『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  31

2009-08-31 07:11:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 エノスの浜の浜衆たちのもてなしで、互いに異なったルートでトロイの地を離れた者たちが再会したことを、浜衆たちもともに喜んでくれた。
 6月6日の早暁にトロイの岸を離れた者たち、5日の深更にトロイ炎上の炎を背にして、その地を後にしてきた者たちが、エノスの浜においての再会に喜び合った。彼らに希望があればこそ、広い海域を波濤と闘いながら懸命に渡ってきた。彼らにとっての2日間は長かった。彼らは、ゆれることのない大地の上でくつろぐのが久しく感じられた。ただ、彼らは、このくつろぎの時が長く続くのか、ほんの一時と言う短さで終わるのかについては判らなかった。
 宴の終わるときが近づきつつある。
 アエネアスと軍団幹部連は、浜頭連と明日改めて、話し合いをすることを約して別れた。
 かがり火は落ち、広場が闇に包まれていく、焚き火の残り火がくすぶっていた。
 この広場が、軍団の兵たちや市民たちの野宿の場となる。エドレミトからの者たちは、疲労の極みに達していた。彼らは、場を決めると直ちに寝に就いた。

第2章  トラキアへ  30

2009-08-28 07:49:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、浜頭のトリタスに、オロンテスが市民たちから集めた謝礼の品を短い言葉を添えて手渡した。
 『トリタス浜頭、そして、二人の浜頭の皆さん!いま、この席に私たちが招かれた。ありがとう。この品は、ささやかであるが、私たちの気持ちを形にしたものです。受け取ってください。皆!本当にありがとう。心からお礼を言います。』
 アエネアスは、言い終わって、引き続き、浜衆たちのほうに向いた。
 『浜衆の皆さん、ありがとう。いま、ここに私たちを招いてくれて、本当にありがとう。』 と感謝の言葉を述べた。
 『おうっ!』『おうっ!』 と、各所から喊声があがった。
 宴は、盛り上がった。30人あまりで焚き火を囲んでいる。そのようなグループが30余りで広場を埋めていた。炎は、集う彼らを照らす。酒が酌み交わされる、牛羊がある、浜衆たちの捕った魚がある、沃野の菜物がある、この季節の山野の果物があった。
 各人が舌鼓を打っている。賑わいで沸く、そこに至福のときがあった。

第2章  トラキアへ  29

2009-08-27 07:42:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 市民たちの中から声があがった。
 『オロンテス!お前の言うとおりだ。俺は、お前の考えに賛成だ。お前の言うことに従うぞ!思っていることを言ってくれ。』 
 『お前の言うことに従う。』 市民たちは、こぞって、賛意の声を上げた。
 『皆の衆、よくぞ賛成してくれた、礼を言う。するべきことはして、歓待の席に行こう。』
 感謝の心をこめた礼物は集まった。オロンテスは、必要と思われる以上には集めなかった。市民たちの未来は、これからも長く続く、何時の日かの、何かのためにの備えも必要なのだ。彼にとって一同を率いていくための認識でもあった。
 彼らは動いた。つぎつぎと礼の品物を持ち寄った。
 全員が宴席につき、浜頭の音頭で開宴した。宴席と言っても、テーブルも椅子もない。かがり火と食材を焼くための焚き火が宴席である。酒を杯に注ぐ、杯は、地面に突き刺しておく、この時代の杯はそのように造られていた。肴は、棒、串に刺して焼く、串を手にとって、噛み付いて食した。
 オロンテスは、集めた財物を市民一同の感謝の気持ちとして、浜頭、浜衆の方に渡してくれるようにと、アエネアスに託した。

