時も定めたと言われている。彼らの暦は月の運行による太陰暦であった。それから、いま私たちが使っている7曜制も定めていたらしいと言われている。このようにして、今、地球上で最古であろうと言われる高度の文明を持った都市国家を建設していたのである。
 算用に使用する数進法は、12進法であり、1から100までの中で約数が一番多い60を基数とした60進法であった。しかし、60進法記数法は、60を基底にした記数であり、60種類の数字を必要とする。これでは多すぎるということで両手の指本数による10進法で表す工夫がされていたらしい。
 このシュメール文明では60進法に基づく整然とした度量衡制度まで有していたらしいといわれている。
 彼らがつくったシュメール文明がメソポタミア文明に引き継がれ、エジプト文明、インダス文明、クレタ文明の誕生に影響したと推察されている。また、これらの文明と交流があっただろうと考えられている。
 古代メソポタミア文明に影響を及ぼすシュメール文明の精緻な体系がエジプトにわたり、バビロニア、アッシリアを経由して、古代ギリシアにも継承されたと考えられている。
 『60』という数と文明には、地勢とそこに住む民族が関係する。古代のバビロニアとエジプトを比べると、バビロニア地方は戦いが多い地方であったらしい、シュメール人は、好戦的で戦いに強く周辺の民族と絶えず、戦いに明け暮れていたのではあるまいかと思われる。エジプトは、周辺の民族とは争いが少なかった。『60』という数字は、戦利品の分配に使われた数字なのである。約数の多い60なる数が分配のパターンも多く、平等を原則とする戦利品の分配に使うのに便利な数であったのである。争いごとの少ないエジプトでは、10進法による数で事足りたらしい。
 これが『60』という数の由来である。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  683

2015-12-24 05:04:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼食会は和やかに進んでいる。雑談が肴になっている。
 雑な談義がネクストへのステップになることもある。彼らは雑談をおろそかにすることはなかった。雑談が彼らに気づかせる万象を大切にした。
 オロンテスが座をはずす、パン工房へ堅パンを詰めた箱を取りに向かった。
 一同は堅パンの詰まった箱を改めて目にした。
 アヱネアスが口を開く。
 『おう、オロンテス、それが堅パンを詰めた箱か。ほどいい大きさではないか、蓋をとって見せてくれ。なかなか気の利いた造りではないか。簡単構造でありながら使用用途に適した造りではないか。この箱に堅パンをどれだけ入れるのかな?』
 『はい、堅パン60枚です』
 『そうか60枚か、いい枚数ではないか。40~50ではちと少ない感じがする、そうと言って80~100では多すぎる感じがする。60とはいい数だな』
 『60という数字に関して統領もそのように思われますか。テカリオンもそのように言っていました。それで、セレストスにどうして60枚入りにしたのかと質したわけです』
 『ほ~う、どのような返事が返ってきた?』
 『箱を作るときに準備した用材のサイズも関係したのですが、仮り箱を作って堅パンを入れてみて、60枚入れた箱の大きさが、タテ、ヨコ、タカサの均整の取れた、扱いやすい大きさ、用材の量、限られた時間内に作れる箱数も関係したのです。そして、出来たのが堅パン60枚入りの箱だったというわけです。ところが60という数字が、いかに便利な数字であるかがセレストスの説明で解りました』
 『何っ!?60が便利な数字だと?』
 オロンテスは、『60』という数字について説明し始めた。
 『『60』という数字は、物の分配に関してとてつもなく便利な数字なのですな。1から100までの数字の中で、約数、物の分配に関して割る数が1番多い部類に入る数なのです。約数の多い数は、60と90の二つだけなのです。それで60が最適ということで60にしたということです。私は『ほっほう!』と感心しましたね。そういうわけです』
 『ほう、『60』という数はそのような数か、目からウロコだな』
 一同は、オロンテスの話に感心した。
 イリオネスは何かを思い出していた。彼は、この『60』という数字を過去に使ったことを思い出していた。
 『そうだ。トロイ時代に、この『60』という数字を使ったことがある』
 彼は、トロイにおいて役務の関係でこの『60』という数字を使った。アンキセス(アヱネアスの父)に従って、金鉱、銀鉱の採掘業務に携わっていたとき、採鉱作業、選鉱施設の設計に使った数字である。その時、アンキセスが話してくれた。
 『イリオネス、この『60』という数字はだな、ものを分けるとき、物事をするとき、何かを造ったりするときに使う便利な数字なのだ。『60』という数字はだな、約数が多いのだ。2から3、4、5、6、10、12、15、20、30まで10個もある。いろんな事に使える。これを使って、作業、設計、分配と仕事をやるのだ』ということであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  682

