『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1086

2017-07-31 06:40:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝が明ける、浜は多忙である。一日があっという間に過ぎる。
 イリオネスがキドニアに赴く朝が明ける。
 ヘルメス艇の出航準備が整う、オロンテスは、浜に立つイリオネスを迎えに行く。
 『軍団長、出航の準備ができました。ヘルメス艇のほうへ』
 『おう、オロンテス、ご苦労。して、オキテスは?』
 『はい!オキテス隊長は、もうすでに艇上です』
 『そうか、オロンテス、行くぞ』
 ヘルメスは、凪いでいる海をキドニアへと泡立てて進む、中間地点に差しかかる、いい西風が来る、ヘルメスは帆張りして波を割った。
 イリオネスがオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス!』
 風がイリオネスの声を吹き飛ばす、オキテスがイリオネスに身体を寄せる。
 『はい、なんでしょう』
 『ヘルメスにも、あの新しい舵構造を造作してみてはどうだ』
 『そうですね。パリヌルスとドックスとも話し合ってみます』
 『あの舵構造の船舶が増えていくと、あの舵構造が船の舵であることが定着していく』
 オキテスがイリオネスと目を合わせる。
 『ヘルメスに造作する前に、アレテスの使っている初代の舟艇に造作をしてみます。アレテスがどう言うか、聞いてみたい気がします』
 『まあ~、何でもいい、船尾を改造して新構造の舵を造作するか否か。それによって、船の改造という新事業を起こすことができる』
 『解りました。パリヌルス、ドックスらと話し合ってみます』
 ヘルメスが船だまりに入っていく、岸壁につけた。
 キドニアにおける今日の業務がスタートする。一同がパン売り場へと向かう。
 イリオネスが売り場のスタッフらの所作を注意深く見つめる。オロンテスは集散所の詰め所へ打ち合わせに向かう。
 『お~お、ハニタス殿、おはようございます。今日の決済と打ち合わせの件ですがどのようにやりますか?』
 『あ~、オロンテス殿、おはようございます。もう皆さんおいでになりましたか』
 『はい、当方は、軍団長とオキテス隊長と私の三人です。時間と場所を言っていただければ、三人がその時間に来ます』
 『解りました。半刻ぐらい経ったら詰め所のほうへおいで下さい。別室を整えて、お待ちいたします』
 『解りました。その頃合いになりましたら、こちらへ来ます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1085

2017-07-28 08:56:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは打ち合わせを終える、場を解く。
 パリヌルスは持ち場に戻っていく、オロンテスは今日の報告を終えてパン工房へ足を向ける、アエネアスとイリオネスは、建造の場を引き上げていく。
 歩きながらアエネアスはイリオネスに話しかけた。
 『なあ~、イリオネス、マリアの集散所の連中どのような話のルートで新艇を知ったのかに疑問を感じている。お前は、マリアの集散所を視察してきているな。彼らの情報感度はどんなものかな?』
 『はい、見てきておりますが、それはわかりません』
 『彼らが新艇を知ったルートは、いかなるルートかについて考えてみてくれ。いずれにしても、お前と俺が考える範囲を超えはしないと考えるが』
 『解りました。思いつくところを考えてみます』
 『おう、そうしてみてくれ。俺の考えるところは、実物を見ての引き合いか、ウワサのいずれかのひとつと考えている』
 『そのことは、明後日の集散所の話で解ると考えていますが』
 『いやな、イリオネス、それをいろいろと考える。これが楽しい!自分の考えが的中したとき『おう、当たったか』とささやかな快感を感じるのだな』
 『そうですか、楽しそうですね』
 『イリオネス、楽しいぞ!この謎あて問答!明後日の夕刻にはそれが判明するのだな。二人でこの謎あて問答をやらないか、どちらの答えがあっているかだ!どうだ?』
 『いいですね!やりましょう!』
 イリオネスは、アエネアスの提案を快諾した。
 『それでは、明日の夕刻、互いの答えを出して、書きとめる。翌日の夕刻、答えの照合をする。それでいいですね』
 『解った。おう、それでいい』
 二人の謎あて問答が幕を切って落とした。
 アエネアスもイリオネスも心を躍らせている。
 湧きあがる感情、微笑みが沸いてくる、抑えるが抑えられない、微笑みがこぼれる、笑みが怒涛となる、二人は顔を見合わせて大声をあげて笑った。
 『おう、笑いがはじけたな』
 再び、顔を見合わせて笑った。
 二人は、この謎あて問答を誰にも知られることなく二人だけでやる、そこに言い知れぬ喜びを感じていた。
 彼ら一族が生計を営むニューキドニアの浜の今日が静かに暮れていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1084

