『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  475

2015-02-27 07:17:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうですか』
 『自分を真っさらにして、己が所属する組織を編成して事に挑む。それが俺の目指すところだ』
 『いいですね!私も心構えを新たにして、この業務に携わっていきます』
 『おっ!そうか、ありがとう。それは何よりだ』
 二人は話を交わしながら歩を進めて軍団長の宿舎に着いた。イリオネスが戸口に立って彼らを迎えてくれる。
 『おう、ご苦労。統領もいまここにおられる、話し合いを聞いてもらってさしつかえないな』
 『え~え、一向にかまいません』
 『オキテスはもう来ている。即刻、始めよう』
 二人は場についた。
 『おう、オキテス、話の進行をお前に任せる』
 『はい、判りました』と答えて、オキテスは一同と目を合わせて口を開いた。
 『では、先日の話し合いで決定した新艇の建造事業起ち上げに関する話し合いをする。パリヌルス、その概略を話してくれ』
 『解った。この業務を遂行するにあたって、その概略を述べる。建造する我々が誇りと出来る最良の品質の新艇を造りあげる。建造の仕事に携わる者が『最良の船を造る』という不退転の心構えでこの業務に取り組む事ができる組織編制で当たることが肝要である。最良の品質の新艇を建造するについて大切なことは、次に述べる三点であると考えている』
 パリヌルスはここで一拍をおいた。
 『その第一は、最良の船を造るにふさわしい良材の調達。第二は、船を造る最高の技術力。第三は、この業務に携わる者たちが持つべき、最良の船を造るという、モノづくりの心構えである。この三つが最高で最良でなければ、最良の品質を誇る新艇の建造を結果とすることはできない。この業務遂行のための、この三点について具体的に説明する』
 彼は、眼差しを改めて説明に及んだ。
 『第一の良材の調達について、新艇試作の折にドックスとも話し合ったことでもあるが、建造する船にふさわしい最良の良材こそ、最良の品質の船の完成に通ずるということである。これについて、我々はこのクレタ島について知らないことが多い。良材の調達には、クレタ島の森林に詳しいガリダ一族の手を借りての調達を考えている。第二の船の建造技術力であるが、ドックスが造りあげた新艇をもって評価してもらえばわかると思うが、その造船技術は最高の領域であると認めたい。彼の造船技術は、水準を超えた技術であると認める。彼に任せて高い技術力を組織でもって実現する。この最良の技術力を組織として実行していかなければ、3か月5艇の建造は不可能である』
 パリヌルスは、ここでひと息ついた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  474

2015-02-26 07:24:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、新艇の横に立って、眼前に拡がる広大な海を見つめた。彼は思考のスイッチをオンにした。
 『向こう三カ月で新艇5艇の建造か』
 そのことを決定した統領アヱネアスが身体のどこで考え、意志決定を下したか。彼はそれについて考えた。
 『人とは、不思議な生き物だな』と思った。
 考える、意思を決める、それを言葉として口から声として吐き出す、その一連のプロセスを吹きすぎる春風に身をなぶらせながら考えた。
 自分たちが生きている、この果てしない膨大な世界、この大空間の事を想った。
 『俺は、このように風に飛ばされる野の花の種のごとく小っちゃい。しかし、事を為そうとする俺は、この膨大な世界、この大空間を覆い包むようにでっかくあらねばならんのだ。でっかい志とはそういうものであろう』
 彼は、己の志を定義した。そして、発想は自由な知性によるものだとした。そのようにスタンスしたときに『海上を駆ける船などいかほどのことがあろう』しかしだ『この大きくてでっかい俺が、この大空間中に風に飛ばされる花の種より小っちゃな自分を。感じる時があるとは情けない!』
 想いがこの次元に到ったとき、自分を呼ぶオキテスの声を耳にした。我に返った。
 『よし!物事は身体で考え、身体で決定を下す、己の大小は関係なしだ』として声のするほうへ身体を向けた。そこには新しい己がいることに気が付いた。
 オキテスが近づいてきた。
 『おう、オキテス、何かあったのか?』
 『おう、例の件だ!新艇建造の件について話し合わねばだ』
 『メンバーはどのように決めている?』
 『この段階では、ごくごく限ったトップの4人でと考えている。そのうえで、組織編制、段取り手配、作業のスタートと考えている。メンバーは軍団長、お前、俺、そしてドックスの4人だ』
 『話し合いの場所は?』
 『軍団長の宿舎でやる』
 『いいだろう。直ぐ、やろう!俺はドックスを連れてそちらに向かう』
 『おう、判った。軍団長に声をかけて、待っている』
 パリヌルスは、ドックスに声をかけて、話し合いの場である軍団長の宿舎へ向かった。
 『パリヌルス隊長、いよいよですね、大計画のスタート!』
 『おう、そうだ。先ほどツラツラと考え事をしていたのだが、身体の全てをかけて考え、決定して事に当たる。これを再認識して事に当たっていく!お前の横にいるのは新しく生まれ変わったパリヌルスだ。ドックス!』
 彼はドックスと目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  473

