『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  266

2010-07-30 07:25:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 応急手当の仕上げである。トリタスは、迷った。傷口を焼く順番に付いて迷った。焼かれる身になって考えた。焼く熱さに大差はない。彼は実行に移った。先ず小さい傷に燃えている枝を押しつけた。たちのばる肉の焼ける匂い。ギアスは、歯を食いしばって耐えた。彼は間をおかずに傷の長さが15センチにも及ぶ大きな傷に燃えている枝を押しつけた。ギアスは、腹の底から呻いて、叫び声をあげた。その叫びが終わらないうちに残っている傷に燃えている枝を押しつけた。トリタスは瞬時のうちに一連の作業を息もつかずにやってのけ終えた。
 『ギアス様、終わりました。よう、耐えられた。これだけやっておけば大丈夫だと思います。明日の朝までには、痛みも去り、うむこともないと思います。この季節に負う、獣から受ける傷は、必ずうみます』
 『トリタス殿、世話になった。恥ずかしいところを見せたが、この傷に耐えれると思う、安心してくれ。ありがとう。貴方に礼を言います』
 『ギアス殿、それにしても、でっかい熊ですね。よく仕止めてくれました。礼を言わねばならないのは我々の方です。こんなのにうろうろされたら、我々が奴の餌食です。礼を言うべきは我々ですよ』

第2章  トラキアへ  265

2010-07-29 07:13:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスとの出会いが、もうそろそろであろうと考えながら、けもの道を歩んでいたイリオネスが耳にしたのは、異常の事態を想像させる獣のただならぬ叫びであった。彼は、叫びを耳にした方向への歩運びを急いだ。現場に到着したのは、トリタス隊より少々遅れての到着であった。イリオネスが目にした風景は、トリタスが応急手当を施そうとしている風景であった。
 『イリオネス様、大変な事態ですが、ギアス様は重傷ではありません。安心してください。統領、そして、他の者たちもお連れください。私たちは、ここで貴方がたの到着を待ちます。その間に、ギアス様の応急手当を終えます。今日の野営のことは、それから決めましょう。いいですか、この旨、統領にお伝えください。私たちは、ここで待っています』
 イリオネスは、この場をトリタスたちに任せて、とって返した。
 トリタスは、荷役の者に焚き火を燃やすように言いつけ、荷の中から酒を取り出して、傷を洗った。その間に焚き火は火勢を強めていた。トリタスは、引っかき傷に合う太さの小枝を4~5本準備して燃やした。
 『ギアス様、傷を焼きます。うませないためと止血のためです。熱いがこらえてください。いいですね』

第2章  トラキアへ  264

2010-07-28 07:46:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 間一髪の危機から、辛うじて逃れたギアス。タイミングを間違えば熊の鋭い爪と腕力で取り返しのつかない重症を負うところであったのである。
 ギアスは右の肩甲骨の辺りから腕の上部に痛みを感じた。傷の具合を確かめている暇はない。右手には弓の矢を逆手に持って、ようやくにして立ち上がった。
 熊が倒れている箇所から歩数6~7歩の距離である。熊は四肢を細かく痙攣させて、草の上に転がっていた。ギアスの剣は、熊の左胸上部より深々と急所を刺し貫いていた。獰猛な熊との対峙を辛うじて制していたのである。
 ギアスに疲れがどうっ~と押し寄せてきた。彼は、身の安全を知って、我に返り、しりを草の上に落とした。同時に、感じる上腕部の痛みに思いが至った。傷は三筋の引っかき傷であるが少々深い傷で血が噴出していた。
 この騒ぎを遠くに聞きつけたトリタス隊の面々が駆けつけてきた。彼らが最初に見つけたものは、熊の巨体であり、鍔元で折れた剣の握り手であった。
 『おいっ、ギアスっ!大丈夫か』
 トリタスが大声をあげて、ギアスの肩に手を置いた。

第2章  トラキアへ  263

2010-07-27 09:22:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスは大声をあげ、呼ば張りながら、樹間のけもの道を北へとたどった。一方アエネアス隊のほうでもイリオネスが隊を停止させて、彼自身が南下の道をたどった。
 双方とも樹間を抜けてくる声を聞いてはいない。ギアスは、左目の片隅を黒い大きな影が横切ったような気がした。
 とっさに、彼は弓に矢をつがえて身構えた。それから黒い影の動いた方向を確かめた。
 熊である。熊は、ギアスを じいっ~と見つめた。目に光を感じた。目と目が合った。熊との間合いは、7~8メートル、ギアスの肝は、ぐうっ~と冷えた。だが、動揺はしなかった。狙いを定めた。
 矢はつるを放れた。熊がギアスに向かって動きを開始するのと、全く同時であった。矢は急所を外れて、当たった。一瞬ひるむ熊、揚げる咆哮はすさまじかった。ギアスは、剣を抜き放つや、熊に向かって突進した。
 彼は、あれこれ考えなかった、そんな暇はない。ただ感じただけでの行動であった。狙いは、熊の急所に己の剣を突き刺すことのみに集中して、猛進、盲進であった。思い切り体重を剣にかけて熊に突っ込んだ。一瞬の衝撃を全身に感じて、剣から手を離して、右横の樹間に身を投げた。

