『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  199

2014-01-31 08:24:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人はアヱネアスの宿舎の前に来た。イリオネスもそこにいる、幸いした。
 『統領、軍団長、おはようございます。昨夕は大変ごちそうになりました。私たち、久しぶりの陸上での夕食でした、ありがとうございました。手前の者たちも喜んでいました。夕食のあとパリヌルスらといろいろ話し合い、用件を終えました。また、オロンテス殿とも話し合いました。今朝から、小麦を小屋のほうへ運び入れました。私はこれからキドニアの集散所のほうへ行き、こちら様とのつなぎの話を整えます。オロンテス殿と一緒に参ります。只今この時点で話は成ったと了承いただいて結構です。万事うまく話は整います。何の心配もいりません。キドニアでの用件を済ませて、私はミレトスに立ち寄り、母港のミチレーニへ向かいます。春となるころにはこちらに参ります。何卒宜しくお願いします。では、これにて失礼いたします』
 彼は話し終えて場を辞した。
 『では、オロンテス殿、浜で待っております』
 『判りました。私も急ぎ浜へ向かいます』
 オロンテスは、アヱネアスとイリオネスに小麦ことについての報告を済ませ、キドニアにおける用件を告げて場を離れようとした。
 『おう、オロンテス。お前の事だ、構想はできていると思う。ところで帰りはどうする?』
 『そのことでしたら気遣いはいりません。同行の者もおります、道中、調べておきたいこともあります。帰りは歩きで帰ります』
 『判った、道中は気をつけろ。何事もうまくいくよう期待している』
 『ありがとうございます。では、行ってきます』
 オロンテスは場を離れた。広場では同行する三人が支度を整えて待っていた。
 『オロンテス棟梁、言われた通り、準備は整っています』
 『おっ、そうか。行こう』
 彼らは浜へ向かった。浜には、パリヌルスもオキテスもいる、二人はテカリオンと話し込んでいた。
 『おう、その件は了解している』
 『お前は大した奴だ。俺たちに有無を言わせず仕事をさせる。春になって、お前の来るのを待っててやる。互いにうまい酒を酌み交わそう』
 『そのように言ってくれるのか。ありがとう、その日が楽しみだ。ではでは、俺は行くぞ』
 『おう、道中、気をつけていけ』
 『ギアス、では頼む』
 ギアスは、テカリオンとオロンテス一行を舟艇に乗せて、テカリオンの船へと運んだ。
 海鳥が群れて飛び交っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  198

2014-01-30 08:31:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 小屋に運び込んだ小麦は、150袋にも及んだ。オロンテスが懸念していた春先に至っての小麦の保有量の心配もこれで払拭される。彼は口には出すことはなかったが心中の杞憂がなくなったことを喜んだ。この思いは瞬間的に彼の心に惹起したことであり、即、消し飛ばした。今は、今やるべきことに集中すべきであると自分自身を律した。彼は、今日為すべき仕事を丹念にチエックした。万事に遺漏のないことを確認した。しかしであった、彼の感覚では、どう表現してはいいかわからないが、心の中にもやっと漂う何かを感じていた。『何だろう?』未体験の分野に一歩ふみだすときに感じる得体の知れない不安であった。『あっ!そうか』彼はこの仕事を理詰めで納得している、あとはこの仕事が『いいカタチ』に成し遂げれるかに関する思念であった。不安を払拭したい、どうすればいいのか。彼はただ『うまくいく!』を声には出さず、くり返し連呼した、ひたすらに連呼した。そうしているうちに心が落ち着いてきた。事が進展し成就する方向に精魂を尽くしている自分が見えてきた。イメージが浮かんだ。その境地に至った彼は『うん、いいだろう』と腰をあげた。思念の思いにふけっているときには周囲のざわざわに気がついてはいなかった。そのことを振り返った。彼は、近づいてくるテカリオンの姿に気がついた。
 『オロンテス殿、いかがですか。うまく小屋に収まりましたかな』
 『え~え、うまく収まりました』
 『それはそれはよかった。どれどれ、見ましょう』
 二人は肩を並べて小麦を搬入した小屋へ向かった。
 『うっう~ん、いい具合に収まっています』
 『落ち着かれましたら、集散所のほうへ向かいましょう。私の船で行きます』
 『判りました。テカリオン殿、この小麦の決済のことですが、如何ように、その件について話し合っていませんが』
 『判っております。気になさらないでください。オロンテス殿は今日の集散所との話し合いの事だけを考えてください。そのことについては春が来て皆さん方が集まっておいでの時に話し合おうではありませんか。大体の事はパリヌルスに話してあります』
 『判りました』
 二人はアヱネアスの宿舎へと足を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  197

