『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  49

2011-03-31 07:23:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『いい質問です、テカリオン殿。航海に欠かすことの出来ない道具なんですな。いま、鉄の棒のここが北を指しています、ここが天空の星座の『荷車』を指すのですよ。星の見えない夜でも、北はどちらか、南はどちらかがわかります。と言うことは。東がどちらで西がどちらかということも判るということです。この鉄の棒一本で東西南北が判るんですな』
 『そんな不思議な棒なんですかな』
 テカリオンは、半信半疑の体で首を傾げた。
 『テカリオン殿、これさえあれば、夜の航海で方角を間違えるようなことはない』
 テカリオンは、ヒモをつまんで鉄の棒を回転させた。しばらく惰性でまわっていた鉄の棒は南北を指して停止した。鉄の棒はテカリオンにこびるように震えていた。
 イリオネスは、板と鉄の棒を使って、昼までにどれくらいの時間があるかを説明した。
 テカリオンは感心した。世にも不思議なものの存在に目を見張った。
 『テカリオン殿、今回の交易の記念です。それを進呈しましょう。いかがですかな。貴方に気持ちがあればですが、今回の交易に、我々は、この道具を10セット準備しています。価格は、これについては、私どもの指し値で買い取っていただきます。意に添わねば話はなかったものとしますが、よろしいですね』
 『イリオネス殿、貴方は商売がお上手だ。このテカリオン感服しております。判りました。それを貴方のいわれる価格で買い取りましょう。よろしいですかな』

第3章  踏み出す  48

2011-03-30 07:30:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうです。何の仕掛けもない鉄の棒です。しかし、不思議な棒なんですな、この棒は。この二つを使って、方角を測り、大雑把に時を知るのですな。そのようなわけで、私たちは、この道具を『方角時板』と読んでいます』
 『ほっほう、使うと便利なものですかな』
 『テカリオン殿、外へ出ませんか、外でないと説明が出来ないことがあるのですが』
 『いきましょう』
 一同のうち5人が砦の南回廊に向かった。
 『テカリオン殿、この鉄の棒は、ただの鉄の棒とは違うのです。このヒモの端をつまんで吊り下げると、鉄の棒のムキはいつもきまった方向にしか向きません。片一方は北を、もう一方は南と、南北を指し示す、そんな鉄の棒なのです。板は我々の考案による物です。これはこのようにして使います。板は太陽がかがやいている日中しか使えませんが、この鉄の棒は夜昼なしに使えるのですな』
 イリオネスは、『方角時板』を使って丁寧に説明した。
 テカリオンは、目のウロコをはがして、その道具一式を眺めた。
 『ほっほう!これは感心した。至極便利なな物ですな。しかし、夜の使い方は、どのようにして使うのです』

第3章  踏み出す  47

2011-03-29 07:31:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは短く答えた。これらを引き取るテカリオンの心中を推し量った。
 『判った。了解する』
 テカリオンは、慎重さを崩さなかった。
 兜、鎧、楯は、それなりに値決めして、剣と槍は、ひと山いくらと断を下して提示した。
 『それは何ぼなんでも安すぎる。もうちょっとどうにかならないか』
 テカリオンはしぶった。彼は、この要請に応じようか、どうするか、迷ったすえに応じることにした。
 『そこまで言われるのなら判りました。ここいらが、精一杯のところです』
 『そんなものかな。いいだろう、了解する』
 商談は終わった。品々の値決めを終えた当事者たちは緊張を解いた。パリヌルスは、一同を見回して、
 『まあ~、一服しましょうや』 と茶を注いだ。
 テカリオンは、気にしていたことをイリオネスに訊ねた。
 『イリオネス殿、貴方の左手にある、線引きされた板と鉄の棒は何ですかな』
 『あ~あ、これですか。テカリオン殿はこの道具をご存知じゃないのですかな。これは、いたって重宝、この上ないないものなのです。方角を測り、大雑把であるが時を知る道具なんですわ』
 『ほう~、そんな道具があるのですか。見せていただいてよろしいですかな』
 イリオネスは売り込みのタイミングを謀った。
 『どうぞ、どうぞ』
 『ひとつは、板に十字に線引きして中央に穴がある。棒を差し込んで立てるようになっていますな。しかし、もう一つは、何の仕掛けもない、ただの鉄の棒ではありませんか』

