『オロンテス殿、私が訊ねたいことは、こちら様のサイドでは、パンを焼いていかれるのに、どのくらいの小麦を使われるのかです。現在の在庫量で、いつ頃までの分に充当することができると考えておられるのかが、今回の買い付けの基礎になると考えられます』
『私も少々考えが浅かったところがありますが、在庫量について大まかに考えていました。テカリオン殿の船がいつ来るか、在庫に不足をきたすようなことがあれば集散所から買い付け調達すればいいと考えていましたから、ちょっと在庫に関する意識が甘かったようです』
オロンテスは、ここで言葉をきって思考を巡らせ話を継いだ。
『現在の在庫量で20日余りはいけると考えられます』
『オロンテス殿、私から申し上げることが2点あります。私の取引先として、こちら様が小麦の取引きに関しては一番大きな取引先なのです。これだけの小麦を買い取っていただくところはこちら様だけなのです。そのようなわけでいかなる事情があろうとも小麦の取引に関しては、こちら様を最大限に大切にしております。そのようなわけで小麦の新物が出廻るようになりましたら、即刻、こちらへ来るということを約束します』
テカリオンは、真剣に真情を吐露した。ひと息つく、今回の商談の正念場である、彼は踏ん張った。
『オロンテス殿、のどが渇きましたな。何か飲みませんか?』
『おう、これはこれは、気づきませんでしたな』
オロンテスは、イリオネスに言って、棚の上にあるぶどう酒を杯に注いで、三人はのどを潤した。
間を取ったテカリオンは、考えを巡らせて、商談を仕切りなおした。
『次回の訪問は、今日から数えて40~50日後くらいにこちらへ伺います。今、現在、船に積んでいる小麦は、先ほど見ました在庫量の約2倍くらいです。船積みしている全量の小麦をこちら様に納品するとすれば、在庫量が60日分くらいになると考えられます。そのようになれば、いい具合に事が運ぶと考えられます。新物を納品する時におけるこちら様の在庫量に関して、それ相当の値引き又は他の方法も考えて善処いたします。オロンテス殿いかがでしょうか、ご一考ください。決してご損をかけるようなことは致しません。約束いたします』
『解った、テカリオン殿。軍団長にこのことを報告する。少々待たれよ』
オロンテスは、イリオネスに今回の取引の概要を説明し報告した。
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