『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  858

2016-08-31 05:57:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 日が替わる、今日も好天である。アヱネアスが建造の場に歩を運んできた。
 『おう、オキテス、新艇第一号納入、新月の日にやるということか。ついにその日が来たか、感無量だ。明日、完成すると言っていたな、キドニアへ運ぶ、運ぶ手段について考えているのか』
 『それについては、曳航していくことにしています』
 『そうか、注文主もそうだが、我々にとってもめでたい日である。この前、言っていたように注文主に感動を届ける、どのように演出するか考えろよ』
 『解りました。力いっぱい考えます』
 『始計第一、まず、計画をつくる、今回は話し合おう。今後のこともある。パリヌルスは、どこにいる?姿を見ないが』
 『はい、今、パリヌルスは小島へ出かけています』
 『昨日、今日と2日続きで試乗会をやっているとのことだが、結果はまだだな。ところで、テカリオンのことについて何か聞いているか?』
 『いえ、聞いてはいませんが』
 『そうか、もう来てもいい頃だと思うが』
 『そうですね』
 『朗報は寝て待とうか』
 『そうして下さい』
 アヱネアスは、日ごとに形を整えて仕上がっていく新艇、その作業に勤しんでいる者たちをしげしげまじまじと見ながら場をあとにする。吹きすぎる風に髪をなびかせ、身をなぶらせて浜を見て歩いた。
 彼の心の中にも強く風が吹いている。吹きすさぶ風、船体を打つ大波、嵐の海洋を乗りきらねば、船上の者たちが海に呑まれてしまう。船上の者たち全員が力を合わせて荒海と闘っている。その情景をまぶたの裏に描き浮かべる。男の闘う姿と同時に、新しい小型戦闘艇構想を想い浮かべる。また、早いか、遅いか、クレタを去る日が必ず訪れる。その決心が日ごとに固まりつつあることを感じている。アヱネアスはふと思う、なんでも脈絡もなしに思い浮かべ考える。『人間とは不思議な生き物だな』と、去就するいろいろな思考にピリオドを打った。
 彼は、波打ち際に立つ、顔をあげ、陽の光にきらめきおどる海浪の海を眺め、海濤の彼方に想いを馳せた。
 小島の方向から、一艘のハシケが近づいてくるのを目の端にとらえる、顔を向ける、目にパリヌルスの姿をとらえた。
 アヱネアスは、ハシケの到着を待つ、浜に乗りあげるハシケ、飛び降りるパリヌルス。
 『あッ!統領!』
 『おう、パリッ!小島の様子はどうだった?』
 『はい、この時期は小魚が多いのですね。アレテスに言われて状況を見に行ってきました』
 『そうか、小魚、うっう~ん、子魚じゃないのか』
 『そうです。何か考えないと水揚げも結果ですが、その先の結果が小さくては、労多くして益少なく結果ままならずです』
 『そうか、そのような苦労がついて廻るとはな。思ってもやらなかったな。俺の不明とするところか、パリヌルス、何か解決の意図口があるか考えてくれ』
 『解りました。考えて解決できるかどうかやってみます』


