『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  113

2011-06-30 06:15:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一列になって荒野の中に延びる道を用材を運んでいく、運搬別働隊の隊列の長さは7スタジオン(約1.3キロ余り)に及んだ。
 道は、大きな草株は取り除かれ、よく整備されていた。道路状態の良し悪しは、運び行く速度に影響を及ぼし、荷くずれを引き起こす、また、森からの道は平坦であり、ゆるい下り坂でもあった。
 天候、地勢的条件、その上、いい道路状態に恵まれ、困難な状態におちいることなく無事故で第一日目の運搬を終えようとしていた。
 第二回目の運搬の出発時には、陽は西の空に傾き始める頃であった。
 オロンテスは、アレテスの伐りだし場に来て、彼に伝えた。
 『では、アレテス、俺は行く、あとのことは頼んだぞ。日没近くになったら、各伐りだし場の伐採した用材の本数を集計して、今日の作業を終われ。隊をまとめて帰路についてくれ。俺は浜にいる、帰着次第、俺のところに来てくれ。明日の段取りを打ち合わせる、いいな』
 『判りました』
 オロンテスは、アンテウスとともに、隊列の最後尾について歩んだ。二人の話はあすのことにおよんだ。砦の浜に着くころには、話題は舟艇建造のことに触れていた。
 二人の頭の中には、いよいよ取り掛かる舟艇の建造のことしかないようであった。

第3章  踏み出す  112

2011-06-29 05:46:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、アバスやっているな。何事も入念仕上げのお前のことだ、全台車に積み終わったか。道の整備は、お前のやった仕事だ、よく整備したことだろうと思っている。一番隊、二番隊と出発した。しかし、二番隊の最後尾は、今出ようとしている。あわてることはない、慎重にことを運べ。道中は充分に気をつけていくのだぞ、わかったな。俺が気にしていることは、第一回目の運搬で道が踏みならされるか、はたまた、荒れるかのどちらかだ。明日の運搬に修復の必要があるかないかについて、よく見ていってくれ。俺も注意して道をたどっていく。もういいだろう、出発の位置に付いて発つときを待て、俺が最後尾の台車についていく』
 『判りました。道中、充分注意して浜に向かいます』
 『あ~あ、言い忘れた。台車と台車の間隔のことだが、今回の運搬作業の標準間隔を約4分の1スタジオンと決めた。台車と台車の間隔は、その間隔で運搬に当たってくれ』
 『いいですね、誰が台車の間隔を4分の1スタジオンと進言したのですか』
 『そのことか、それはアミクスだ。あいつも事に当たっては、慎重な考えをする男なのだ』
 『もういいだろう。出発しようか』
 『それでは出ます。隊長、最後尾よろしく頼みます』
 『おう、判った』
 彼らは、二番隊のリナウス隊に続いて森をあとにした。

第3章  踏み出す  111 *スタジオンについて

2011-06-28 08:31:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『1スタジオン』とは、この時代の長さの単位です。
 大体、180メートル~190メートルの長さです。その距離は、約2分間に人が歩く距離だそうです。ときところによって、また時代によって、その長さは、まちまちだったそうです。
 2分間と言うのは、目で見える太陽の移動した距離なのです。
 それは、古代人たちが、地平線に朝の太陽が最初の光を見せたときに歩き始め、太陽がまさに、地平線を離れようとするまでに歩いた距離を平均して、『1スタジオン』としたのだそうです。
 しつらえた競技場を『スタジアム』と呼ぶのは、ギリシア時代にその競技場に『1スタジオン』の競走路が設けられたことによるのです。
 オリンピアのスタジアムは、紀元前450年頃に造られたもので、そこに造られた競走路は、192.3メートルあるそうです。
 192.3メートルは、その時代、当時の『1スタジオン』で造られています。

第3章  踏み出す  111

2011-06-28 07:10:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おい、アミクス、最終点検を終えたか』
 『はい、終りました。全車、OKです』
 『よし、一番隊として、出発しろ!』
 『判りました。隊長、台車と台車の間隔について、隊長はどのように考えていますか。私は約1スタジオンに4台、要するに間隔は4分の1スタジオンで行こうと考えていますが』
 『うっう~ん、4分の1スタジオンか、それくらいがいいだろう。それでいってくれ。あとに続く隊も君の言うように、台車と台車の間隔を4分の1スタジオンでいく、では出発しろ。何度も言うが道中、注意を怠るな、気をつけて行け!』
 『では、出発します』 アミクスは先頭車に向かって大声で命令を下した。
 『先頭車っ!スタートだ、出発しろ!』
 アミクス隊は出発した。アンテウスは続いて、リナウス隊を点検した。入念にチエックを入れた。
 『リナウス、いいだろう。いつものお前とは違うな。念を入れた仕事をしたな。アミクスと打ち合わせたが台車と台車の間隔の取り方だが、4分の1スタジオンぐらいあけるのだ。判ったな。このあと、台車と台車の間隔を4分の1スタジオンを標準間隔として運搬作業を進める。お前もそのようにして道中を行け、お前が二番隊だ。よし出発しろ。気をつけて行け、無事を祈っている!』
 『隊長、もう頃合いです。出発します』
 リナウス隊は二番隊と言う位置づけで森を後にした。
 最後はアバス隊である。仕事は遅れがちだが一番安心のできる仕事ぶりの隊である。彼はアバス隊のいるアカテスの伐りだし場に来た。彼が着いたとき、最後の一本を積み終えたところであった。

