『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1130

2017-09-30 06:28:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭、それを聞いてくれるのか、ありがとう。近頃になって息子に任せることが多くなった。大きな進展はないが、まずまずといった順調さでやっている』
 『それは重畳とというところだな。任せる息子がいる、いいことだ、うらやましいぞ!スダヌス。いやな、クノッソスのほうは日常平穏かというと、そうではない、商況は変わらずだが』
 『そうですか。平穏な日常、商売繁盛が一番なのですが』
 二人の浜頭の話の終わりを待つオキテス、話しかけるタイミングを待っていた。
 『テムノス浜頭殿、私ら浜頭には大変お世話になっています。そのお礼を申し上げるべく、当方の軍団長イリオネスが来ております』
 『お~っ!そうか。統領殿は元気か?』
 『はい、元気にしています』
 『新艇の試乗に君らの浜に行ったとき同席したイリオネス殿か、それは、久しく会えるとはうれしい、いろいろと話もあるだろう。今夕は、夕食を一緒にしよう。お連れしてくれ』
 『会っていただける、それはイリオネスが喜びます。そのうえ、夕食までとは、それはこの上なしに喜びます』
 『スダヌス、お前も同席だ』
 『それはそれは、ありがとうございます』
 『夕食は、浜焼き夕食会だ。漕ぎかた一同も招待する。総勢は何人だ?』
 この言葉にオキテスもスダヌスも驚いた。
 『テムノス浜頭殿、漕ぎ方の者は50人にもなります。それは恐縮のいたりです』
 『多勢ははいっこうにかまわん!こちらも60人を超える。我々も久々の大宴会だ。大賑わいはこの俺の好むところなのだ。オキテス殿、遠慮なしにしてくれ』
 『解りました。喜んで出席させていただきます』
 『おっ!よしっ。夕食会は浜でやる、半刻後だ、準備ができ次第、呼びに行く』
 『テムノス浜頭殿、言葉に甘えます、ありがとうございます。手伝うことがーーー』
 『それは心配に及ばん!我々の心づくしの夕食会だ』
 『ありがとうございます、ではのちほどに』
 オキテスら二人はテムノス浜頭の屋敷を辞して艇に戻る。詳細をイリオネスに報告する、彼は驚いた。
 『おう、オキテス、それは恐縮の至りだな。夕食に伺う準備を整えてくれ。手土産に持参した堅パン、そして、スペッシャルパン70個くらいかな、酒樽一つを持っていく』
 『解りました』
 『艇には、留守番役2名を残し、全員参加とする。ここは、いさぎよく、言葉に甘えて全員参加とする』
 『了解しました』
 ほどなく、テムノス方から連絡が来る。
 彼ら一行は、夕食会の催行の浜へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1129

2017-09-28 08:26:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 キドニアの港で用件を終え、スダヌス浜頭を加えた一行は、アクロテリの半島岬を廻航して岬の東端に到る。
 スダヌスとゴッカスは、空模様、風、海の状態を読み取る、スダヌスが案内指示を出す。
 沿岸航路航走ではなく、一気にレテムノンの港を目指しての航路をとり、クレタ海を東南方向に斜行航走した。
 キドニアからの航走距離は、約55キロメートルと考えられる、航走時間は約5時間である。
 (沿岸航路を航走した場合には航走距離が約80キロとなり航走所要時間が8時間くらいとなる)
 二艇の航走速度は、いい風にめぐまれ速い。スダヌスがゴッカスに話しかけた。
 『おう、ゴッカス、船足が速い、この風だ。考えた時間より早い頃合いにレテムノンに着くな。おまえ、そうは思わないか?』
 『船足は考えていた速さより速いです。レテムノンへの距離については、全く不明です。レテムノン着港についての頃合いは全く解りません』