2014-01-29 07:44:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 人々が人智を尽くしてパンをつくる一歩手前までに到達したといっていいところまできた。最初は大麦を煮て粥として食べていた。彼らは胃の中におさめるのに一手を省くことを考えたと想像される。それには砕いて胃の中に入れる、『いっそのこと粉にしてしまえ』と製粉を思い立ったのではなかろうかと私は考える。そこに未来に通じる道があった。脱穀した小麦を桶に入れ、石ですりつぶす事に始まり、石臼を思い付き、粉にして、水で練り、やや薄目に形を整えたものを厚く焼けたかまどのヘリに張り付けて焼いて口にした。『お~お、旨いではないか』ついにパンの原型ができたのである。原始時代の生活風景に思いをはせていただきたいと思う。パンの始まりである。パンを焼く石窯ができるのはローマ時代の初期の頃であると思われる。紀元前600年ころになって、ようやく、ワインを使っての醗酵技術が考えられた。これもワインで粉を練り、ほっておいたら練っておいた塊が大きくなっていたといった偶然が働いたのではなかろうかと推察している。また、原初の菓子パンが蜂蜜を使って、このころに登場して、現代に至っている。この時代、パンは、全粒粉で造られていたと考えられる。粉にした小麦粉からフスマを除いて、小麦粉の純度を高めてパンが造られていたかどうかについては定かではない。(このパンの項は、全く筆者の想像で書きました)

 オロンテスは、言うに違わず多忙である。パンを焼く作業よりも小麦を粉にする作業が大変であろうと考えた。彼は粉にした小麦、小麦粉を余裕をもって準備するにはについて脳漿を絞って考えた。
 オロンテスは、集散所との話し合いに持参するパンを丹念に焼き上げた。準備は整った。口には出しはしなかったが、初めて手を付ける仕事の分野であるだけに緊張していた。彼は今日の仕事を手ぬかりなくやり遂げることに意識を集中した。
 小麦搬入の作業は、一刻(2時間)くらいの時間を費やして難なく終えた。
 彼は、キドニアの集散所での考えられる仕事、作業内容を想定して、部下の中から、三人を選び、今日、同行させることにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  196

2014-01-28 07:16:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝が来る、朝行事を終えたオロンテスは多忙であった。
 彼は、昨夕、テカリオンから要請を受けた人員をセレストスに託して、浜にむかわせ、小麦を運び入れる小屋の整備にあたった。また、今日の集散所に持ち込む見本のパンつくりにも気を配った。