2017-07-27 08:28:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、行こう!オロンテスは集散所から用件を持って帰ってきている』
 二人は、オキテスの仕事の場に来る。オロンテスも来る、四人が顔を合わせる。
 『おう、オキテス、誰かにパリヌルスを呼びにやってくれ』
 『解りました』
 オキテスが手配をする、ほどなくパリヌルスが姿を見せる。
 オロンテスが集散所からの用件を一同を前にしてイリオネスに伝える。
 『軍団長、新艇担当のハニタス殿からの用件を伝えます』
 『用件はなんだ』
 『新艇の決済の件です。それについて、軍団長に来ていただくか、決済に関する権限を持っている人に来てほしいとのことです』
 『その日時は?』
 『明後日です』
 『解った。それについては、オキテス、オロンテス、そして、俺の三人が出席する』
 『それともう一件あります。このクレタ島の東地区にあるマリアの集散所から、新艇の引き合いが来ているそうです。その件についても打ち合わせたいとのことです』
 『オロンテス、了解した!三人で話を聞く。それでいいな』
 『解りました。明後日、朝の第1便でキドニアに向かわれますね』
 『おう、そのようにする!用件はその二件だな。解った』
 『はい、そうです。よろしく願います』
 『統領、検討すべき用件がもちあがりました。いいタイミングです』
 『そうだな』と言って、アエネアスは話を継いでいく。
 『ところで諸君!先日の会議で打ち合わせたことだが、俺として恥ずかしいことなのだが、考えがまだ結論に到っていない。今日、答えを出すといっていたのだが、その件に関する打ち合わせ会議を延期する。いま、君らが聞いたオロンテスの集散所からの案件を含めて、三日後の朝から俺の宿舎の前庭で会議を行う。了承してくれ』
 これを聞いてオキテスが口を開く。
 『解りました。先日の件は急な案件ではありませんが、月日の経つのは思いのほか早い。その案件の概要を決めておいた方がいいように考えています。修正はいつでもできるというスタンスに立っての私の考えです』
 『オキテス、君の言う通りだ。それについては、俺も軍団長も十分に承知している。オロンテスが持ち帰った集散所からの案件もある。それを合わせて検討する。一同、いいな』
 『了解しました』
 アエネアスは、強い意志を目線に込めて一同と目を合わせる。四人はうなずく。
 イリオネスは、会議の日までのパリヌルスら三人の予定を確認した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1083

2017-07-26 07:30:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『軍団長、今日はここでオロンテスの帰ってくるのを待つ。会議の場で、今日、結論を出すと言っていたのだが考えがまとまらない。お前はどうだ?』
 『統領に右ならえです、私もそのような状態です。積んでは崩し、崩しては積みあげての繰り返しです。結論に至っていません。彼らには悪いが日を改めるということで』
 『三日後の朝からでどうだ。結論を急がねばならない事案でもない』
 『了解しました。そのように計らいます』
 『オロンテスが帰ってきたら、オキテスのいるところで打ち合わせをやる。それでいいな』
 『おう、軍団長、戦闘艇の試作艇を見に行こう』
 『はい!』
 二人は、揚陸されている戦闘艇の試作艇のほうへ歩を運んで行く。
 建造の場では、この試作艇を綿密に観察し、ドックスの指示を受けて、戦闘艇の部材を丹念に仕上げている。
 二人は、その光景を見つめる。
 ドックスの的確な作業指示、作業者がドックスの指示を手にしている木板に書き込む、それを覗き見る、ひと声かけるドックス、手順のいい作業運びを見てとる。
 二人が試作艇に手をかける、艇体をなぞる、その構造を念入りに見て廻る。
 『おう、よい造作をしている。艇体が考えていたより長く感じられるな』
 イリオネスが口を開く。
 『これが新しい構造の舵か』
 彼が操舵の取っ手の握り部分を握る、そろりと動かす。
 ドックスが二人のところへと近寄る。
 『統領、そして、軍団長。説明を必要とするところがあれば、聞いてください』
 まず、統領が質問する。
 『おう、ドックス、尋ねる。この舵の構造だが、簡単な造作でありながら、合理的といえる。操船具合を確かめてみたい!』
 次いで軍団長の指示である。
 『ドックス、その打ち合わせを明日にでもする。オキテス隊長と話し合っておいてくれ』
 『解りました。舵のことですが、この造作にかかる時、気にかけたことは、この上なく頑丈であることに留意しました』
 『そうだろうな、櫂舵を見ればわかる、壊れるところがない。新舵構造と櫂舵、二方法の造作が施されているとは、いい配慮構造といえる。重畳!』
 戦闘艇の造作について統領の問いかけが続く、それにこたえるドックス。
 『しかしだな、ドックス。この衝角構造体についてだが、追加して造作して仕上げた構造体の補強構造について、詳しい理屈を聞いてみたい』
 『その件については、パリヌルス隊長に尋ねていただければ幸いです。オキテス隊長は、その件についてパリヌルス隊長から聞いているはずです』
 『おう、解った』
 遠くからオロンテスの声が聞こえてくる。
 『統領、オロンテスがキドニアから、帰ってきたようです。呼びますか』
 『いや、その必要はない。彼はこちらへ来る』
 アエネアスが予知能力の暗示で答えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1082