『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  857

2016-08-30 04:34:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 張り番担当の者たちは、かがり火の明るさを落とさないように薪をつぎたし、炎の勢いに気を配って夜を過ごした。
 第一夜であるこの夜は、何事もおこらず、平穏無事の夜を過ごし、新しい朝を迎えた。
 浜の新しい朝である。浜は常日頃の活気でにぎわった。
 オロンテスがキドニアに向けて船出しようとしている、オキテスが駆けてくる。
 『おう、オロンテス、納入第一号艇が明後日に完成する。集散所側と納入日を打ち合わせてくれ!納入場所、納入期日、時間までだ、それによって我が方も段取りをしなければならない。そういうことだ』
 『解った、納入日等の打ち合わせの件、了解!それが決まれば、その旨をスダヌス浜頭にも連絡するのか?』
 『おう、それでいい』
 キドニア行きのヘルメス艇は、波を割って浜を離れていった。
 パリヌルスは、三番船隊の編成に朝から着手した。イリオネスとオキテスが姿を見せる。
 『おう、パリヌルス、それにオキテス、野営隊編成の件だが、当面、二番船隊、三番船隊で努めるようにしてほしい。スダヌス浜頭のところへ兵の派遣をしなければならないかもしれない。そのようなわけで四番船隊はそのままにしておいてくれ』
 『解りました。その件、了解しました。二番船隊、三番船隊で野営の任務に就きます』
 『解ってくれたか、ありがとう。パリヌルス、用件はそれだけだ。よろしく頼む』
 場を離れていくイリオネスは、建造の場へと歩んでいく。建造の場に姿を見せたアヱネアスとイリオネスは、じっくりと浜を見て廻った。
 今日も建造の場に訪問者が訪れる。
 オキテスは、訪問者の人品骨柄、話し言葉、風体考察に、目配り、気配りをおこたらなかった。
 彼は、ドックスと細かく打ち合わせを行い、納入第一号艇の完成に全神経を注いで製作に当たった。
 今日も午後半ばを過ぎて、集散所担当の者たちがキドニアから帰ってくる、オロンテスが建造の場に来る、オキテスに話しかけた。
 『おう、オキテス、奴らが襲撃してくるのは、夜更けらしい、寝いりっぱなに襲われたと聞いているそうだ』
 『そうか、解った。心する』
 『それから、新艇の納入は、五日後の新月の日にすることになった。それで調整してくれと言っている。納入艇のひき渡しの場所と時間のことだが、注文主と打ち合わせて知らせると言っていた』
 『解った、了解した。俺の方は、それで入念、完成させる』
 オキテスと打ち合わせを終えたオロンテスは、イリオネスの宿舎へ足を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  856

2016-08-29 07:13:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、『はい』と受けて話し始めた。
 『キドニアで海の民に関する情報をキャッチしたのは、スダヌス浜頭からです。イラクリオンの浜頭が助けを求めて、スオダの浜に来て事情が解ったと言っています。その浜頭がイラクリオンの浜を出てパノルモスの浜の仲間を訪ねたそうです。訊ねた先の浜頭の集落も襲われていたとそのように言っています。スダヌス浜頭に助けを求めてきた浜頭からその事情をを聴いたのだそうです。襲ってきた奴らは三艘の小船で浜に乗りつけ、その総勢は50人くらいだったそうです。奴らが言い交わす言葉は聞きなれない言葉だったそうです。そのイラクリオンの浜頭は、略奪されるまま、無抵抗に徹して命を守ったそうです。それとは逆にパノルモスの浜の連中は奴らに抵抗したらしいのです。彼らに抵抗した者たち全てが奴らに殺されたらしいといっていました』
 イリオネスがオロンテスに訊ねた。
 『ほう、そうか。それでスダヌス浜頭は何か言っていたか?』
 『自警で守ろうにも、よう護りきれないのではないかと心配していました』
 アヱネアスが口を開く。
 『だろうな。浜頭の気持ちが解る』
 アヱネアスが心配顔で感じるところを述べる。イリオネスが重ねて言葉をかける。
 『ところでオロンテス、スダヌス浜頭に聞いてほしいことがある。奴らが襲ってくるのは、一日のうちでいつ頃かを聞いてくれ。夜明け頃か、真夜中か、寝つき頃かをだ』
 『解りました』
 アヱネアスが言葉を継ぐ。
 『オロンテス、それからだが、浜頭の方から、我々に何か要請したいことがあるなら言ってくれるように伝えてくれ。以上だ』
 アヱネアスらとスタッフ連との対話が終わりに近づいている。イリオネスが一同に話しかけた。
 『いま、オロンテスから話を聞いた。事情が解ったな。情報を共有して、備えを怠ることなく対応してくれ。よろしく頼む』
 パリヌルスら四人は、『解りました』と声をそろえた。
 パリヌルスがオキテスに声をかけてくる。
 『おう、オキテス、今夜は俺がここにいる』
 『そうか、明日の夜は、俺が担当する』
 『解った。それでいこう』
 イリオネスがオキテスに声をかけてくる。
 『おう、オキテス、聞いておきたい。進水披露の時に受注した新艇のひき渡しは、いつになるかを決めたら今ここにいるメンバーで話し合って、盛大にやろうと考えている、注文主感動の演出をだ』
 『解りました』
 彼らの打ち合わせは終わった。
 彼らは、残るパリヌルスに声をかけて場を去っていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  855