 古代において、主食化していくパン。そのパンはどのようにして焼かれて、人々の口にとどいたか。思いつくまま書いてみようと思う。古代のムギは『ひとつぶムギ』と言われる品種から始まったらしい。このムギの品種は、この地球の一箇所、メソポタミア地方の草原の中で発見された野生種であった。人々は『これは食べられる』を発見したのが、気も遠くなるような紀元前15000年も昔の頃である。彼らは考えた、野草の中から採集しても『満腹にはならない』この欲望をどうしてかなえようか。『では、こうしよう』彼らは、このものだけが生育する場をつくろうと思い立ち、畑地栽培を志したと考えられる。まさに人智としての素晴らしいところである。彼らは思いのほか収穫の低収量に耐えたであろうと想像される。想像される収穫倍率は、分けつを加味しても2~6倍くらいといった低収穫倍率であったと考えられる。その時代から14000年後のアヱネアスの時代に至って、農耕の技術が進化していたとしても『ひとつぶムギ』の収穫倍率は分けつ効果も考えて10~13倍くらいのものであったろうと考えられる。しかし、この時代に至るまでにちょっとばかりうれしい発見もあった。それは多粒小麦の品種が発見されていたことである。これがさらに1000年後のローマ時代に至っても収穫倍率は変わっていないといっていい状態であった。農業技術の進歩はこの間なかったのであろうか、考えさせられる。
 収穫されたムギは、硬い穀物である。どうすれば口に入れて、胃におさめられるか?が問題であった。パンに至る道はまだ遠かった。このころには、大麦も小麦も既に存在している。大麦は水で煮て粥として食していた。この時代の彼らには考える時間がたっぷりとあった。
 収穫したムギの脱穀はというと穂から粒を引く抜く作業を手でやっていた。彼らは、この作業をどうすれば手際よく、いい効率でやろうかと考えたであろうと想像される。進歩の歩みは極めてと言われるくらいにのろい。
 小麦は歴史上一番初めの加工食品の素材と言っていいのである。種をまくーー育てるーー実る――収穫するーー脱穀する、次はどうする。胃におさめるについて、『食べやすくしよう』それには、この硬い食事の素材を砕いて『粉にしてはどうか』と考えたのではなかろうか。製粉ー―練るーー加熱、といった工程でものをつくり口を経て胃におさめよう。ということで収穫した硬い小麦を粉末にすることを考えた。原初の製粉行程は、脱穀した小麦を桶に入れて石でもってすりつぶしていた。『う~~~~~ん』で考え出したのが、石と石ですりつぶす方法を考え出した。人々が石臼を道具として使い始めるのが、紀元前8000年の頃である。小麦が登場して、どうして食べようかと思案して、どんな順序でそのものをつくるか、それを実現するまでに、長い長い年月を歩んだのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  195

2014-01-27 08:48:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 広場では、夕食の場がすっかり整えられていた。彼らの定番である浜焼きスタイルの夕食である。焚き火のシマが炎を上げている。アヱネアスもイリオネスもすでに座についていた。セレストスは、指示を発して場の整理をしていた。オロンテスがアレテスに近づき手を取って声をかけていた。
 『おう、アレテス!今日はありがとう。感謝感謝!今日の夕食に使った。礼を言う。ありがとう』
 この言葉をパリヌルスは耳にした。
 『はは~ん、彼奴のにやにやは、これか』彼は明日にでも、このことの仔細を聞いておかねばと心に決めた。
 イリオネスのひと言があり、心づくしの酒もふるまわれた。テカリオンの塩漬け肉を久しぶりに口にした。魚とは別のうまさを味わった。申し分のない夕食の場であった。あれやこれやで夕食が終わった。テカリオンたち一行との友好も深まり、彼らは久しぶりの陸上での食事を楽しんだ。
 イリオネスとパリヌルスら四人はテカリオンとの夕食後の打合せを行った。
 『明日の予定と段取りはそのようなのだな、判った。それぞれにうまくやってくれ』
 オキテスの風風感知器について意見が交わされた。テカリオンはそれなりに成功するだろうとの見通しについて語った。オキテスはパリヌルスに声をかけた。
 『パリヌルス、そのような状況が予想される、負担を感じない規模でゴーサインか』
 『まず、テカリオンに託して、様子見といったくらいのところからのスタートだな』
 『それで『ゴー』としよう』
 『判った。まずは、スタートの生産個数だが、50個くらいとする』
 『いいでしょう。オキテス殿よろしく頼みます。私も尽くせるだけの力を尽くします。固く約束いたします』
 『よしっ!頼む』
 互いに仕事の方向と予定の打ち合わせを終えた。
 『皆さん、大変ごちそうになりました。私どもこれにて、、、』
 テカリオンは、一行を連れて広場をあとにした。
 一同の体には食事後のほてりがあった。浜風が体に心地よく感じられた。
 明朝の出航が一日日延べとなることが伝えられている。それとともに、明早朝からの作業予定が伝えられていた。
 テカリオンが気にかけていた積み荷である小麦の事を解決したのである。
 『これでよしつ!うまくいった!』
 彼は、心の中で快哉を叫んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  194