2015-02-25 07:55:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、はっしと膝を打ち、
 『ほうっ!そうか、それもいいな。走りを競り合う、競艇か、それは面白い!お前なかなかいいことを言うな』
 『隊長!それこそ、海の男の面目躍如です』
 『おう、私は何としても、それをやりたい!』
 『ほっほう、そうか。お前らやってみたいか。それなら、いつかだなーーー。頭の片隅に置いておく』
 一同は、勝手に話題を見つけて、ワイワイと話し合った。パリヌルスは、一同の話に耳を傾けた。ドックスを中にして、話、議論が沸いた。
 その話の中にとんだ話が持ちあがっていた。『帆船で向かい風に向かって船を進められるか?』それが出来るか、出来ないかの話になっていた。
 そんな帆船を造れるか、造れないか。帆走で可能か、不可能か。操船でやれるか、やれないか。それを実現できるか否かにまで達して、可能が1人、不可能が9人で話が落ち着きにかかっていた。
 それが可能だ、出来るといった若者の顔をパリヌルスは、じい~っと見つめた。
 『此奴、未来を覗きたがっている』
 9対1、絶対多数に押さえつけられている。ドックスとギアスといえば、第三者の立場でこれを眺めていた。
 パリヌルスは、この風景を見つめて『可能の明日を信じる唯我の者か』と思った。
 彼はあとから名を訊ねることにした。パリヌルスは、新艇の傍らに立って一同に話しかけた。
 『おう、諸君!今日は大変にご苦労であった。君らに礼を言う。これにて解散する、それぞれの持ち場に戻ってくれていい。それからだが、君らヒマがあれば撃剣の訓練を怠るなよ。健全な心は健康な体に宿り、撃剣の技を身に着けて、己を自分自身で護る事を忘れるなだ。では、解散!』
 彼らは腰をあげて立ち去り始めた。パリヌルスは、先ほどの若者に声をかけた。
 『あ~あ、君、君、名は何という?名前を聞かせておいてくれ』
 『ハイ、隊長。私はキャプテンギアスの下で漕ぎかたをやっている、ロウダスです』
 『おう、そうか、判った。今日はご苦労であった。お前の櫂さばきなかなかであった。ごくろう!』
 パリヌルスは、若者の考えたことについて、ちらっと考えた。
 『それは不可能ではない。ヨコ帆はダメだが、タテ帆ならーーー。』であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  472