2015-12-22 05:34:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、会議の進行を担当して合議による集団意思決定作業をしている。次を考えた。討議をすることがあるのか、ここで、価格決め会議に出席を予定しているオキテスとオロンテスに指示を出すべきかを考えた。彼は統領の意向を解析した。
 『統領の意向については、今、俺が言ったように、その要諦に不足もなければ余りもない。これが新艇建造事業の骨子であり、柱である。今後、この事案について、実行計画を作成し、段取りして、業務の完結を目指す、いいな。5艇の完売!これが第一次業務の完結である。この事業の将来については、第一次業務の完結時点において考えることとする』
 パリヌルスら三人は、『解りました』と力感のあるトーンをもって答えを返した。
 『我々は会議、打ち合わせをすることによる意思決定をしている。そして、決定した事項を共有している。脚下の照顧、確かな一歩を迷うことなく踏み出してくれ。オキテス、オロンテス、明日の第1回会議出席の件よろしく頼む。これを終えて、価格決定へと具体化していく、事態が我々の望む方向へと推移していくように努めてくれ。私の予測では明日の会議が終われば、価格決定は時間をかけず、急展開で決まると考えている。その短い時間の間に統領の懸念されているクレタにおける船の取引の形態と実情、動向について調査すると同時にスダヌス浜頭を通して、そのあたりの話を聞く機会を作ってくれ。オキテス、オロンテス解ったな!』
 『解りました』
 『スダヌス浜頭をこちらへ招く、または、こちらからキドニアに出向いてもいい、手配してくれ』
 『解りました。この件は急を要しますね。心得ました』
 『よし!このほか会議で話し合うことがあるかな?』
 『ありません』
 『では、会議を終わる。雑談してもいいぞ、自由に話し合ってくれ。統領、会議を終わります』
 『おう、一同ご苦労であった。もう昼近いな、一同で昼めしでもどうだ』
 『いいですね!昼、一緒しましょう』
 『私ら二人、用事があります。用事を済ませてすぐきます』
 パリヌルスとオキテスは、浜に向かう。オロンテスは昼食の準備に取り掛かった。
 二人が戻ってくる、昼食の準備はできている。
 『おう来たか。始めよう』
 五人の昼食会が始まった。
 オロンテスが準備した堅パンとぶどう酒が供されている。
 『おう、この堅パン、ぶどう酒に合うじゃないか、重畳!旨い!オロンテス』
 『そうですか!よかった!好みがあると思いますよ。旨いまずいは辛口批評で言ってください』
 アヱネアスが声をかける。
 『おう、オロンテス、テカリオンに渡した堅パンの完成品を見てみたいのだが』
 『判りました。少しあとでもよろしいですね』
 『おう、それでいいとも』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  681

2015-12-21 06:07:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 雑談もいきつくところにいきついたようである。イリオネスは一同に声をかけた。
 『おう、始めようか』
 ひと声である。場が静まる、座を整えて姿勢を正す、イリオネスが告げた。
 『おう、諸君!会議を続ける、力みを抜け!自然体になれ、緊張するのは解る、どうも緊張はいかん、この場にふさわしくない、話し合っているのは五人だ。身構えるな』
 一同と目を合わせる。
 『話はどこで止まっていたかな?』
 イリオネスは、一同に問いかける。オロンテスが答えた。
 『統領の将来を見据えた先見的な考えをもって立ち位置を決め、スタンスすることがいいのではないかと考えます。軍団長、我々の立ち位置を決める。そして、目標の実現に向かって事を為していく、決定の採択されてはと考えています』
 『オロンテス、解った。俺もお前の考えに同調だ。では、一同にたずねる』
 彼は、そのように言って、パリヌルスとオキテスと目を合わせた。二人の目はイリオネスの意見にうなづいている。
 『オロンテスの言った、統領の意向を柱としての立ち位置、スタンスに賛成ならば手を上げてくれ。賛意がないとなれば、その意見を言ってくれ。俺は賛成だ!』
 オロンテス、パリヌルス、オキテスの三人は直ちに手を上げた。
 『よし!解った。これで我々のスタンスが決まった!次は、この業務遂行に関する利益のカタチだ。統領の意向、オロンテスの見解だが、このほかに考えられる意見を聞きたい。会議に出席を予定しているオキテス、試乗会の催行を担当しているパリヌルス、お前ら二人の意見を聞きたい』
 パリヌルスが答える。
 『私の考えでは、統領の意向、オロンテスの見解で、いいと考えています』
 続いて、オキテスが答える。
 『私もパリヌルスの言った考えです。これもどの線で考えていくか、軍団長、採決してください』
 『よし!解った。俺の考えるところ、これについては四択として君らに問う。一番、統領の意向。二番、5艇の早期完売。三番、時間がかかってもいいから利益を重んじた売り行為でいく。四番、二番と三番の折中案だ。これで採決をとる。挙手で答えてくれ』
 『解りました』
 『一番の統領の意向に賛成の者、手を上げてくれ』
 パリヌルスら三人はためらわず手を上げた。
 『そうか。俺も統領の意向に賛成している。よし!これで決定だ。統領の言われていることは、業務の遂行に関するすべてを包括している。目標に対する実行要諦に不足もなければ余りもない』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FRPOM TROY   第7章  築砦  680