第3章  踏み出す  110

2011-06-27 06:50:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では、行こう』 オロンテスは声をかけた。
 五人は用材伐りだしの現場へと向かった。現場に着いたオロンテスは、昼食を終えて小休止の全員に声が届くように大声をあげた。
 『お~いっ!皆、集まってくれ』
 間をおかずに皆が集まってきた。
 『おうっ!皆、ご苦労。いよいよだ。用材の運搬を開始する。もうすぐ、運搬を担当する別働隊がこちらに来る。用材は、一本一本、かなりの重量がある。それらを一本づつ、台車に乗せて砦の浜に運搬する。用材を台車に積むとき、彼らに手を貸すこと、判ったか。運搬は、今日は日暮れまだに2回、明日は、早朝から日没までの3回で運搬業務を終える。皆、隊長の指示に従ってよろしく頼む。なお、作業をやるときは充分に注意を払ってやること。以上だ』
 運搬別働隊が、出来立ての台車を転がす音を響かせて各現場にやってきた。現場の者たちにひと声をかけて、台車に用材を積み始めた。用材が台車に積まれていく、台車へのおさまりに気を配りながら積んでいった。
 隊長から指示が飛ぶ。
 『用材を台車にしっかり固定するのだ』
 『要領がわからないものは、俺に聞け!』
 『作業をやるときは、声を出せ!』
 声を出すことによって、作業行動の緊張を維持した。作業の喧騒が収まり、各隊長は、積載の状態を点検した。
 アンテウスが念を入れて最終点検をした。

第3章  踏み出す  109

2011-06-24 07:51:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『棟梁、まいりました。私ども三隊は運搬出発準備完了しています。アミクスの隊は、アレテス隊の伐りだした用材を、リナウスの隊は、ギアス隊の分を、アバスの隊は、アカテス隊の分を担当します』
 オロンテスは、そばにいた部下にアレテスたち三人を呼びにはしらせた。時を待たずに全員が揃った。彼は緊張した表情で皆に話しかけた。
 『運搬担当の別働隊が用材を積んで出発のときとなった。アレテス、ギアス、アカテス、お前たちのところ、用材の積み出しに直ちに対応できるようになっているか。第一回目の積み出しは、各隊当たり7~8本だが、大丈夫か』
 『大丈夫です。用材の枝落とし、不要部分の斬りおとしを終えて整えてあります』
 『第1回目が出発したあと、3~4時間後には、第2回目の運搬となる。用材を速やかに積み出せるようにしておくのだ。いいな』
 『判りました』
 『では、アレテスの隊には、別働隊のアミクス隊、ギアスの隊にはリナウス隊、アカテスの隊には、アバス隊が当たる。以上だ。運搬別働隊は直ちに事に当たる、いいな』
 オロンテスは、締めくくった言葉『いいな』に強く念をこめて言った。
 『では、アンテウス、行こう、出発だ』
 『判りました』 と答えて、アンテウスは、部下にアミクス、リナウス、アバスの三人に宛てての伝達を指示した。

第3章  踏み出す  108

2011-06-23 07:44:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 この喊声にアンテウスは気分を乗せた。
 『続けて話す、聞いてくれ!運搬は今日これから日暮れまでに2回、明日は、早朝から日没までに3回、都合、5回の運搬を行う。台車の総台数は22台、各隊の割り当て台数は7台、一隊だけが8台である。台車一台当たり7人が担当する。運搬の道中、気を抜くな、細心の注意をして運搬に当たるのだ。道中でなんらかが原因で事故が起きれば、それこそ一大事だ、ケガは軽傷ではおさまらんと思え。心して運べ、慎重であることこそ大切だ。では、諸君、しっかり頼んだぞ』
 『おうっ!』『おうっ!』 彼らは力強く返事を返した。
 アンテウスは、話し終えて、今度は三人の隊長に顔を向けた。
 『君たちは、俺の話は聞いての通りだ。いいな。道中、充分に注意して浜まで用材を運んでくれ。用材運搬に関する安全と無事は君らの双肩にかかっている。心して事に当たってくれ。それでだ、アミクス、お前の隊は、アレテス隊の用材だ。リナウス、お前の隊は、ギアス隊の用材だ。アバス、お前の隊は、アカテス隊の用材を担当する。昼めし終えて、落ち着いたら、担当各隊の伐りだしの場へ向かってくれ。いいか、質問はあるか』
 ちょっと間をおいて三人は『ありません』 と答えた。
 『では、三人、頼んだぞ』
 今度の三人の返事はしっかりと返ってきた。
 言うべきことを言い終えたアンテウスは、部下の一人を連れてオロンテスのところへと出向いた。