第2章  トラキアへ  28

2009-08-26 09:18:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、市民たちの許に戻ってきた。彼の表情は、安堵した表情と考える人の表情が混濁していた。
 オロンテスは、市民たちに打ち合わせの内容を告げ、浜頭、浜衆たちの歓待の宴に参加することについて、自分たちがしなければならないことを説いた。
 彼は、表現しきれない語彙を動員して、身振り、手振りで皆に訴えた。この時代の言語の発達段階からみて、そのようにして、考えや意思が聴き手に伝えられた。単純で数少ない言語数、思考も現代のように複雑ではなく、何を考えているか、伝え手の表情、そして、身振り、手振りで聴き手に伝えられ、理解されていった時代でもあった。
 『皆の衆、我々は、いま、生きてここにいる。昨日も、このエノスの入り江に着いて、ここの浜を取り仕切っている浜頭の世話になり、エブロス川の川向こうの浜に難を避けた。そのうえ、いま、私たちを歓待の宴に招いてくれる。我々の出来ることは、極々、限られている。ささやかではあるが、我々の持っている財物の一部を出して、礼を尽くしたい思うがどうだ。また、そうでなければ、我々、トロイ人としての誇りを失う。私のこの思いに、皆、賛同してほしい。』

第2章  トラキアへ  27

2009-08-25 08:25:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『今日は、本当にご苦労様でございました。統領も皆さんも、さぞ、お疲れのことと思います。大変、お待たせしました。宴の準備が整いました。私どもの心づくしの宴です。何卒、私どもの気持ちをお受けください。軍団の兵の方たち、同行の市民の方たちもご一緒ください』
 彼らの言葉は、心のこもったものであった。
 『ありがとう。浜頭の皆さん!私たち喜んで皆さんのお気持ちをお受けいたします。浜衆の皆さんにも宜しくお伝えください。』 アエネアスは言葉をついだ。
 『トリタスさん、昨日、このエノスの浜に着いた私たちの軍団、オキテスの船団に親切な配慮をしてくれて、本当にありがとう。ここに深く礼を申し述べます。』
 トリタスは、丁寧な言葉を使って礼をを言うアエネアスに感動した。
 『アエネアス統領。そのように言っていただいて痛み入ります。』
 アエネアスとトリタスは、硬く手を握り合った。そして、アエネアスの一行は、心置きなく、その招待を受けた。

第2章  トラキアへ  26

2009-08-24 07:50:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、改まって口を開いた。
 『皆、良く聞いてくれ。上陸戦は、パリヌルスの周到な采配で荒れ模様にもかかわらず、敵を殲滅し、これを制圧した。パリヌルス、ご苦労であった。皆も命を賭けての戦い、ご苦労であった。深く礼を言うぞ。今夜から、明朝にかけて油断はできない。判るな。我々が寝込みを襲われるようなことがあってはならん。敵の作戦に、それがあるかないかは、我々には判らん。九死に一生を得て、我々はこの地にたどり着いた。我々は、これから、いい形で生き延びて、希望を達成しなければならない。そのことを心に留めて、歓待を喜んで受けよう。兵たちには酷なようではあるが、酒は度を越さないようにして、今夜の危機に備えるようにしてくれるように伝えてほしい。そして、浜頭、浜の衆に感謝の気持ちをこめて接するようにとも伝えてくれ。明朝までの敵襲に備えては、君たちで打ち合わせて、ことにあたってくれることを望む。いいな。』
 『判りました。』 一同は肯いた。オキテス、カピユス、そして、ヘレノスに変わって隊を率いているアミクスの三人は、自分たちが率いている隊が率先して、その任に当たると申し出た。
 打ち合わせは終わった。その時、浜頭の三人が彼らを呼びに現れた。

第2章  トラキアへ  25

2009-08-21 08:41:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『俺は、いま、とまどっている。皆の意見を聞きたい。君らはどのように思う。浜頭たちの肝いりのこの歓待についてだ。我々が受けていいものかどうかだ。パリヌルス、アレテス、イリオネス、オキテス、それにオロンテス、う~~ん、お前たちどう思う、思いを聞かせてくれ。』
 アエネアスは、一同の顔を見渡した。
 『そこでだ。浜頭たちと懇意にしているパリヌルス、お前の思いはどうだ。』
 『統領、ここは、浜頭連の気持ちを喜んで受けてやってください。食事をして、くつろいだところで、この十日間のこの地の事情の変わったことを聞いてやっていただけないでしょうか。』
 オキテスも口を開いた。
 『統領、何も気にかけず、浜頭連の気持ちを受けてください。そうでなかったら、トリタスが私たちにしてくれたことが、無になります。』
 『オロンテス、どうだ。市民としての気持ちのありようはどんな具合だ。』
 『お受けになって、いいのではないでしょうか。彼らの心を素直に受けてくださるよう、私からもお願いします。』
 『よし!よく判った。聞いての通りだ。3人の心のうちを聞いた。喜んで受けよう。アレテス、イリオネス、いいな。』
 『いいでしょう。私たちに異存はありません。』
 二人同時に答えた。