 『そうか、そういうことか』
 スダヌスはオキテスに話しかける。
 『オキテス隊長、いい航海条件にめぐまれています。そのようなわけでレテムノン着港が考えていた頃合いより速くなります。日没のかなり前に着きます』
 『おっ!そうか、それは重畳!』
 オキテスがその旨をイリオネスに伝える。
 『航走が順調か、それは重畳!オキテス、テムノス浜頭との話し合いの段取りよろしく計っておいてくれ』
 『解りました』
 彼ら一行の二艇は、快走している。レテムノンの港には、スダヌスの言ったように日没のかなり前に着いた。
 オキテスは、スダヌスを同行させて、テムノスの屋敷へと足を運ぶ、彼は在宅していて二人を出迎えた。
 『お~お、ご両人、久しぶりだな。見たところ元気そうだな。何より何より!』
 オキテスがテムノス浜頭の言葉を受けて応える。
 『はい、テムノス浜頭も壮健でいられる何よりです。その節は新艇を納入させていただき誠にありがとうございました。今日、こうしてお会いできた。とてもうれしい次第です』
 『そうか、今日は何用で、このレテムノンに来られたのかな?』
 『はい、納入いたしました新艇に何か不具合があるのではないかと気にしています。それと私らの近況をお伝えいたしたく伺いました』
 『ほう、それはなかなか気が利くではないか』
 テムノスがスダヌスに話しかける。
 『スダヌス浜頭、元気そうだ、何より!こうして会えるお前と俺とはそう遠くないところにいるのに、日々の仕事となると遠く離れてやっている。仕事のほうはどんな具合だ?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1128

2017-09-27 08:41:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスもオキテスも身体を反転させる、声をあげるオキテス。
 『ギアス、ゴッカス、出航する!全員乗艇!位置に就け!』
 出航命令が下る、海に身を浸しながら駆ける乗員一同、乗艇するや、即刻、漕ぎ座に就く、イリオネスとオキテスが試作戦闘艇に乗り組む。
 波打ち際に駆けよる、アエネアス、パリヌルス、ドックス、浜にいる全員が波打ち際に立ち並ぶ。
 旅立つ一同が艇上から手を振ってくる、ギアスとゴッカスが風を読む、大声をあげて指示を出す。
 『全帆、帆を張れ!』
 二艇が帆を張る、張られた帆が直ちに風をはらみ始める、いい風である。
 艇が静かに波を割り始める、試作戦闘艇が先行する。
 波打ち際の全員が手を振る、声をあげる、壮図の航海に就く、無事の帰着を祈る、ニューキドニアの浜に展開する彼らの出航風景であった。
 風が押し届ける喊声が進みゆく艇を押す、キドニアに向けて艇は航跡を引いて遠ざかっていく、彼らは船影が見えなくなるまで浜に立って彼らを見送った。
 西からのいい風が艇を押す、順風満帆、波を割って航走した。
 キドニアの船だまりが見えてくる、二艇が接岸する、待っていたスダヌスが試作戦闘艇に乗ってくる、イリオネスの肩を抱いて挨拶を交わす、オキテスは集散所のハニタスのもとへ連絡に走った。
 スダヌスは、たいそうな荷を準備して待っていた。彼は荷積みを終えて戦闘艇に乗艇する、クリテスが近寄ってくる、久々に顔を合わせる二人、交わす言葉は少ないが、たっぷり親と子の情を通わせた。
 イリオネスは、岸壁上でオキテスが案内してくるハニタスを迎える、トミタスが同行している、オロンテスも顔を見せる。
 『ハニタス殿、先日はありがとうございました。この船が、いま、我々が建造している戦闘艇の試作艇です。見てください』
 『ほう、そうですか。レテムノンのテムノス浜頭から耳にした船ですな。航海から戻られたら、一度乗せてください』
 『解りました。その機会をつくります。講評を伺います』
 『このたびもスダヌス浜頭が同行されるのですね。それは心強い、何事もうまく運びます。安全航海で無事の帰着を祈ります。なお、マリアへは駅伝ですでに連絡を終えています』