第3章  踏み出す  46

2011-03-28 08:39:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ここまでの商談は、ほほえみのうちに進んできた。オロンテスは白木の木板に消し炭チョークで事の成り行きを記録していた。テカリオンも、この光景を見て納得したらしい、また、感心もした。
 彼は内心、感じたことは、『この者たちは、日々を過ごしていくのに極めて慎重であり、何事も約束を守れる者たちではなかろうか』と感じた。『俺も心して、この者たちとかかわらねば』 と思った。それにしても、『この者たちは俺たちより少しばかり前を歩いている。いったい、こいつら何者なのだ』 テカリオンは俺の住んでいる国とトロイとの文化の差なのだろうかとも思ったりもした。
 あれこれ考えたが彼は目の前の仕事に戻った。
 『さあ~、イリオネス殿、戦利品の商談といきましょう。武器や武具は日進月歩です。こう言っては悪いが、いまは通用しない、捨てるしかない古いものもある。それらについてはこらえてもらわねばなりませんな。了解していただかねばなりません。よろしいですね』
 テカリオンの念押しに、イリオネスの表情がかげった。そのことはイリオネス自身わかっていたことでもあった。

第3章  踏み出す  45

2011-03-25 07:27:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、よくぞ聞いてくれましたな。麦については乾燥のこともある。小舟に至っては建造の期間のこともある。あなた方の事情もある。それに私たちにも計画した予定がある。それに加えて、季節の変わりによる天候のこと、風の具合もある。次に、こちらへ来るのは約一ヵ月半後、秋の終わり前にしたい。いいですかな』
 『判りました。私どももそれでいいと思います。それにあわせて、次回の交易品の準備をする。そのようにしたい』
 『イリオネス殿、ではでは、商談といきましょう。まず、干し魚は、私どもの塩漬け肉と1対1の物と物の交換でよろしいですかな』
 イリオネスとオロンテスは、目線を交わした。OKサインを交わした。
 『いいでしょう。了解です』
 『次は、アーモンドにいきましょう。誰がアーモンドの収穫を取り仕切られたのか、収穫のタイミングが良かったのでしょう。粒のそろい方、乾燥の仕方、申し分がないですね。私として、最高のランクに位置づけた値決めでと考えていますが』
 『そのように評価していただいてありがたい。収穫に心を砕いたのは、このオロンテスです』
 『そうでしたか。心をこめた品づくりに感じ入っています』

第3章  踏み出す  44

2011-03-24 08:10:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同が席に付いて驚いたのは、机上に白木の大きい板が数枚と焚き火の燃えカスと思われる棒が置かれていたことである。
 今日、ここで交わされる約束事が記録される板である。テカリオンは何に使われる板かわかってはいなかった。それに加えて、木を削り、十字に線引きをして、その十字の交点に棒が立った板とヒモのついた鉄棒が置かれていた。
 テカリオンは首を傾しげたが、それらを気にも留めないふうを装った。
 一同は席についた。互いの表情は引き締まっていた。心の緊張が目線に現れている。
 『さあ~、テカリオン殿、値決めを話し合いましょう』
 『いいでしょう、始めましょう。値決めの順番は、まず、干し魚、次にアーモンド、それから戦利品と行きましょう。この順番でどうですかな。それから、麦のこと、小舟の建造のこと、その他について話し合おうではありませんか』
 『判りました。麦の件、舟艇の件がありますので、まず、次回は、こちらにこられるのは、いつ頃かを先に聞いておきたい』

第3章  踏み出す  43

2011-03-23 08:20:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トロイの闘いで見ていたのだが、アキレスが使っていた剣も槍も、その照り返す陽の光が青銅の剣とは違っていた。奴の剣さばき槍さばきはみごとだったな。ヘクトルも剣の技は誰にも負けない腕を持っていたのだが、あえない最期であった』
 『そうでしたか。鉄の剣は青銅の剣に比べて長所がある、軽くて鋭い仕上げができる。その長所を生かして剣は長くすることができて、斬れ味が違う。いま、ギリシアはアテネ、へパイトスの工房で造られた剣、槍、楯が特に有名ですね』
 『ほお~、そうですか。さすが、テカリオン殿ですな。いろいろと詳しい』
 テカリオンは、見回っていく、昨夜、口にした干し魚のところに来た。
 『ほ~、これが夕べ口にした、いぶして干した魚ですな。結構、結構』 と頬をゆるめた。
 塩漬け肉は船に積んでいる。交換比率をどれだけにしようかと胸算用をはじいた。
 彼は、検品を終えた。
 値決め商談は、砦内の広間でと彼ら一同は移動した。