2017-07-25 08:04:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼めしの時となる。
 建造の場の者ら一同が、統領と軍団長、パリヌルス、オキテスを囲んでの昼めしの場である。
 屈託のない彼らの話題は、昨夕の宴が話題である。
 彼らの話を耳にして統領が話しかける。
 『そうか、宴が楽しいか!しょっちゅう宴をやるというわけにはいかんな』
 『宴は時たまやる、それだから楽しいのですな。待ちかねる、それも大事な楽しみの要素のひとつです。それ故に集う者らをがっかりさせられないのです。それが宴を催行する者の力量ということだ』
 『イリオネス、お前、なかなか手厳しい。もっと軽いノリではいけないのか』
 『それはいけません、統領。宴の価値を軽んじてはいけないと思います』
 この一言ひと言を聞いて統領とパリヌルスらが『そうか』とうなずき、イリオネスの軍団長としての宴催行の心情を理解した。
 オキテスがパリヌルスに話しかける。
 『おう、パリヌルス、今の軍団長の話を聞いて、お前が言った『宴の催行はまつりごとの世界』であることを理解した。お前の言う通りだ』
 『まあ~、言えばその通りなのだが、反面そのように重いものでもない。友の肩をたたいて『おい!一杯やろうぜ!』の世界でもある。互いの意思通じの根本的なものだな。何をおいても、楽しいことはいいことだ』
 これを聞いた周りの者たちが声をあげて笑いをこぼす、一同が過ごす昼めしの場が和んだ。
 昼が終わった。彼らが持ち場に戻っていく、パリヌルスも持ち場へと場を去っていく、アエネアスとイリオネスは、建造の場を巡回する。
 夏の陽が燦燦と照りつける、二人の思念は、その暑さを退ける、建造の場を丹念に見廻った。
 統領と軍団長、二人には誰にも明かさないネクストに関する課題がある。事業の遂行に関して、他の者にゆだねることのできない次元の領域が存在している。それが二人の肩にずっしりと乗っている。二人は、常にそれを認識して、役務と作業の遂行をパリヌルスらにさせているのである。二人は、それを念頭に持してネクストを考えている。
 二人が念頭に持するもの、その思念は同じではない。その思念には微妙な差異がある、二人は、その根本にある原点を言葉では明かしてはいないが、会議の場で、話し合いの場で具体的な意見として言葉にしている。二人はその何故については語らない。また聞こうともしない。
 アエネアスと彼ら一族の使命である建国を二人が設計し、俯瞰し、恐怖を滅却して、未来を掌中にしていかなければならないのである。
 彼ら二人は、その剣の刃の上を歩いているのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1081