2015-02-24 07:11:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ギアス、どうだ。皆で昼めしを食べるか』
 『そうですね、簡単でいいです。昼めしといきましょう』
 『ドックス、お前、どうする?』
 『皆と一緒に食べます』
 『よしっ!それで決まりだ。俺が昼飯を準備する。ギアス、新艇を浜に揚げてくれ』
 『判りました』
 パリヌルスは、パン工房の方へと足を向けた。彼はセレストスに焼きたてのパンを持たせて戻ってきた。
 皆が新艇の船陰に車座を造って腰を下ろしている。彼は一同に声をかけた。
 『おう、副菜はない、こらえてくれ。焼きたてのパンとぶどう酒だ!』
 『はい、それで十分です』
 『焼きたてのアツアツパンなんて初めて口にします。それが一番の馳走です。ありがとうございます』
 『あっ!ほんとにアツアツの焼きたてですね。ごちそうになります』
 皆が一斉にパンをほおばった。
 『旨いっ!焼きたて、アツアツパン!これは旨い!パンの焼きたて、こんなにうまいとは知りませんでした』
 彼らは、パン工房長のセレストス前にして、焼きたてのパンを味わった。彼らはパンを口にして咀嚼する、満足の笑みをこぼした。
 パリヌルスがドックスに声をかけた。
 『パンの焼きたてはどうだ?今日のパンはいつものパンとは、チ~ト、違う。何とも言えない風味がある』
 『このようなパンを口にすると、いつもよりたくさん食べる。ちょっと待てよーーー。このパン、いつものパンとは、チ~ト違う、風味が違う。何となく春の野山という感じがする』
 『お前、うまく言うな。春の野山ってこんな感じか?春の風味のあるパンなんて初めて口にする。それもぶどう酒で口にするとは、旨い!』
 パリヌルスは話を継いだ。
 『おう、セレストス、皆が春の風味がある、旨いと言っている』
 『パンの新しい趣向に気づいてくれたとは、焼いたかいがありました。パンの風味のトンガリがチョッピリ足りないのかな。これで口にする者たちをビックリさせてやりたかったのに。隊長、ああっ、これは何だ!というような特徴のあるパンを焼いてみたかった』
 セレストスは立ちあがった、それにつれて、パンを食べた一同も立ちあがる。その中の一人が口を開く。
 『セレストスパン工房長、ごちそうさまでした』
 一同が唱和する、これを耳にしたセレストスは感動した。彼は大いに照れた。照れた表情をかくさずに『おうっ!ありがとう』と両手をかざし、応えてその場を去った。
 昼めしを終えた彼らはテスト航走の感想を話題にした。パリヌルスは、彼らが口にする感想に耳を傾けた。
 『ほう、お前ら、いつも乗っている舟艇とは違う走りを感じたかな?』
 『それは感じます。舟艇に比べてやや小ぶりなうえに、帆の枚数、構造の違いで走り感が軽快です。うまく風をとらえて走りを競り合ってみたいですね』
 パリヌルスは、皆が話す感想を耳にして、新しい何かを察知した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  471

2015-02-23 08:05:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テスト航走でかなりクレタ島を離れて沖に出ていた。
 『おう、ギアス、俺たち、かなり沖に出ているようだな。実験しておきたいことがひとつある。この風でその実験をやってみようと考えている。展帆航走する。要領はこうだ。舳先と艇尾のタテ帆だけを展帆する。漕ぎ座を代わってドックスに要領を伝えてくれ。俺は漕ぎ座を離れて艇尾に就く、ドックスは舳先のタテ帆を担当する。お前は艇の走りの分析に集中するのだ。ドックスには、この西風に対してタテ帆をこれくらいの角度で展帆せよと伝えるのだ。解ったな』
 パリヌルスは、艇の進行方向に対して、タテ帆の展帆角度を両腕を拡げてギアスに示した。
 『解りました』
 『では、即刻、手配してくれ』
 『隊長、漕ぎかたはどのように?』
 『漕ぎかたはつづけて、今の走りを維持するのだ。そのうえで、漕ぎかたには、櫂の操作感に変わりがあるかを聞いてくれ』
 『解りました』
 パリヌルスらは、即座に担当位置について、帆を操作して、艇の走り感の把握に傾注した。
 『タテ帆は、必ず効果する』
 パリヌルスは、心の奥底に、この思いがへばりついていることに気が付いた。
 彼は、ギアスを呼んだ。
 『ギアス、この展帆の効果については、口外禁止だ。三人だけの知るところとする。いいな』
 『判りました』
 『タテ帆の展帆航走は、小島の位置ぐらいに到達するまでだ。そこいらで帆を下ろせ!以上だ』
 『判りました』
 ギアスは、艇の走りを感じ取ろうと懸命に努めた。彼は漕ぎかたの一人に感じについて問いかけた。
 『櫂操作が少し軽く感じます』の答えが返ってきた。
 『そうか、それは何よりだ』
 彼は声をあげた。
 『漕ぎかた止めっ!肩休めだ』
 艇速が落ちたが、走りが止まらない、ゆっくりだが艇が進んでいく、小島が指呼の距離に到った。
 『漕ぎかた始めっ!』『舳先、艇尾、帆を下ろせ!』
 櫂が海面を泡立てた。ギアスはパリヌルスに身を寄せた。
 『如何でしたか?』
 『今の措置は得るところがあった。ギアス、ありがとう。浜に帰ったら三人で考えをまとめる』
 『判りました』
 ほどなく新艇は浜に帰り着いた。
 パリヌルスは一同の労をねぎらった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  470