第3章  踏み出す  107

2011-06-22 06:25:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アンテウスは集まった皆の顔を見て廻った。目線が合う、互いに笑みを交わす、ところどころで声をかけるが、言葉をかけずとも互いの心情を通じ合わせた。
 彼は、集まっている者たちの中央とおぼしきところに座を決めて、アミクスら三人も近くに座らせた。彼ら一同は、ぎらついた食欲をあらわにして昼食を食べた。アンテウスは、一同に話すべく起ちあがった。
 『お~い、皆、今日は朝早くからご苦労であった。台車つくりのほうも終了した。また、運搬道の整備も終わった。昼めしを終えたら、いよいよだ。用材の運搬に取り掛かる、いいな。ところで一同に確かめる』
 ここでアンテウスは、集まっている者たちを鋭い目線で見回した。
 『お前たちの造った台車のことだ。いいか。お前ら、並の状況において壊れることのない台車を造ったか』
 語調が強くなった。
 『もしだ、もしもだ。運搬の道中においてだ、用材を積んだ台車が壊れるようなことがあったらどうなると思う。どうだ。それこそ一大事だ。判るか。けが人が出る、それも一人や二人ではすまないのだ、その台車にとりついている者、全員が怪我するかもしれないのだ。また、それだけではすまないかもしれないのだ、後続の者たちもいるのだ。俺の言っていることがわかるな。各隊の隊長とその台車にとりつく者で、もう一度、台車を点検するのだ、判るな。それくらいの考えで台車を造ったかどうかだ。出発前に台車の仕上がりを、もう一度、入念に点検してほしい』
 彼は鋭い目線で皆を見回した。彼らも鋭い目線でアンテウスを見返してきた。アンテウスは彼らの目線を肌に感じた。彼らは魂をこめて台車を造ったということを肌に感じた。
 『では、隊長の指示に従って、用材の運搬に取り掛かろう。諸君っ!いいか、道中、充分に注意を怠らず、安全を第一で運搬するのだ。判ったな』
 一同は大声をあげた。
 『ウオッ!ウオッ!』『ウオッ!ウオッ!』
 彼らの大声は、森の空気を振るわせた。

第3章  踏み出す  106

2011-06-21 06:39:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~、それから運搬のことだが、昼めしが終わったら運搬にかかる。日暮れまでに二回の運搬をやる。そして、明日の運搬は三回、それで運搬の業務は終える。各隊に言っておく、台車に用材を積むときは運搬の者たちに手を貸してやるのだ。それからだが、二回目の運搬隊が出発するとき、俺も彼らとともに浜に向かう。三人ともあとのことよろしく頼む。用材本数の集計は浜でやるから、その時、俺に報告してくれ。以上だ。さ~、これで昼めしだ。解散』
 打ち合わせは終わった。高く昇った太陽は南中に迫っていた。

 アンテウスは、ガヤガヤと近づいてくる足音と声を耳にした。アバスたちが帰ってきたらしい。彼はにわかつくりの道の真ん中に立っていた。アバスが近づいてくる。
 『あ~っ、隊長。道路の整備を終えて、只今、帰ってきました。台車は5台です。6台あったのですが、1台は途中で壊れました。なお、全員、無事の帰着です。以上』
 『おっ、よし、ご苦労であった』 と言って、アンテウスは空を仰いだ。頭上には南中した太陽がギラギラと輝いていた。
 彼は、大声をあげて、アミクスを呼んだ。
 『アミクスにアバス、めし時だ。皆で昼めしを食うぞ。飯を食べながら話す、集まって全員で食べる、いいな。二人は、その場を作れ。出来たら呼んでくれ』
 二人は疲れも見せず、部下を呼んで場造りに取り掛かった。皆が集まってきた。

第3章  踏み出す  105

2011-06-20 06:46:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、用材伐りだしの現場に帰ってきた。彼は思案していた。
 『こお~っと、一艇あたりに使用する用材の本数はどれほどあれば足りるか、この前にはじき出したあの数でいいのか』
 彼は、おおよそでありながら念をいれて考えた。
 『アンテウスが準備した台車の数が23台、運搬回数が5回、運搬する用材の総数が115本か、すると、一艇あたりの用材本数が38本か、いいだろう』
 彼は、自分のはじいた用材の勘定に納得した。
 『よしっ、アレテスたちを呼んで打ち合わせだ』 とひとりで決めて三人を呼び寄せた。
 『おう、君たちご苦労。どうだ、伐りだした用材の本数は何本だ。運搬と関連して、用材の本数を把握しておきたい。数えてきてくれ。数え終わったら、また、ここに集まってくれ』
 『判りました』 彼らは現場に引き返した。再び集まった三人は、伐りだした用材の本数の報告に及んだ。
 『おう、伐りだした用材の本数は?アレテス、お前のところは何本だ』
 『自分のところは、昨日から今までで、31本です』
 『つぎ、ギアス、お前のところは』
 『はい、私のところは、29本ですが』
 『つぎ、アカテス、お前のところだ』
 『え~え、私のところも29本です』
 オロンテスは、胸で数をはじいた。
 『判った。各隊、40本が目標だ。日没までに目標の本数を達成してくれ、いいな、頼むぞ』
 オロンテスは、自分が立てた計画本数の達成のめどに胸をなでおろした。