2016-08-26 06:03:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは建造の場の浜に立ってパリヌルスらスタッフ連を招き寄せた。
 『パリヌリス、オキテス、ドックス、今日はご苦労であった。君らが整えてくれた待機戦略防衛の体制は充分だと考えられる。しかし、油断も敵のひとつである。油断をしないことは命を守ることに通じる。気を抜かないように、各隊の諸君に伝えてくれ!これだけの陣容を整えている、不意を突かれることはないと思うが、いかに不意を突かれようが充分に対応できると考えられる。そういうことだ』
 アヱネアスの話が終わって、イリオネスが話しかける。
 『諸君らも耳にして知ったと思うが、人々が海の民と呼ぶ輩についての情報を話し合っておこう。情報に対する対処、対応、不測の事態に対する我が方のあり方がいかに大切であるかということだ。海の民と言われる奴らが、いかなる事情で、どこから、何を目的に、また、奴ら勢力はどれほどのものか?解る限り知っておきたい。もし奴らが襲ってきたら、奴らの命脈を全てこれを絶つ、奴らを抹殺する、生かして帰さない!いいな』
 『解りました』
 『このあと、海の民なる奴らについての情報を交換しておく。俺がクレタ島の視察に出かけたときに知りえたことを伝え、今日、オロンテスたちがキドニアで耳にした奴らに関する情報について聞いておこう』
 イリオネスは、まじまじと一同と目を合わせた。
 『まず、俺からの話をする。俺が旅に出て耳にしたことだが、このクレタ島の東の人の住んでいない浜辺の土地に、ここ1~2年前から、得体のしれない輩が集落を営んでいるという。その奴らが船で出かけ、島の各所の小さな集落を襲っているという。俺を案内してくれた浜頭の話によると島に北東の対岸の小アジアのリュキア(小アジア南西部の王国)の人間らしい、奴らは、ここ数年の天候異常による飢饉が原因で豊かな土地を目指して、船で渡ってきた集団らしいと言っていた。これが俺からの話だ。オロンテス、キドニアで今日、聞いてきた話をしてくれ』 (このころクレタの者たちは、簡単に『海の民』と呼んでいたらしい。各地の小集落を襲ったりしていた小集団が、集団化して都市国家を襲ったりするようになり、だんだん集団が大きくなり、発生当時の小集団が大集団化、連合して『海の民』呼ばれる一大海上勢力化して、エジプトなどを侵攻するのは、このころより時代が下ってからである。その集団が建設された都市国家などを破壊するもののその地には定住することはなかったらしい。)

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  854

2016-08-25 05:10:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕めしを終えたパリヌルスが建造の場に姿を見せる、オキテスとドックスが連れ立ってくる、オロンテスが来る。
 オキテスがドックスに声をかける。
 『ドックス、かがり火の薪の山に火を入れようか』
 『解りました』
 白タスキを身に着けた張り番の者たちがドックスの指示によって薪の山に火を入れた。
 薪の山はしばらくくすぶっている、時がたつ、燃えあがってくる、浜風が火をあおる、火勢が強くなり火は燃えあがった。
 3ぶんの1スタジオンに及ぶ建造の場の浜、あおる浜風、燃えあがる薪の山、場の浜を明るく照らした。
 一同が浜に集まってくる、待機している二番船隊をリナウスが率いて姿を見せる、迎えるパリヌルス。
 隊を二隊に分けて、二つの野営地に駐屯させた。彼らには、まだ白タスキが届けられていない、ドックスから白タスキをパリヌルスが受け取り、リナウスに渡す、小隊長を通して全員に渡される。彼らはタスキを身に着けた。
 『お~お、これなら暗くても味方の確認が容易にできる、重畳!』
 声が飛び交う、合言葉は、『オイッ!』『オマエッ!』同士としての連帯感が生じてきている、彼らに満足の表情が広がった。
 リナウスは、✖印状にタスキ掛けをする、各隊長もリナウスに倣って✖印状にタスキをかけた。パリヌルスは、✖印にタスキをかけた隊長連を見て声をあげる。
 『おう、リナウス隊長、これはいいな。お前いいことに気が付いたな、感心感心。これを張り番の隊長たちにも勧める』
 パリヌルスは、リナウスの発案に大いに賛成した。アヱネアスとイリオネスの声が耳に届く、二人が建造の場の状態を見に来たらしい、オロンテスに話しかけている。
 パリヌルスとオキテスが場に戻ってくる。
 『お~、二人、いたのか』
 イリオネスが声をかける。
 『はい、軍団長、いま、布陣を終えたところです』
 『おう、統領から事情は聴いている。状態を見ておかないとな。では、報告を受ける』
 アヱネアスがイリオネスに並び立つ、パリヌルスが編隊から駐屯までの始終を報告した。
 オキテスが警備状態の詳細を報告した。
 アヱネアスが二人の施策、状態の報告を聞き、現場の光景を見て、満足している表情が見て取れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  853