2015-02-20 07:18:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、風力の有効活用のみを考えていることに気づいた。風力を逃す作用性もタテ帆にあるのではなかろうかと考えた。
 彼は呻吟した。思考がもだえた、何をどのように考えるべきかに迷った。
 操舵棒を握っている、起きる変化に対応している、思考が止まる、対応を終えて、また考える、思考を最初から始める、この繰り返しをやっていた。彼はつぶやいた。
 『それを必要とする状態でないと解決できないのか?』
 もどかしかった。
 『何としても、これに関する端緒をつかみたい』
 彼は、ギアスを呼び寄せた。
 『ギアス、タテ帆で風力を逃がす実験をやる。風向きに平行にタテ帆を展帆する、いいな。その効果測定をやる』
 『解りました』
 『今の風向きはこの方向だ。艇はこの方向に走っている。艇をこの方向に進路を変える。タテ帆を左舷に振って風向きに平行、若しくは風力を逃すと思われる角度に設定する。そのようにドックスに伝えてくれ。操舵によって方向を転じたら、即、やるように言ってくれ』
 『解りました』
 パリヌルスは、間をおかずに、その操作に取り掛かった。艇が微妙に反応したように感じた。結果はこうだという実感が感じられない。
 『そうか、この規模の船、この大きさのタテ帆では、この程度なのかな』
 彼は『微妙』を答えとした。
 タテ帆構造はこの大きさの船では、必要とはしない、また、使用する者の操船技術の事もあり、新艇にはタテ帆を取り付けないという結論を下した。
 3枚帆での走りは爽快そのものであった。パリヌルスは、ギアスに言って走りを楽しむことを告げた。ドックスにもそのことを告げて新艇の走りを楽しんだ。艇上の漕ぎかたの者たちとともに走りの爽快さを堪能した。
 『おう、ギアスそろそろ帰ろうか』
 『はい、判りました』
 ギアスが指示を出す、艇首を南に転じて、帆をおろし漕走する。
 パリヌルスは、操舵を漕ぎかたの一人に任せ、漕ぎ座に腰を据えて櫂を握った。
 『ギアス、ドックスに声をかけて、櫂を握れといってくれ。お前も漕ぎ座について櫂を握れ。俺らが思っているより櫂操作が軽い』
 ギアス、ドックスの二人も漕ぎ座について櫂を握った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  469

2015-02-19 07:24:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうか、解った。艇速が風速に敏感に反応して速くなる事は間違いない。三枚帆効果ありだな』
 パリヌルスは速くなった艇の走りを楽しんだ。帆に当たる風量、風当たりの上下差の為す微妙な艇の航走安定効果を測った。測ったといってもそれは体で感ずる領域である。舵を巧みに操り、風受けとそれにより、反応する艇の状態を把握し、これまでの経験と比較して自分なりの答えとした。
 その答えは『走りの安定性が、帆の形状によって向上している』であった。
 パリヌルスはギアスに声をかける。
 『ギアス、これよりタテ帆の効果を測る、いいな』
 『解りました』
 『まず、艇尾のタテ帆から始める』と言って、艇を45度くらい左へ方向を転じた。タテ帆を風向きに対して直角に展帆した。その瞬間、彼は『はっ!』として、操舵棒を握りしめた。艇は右舷を少し低めて、艇尾を右方へ振った。
 『オットット!』
 舵さばきによって、艇の進行方向を修正維持した。彼は風力の捕捉効果のあることを感じ取った。斜め後方からの風力効果を逃さずに艇体を走らせる効果のあることを理解した。それは『なるほど』のレベルであり、理屈の段階にはとどいていなかった。
 『しっかり舵とりをしなければ、艇尾が振られてしまう。くわばらもんだな』
 彼は大声をあげた。
 『ギアス!ドックスへ指示だ!舳先タテ帆展帆!展帆角度、風向きに直角だ』
 展帆されて、操舵が心持ち楽になったのではと感じられた。ここでも効果は『なるほど』であった。その有効性のレベルを感じ取り、必要性を考えた。新しく浮上してきた思案である。
 『タテ帆はあってもなくてもいいのではないか。あればあったで操船技術を理解して操舵しなければいけない』彼は考えた。
 『ギアス、ドックスにタテ帆をおろすように言ってくれ。艇尾のタテ帆もおろす。艇の航走を追い風方向に修正する。しばらくは、それで航走する』
 『解りました』
 新艇の走りは安定している。四角帆1枚の船と比べて走りの安定度が実感された。タテ帆の展帆効果も確かめた。タテ帆の展帆に風のプラス性効果のみを考えて、マイナス性の効果を測ることを忘れていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  468