 ハニタスは、心込めて丁寧に言葉を結んだ。
 『ハニタス殿、では、行ってきます』
 イリオネスは、目指す寄港地レテムノンに向けてキドニアの船だまりをあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1127

2017-09-26 08:34:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の状況を見てとるイリオネス、オキテスら隊列を整えている彼らにイリオネスが声をかける。
 『おう、おはよう、いい朝だ!全員揃っているな、重畳!』
 オキテスがイリオネスに報告する。
 『おはようございます。出航の朝にふさわしい、いい朝です。出航の準備は整っています』
 『おう、そうか。ありがとう』
 イリオネスがアエネアスのほうに身体を向ける。
 『統領、出航まで少々間があります。何か、話されることがありますか?』
 『いや、特別にない。俺の願いは、安全航海と全員の無事帰着だ。そのことのみを願っている。それ以外にない』
 『ありがとうございます。全員無事に帰着することを約束します』
 『頼むぞ!軍団長』
 イリオネスがオキテスに話しかける。
 『オキテス、太陽がこの高さに来たら出航する。そのころには凪も終わり、いい西風が来る。そうでありたい!』
 『解りました』
 オキテスがギアスとゴッカスにそのことを伝える。
 『了解しました。艇を出航の浜に移動させて、出航の時を待ちます』
 『出航の時に際して、統領から言葉があると思う。浜で待機するようにな』
 『解りました』
 二人は各艇を出航の浜に移動させる指示を出す。
 『それを終えたら、一同、浜に上がってくれ!統領から言葉がある』
 『おうっ!』と応えて、彼らは作業に就く。二艇は、舳先を寄港地キドニア方向に向けて、出航の浜につける。
 オキテスは、イリオネスと先行させる艇について打ち合わせる。
 『試作戦闘艇を先行させます。軍団長座乗の艇です』
 『ほう、そうか。了解した』
 オキテスは、その件をギアスとゴッカスに告げる。
 太陽が出航を促す高さに位置する。
 航海に就く全員が浜に整列する。その前にアエネアスに対面して、イリオネスとオキテスの二人が背中を見せて肩を並べる、アエネアスの傍らにパリヌルスとドックスが控えて立つ、浜に集まっている者らが周りを囲む。
 アエネアスが一同に向けて告げる。
 『今日もいい朝である。一同!意気は盛んであるか!諸君らは、計画し、決意した営業航海の途に就く、君らをこの浜より送り出す!全員無事に帰着することを願っている。必ず、全員が無事に帰ってきてくれ。俺はそれを待っている』
 イリオネスが応える。
 『統領、ありがとうございます。何があっても全員無事に帰着します。約束します。待っていてください。では、行ってきます』
 イリオネスとオキテスが、アエネアスとしっかりと目を合わせ、誓約の意を伝え、姿勢を正して浅く低頭する。
 航海に就く者らが一斉に喊声をあげる。
 浜に集っている者らも、彼らを送り出す喊声をあげる。浜が両者の呼応の喊声で沸いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1126

2017-09-25 07:15:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが営業航海に出航する日の朝が明ける。
 昇る大日輪が光をさしかけてくる、空は高く晴れ渡っている、凪いでいる海面は静かに波をたゆとわせている。
 朝の挨拶言葉『いい朝です』そのものであった。
 浜の一隅だけが、朝行事でにぎわい、ざわついている。
 今日からキドニア通いに就役するアレテスの舟艇が浜にいる、荷積みの真っ最中である、オロンテスの声が飛んでいる。
 建造の浜には営業航海に出るヘルメス艇と試作戦闘艇が、その姿を海に浮かべている。