2015-12-18 05:14:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同がオロンテスの話を受けとめた。アヱネアスが口を開いた。アヱネアスを見つめる八つの目。。
 『おう、オロンテス、お前の考えを聞いた、よく解った、納得できる。皆も納得したであろう。俺の考えを述べる』
 アヱネアスは、四人の見つめる目と目をを合わせた。おもむろに口を開く、姿勢が改まった。
 『俺たちにはよく解っていない、解っているのかと問われると、『ノー』としか答えられない。このクレタにおける、この種の船の建造と取引の実態と現状、そして、その価格だ。おぼろげでもいいその実態を知りたい。俺の想いは、その実態、その実勢、その現状を破壊する!その考えでもって、この事業を遂行して完結する。そして、事業が未来に引き継がれていくカタチができればと考えている。5艇、同時完成はそのためでもある』
 一同は、カタチとして、完成していない、アヱネアスの統領としての事業構想を耳にした。パリヌルスら三人の構想の上を行く構想である。三人はこの構想に打ちのめされた。解らないのはイリオネスの考えである。三人はイリオネスの意向、意見は聞いてはいない、アヱネアスと同等の意向であり、意見ではなかろうかと推考した。
 オキテスが述べる。
 『明日の会議では、新艇の価格決定作業の段取りを決めることが焦点であろうと考えています。明日の会議を終えて、短時日の間に価格決定の会議が開かれる。私はそのように考えています』
 イリオネスは、新艇の価格決定に関する状況を把握した。彼もアヱネアスの未来を見すえた意向、意見に感動していた。パリヌルスら三人はしたたかに頭部を強打された感じを受けていた。
 イリオネスが言う。
 『統領の意向、意見。オロンテスの考えを聞いた。新艇の価格決定に対して、どのようにスタンスするかを決めるところに来た。少々、休憩して会議を続けよう。その間に各自考えをまとめろ!いいな。我々全員が共通の認識を持って、この件に対する姿勢を決める!』
 一同の緊張がほぐれる、雑談を交わす、山菜を乾燥させ煮出した茶を喫しながら交わす話には力みがなかった。
 パリヌルスは考えていた。合議制をもって決める新艇の価格は、妥当なものであろうと考えている。価格決定の諸条件、世情、状況の判断、決定に至るプロセス、我々の考えの及ばない要因も含んで決まると予測していた。それが信頼される妥当性のある新艇の価格である。
 提示価格は、商談、交渉、駆け引き等に対する弾力性のあるものに決まってくれることを望んでいた。個々の場において、考えも及ばない心理状態も作用する、大型商談のまとまる不思議もあることであろうと考えていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  679