2016-08-24 06:00:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、どうだ、気持ちがおちついたかな?』
 『おう、おちついた。これであとは夕めしのあとだ。おお、キドニアの連中が帰ってきた』
 『おう、オロンテスにギアス、ご苦労!今日のキドニアはどうであった?』
 『担当している日常業務の方は、変わることなしの繁盛ぶりだ。変わったニュースが飛び込んできた。イラクリオンの浜で『海の民』という輩が浜の漁村を襲ったらしい。パノルモスあたりでもあったらしい』
 『ほう、そうか。そのことで話したいがある。夕めしを終えたら建造の場へ来てくれ。パリヌルスもいる話し合っておきたいことがある』
 『今の話に関連ありか?』
 『おう、ある』
 『ギアス、ヘルメスの走りに何か変わりはないか?』
 『変わりはありません。走りは順調、何も言うことはありません』
 『ほう、そうか。それは重畳!』
 『パリヌルス隊長、明日、明後日と二日続けて、試乗会をやります。集散所からの用命です』
 『おう、解った』
 『それで明後日の件ですが、姿形図と仕様書きをできたら四枚くらいづつほしいのですが』
 『解った。明日、準備して渡す』
 『よろしくお願いいたします』
 オロンテスとギアス、二人は建造の場をあとにした。
 『オキテス、今日の終業の頃合いだ。俺は行く。めしを終えたら、ここへ来る』
 『おう、解った。パリヌルス』
 パリヌルスが歩み去る。
 『オキテス隊長、浜のかがり火の準備が終わりました』
 『おう、ご苦労。今夜、燃やしてみて具合を見よう。向こう40~50日、連日燃やし続けるわけだ、燃やす木材の量、明るさの維持をしてのかがり火だ。ドックス、そのあたりに留意して考えねばならん。頼むぞ』
 『解りました。充分に考えて実行計画を考えます』
 『今日の終業の頃合いだ。一同を集めてくれ』
 ドックスは、各艇の仕上がり具合を入念にチエックして全艇を見て廻った。
 一同を集める、オキテスを呼ぶ、オキテスが全艇の仕上がり具合について、ドックスの報告を受ける、警備体制の変更を伝える、今日の終業を告げて締めくくった。
 夕陽が浜を照らす、星が目覚めはじめる、藍と茜のグラデーションが美しい、ニューキドニアの浜は、日中の繁忙を忘れたかのように静かに暮れていった。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  852