 ヘルメス艇のギアスと漕ぎかた連中21名、試作戦闘艇に乗り組むゴッカスと漕ぎかた連中25名が集まっている。
 パン工房から連絡の者が駆けつけてくる。航海中の食糧のパンの荷運びの件である。
 ギアスとゴッカスは、数名の者を残して、パン工房に一行を向かわせる。
 彼らの航海中の食糧の件については、工房のセレストスが担当して事細かく対応してくれている。
 今回もオロンテスからの指示により就航する2艇に分けて荷づくってある。航海参加者らはパン工房の配慮に全幅の信頼を寄せている。
 彼らは安心の気持ちをもって各艇に荷積みしていく。
 荷積み作業が終わる頃である、パリヌルスとオキテスが姿を見せた。
 パリヌルスとゴッカス、二人は緊張を隠さない、漕ぎかた連中をヘルメス艇隊、戦闘艇隊の二隊で整列させ、二人を迎えた。
 迎えられた二人が感動している、二の句を継がないでいる。
 二人が同時に口を開く。
 『おう、おはよう!最高にいい朝だ!』
 一同から喊声があがる。
 『ワオッ!ワオッ!ワオッ!』
 ギアスが報告する。
 『オキテス隊長!報告します。必要とする戦闘具、食糧のパン等荷積みを終えました。出航の点検整備のすべてを終えました』
 『よしっ!ごくろう。この頃合いだ、出航は、一刻ぐらい後となる』
 ギアスとゴッカス、二人が返事をしてうなずく。
 『おう、ギアスにゴッカス、朝めしを済ませたのか?』
 ギアスが答える。
 『いえ、全員まだです』
 『そうか。朝食を済ませて、出航待機してくれ』
 『解りました』
 ドックスが姿を見せる。
 パリヌルス、オキテス、ドックスの三人が、オキテス不在中の件について打ち合わせを終える。
 ドックスが改まって声をかける。
 『オキテス隊長、航海、気を付けて行ってき来てください。無事の帰着を待っています』
 『おう、了解!』
 ギアス、ゴッカスら一同にドックスも加わって、航海に前向きな雑談を交わして待機の時を過ごす。
 アエネアスと旅装を整えたイリオネスが姿を見せる。
 一同が隊列を整えて二人を迎えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1125

2017-09-22 13:03:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 決めた方向転換点は、折からの風で海面が猛っている、波頭が風に舞い飛んでいる。
 ギアスの声が飛ぶ。
 『カイクス!艇を右へ!舵を操作だ!』
 ギアスが身体を向け手をさし伸ばして方向を示す。
 『漕ぎかたやめっ!帆張りだ!』『全帆を張れ!』
 艇上の者らの呼吸の合致、作業の瞬時完了である。ヘルメスの左舷があがる右舷が沈む、艇尾が左方向にふれていく、舳先が右方向へと波を割る。
 艇上の者らにしぶきが見舞う、方向転換と帆張り、全帆がはらむ風、ヘルメスは波を蹴り割り海上を駆けた。
 『ヘルメスの走りなかなかいい!カイクスもやるではないか、ギアス、舵操作を任せて安心できる。艇の具合い、舵の具合いに不具合はない!ヘルメスに命を託してマリアへ行ってきてくれ』
 パリヌルスがドックスに声をかける。
 『棟梁、聞いてくれ。ヘルメスにも、造作した舵にも不具合がない。よくできている。舵の動作、操作効果が、試作戦闘艇より敏感に働くな。艇体の構造か、はたまた、艇体の重さが関係するのかな?これからの俺の思考課題といったところか』
 『パリヌルス隊長の感性というか、感覚はすごいの一語ですな』
 ドックスが感動の声をあげる。これを耳にしたギアスは、パリヌルスが手の届かぬ次元の高いところで船舶を構想していることを感じとっていた。パリヌルスの発想のメカニズム、そして、何かを創出する思考の仕組みにドックスとギアスは、人間業とは思えぬ何かを感じた。
 ヘルメス艇が試走を終えて浜に帰ってくる。
 パリヌルスとドックスの二人は、舵構造の造作を満足にやり終えたことに、目を合わせてうなずき合ってヘルメスを下りていく、ギアスは、最敬礼をして二人を見送った。