2015-12-17 06:11:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスの言葉にアヱネアスは深くうなずいている。パリヌルスら三人も深くうなずいた。。イリオネスの吐いた言葉は、一同の胸に鋭く突き刺さった。
 言われてみればである、木札1枚でパン一個を買う、その様な商いと異にする大きな商いである、納得できる。
 彼らは、その深遠なる商談の状況状態を思いやった。
 会議の場はしい~んとしている、思いが沈み、重さを感じさせる雲が靄っている。彼らは口を閉じている、沈思の時が流れていく、思考作業が五体の中を右往左往して迷った。
 頭の中の各所に点在する意味を持つ言葉、軽く浮遊する言葉は、流れ去る、重い言葉は、自重に耐えられず沈みゆく、彼らは身の動きを止めて、思考に集中する、残った言葉の意味を探った。
 考えがまとまってくる、ためらわず決める。
 決めた言葉が、波に翻弄される、すさぶ風に飛ぶ、波静かな海面にたゆとう、宙に舞い踊る、それらの言葉がところを得て落ち着く。
 この思考についてオロンテスには、わづかだが一日の長があった。彼が意見を述べた。
 『みなさん!私の考えーーー、私が業務を担当して遂行していくうえで考えたことは次のようなことです。新艇を建造する、その終極にある目標は何なのかです。一族の意志を収束しての高揚か、そして、それの為すところに利益を求める。その利益は、一族が生計を立ててゆくのに費消するためのものか、または、新艇の建造を事業として継続していくのか、で、利益のカタチが違ってくる。利益の獲り方、利益の量が違ってきます。ということは、一艇一艇を大事に取り扱って収益をあげる。また、建造した5艇を時限を設けて売り切ってしまう。これを販売目標とした場合には、利益を抑制した販売政策でやらねばならないのではと考えられます。以上が昨日一日をかけて考えた、私の考えです。まあ~、これを簡潔に言いますと一艇一艇の利益を大切にして5艇を売る。または、短時日に5艇を売り切ってしまう。この二つの販売政策のどれでやるかによって、我々が手にする利益の総額が変り、利益の質も違います。そのようなわけで新艇の価格決定額が変わると考えています』
 
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  678

2015-12-16 06:05:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 日が替わる、日常が始まる、一族総員出動での日常である。アヱネアスもイリオネスも総員が仕事に精を出す風景がたまらなく好きであった。
 『イリオネス、今日は会議をすると言っていたな。どこでやるのだ?』
 『はい、今日の会議は、重要な案件に関する会議です。統領の宿舎でやろうと考えています』
 『おう、いいだろう』
 集散所における新艇の価格決めの会議を明日に控えて、アヱネアス以下五人が統領の宿舎の小部屋に顔をそろえた。
 パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人は、昨夜のうちに会議の事前打ち合わせをしておいた。会議の議題に対して、各自が考えをまとめておいてくれるようにオロンテスは依頼しておいた。
 会議の進行はイリオネスが担当してスタートした。
 『おう、諸君、毎日ご苦労!昨日だが、オロンテスから会議をもって打ち合わせたいと申し入れがあった』彼は場を見廻した。
 『では、会議を開く。明日の事だが、集散所において第1回の新艇の価格決めの打ち合わせ会議が行われる。重要な案件であることは言うまでもない、いいな。当方からの出席は、オキテスとオロンテスである。この件について、我々として統一した考えをまとめて、ここにいる者、全員が共有しておく必要がある。考え方には、当然、軽重が存在する。新艇の価格を決めるにあたって、目標とそれに対応する条件を決めて、これを共有してこの件に当たる。言うなればだが、新艇の価格を決定する思考の原点を探り、条件を設定する。それを共有して、今後において発生する事態に当たるということだ。会議では、これについて話し合う』
 イリオネスは一同の目を見つめた。
 『オロンテス、これについて、お前が考えたことを話してくれ』
 オロンテスは、思いつくままに列挙して書き付けた木版を提示して話し始めた。新艇の価格決め会議に出席する担当者の責務として意見を述べた。そのうえで、我々が共有すべき利益の原点は何であるかを決めたい旨を吐露した。
 それを受けて、イリオネスが口を開いた。
 『今のオロンテスの言ったことを決定して、新艇を売る!新艇が売れる!その状況状態を想像しイメージする。展開する場面に想起される事態に直面する。この場面では俺はこのようにする。この場合には、このように対処する。その場において、曲げることのない己の心構えを話してほしい。いいな』
 ここまで話して、イリオネスは沈思した。息を継ぐ、再び口を開く。
 『商談において、この件については、相手の言い分をここまでのめるが、全てをのめない。また、これには承諾するが、これは承諾できない。必ず、交渉の段階で意思決定の分水嶺を行ったり来たりする。その時に我々が共有している利益の原点を思い起こす、どう合致するかを考える。そして、意志を決めて商談の決着を目指す、ということだ。それくらいに大事な決定を促す、意思決定の原点なのだ。一同、真剣に考えて話し合おう、いいな』