第3章  踏み出す  42

2011-03-22 07:37:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス殿、この品揃えはみごとですな。戦利の品もきちんと分けてあり、アーモンドも荷扱いしやすいようにしてある。このテカリオン、あなた方の期待をうらぎるような値決めはいたしません。交易を互いの信頼の上で成立させる、このことに徹してやります。オロンテスさんもこの私を信用してください。いいですね』
 イリオネス、オロンテスの二人は、『いいですね』 の念押しのひと言で、しっかりテカリオンを信用した。
 テカリオンは、小山のように積まれているアーモンドを念入りに検品した。戦利品もしっかり見極めた。
 テカリオンは言う。
 『イリオネス殿、いま、時代は変わりつつあります。特に戦利品の中の剣のことですが、軽くて使いやすく、鋭い切れ味の鉄の剣に変わりつつありますが、まだ、市民の武装が整っていない土地があります。できるだけ踏ん張ってみましょう。それにしても武具の手入れがきちっと出来ている、これがうれしいですね』
 『テカリオン殿、貴方の言われるとおりだ。我々も剣については、少しづつではあるが、鉄の剣に変えていこうと思っている。その件についてもいずれ相談しなければいけないですな』
 イリオネスの目はトロイ戦役を振り返っていた。テカリオンの心のうちは、ニッコリしていた。

第3章  踏み出す  41

2011-03-21 08:13:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝食の場は、今日の取引きの期待観測で盛り上がった。
 『テカリオン殿、今日の段取りだが、食事のあと茶を飲んで、品物を見ましょう。それから、取引き、値決め商談といこうではありませんか。パリヌルス、オロンテス、それでいいな』
 『いいでしょう』
 『では、テカリオン殿、この段取りでよろしく頼みます』
 『了解しました、イリオネス殿。この段取りで結構です。私どもの値決めに期待してください。このように手厚くしていただいて、あなた方に喜んでいただけるように努めます』
 『おう、しっかり頼みます』
 短いやり取りであったが、見詰め合う二人の目には信頼感が漂っていた。彼らの目は、言葉を叫んでいた。
 『俺はお前を信じる。それを裏切ったときは、お前の命を絶つ!いいな』
 穏やかな目ではなかった。
 砦の西門前の広場には、交易に供する品々が整然と積まれ並んでいるではないか。そこには部下たちにテキパキと指示を出しているアレテスの姿があった。
 『やあ~、アレテスさん、おはよう。朝食に姿が見えなかった。こちらでしたか。それにしても、この品揃えはみごとですな』

第3章  踏み出す  40

2011-03-18 07:26:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『それはあったさ。襲ってくる奴を斥けるのにちょっと手間がかかった。まあ~、そんなもんだろう』
 『そうだったのか、大変だったな。まあ~、いってみれば、海戦は、お前の特技だからな。俺がお前の船だまりの村を訪ねたのは、その5日くらいあとだったからな。村の頭から話を聞いた。納得、納得。とにかく、このように元気で会えた。俺はうれしい。言葉にならん。こんなにうれしいことはない』
 二人は邂逅を喜び合い、旧交を暖めあった。パリヌルスは、アエネアスの存在を堅く秘していた。

 過ごしやすくなった初秋の夜は空けた。
 彼らの一日は、日の出に始まり、日没で終わる。交易が目的で訪れたテカリオンたち、砦の者たちで朝の浜はにぎわっている、その賑わいの中でテカリオン一行とイリオネス一同の朝食の場が作られていた。
 朝の挨拶がテカリオンからイリオネスにかけられた。
 『おはようございます。イリオネス殿、いいお目覚めでしたか』
 『おう、おはよう。テカリオン殿、よく休めたかな』
 『え~え、よく休めました。季節が進んで朝晩が滅法過ごしやすくなりましたな』
 『テカリオン殿、朝の水浴を終えられたかな。朝食の準備をしている、皆で朝食といきましょう』
 『いいですね。そんなにまでしていただいて、とってもありがたい、我ら一同、感謝、感謝です』
 『さあ~、朝食の場にいきましょう』
 二人は、連れ立って歩き出した。