2016-08-23 05:21:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『俺の方か、うまく事を運んだ。ところでだ、帆布の残りがあるかな?』
 『何に使うのだ?』
 『暗闇で敵と殺しあうのだ。味方同士の斬り合いを避けるために各人が白タスキをするのだ。『おっ!これは味方だ』と気づく。野営の連中もすれば張り番隊の連中にもさせるのだ』
 『パリヌルス、それなら、ドックスに仕様を言って作らせればいい』
 『判った』
 パリヌルスは新艇建造の浜へと急ぐ。
 『お~い、ドックス、頼みがある』
 『はいっ!なんでしょう?』
 『白い布切れがいる。巾は、1スパンの半分くらいにして、長さが4キュビトくらい、少々短くてもいい、番船隊分が110本、張り番隊分が40本だ。作業するものに言いつけて作らせてくれ』
 『解りました。間に合わせます』
 『それから、明日と明後日用分を今と同数で、明日、作ってくれ』
 パリヌルスは用件を終えて、オキテスのいるところへ戻ってくる。
 『おう、オキテス、野営地の件をやろう。野営地はどのあたりに決めたのか?』
 『お前、手がすいているのなら、見に行こうか。三か所くらいの候補地を考えている』
 『おう、見に行こう』
 二人は、歩を運んでいく、ドックスのつくったかがり火用のまきを積み上げた山を見ながら歩んでいく、一番目の候補地をみる。波打ち際よりやや奥まった位置だが予想戦場に近い、予想戦場までに約4分の1スタジオンくらいといった地点である。地表面は砂地でありながら草も生えている。
 次に歩を運んだ地は、建造の場の後背地である。野営立地点として最良の地点である。
 『おう、オキテス、第三の地点は見なくていい。第一地点と第二地点のどちらかで決めたらいいと考える』
 『おう、パリヌルス、どちらも野営立地点として最適の立地点だ。その日によって、両地点のどちらでも使用すればいい。また、隊を2分して両地点で野営する。それでどうだ』
 『おう、それでいい。決定だ!敵の襲撃に、即、対応できる。それでだな、暗闇の中での味方の同士討ちを防ぐために白いタスキを身に着けることにした。張り番隊用の分もドックスに言って作らせている。出来あがってきたら一同に配布してくれ』
 『そうか、それはありがたい。これで襲撃に対する準備が整った。ありがとう。世話をかけたな』
 二人は、襲撃対応の準備を終えた。万全と言える体制を整えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  851

2016-08-22 06:53:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君!日夜ご苦労。君らも知っている通り、新艇は、完成一歩手前のところまで来ている。ところでだ、今、『海の民』と呼ばれる不逞の輩が島の各地を荒らしている。今のところ半分は風聞といったところだが。我々も、この不逞の輩に対して対応策を講じることになった。君らの出番だ、判るな!番船隊を編成し、野営して守備の任につくことになった。今夜は、二番船の君らがその任に当たる。ここにリナウス隊長が選んだ君たちが小隊長となって、その任務を遂行してもらう。判ったな』
 草地に腰をおろしている一同を睥睨して、パリヌルスが令を下した。
 『まず、最初に言っておく、敵が襲撃して来たら、ひとり残さず、奴らの命を絶つこと、しかと厳命する。生かして帰さない、いいな!味方については、一命をも失ってはならない。敵は多くて70~80人少なければ20人くらいと予想している。敵と刃を交える時は、敵一人に対して二人でこれに当たるようにして敵の命を奪う。いいな!』と言って、一同と目を合わせた。
 『ところで次だ。我々としては、敵の襲撃は夜であろうと予想している。夜間の交戦である。暗闇の中での戦闘である。予想戦場ではかがり火を燃やして明るくしているとはいうものの敵味方の判別がつきにくい、同士討ちを決定的に避けることが命題なのだ。ここへ来る途中に考えたのだが、両手首に白い布を巻いてはと考えたのだが、いまひとつ決定的な良策とはいいがたい。白い布をタスキにして身に着けてはとの案もある。君らはどちらがいいと考えるか?』
 パリヌルスは一同に質問をする、答えが返ってくる。
 『パリヌルス隊長、その二案では白タスキを身に着ける。それがいいと思いますが』
 『そうか、判った。白タスキを身に着けることにする。白い布については、あとから持ってくるか、野営地に届けるかする。では事の運びの段取りを伝える。夕めしを終えたら、少し休んで、全員、武装して新艇建造の浜へ来てくれ、野営地に案内する。諸君、任務を遂行すること!以上だ』
 一同が大声で『おうっ!』と答えを返す。
 パリヌルスは、指示を終えて建造の場へ帰ってきた。建造の場の浜では、かがり火として燃やす用材のきれっぱしが山と積まれている、ドックスが叱咤指揮して作業を進めている。
 パリヌルスはオキテスに声をかけた。
 『おう、オキテス、五番船の方、うまくいったか?』
 『おう、うまくいった。お前のほうは?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  850