2017-07-24 07:26:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『スダヌスを交えて話し合う、彼は本音で話してくるからな。また、彼が話す世情の読みに確かさがある。今朝の話題での話し合い、語り合いには、今朝のような雰囲気がいい。イリオネス、お前、どう思う?』
 『そうですね、統領の言われるように、今朝の話し合いの雰囲気はよかったですね。夜っぴて深刻な話し合いは、好みませんな』
 『話し合い、語り合い、話題は頃合いを選んでやる。それが理解しやすい、納得できる、説得しやすい、話をポジテブに展開させやすい。そのような傾向があるとはな。スダヌスを囲んでの話し合いはよかった』
 『同感です』
 『よしっ!今後、会議の開催は朝とする、決まりだ。イリオネス、今日の昼めしどこでする?』
 『今日あたりは、建造の場で、場の皆とともに食べるのはどうです』
 『おう、いいな!そうする』
 二人は建造の場へと歩み始めた。
 『イリオネス、あの祝勝スペッシャルパンはうまかったな』
 『あれは、オロンテスの自信作と言えます』
 歩いてほどなく建造の場に姿を見せる二人、迎えるオキテス。
 『おう、オキテス、昨日はごくろう!宴をよくぞ、あそこまで盛りあげてくれた。三人が考えて催行してくれた表彰式はよかった。表彰した彼らが感激し歓んでくれた。重畳!重畳!表彰した俺もうれしかったな』
 イリオネスがオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、昼めしをここで一緒にやらないか?パリヌルスも呼んでだ』
 『いいですね、余分な肴はありませんよ』
 『場の者らの笑顔で十分だ』
 『なあ~、オキテス、昨日、口にしたオロンテスが焼いた副賞のパンは、うまかったな。お前はどうであった?』
 『あれは、うまかった!この上なくです。今朝、ここでみんなで分けて食べたのですが、皆があの味を誉めちぎりました。あの味は舌が忘れませんな』
 『だろうな!同感!同感!』
 アエネアスも話にのってくる、パンの味談議に花が咲く、パリヌルスが姿を見せる。
 『おう、パリッ!昨夕はご苦労だったな。今もオキテスと話していた、よくぞ、あのレベルまで宴を盛りあげてくれた。よかった!のひと言だ。スダヌスも大感激で帰っていった』
 『そうですか、それは重畳というところです』
 イリオネスが声をかける。
 『おう、パリヌルス、ご苦労。今日は、ここで昼をみんなで一緒に食べることにしている。お前も一緒のどうだ』
 『解りました。一緒します』
 パリヌルスがオキテスに体を向ける。
 『オキテス、何かすることはあるか?』
 『いや、何もすることはない。ありのままで昼めしということになっている』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1080

2017-07-22 06:46:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 統領ら三人は、オロンテスの焼いた祝勝のスペッシャルパンとぶどう酒で朝食を楽しんでいる、微笑みをこぼしながらの朝食の風景である。
 『オロンテスの焼くパンは、うまい!このパンは、彼なりの趣向を凝らして焼き上げているところがにくい!とにかく、うまい!浜頭、お主の舌にどうかな?』
 『私は、彼が焼くパンであれば何でも大満足です』
 『おう、誉めてくれるとはありがとう。彼に代わって礼を言う。浜頭、昨夕の祝宴のことだが、パリヌルスら三人が、あのように宴を盛りあげる準備をしてくれているとは全く知らなかったのだ』
 『そうですか、感激しましたね。海戦に参加した全員に表彰の月桂冠を贈るとは心底から感動しました。そして、統領の握手でしょう。あの海戦の勇者らも感動していましたね。統領から勝利の冠を戴冠してもらい、手を握ってもらえるなんて、彼ら夢にも思っていなかったことでしょう。その海戦の模様が沸々とまぶたに浮かびました。彼ら一同、胸を張って誇らしげにしていました。彼らは統領から握手をしてもらい、心の中では『この人のためなら』と思っているはずです』
 『ほう、浜頭、そんなものかな』
 『そして、最後にオキテス隊長と一緒に私までが、その表彰の栄誉をいただき、感動に鳥肌が立つ想いであったのです。この私の心の中にまで『この方のためなら』の感慨が沸々と沸いた有様です』
 『ありがとう!浜頭!』
 アエネアスの身体が意識もせずに自然に動く、スダヌスに手をさしのべている、二人は手を固く握り合った。
 アエネアスとイリオネスがスダヌスを交えて朝食を共にする。三人が共有する大切な時であるかもしれない、このようにして三人が過ごす時空こそ大切なものであった。
 三人は、通り抜ける風が運び来る空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 三人は雑談を交わしながら時を過ごす、スダヌスが満面に過ごした時の充足感を湛える。
 アエネアスもイリオネスも過ごした時、互いに話し合った話題、話内容に心が満ち足りている。
 三人は心いくまで朝の時を過ごした。
 『統領、軍団長、とってもいい時を過ごしました。ありがとうございました。今日、ここで過ごしたこの時を、このスダヌス忘れることはありません』
 『私たちこそ、浜頭を迎えて、いい時を過ごしました。ありがとう』
 『もう、アレテスの昼便の頃合いです。これにて失礼いたします』
 『浜頭、浜まで一緒に行く』
 三人は立ちあがる、アエネアスがオロンテスの焼いた祝勝スペッシャルパンを袋に詰めて持ち来る、三人はともに連れ立って浜へと歩を運ぶ。
 タイミングをはかったようにアレテスの昼便が浜に姿を見せる。スダヌスが名残り惜しそうに舟艇に乗り込む、アエネアスが持ち来たスペッシャルパンを詰めた袋を手渡す。 
 『統領、これを私に!ありがとうございます。今日はいい時を過ごさせていただきました。用事のある時は声をかけてください。とんで来ます』
 『スダヌス浜頭、いろいろとありがとう』
 アレテスの昼便が浜を出ていく、アエネアスとイリオネスは、船影が見えなくなるまで波打ち際に立ってこれを見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1079