 ギアスは、一同に指示して、明日の出航に際してのヘルメスの点検整備作業をする。
 ゴッカスも試作戦闘艇を海上に浮かべ点検整備作業を丹念に行っている。
 ゴッカスがギアスに声をかけてくる。
 『試走はどうであった?』
 『おう、諸事、具合がいい!満足満足といった状態だ』
 『そうか、それは重畳というところだな』
 『おう、ゴッカス、明日からの航海は、安全航海の実行だ!』
 『おうっ!』
 二人は、胸に同じ思いを抱いていることを確認した。
 浜には、今日の終業の時が訪れていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1124

2017-09-21 05:59:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ギアス、準備は出来ているな』
 『はい!出来ています』
 二人がヘルメス艇に乗る。
 『ギアス、すぐ出してくれ!いつもの試走コースで行く』
 ギアスが出走の指示を出す、漕ぎかたが漕ぎ始める、ギアスが舵座に就く、舵の操作棒を握る、ヘルメスが小島の南端を目指して波を割る、浜を離れていく。
 風は西から吹いて来ている、しぶきが風に飛ぶ、艇がほどなく小島の南端にさしかかる。
 南端を過ぎる、方向転換の地点に到達する、ギアスが声をあげた。
 『方向を転換します』
 ギアスが操舵棒を左方向へ操作する、艇尾が左へとふれる、左舷があがる、右舷がややしずむ、舳先が右へ向かう、風が左からとなる。
 『パリヌルス隊長、舵のきれ、いい具合いです!』
 瞬時に方向の転換を終える、操舵棒を中央位置にもどす。
 ヘルメスは、小島の西岸に沿って北を目指して波を割って進む。
 パリヌルスが声をかけてくる。
 『おう、ギアス、操舵を代われ!』
 『はいっ!』
 パリヌルスが艇尾の舵座に座す、艇の進行方向を見つめる、空間に穴が開く。
 『ギアス、風を読め!』
 『はいっ!』
 『ギアス、小島の北端から、10スタジオンくらい沖へ出て、右方向へ進行方向を転換する』
 パリヌルスが言葉を継ぐ。
 『小島の北端を過ぎたら、ヘルメスをジグザグに進める。舵のきれ具合を試す、いいな』
 『了解しました』
 ヘルメスが小島の北端を過ぎる、ジグザグ進行をし始める、パリヌルスが進行状態をチエックする、ドックスが傍らで艇の具合いを体で感じ取っている。
 『パリヌルス隊長、いいんじゃないですかな』
 『そうだな、不具合いを感じない。きれもそれなりにいい!艇のブレ具合いも悪くない。グッドだ!』
 『よし!カイクス、操舵棒を握れ!いま、俺がやったジグザグ進行をやってみろ』
 カイクスが舵操作の位置に就く。
 『身体から固さをとれ。艇のふれ具合いに身体を同調させるのだ』
 『おう、その調子だ!なかなかいい!』
 『ギアス、方向の転換点と風の具合いはどうだ?』
 『西からの風はいい強さです。方向を転換して、即、帆張りして帆走に移ります』
 『いいだろう。機を見てうまくやれ!』
 『はいっ!』
 ヘルメスは、左方からの風を受けて漕走している、ギアスは方向転換点を決めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1123

2017-09-20 07:48:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼を終えたギアスと漕ぎかたの連中がヘルメスを取り囲む。
 パリヌルスとドックスが造作の仕あがりの最終点検をしている。
 『ドックス棟梁、櫂舵をはずす。私の思惑としてだが、櫂舵の時代はもう終わる。船の舵はこの構造の舵の時代となることが必定と考えられる。櫂舵構造は納入する船だけにつける』
 『解りました、いいでしょう』
 『おう、ギアス。出来あがったぞ!ヘルメスを海に出すときは、全員総がかりで持ち上げて海まで運ぶ、いいな、そのようにして運んでくれ。海に出したら、試走の準備を整えてくれ』
 『了解しました』