2015-02-18 07:26:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 新艇は、ここ5日くらいの間に変貌した。たくましくなった。一同が渚に整列して海に浮かんでいる新艇を見つめた。パリヌルスが声を発した。
 『さあ~諸君!行くぞ!』
 『おうっ!』と返事が返る。彼は手にしていた木板をギアスに渡す、13人が海に身を浸して、艇に取りついた。
 ギアスが中央の帆柱に、ドックスが舳先の帆柱に、パリヌルスは艇尾の操舵の位置に、12座ある漕ぎ座に漕ぎかた10人、総勢13人が艇上の位置に就いた。ギアスとパリヌルスの目が合う、頷く、ギアスが声を発した。
 『漕ぎかた、始め!』
 漕ぎかたの者たちはギアスと気心の知れた舟艇の者たちである。
 航走コースは、小島の西岸沿いに北上して、北端に到って、風を読んでコース取りする段取りとなっている。ギアスは、少しの間にパリヌルスから手渡された木板に目を落とした。木板には5項目のチエック項目が記されていた。
 程なく小島の北端に到った。ギアスは慎重に風を読んだ。<風風感知器>を風に向けてかざす、やや南方向からの西風である、風力は<中位>、彼が声をあげる。
 『中央帆柱、展帆!』と声を発してギアス自身が操作して展帆した。続けて『漕ぎかた、やめっ!』と指示を飛ばす。
 新艇は、中央帆1枚で波を割って進んだ。先ずは順調な走り出しであった。
 ギアスは新艇の走りを体で測り、パリヌルスと目を合わせた。彼の目は『よしっ!』の意思表示をしている。それを受けてギアスは指示を発した。
 『舳先、ヨコ帆、展帆!』
 『艇尾、ヨコ帆、展帆!』
 舳先のドックス、艇尾のパリヌルスが『おうっ!』と答えて展帆した。
 3枚の帆が風をはらむ、艇が加速する。艇の船速が増してきた。
 舳先のドックス、中央のギアス、艇尾のパリヌルスが驚いた。新艇の加速が3人の目からウロコをはがして飛ばした。漕ぎかたの10人も驚きの目を見張った。
 彼らの口をついて出た言葉が『まさか!?』の驚きの一語であった。その加速状態に舌を巻いた。
 風を受けて走る艇上において、彼らは追い風が強さを増していることに気が付いていなかったのである。
 パリヌルスは、やっと思い至った。
 『まてよ!この加速度感は異様である』
 彼はギアスに声をかけた。
 『おい、ギアス、3枚帆にして感じる艇の体感加速度が少し速すぎはしないか?1枚帆を展帆した時より風速が強いのではないか?風を読んでみろ!』
 『解りました』
 ギアスは、艇上を舳先に向かって歩み、転じて艇尾に歩を向けて進み風を読んだ。
 『隊長、言われる通りです。少々、風が強くなっています』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  467

2015-02-17 07:42:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうか、それはよかった。アレテス、その袋は何だ?』
 『これですか、これは、スダヌス浜頭から預かってきた売り上げの集散所の木札です』
 『そんな大袋三袋もあるのか』
 『そうです。ここ三日分です。軍団長に届けてきます』
 アレテスは、二言三言言葉を交わして、その場を離れていった。そこへギアスが姿を見せた。
 『おう、ギアス、お前、明日の予定はどうなっている?』
 『私の明日は、舟艇でキドニア行きです』
 『そうか、誰か代わりの者に行かせろ。明日、新艇のテスト航走をする。お前でないとダメなのだ。操船技術と新艇構造の兼ね合いをテストする』
 『解りました。では、その手配に行きます』
 打ち合わせをしたパリヌルスは、ドックスらのいる場所へと足を運んだ。ドックスが造船作業者たちに囲まれて話し合っている。
 『おう、ドックス。一同に囲まれて造船談義か。明日、アサイチにやってもらいたいことがある、いいか』
 『はい、何でしょう?』
 『舳先帆柱の事だ。細工をしてもらいたい。大きくなくてもよい、タテ方向の補助三角帆を取り付けてほしい。明日、ギアスとテスト航走をする。お前も一緒に乗れ』
 『了解しました。漕ぎかたはどうしましょうか?』
 『漕ぎかたの準備か、お前に任せる』
 『解りました。万端整えます』
 彼は、打ち合わせを終えて、浜の点検巡回を済ませて宿舎の方へ引きあげた。