2016-08-20 14:48:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが歩を運ぶ、ながら考える、戦闘場面を思い浮かべる、刀槍を構えて敵と対峙する、周りは闇とはいかないまでも暗い、刃を交えて味方を失いたくはない、傷を負わせたくわない、大切な兵たちである。
 彼は、やっとの思いで一案にたどり着いた。
 兵士ら全員の両の手首に白い布を巻かせることにした。これで味方同士の判別がつく、味方を見誤ることを防げるとした。
 張り番を担当する兵士らにも、これを採用することにした。
 彼は、空を見る、太陽の位置を確かめる、時を計った。二番船の者たちが、もう、そろそろ作業を終えて帰ってくる頃合いである。彼は一同が戻ってくるのを待った。
 リナウスが撃剣訓練の場から帰ってくる、彼はリナウスに声をかける。
 『おう、リナウス、ご苦労!』
 『あっ!隊長。何か用件でも?』
 『おう、リナウス、今夜から、建造の場を野営でもって守備の任務に就くことになった。隊を編成してこれに当たる。解るな』
 『了解しました』
 『隊を編成する要領を説明する。聞いてくれ。二番船の者たちが帰ってくるのを待つ!』
 『解りました』
 『待っている間に要領の説明をする。リナウス、隊はこのように編成する』
 彼は、木板に簡単に書きつけた組織図を見せて口を開いた。
 『リナウス、お前は、大隊長の任について、隊全体と小隊を指揮管理する。解ったな。全員が戻ってきたら、総員数を数えて10隊を組織してくれ。解ったな、なにか質問があるかな?』
 『いえ、ありません』
 『全員が戻ってきたら、隊長格の者を10人集めるのだ。人選はお前に一任だ。そこで俺が、集まった隊長格の者たちに任務と野営要領、敵との交戦要領を伝える』
 『解りました』
 二人は一同が戻ってくるまでの間、雑談を交わして過ごした。
 ほどなく全員が戻ってくる、リナウスの隊長格の人選も終わり、彼らは集合した。
 『パリヌルス隊長、隊長格の者たちが集合しました』
 『おう、ご苦労。リナウス行こう』
 リナウスに選ばれた10人の者たちの集まっているところは、浜からそう遠くない草地である。
 パリヌルスが一同を見まわし声をかける。
 『おう、諸君、ご苦労!君らが立っていてはなんとなく話しづらい、腰をおろしてくれ』
 彼らは、パリヌルスを中心にして半円状に草の上に腰をおろした。パリヌルスが口を開いた

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TORY   第7章  築砦  849

2016-08-19 10:02:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、海の民の襲撃に対する、当方の現有勢力について考えた。熟考した、番船隊を編成して対応することに決めた。
 一番船の者たちは漁業事業に携わっている。六番船の者たちはパン事業に携わっている。待機戦略構想は、二番船、三番船、四番船、五番船の者たちで戦闘部隊を編成することとした。
 彼はオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、待機戦略構想ができた。打ち合わせる。いいな』
 『おう、もうできたのか早かったな』
 『では、打ち合わせる。一番船の者たちは漁業に、六番船の者たちはパン事業に携わっている。彼らには、この役務を担当させることはできない。要するに、この役務を担当するのは、二番船、三番船、四番船、五番船の者たちだ。二番船、三番船、四番船の者たちは、建造の場、想定戦場の至近の地に日替わりで野営して、その夜の守備任務を遂行する。今夜は、二番船の者たちが隊を編成して野営し、その任務を遂行する。明夜は三番船隊、明後日の夜は四番船隊がその任につく。五番船の者たちで隊を編成して、夜の張り番任務を担当する。これでどうだ』
 『おう、この守備体制で実行しよう。決まりだ。各船単位での隊の構成は、80人以下ということはことはないから、常時100人を超える態勢で敵勢に挑むカタチとなる。万全と言える』
 『とにかく、急いで編成しなければならない。今夜を担当する二番船隊については、俺が隊を編成する。それにならって、明日、三番船隊、四番船隊を編成する。それについては俺が責任を持つ。オキテスは、五番船の者たちでもって毎夜の張り番隊を編成してくれ』
 『おう、了解。すぐ作業にかかる』
 『それから、野営地を決めてくれ。それと、どこをどのように明るくするか、そのことについての俺の意見を伝えておく、建造の場は現状でいいと考える。建造の場の浜は出来るだけ明るくが、俺の考えだ。検討して決めてくれ。これで俺は、二番船隊の編成に行く』
 パリヌルスは、二番船隊の編成に、場を立って歩を向けた。
 夜間の戦闘は同士討ちの危険がともなう、彼はこのことについても歩きながら考えた。