 『お~お、ギアス、海に出す前に、どのように舵が動作するかを説明する。操舵の担当を呼んでくれ』
 ギアスがカイクスを呼ぶ、パリヌルスが二人に説明する。周囲にいる者らもパリヌルスの説明に聞き入った。
 『おう、カイクス、艇の上にあがって、操舵棒を左右に動かしてみろ!その動きで海中では水切り板が動く。今度は下へ降りて艇尾の下を見るのだ』
 パリヌルスが艇上にあがり操舵棒を動かす、カイクスは、水切り板の動きを見つめる。
 彼は、新舵構造の動作を理解した。
 『ギアス、めしを食べてくる。ヘルメスを海に出してくれ』
 『はいっ!』
 ギアスが一同に声をかける、一同がヘルメスに取り付く、現場の者らにも応援を頼む、ヘルメスを海へと運ぶ、静かに海へと降りていく、ギアスは声には出さず、安全航海の長久を祈る、願いを込める、ヘルメスを海に親しみさせた。
 『よしっ!念を入れて点検するのだ。それを終えたら、試走の準備を整えろ!』
 ギアスが彼らの作業を確認する。
 『よしっ!全員漕ぎ座につけ!カイクス、舵座につけ!』
 ギアスが艇尾に来る。
 『櫂串、操舵棒を動かしてみろ!水の抵抗を感じるか?』
 『はいっ!』
 カイクスが操舵棒を動かす、水の抵抗の感じにうなずく。
 『水の抵抗を感じます』
 ギアスが艇尾の下を覗き見る。水切り板と喫水、状態を確かめる。
 『カイクス、ヘルメスが海上を航走している。お前の体は、進行方向、前方を見ている。いいな操舵棒を右へ動かす、艇尾が右方向へ動いて、舳先が左方向へ波を割って動く。操舵棒を左方向へ動かすと艇尾が左方向へ動いて舳先が右方向へと進む。解ったな。これから試走で体験するから体で覚えろ。方向を転換するとき艇が傾くそれも体で覚えろ!解ったな』
 昼めしを終えたパリヌルスとドックスが姿を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1122

2017-09-19 07:07:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、了解!』
 イリオネスは、改めて一同に語りかけた。
 『今、我々は、『これから』を見つめて、船舶建造事業が変わる局面にスタンスしている。この仕事の新しい分野を切り拓いていかねばならない。このクレタ島の東地区のマリアの集散所から、新艇の引き合いが来ている。そういった事情により、営業の業務遂行に出航する!諸君らの力をもってこの航海に出る。よろしく、頼んだぞ!』
 イリオネスが言い終わる、間髪をいれずに一同から喊声があがる、場の空間を震わせた。
 オキテスが業務伝達の終了を告げる。一同は場を解いた。
 ギアスは、ヘルメス艇の漕ぎかた一同を連れて、造作工作途中のヘルメス艇の周りに集める。
 『君らが目にするとおり、ヘルメスは造作の真っ最中である。造作の仕上がり予定が昼過ぎである。造作の終了をもってヘルメスを海に出す、それから、新しく装備した新舵構造の操舵具合を確かめる試走をやる。そののちに明日の出航に備えて点検と整備をする。いいな!』
 漕ぎかた一同が声を出してうなずく。
 『それから一同に伝えておく!操舵の担当をカイクスに任命する。カイクス解ったな。新舵の操舵については俺が教える』
 『はい、解りました』
 『よし!今日の作業はそこまでだ。以上』
 ゴッカスも一同を試作戦闘艇の周りに集めて今日の段取り説明をしている。
 『一同、解ったな。レテムノンに航海をした時の要領を思い起こして、安全航海の実行のための点検と整備を念を入れてやる。いいな!』
 『ワオッ!』
 一同から応諾の掛け声があがる。
 出航を明日に控えた彼らの興奮と緊張、声高に語る過ぎた日の航海で目にした風景、そして、出会った人々の生きざまを話し合っていた。
 ギアスが彼らに声をかける。
 『もう、そろそろ昼めし時だ。昼めしを終えたらヘルメス艇のところに集合すること、いいな。一同解散!』
 『ウオッ!』