2014-01-24 12:35:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『もう、いいですか、棟梁』
 セレストスは、エノス時代に尊敬の念を込めて、オロンテスをこのように呼んでいたのである。
 『セレストス、いいぞ!もっと叩け!』セレストスは力を込めて、『ガンガン』を打ち叩いた。
 『お~っ!なかなかいい!セレストス、打ち鳴らせ!ガンガンいけっ!』
 セレストスは、オロンテスの掛け声にせっつかれて木の枝につるした『ガンガン』を打ち鳴らした。彼が『ガンガン』を打ち鳴らすのに手渡されていた木の棒は、樹の根が塊状になったやや太めの木の棒であった。『ガンガン』こだまして鳴り渡った。彼らが居住している一帯に鳴り渡った。当然、浜へも鳴り渡っていった。居住しているところのあちこちから人が集まってくる、彼らはいぶかしい目で『ガンガン』を見つめたが、広場の情景を見て納得したらしい。
 『おい、イリオネス、あのガンガンは何事だ?』
 『あれはですね、統領。『食事の用意ができたぞ!皆、集まって来い』の合図です』
 『そうか、それはいい!走って伝えるより、このやり方のほうがず~といい、何となく雰囲気もいい、こういうのは俺も好きだな。お前たち何でも考えるな』
 アヱネアスは、感心の気持ちを語った。イリオネスは、あらかじめオロンテスから『ガンガン』の趣旨を聞いていたのである。それが今日の夕食に当たって実行されたのである。宿舎のオキテスも耳にした。浜にいるパリヌルスも耳にした。浜の者たちがパリヌルスに聞いてくる。
 『隊長、あのガンガンはなんです?』
 『あ、あれが何かだと、俺は知らん。それより、お前たち仕事は終わったのか。お前らに聞かれて考えたのだが、あれは『みんな集まれ』の合図だと思う』
 そのように答えて、彼は浜を見て回った。島のほうへと目を移した。アレテスたちの乗った船が波を割って浜へ迫っていた。
 彼の許へ一行を引き連れたテカリオンがやってくる。彼もパリヌルスに問いかけた。
 『おい!パリヌルス、あのガンガンは何だ』
 『俺も知らん。あのガンガンについては知らされていない。しかし、言えることは『めしだぞ!者ども集まれ!』の合図だと思う。テカリオン行こう』
 『判った!』テカリオンは一同に声をかけて、広場への道を歩み始めた。
 アレテスの船が浜に着いた。アレテスが笑っている。彼も『ガンガン』を耳にしている。
 『あのガンガンは何ですか?』
 『お前も俺に聞くのか。あれはだな、『めしだぞ!集まれ!』の合図だと思う。アレテス、お前何をにやにやしているのだ』
 と言って浜を見まわした。
 『ハッハ、私のにやにやですか、これは今日の楽しみです』
 浜にいる者たちがガンガンを耳にして『何だろう?』といぶかしんだ表情をしていた。
 パリヌルスは、彼ら一同に声をかけた。
 『お~いっ!皆、行くぞ!めしだ』
 一同は広場の夕食の場へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  193

2014-01-23 08:13:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンを囲んでの座談は終わった。
 イリオネスは、テカリオンに声をかけた。
 『テカリオンどの、どうだろう。今日、夕食の場を皆でと考えている。これといった馳走はないが、ここに来るとき通った広場でやる。一行の皆さんも連れておいでください』
 『判りました。ありがたいことです。喜んでまいります。私はちょっと用事を済ませ、一同揃ってまいります』
 テカリオンは座を立って用向きに歩き出した。オキテスは、風風感知器の件で自分の宿舎に向かう、パリヌルスは、イリオネスと方角時板の件で話し合った。
 『パリヌルス、『方角時板』に使う鉄の棒は、あと30本余りの手持ちだ。10台余りづつの2回に分けての取引にするように約束してくれ』
 『判りました。『風風感知器』については、明朝、話し合っての決着です。集散所の件については、あす、テカリオンが話をつないでくれる段取りになっています。オロンテスが焼くパンの商いから集散所においての仕事が始まる予定ですが』
 『おう、いいではないか。そこまで話を進めてくれたのか、ご苦労であったな』
 イリオネスは、ふと考え込んだ。気にかかることがあるらしい。
 『ところで、仕事を進めるとなると、いま、我々が保有している小麦の在庫量が気になるといったところだ』
 『それについては、うまく話し合います。何とかなると考えています。任せてくださいますか』
 『よしっ、お前に一任する。財務については俺が考える、そいうことだ』
 『判りました。宜しくお願いします』
 パリヌルスは、イリオネスにテカリオンとの話し合いの内容を伝えて、軍団長としてのイリオネスの意向を確かめた。
 『では、軍団長、私もこれで、浜の状況などの点検に行きます』
 『よし、そうか。夕食は、皆一緒に食べる。島のアレテスたちも頃合いになったら広場のほうに来るようにな』
 『判りました』
 パリヌルスは場を離れて浜に向かった。
 オロンテスは、ひと工夫の実行を試そうとしていた。
 広場に立っている一本の大木の枝に、直径が80センチもあろうかと思われる丸みのある鉄の板をつるす作業にセレストスと取り組んでいた。
 『おう、セレストス、そんなところでいいだろう、ヨッシャ!』
 彼は、前もって準備していた、太めの気の棒をセレストスに手渡した。
 『セレストス、この木の棒で鉄板の真ん中を力を込めて叩いてくれ』
 オロンテスは、準備のできた夕食の場を確かめて指示をした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  192