第2章  トラキアへ  262

2010-07-26 07:34:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 順調といえども限りがあった。丘陵は人跡未踏の地であり、飛び回る昆虫類、樹間を走り回る小動物、リス、テン、イタチ、野ウサギの類である。また、蛇の類である。昆虫類では、彼らの生活経験では、親指くらいもある大型の蜂の類には、細心の注意を払った。また、小型ではあるが毒蛇の存在にも注意を払った。
 2種類の樹木の自生状況の探査である。彼らは簡単に目的を達せられるとも思ってはいなかった。小休止をしながら探査を続けた。
 自生しているオリーブを、ときおり、目にしたが、実がついていない、それは、オリーブが自家受粉しない植物であり、DNAが同じ花粉では実をつけないからである。
 アーモンドについては、今が実が熟するときを迎えている。そのようなわけで発見することは容易であるが、1~2本の自生を見つけるものの、群生を発見することは適わなかった。
 何時しか太陽は、西に傾いていた。隊を停止させて連絡する頃あいとなった。トリタス隊のギアスが連絡のために隊を離れた。取り決めた太陽の位置が隊が移動を停止する位置にあった。

第2章  トラキアへ  261

2010-07-23 08:19:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 次に調査する動線をどのようにとるかを検討した。ジグザグ移動か、平行移動か、はたまた、その折衷案で行くかについて話し合った。結果、平行ジグザグ波形移動とすることにした。4人一組の二隊に分けて、東方に進みながら探査を行うこととなった。アエネアス隊は、キノン、イリオネス、荷役一人。トリタス隊は、ギアス、オロンテス、荷役一人で編成した。
 彼らは、太陽の高さを測り、時の頃合を見て出発した。平行移動の両隊は、歩幅で約800歩の間隔を維持して、ジグザグ波形幅は約200歩くらいとして東方へ進むこととした。歩行の停止については太陽の高さで決めた。その時点で相互に連絡を取り、今夜の野営地を決めることにした。
 丘陵は、人跡未踏であった。地上の草丈は歩行を妨げるようなこともなく、繁茂する樹木も密生とはいえず、風が吹き抜けていた。彼らの考えた苦行を強いられることもなく、思いのほか順調に樹間歩行を進めていった。

第2章  トラキアへ  260

2010-07-22 07:54:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『さあ~、昼めしを始めましょう』
 『統領、どうぞ』
 『おっ、いいにおいだ』 
 アエネアスはうまく焼けている蛇に噛みついた。
 『お~っ、うまい!キノン、お前の言ったとおりだ、これはすこぶるうまいっ!』
 焼けた蛇が皆の手に行き渡った。全員が一斉に噛みついた。
 『お~っ、これはうまいっ!』 
 皆はその味に感動の声をあげた。2匹の蛇は、瞬く間に一同の腹に収まった。持参したパンを食べ、持参した水でのどを潤した。
 イリオネスとギアスは、丘に登り、大樹の下の木陰を選んで、頭上及び周囲の安全を確かめて一同を呼び寄せた。
 アエネアスたちは、今日これからの行動について打ち合わせを行った。
 まず、調査の主眼を述べ、要点について説明した。アーモンド及びオリーブの木があるか。その自生状況と密度を調べること。次に、そこに危険のあるなしについて調べること等を説明した。

第2章  トラキアへ  259

2010-07-21 09:30:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一行は、丘陵のふもとに到着した。キノンの言ったとおり、清流といえないまでも水が岩を噛んで流れていた。トリタスが皆に声をかけた。
 『皆さん、ご苦労様でした。ここで昼にいたしましょう』 誰も異を唱えなかった。
 イリオネスたちが剣を振るい草を薙いで一同がくつろげる場を作った。
 アエネアスは、周囲を眺めて、地勢を点検した。
 じりじりと照りつける陽の暑熱は堪えることにした。木陰には如何なる危険が潜んでいるかわからない。思わず見上げた太陽は、南中の一歩手前であった。風には、この厳しい暑さをを飛ばす力はなかった。
 一同は、焚き火をつくる枯れた小枝を集めた。キノンは、持って来た蛇の皮を手際よく剥いで、その身に小枝を刺して焼くように仕度した。昼食の準備に小一時間を要した。
 どうにか昼飯のときとなった。焚き火の周りには、蛇の焼ける香ばしい匂いが立ち込めた。

第2章  トラキアへ  258

2010-07-20 07:34:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 草原に歩を踏み入れた。草はみごとに生い茂っている、草丈は胸にまで及んだ。潅木の茂みに比べると歩は進めやすそうではあるが、次の難儀が待っていた。身体の露出している部分が草の葉に触れて、ずたずたにかすり傷がついた。案内のキノンと荷役の二人は袖の長い着衣を身につけていた。アエネアスとトリタス、他の三人の露出部の擦り傷には血がにじんでいた。
 草原に入って小一時間ぐらいの地点からは、草丈も短くなり、擦り傷に悩むことはなくなってきた。一同の歩速は順調になってきた。
 見た目には丘陵は遠くはないが、歩いてみるとかなりの距離が感じられた。北東に向かっての草原の斜め横断である。約二時間くらい歩いて樹木の群生地のところに来た。
 キノンは、一行に少々休んでくれるように言いおいて、群生地の中に入っていった。
 突如、バサッ、バサッ、4、5回音がした。血しぶきがうっすらと風に舞うのが見えた。
 キノンが帰ってきた。手にぶら下げているのは、腕の太さの頭のない蛇2匹であり、切り口からは血が滴っていた。
 『皆さん、お待たせしました。あともう少しで丘陵のふもとです。そこには水の流れもあるはずです。まいりましょう』