第2章  トラキアへ  24

2009-08-20 07:00:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の奥まったところの広場では、盛大にかがり火が燃えている。浜頭連の肝いりで、浜衆たち総出で、アエネアスの軍団と同道しているトロイ市民たちの歓迎と上陸戦の勝ち戦さを祝う宴の準備が進められていた。彼ら一同は、嬉々として、その作業に取り掛かっていた。
 アエネアスの心の奥のうずきが逡巡していた。<俺たち、落人の身でありながら、このような歓待を受けていいのだろうか。>と、心中の葛藤に思い至っていた。
 軍団の者たちは、作業を終えたらしい。夏の宵は、闇を濃くしてきていた。
 風は、おさまりつつある。海の波は、落ち着きなくざわめいている。空の雲は、厚いが時折、星がのぞいた。
 アエネアスは、幹部連と隊長連を簡単な打ち合わせのために集めた。彼は、彼らを前にして、自らの心情を打ち明けて相談に及んだ。

第2章  トラキアへ  23

2009-08-19 07:34:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテス、イリオネスもアエネアスの傍らに寄ってきていた。
 『お~お、カピュス、オキテス、オロンテス、無事であったか。他の者たちも、皆、無事であったか。パリヌルスは、浜で待っている。皆を連れて浜にあがれ、それから、船は兵らに指示して浜に引き上げろ。では、待っているぞ。』
 オキテスは、兵らに指示して、船を浜に引き上げる作業に取り掛かった。海の荒れを予想して、安全な地帯までに引き上げた。
 アレテスは、カピュスに訊ねた。
 『カピュス、ところでヘレノスの姿を見ないのだが、、、』
 『ヘレノスは、ちょっと事情があってトロイに残った。』
 『あ~あ、それから、軍団長のこと、いま、『統領』と呼ぶことにしている。これから、統領と呼んでくれ。オキテスにも、その旨伝えてくれ。早く作業を終えて浜にあがれ。待っているぞ。』

第2章  トラキアへ  22

2009-08-18 08:37:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタスら浜頭を加えて、統領と手短かに段取りを打ち合わせて、全員で仕事にとりかかった。
 アエネアスは、事情を知り、安堵すると、波打ち際に向けて歩を運んだ。彼は、膝まで波に洗わせて起ち、沖に目をやった。
 各船から、船上の者たちがつぎつぎに、波立つ海に降りている。その者たちを眺めているアエネアスの瞼がうるんだ。オキテスは、海中に降り立った彼らを一時、そこにとどめ、カピュス、オロンテスを伴って、波に背中を押されながら、アエネアスに近づいた。アエネアスも海中に足を運ぶ、彼らは、目と目を見合わせ、抑えることのできない感情をあらわに、肩を抱き、互いの無事を確かめ合った。
 『軍団長!ご無事でしたか。私たちも、これこの通り無事でした。全て軍団長のおかげです。浜頭トリタスの計らいで、敵と剣を交えることなく、その上、エブロス川の川向こうの浜頭に取り次いでもらい、軍団の到着を待った次第です。尚、軍団の上陸戦にはせ参じることできなかったことを深くお詫び申し上げます。』
 『オキテス。おれは、お前たちが無事でいてくれたこと、この上なく、うれしく思っている。そのことが一番うれしい、船を浜に引き上げて、皆を浜に上げろ。アレテス、イリオネス、他の者たちも皆が待っているぞ!さあ~、早く来い。』