2014-01-22 07:22:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、お前どう思う?テカリオンが舟艇を造れと言っているが』
 『パリヌルス、それには用材がかかわる。用材の良しあしが舟艇の出来を左右する。この島で、いい用材が調達できるか否かが問題だ』
 『テカリオン、お前の胸算用では、どのように予定を立てているのだ。それを聞かせてくれ』
 『俺の希望では、夏のころまでに5艇くらい、引き取れればいいと考えている』
 『よしっ、それについては考える。春になって暦が新しくなるころまでには答えが出ている、ここへ来たときに話し合おう。いい木材があるかどうかで決まる。そこでだ、テカリオン。お前が舟艇を引き取る値段の件だ。この前の取引では、お前の言い値でよしとしたが、それを考え直してくれることが、我々が要望するところだ』
 『心得た。その件については、充分に納得してくれるように考える。この前の取引では、あの船が使いものになるか、どうかが値決めの判断要因であったのだ、理解してくれ。今は違う、あの船はいけると、俺も自信をもって商談ができる、いい船だ。値段は、充分に検討して、お前らが喜ぶような値段が提示できると考えている。お前たちもそれについて検討してくれ。商談約束は、春が明けてだ。それでいいか』
 『判った。力いっぱい踏ん張ってくれ』
 話を聞いていてオキテスが言った。
 『ご両人っ、合点!承知した』
 『オキテス、と言うことだ。お前と俺、二人の守備領域の用件はこれで良しとしていいかな』
 『いいだろう、これで良しとしようではないか』
 『テカリオン、判った。後日の打ち合わせだ』
 『ご両人、何卒、宜しく頼みます。これこの通り』
 と言って、二人と目を合わせて頭を下げた。パリヌルスは、イリオネスのほうへ身体を向けた。
 『軍団長、テカリオンとの話し合い、一応終わりました。夕食のあとに、あとひと話というところです』
 それを言うと、オロンテスのほうへ身体を向けて、
 『オロンテス、夕食のあとにもう一度打ち合わせをやる、軍団長をまじえて五人で明日の事を打ち合わせる、いいな。集散所の件だ。この機会を逃したら、あとはない』
 『判りました。私はこれで夕食の支度に向かいます。いいですね』
 『おう、いい!うまいものを頼むぞ』
 オロンテスは場を離れていった。
 『オキテス、『風風感知器』の件、よろしく頼む。俺は『方角時板』の件で軍団長と話してくる』
 『おう、判った』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  191