 パリヌルスは、浜がざわめく朝の活気にあふれた賑わいがたまらなく好きであった。朝の一巡を終えて新艇のところへやってきた。ドックスが補助三角帆の取り付け作業をやっている。パリヌルスが声をかける。
 『あッ!隊長、おはようございます。あと少々で出来あがります』
 『そうか、慌てずともよい。時間に余裕がある、海は凪いでいる。もう、ギアスが来ると思う』
 言葉を交わして小島の方へ目を移した。小島の方でも人が忙しそうに立ち回っている。その風景を目に入れた。
 ギアスが姿を見せ、声をかけてくる。
 『おはようございます。あ~、私の意見を取り入れての今日のテスト航走ですか』
 『おう、昨日の話し合いで、お前から聞いた意見を発表した。俺自身が体感して置きたいことでもあるのでな』
 『それにしても早い手配ですね』
 『そうだ、拙速を尊ぶだ。余っているようで足りないのが時間だ』
 『全く、言われる通りです』
 ドックスが声をかけてくる。
 『パリヌルス隊長、出来あがりました』
 『おっ!よしっ!出る準備ができたか。行こう』
 『判りました。新艇を海へ出します』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  466

2015-02-16 07:11:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜に戻ったドックスは、新艇建造に携わった一同を招集した。
 『おう、一同、集まってくれたか』
 『はい、棟梁。何かいい知らせでも?』
 『おう、そうだ。諸君らに伝えるいい知らせがある。聞きたいか。よ~く聞けよ。先ずはこれだ、新艇を建造することが決まった』
 これを耳にした一同が喊声をあげる、ドックスは手を広げて喊声を抑えて口を開いた。
 『パリヌルス隊長がキャプテンギアスに命じて、新艇の長所の解明をした。その解明内容はいいことづくめであった。短所の指摘はなかった。そういうことだ。以上だ詳しいことは、明日、君らに話す。君らが試し乗りした感じと照合してみる。今、伝えることはそこまでだ。新艇がこのように評価されたことを伝えておく』
 一同から拍手と歓声が沸いた。彼らは感動している、一人が手ぶり、足ぶりよろしく踊り始めた。踊り始める者が続く、二人三人と続く、10人余りが輪を作って踊り出した。周りにいる者たちがこれをはやしたてる。踊る者たちは何かを口ずさんでいる。旋律はない、リズムのみの口ずさみ踊りである。口ずさみには意味はなく、10人10様ではなく、10人1様であった。声がだんだん大きくなってくる。彼らの感動表現がクライマックスに達した。突如あがる大声!
 『ワオ~ッ!』と発して、彼らの歓喜の踊りは終わった。
 取り囲んでいる者たちから歓声があがった。踊りの輪の真ん中にドックスが立っていた。彼らの感動の儀式が終わった。
 パリヌルスは、この情景をやや距離をおいた渚から見ていた。
 彼は感慨を胸に抱き、責任の重さを測っていた。
 『必ず、いい船を造る、果たして売れるか?』であった。
 浜を吹き抜ける風が言葉をかけて通り抜けていく。 
 『おい!パリヌルス。俺が手を貸す!やるのだ!』
 彼は耳を疑った。周りを見回す、誰もいない、潮騒のざわつき、さざ波の風声、海面が照り返す目を射る陽の光の乱反射。大計画を前に心の躍動に震えながら浜に立っていた。
 彼方からアレテスが近づいて来る。
 『パリヌルス隊長、何か思案でも?』
 『おう、アレテス、どうした?』
 『いま、キドニアから帰ってきたところです』
 『今日のキドニアはどうであった?』
 『今日は思いのほか、大漁だったのです。首尾は上々でした』
 アレテスは微笑みをたたえて応えた。