 ゴッカスも一同にスケジュールを言い渡し、集合を解く、彼らは昼食の場へと足を向けた。
 一同に航海の概要説明を終えたイリオネスは、クリテスに用務を説明する。
 『おう、クリテス、航海に同道してお前にやってもらうことについて話しておく。それは通訳業務だ。クレタの人たちの話すことを的確にギリシア語に訳して俺に伝えてくれ。そういうことだ』
 『解りました。このたびの用命ありがとうございます。満足していただけるように役務に努めます』
 『おう、よろしく頼む。それからだが、途中、キドニアから、親父殿が乗船される。以上だ』
 二人の対話が終わった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1121

2017-09-18 07:24:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝食を終えたギアスは、ヘルメス艇の漕ぎかた一同を連れて建造の場の広場に来る。
 ゴッカスが試作戦闘艇の漕ぎかたらを連れて広場に姿を見せる。
 明日からの航海において行動を共にする者らである。彼らは声をかけあう、呼応を交わす。
 一同の集合を確認するギアス、オキテスに報告をする。
 『オキテス隊長、報告します。試作戦闘艇、ヘルメス艇に乗り組む全員が集合しました。指示のありましたクリテスも来ています』
 『おう、全員、揃ったか。ギアス、軍団長を呼びに行ってくれ』
 ギアスはイリオネスを呼びに走る。会合に向かうイリオネスと途中で出会う。
 『あっ!軍団長、航海参加の漕ぎかた一同、集合いたしました』
 『俺を呼びに来てくれたのか、ご苦労!ギアス、クリテスも来ているな』
 『はい、来ています』
 イリオネスは、ギアスの返す言葉にうなずいて歩を速めた。
 広場に着いたイリオネス、集合している一同の前面に立つ、彼らに目線を注ぐ、100に及ぶ目線がイリオネスに集まる、おもむろに口を開く。
 『諸君!いい朝である、日頃、ご苦労。我々は、明日より、このクレタ島の東に位置するマリアに向けて、君らの力を借りて航海に出る。よろしく頼む!』
 イリオネスは語尾に力を込めて言いきった。
 一同から喊声があがる。
 『これから、航海の概要を君らに伝える。オキテス隊長、一同に説明してくれ』
 オキテスがイリオネスに代わって、彼らに語りかける最良の位置と思われる前面に立つ、腰を下ろさせ落ち着かせる、一同の視線がオキテスに集中する、彼が話し始める。
 オキテスは、今回、行うマリアへの航海の目的、遂行する業務、日程等について質問を受けないですむように細かく説明する。
 『おう、以上だ!解ったな。安全航海の遂行、全員、無事帰着をもって航海を終える!聞きたいことがあれば、直属のギアスまたはゴッカスに聞くこと。説明を終わる』
 一同の喚声が、事の承諾を答えていた。
 オキテスが話しを続ける。
 『ところで、今日、これから君らにやってもらいたいことを伝える。昼を終えたら、ヘルメス艇、試作戦闘艇を海に出し、点検整備作業を行い、明日からの航海の万全の準備をしてくれ』
 オキテスは、ここで言葉をきって改めて言葉を継いだ。
 『航海の最大事は、安全航海だ!』一拍の間を取る。『各自これを忘れることなく、作業を遂行せよ!』
 これを耳にした一同から、怒涛の喝采があがる、木々の枝葉が震えた。
 オキテスが、ギアス、ゴッカス、そして、クリテスの三人を手で招きよせる。言葉短く用務の段取りを伝える。
 『ゴッカス、段取りをやっていくうえで不明な点があれば、ギアスに尋ねて処理をせよ』
 『ギアス、ヘルメスは、いま、造作の真っ最中だ、完成は昼過ぎだと思う、ドックスに注意点を聞いて、パリヌルス隊長、ドックスを乗せて、舵操作の試走をしたあとで点検整備をすること』
 『クリテス、会合が終わったら、軍団長から明日からの用務について話を聞いてくれ。以上だ』
 三人に今日のこれからの段取りを伝えて、イリオネスに声をかけた。
 『軍団長、会合の締めの言葉をお願いします』