2014-01-21 07:55:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、テカリオン。俺が気にかけているのはだな、皆が使うかどうかというところだ』
 『オキテス殿、それをどう名づけられたかを知りたいのですが』
 『そのように丁寧に言わなくてもいい。では、言おう。ちと照れるな。それは『風風感知器』と名付けた』
 『ほっほう、なるほど、風見の道具ですかな。この名前から行くと風を見る道具のようですな』
 『そうだ、船上でも陸上でも使える、風の吹いてくる方向、風の力のおおよそがこれによって判別できる。完成の領域に到達するのには、あと一歩というところなのだ』
 『それはどのような?』
 『それはだな、テカリオン。こういうことだ。風の力はつかみにくい、風力の水準をどのように言い表していくかということだ。それが課題として残っているということだ』
 『それはむつかしいことですな』
 『風が力の具体的な例をもって、風力のランク付けをやろうと思っている』
 『それは風力の評価を具体的な数値で言い表すということですかな』
 『まあ~、そういうことになる』
 『聞いたところでは、それは大変な道具ではないですか。現物を見たいと思います。交易の場で、どのような評価を受けるかですな』
 『その辺の事を現物を見ての話し合いといこう』
 『いいでしょう、そうします。夕食のあとにでも現物を見てということでよろしいですかな』
 『おう、それでいい』
 『それからですが、私から頼みがあります。前にこちら様と取引した品物の事ですが、話していいですかな』
 『いいともいいとも、俺たちはそれを聞きたいと思っているのだ。話してくれ』
 『まず、あの『方角時板』の件です。あれの受けが非常にいいのです。あれをいただきたい』
 変わってパリヌルスが話にのってきた。
 『『方角時板』の事か、あれについては、材料さえあれば造ることができるが、材料の在庫があるかどうかだ。いま、ここでは返事は無理だ。この件については明朝ということにしてほしい。それでいいか』
 『それでいいですとも、お願いします。あの品物は、私の独占扱いですからな。ほかの交易人は取り扱ってはいません。彼らは涎を流していますよ』
 『そうか、それは羨ましい限りだ。ほかにまだ何かあるかな?』
 『え~え、まだまだあります』
 『それは何だ?』
 『それは、でっかい品物です。判りますかな。あの舟艇です。あれを造っていただきたい。クレタは造船業で栄えた島です。私はこれはいいと思いますが、、、、』
 『なにっ!あの船を造れと、、、、』
 パリヌルスとオキテスは目を合わせた。二人が申し合せて意中の秘密としていることであったのだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  190

2014-01-20 07:46:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆さん!私は、明日、帰途の出航を考えていましたが、出航を一日延期します。明日、集散所の関係者と話し合います。私の考えているところは、オロンテス殿の焼いておられるパンです。あれはいけます。やられますか?』
 テカリオンは、イリオネスの目を見つめた。
 『はじめはチョロチョロです。先へ行っていい成果が期待できます。まず、やるか、やらないかの意思決定です』
 テカリオンの言葉を受けて、オロンテスは、イリオネスと目を合わせた。
 『軍団長、やりましょう!』
 『オロンテス、いいのか』
 『軍団長、この機を逃す、それはおろかであると思います』
 『よしっ!判った』
 イリオネスは、ゴーサインの意志を示した。
 『テカリオン殿、やります!手筈をお願いします』
 『オロンテス、テカリオン殿と段取りを話し合い、仕事に取り掛かってくれ』
 『判りました。テカリオン殿、よろしく頼みます』
 『判りました。お引き受けいたします。オロンテス殿、段取りについては後ほど打ち合わせいたしましょう』
 『判りました』
 テカリオンは、承諾の返事を返して、次の話題をとパリヌルスとオキテスに目線を送った。
 『テカリオン、オロンテスとの話は終わったのか。では、俺たちとの話としよう』
 『オロンテス殿との話は、重畳といったところに落ち着いた。これで帰りの船足は軽やかになるといったところだ』
 『お前の交易の腕前は大したもんだ。まさに感心する』
 『おまえ、そう思うか』
 『しかと、そう思う』
 『そうかそうか。オキテス殿お待たせしました。聞きましたよ、例のもの、道具として完成の域に達していると耳にしています』
 『テカリオン、お前の耳は、まさに地獄耳といったところだな。そこまで知っているのなら話せばならんといったところだな。パリヌルス、どうだ?いいかな』
 『いいのじゃないかな。これで、一気に人の知るところになる。あのものが世に出るチャンスと言っていい』
 『そうか、そこまで言うのなら、世の中の支持をうけるかどうか、やってみることにするか』
 『オキテス殿、その物の名は何というのです?』
 『聞いてくれるのか』
 『お聞きしたいの一言です』
 『言おうか、言うまいか』
 短い言葉のやり取りから話は始まった。