2017-07-21 07:03:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 祝勝の宴を催した浜の朝が明ける。早朝の朝行事を終えた彼らは、気も新たに溌溂としている。
 彼らが目にしたのは、めずらしいスダヌス浜頭の姿である。浜頭と目が合う、朝の挨拶を交わす、スダヌスのジョークを耳にするのが楽しい。
 スダヌスの落ち着きがぐらついている。朝のキドニア行き第一便に乗らねばならない、気が急いていた。彼はこの期に及んで迷っている。
 オロンテスは、今日の荷積みに大わらわで取り組んでいる。今日からはヘルメス艇の操船はギアスの担当である。
 スダヌスが出航間際のヘルメス艇のところへ姿を見せる。オロンテスが声をかける。
 『お~お、スダヌス浜頭、おはようございます。第一便でキドニアに帰られますかな?』
 『オロンテス、聞いてくれるか?実は迷っている』
 『何に迷っておられる?』
 『抑えがたい俺の思案だ。お前の焼いた祝勝スペッシャルパンで統領と軍団長と一緒に朝めしをしたい!というわけだ』
 『いいじゃないですか!ここへ来るとすれば、それなりの時間を必要とします。たまの来訪です、ゆっくりしていってください。アレテスの昼便もあります』
 『そうだな、そうする。ご両人と一緒に朝めしをすれば、それなりの話題もある。楽しからずやだ!オロンテス頼む!俺の売り場の者にこのことを伝えてくれ』
 『解りました。私はこれで出航します。大声を出されても戻りませんよ!ギアス、ヘルメスを出してくれ!』
 『解った』
 オロンテスは、浜にいるパリヌルスに浜頭のことを伝えて出港していく。
 スダヌスは、オロンテスの乗ったヘルメス艇を見送り、イリオネスの宿舎へと歩を運んでいく。
 『あっ!軍団長殿、おはようございます。とってもいい朝です。統領にも声をかけて朝食を一緒しませんか?事情これありで、今日はアレテスの昼便で帰ります。お二人とあれやこれやを話したいし、ゆっくりもしたい、祝勝スペッシャルパンで朝めしもしたい!そういうわけです』
 『おう、いいですね、そうしましょう。統領の宿舎の前庭でくつろぎませんか。浜頭といろいろと話をしたい。行きましょう』
 イリオネスとスダヌスは、ともに歩み始めた。
 アエネアスがユールスと宿舎の前にいる、スダヌスの姿を見とめたアエネアスが声をかける。
 『お~っ!浜頭、おはよう。よ~く眠れましたかな?』
 『統領、おはようございます。昨夕の祝勝の宴でこの私まで表彰していただき、感激で胸がいっぱいです。ありがとうございました。今朝は皆さんと朝食を一緒したくてここにいます。今日は、アレテスの昼便で帰ります』
 『それはいいな。浜頭、ゆっくりしてください』
 『ここへは簡単に来れるのですが、なかなか来にくいこともあります。このような機会にゆっくりとお二人と話をしたいと思っております』
 『おう、ゆっくりしましょうや。私も浜頭とあれやこれやと話をしたいことがあります』
 三人は、統領の宿舎の前庭の風通りのいいところに場をとって腰を下ろした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1078

2017-07-20 13:18:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは祝宴の風景の中にいる。飲めや、食べろやの集いの島を巡って歩く。
 彼は、隣り合わせた者に話しかける。
 『飲んで食べているかな?味の方はどうだ?宴っていいものだな』
 『隊長もそう思われますか?私は、いつもそう思って宴の中にいます』
 『話をする、話を聞く、いいものだ!感無量というところかな。俺にとって、このような話し合い、語り合いがめずらしいのだな』
 『宴の中にいると孤独が侵入してこない。俺がいる、奴がいる、もう一人の奴もいる』
 『話をする、話を聞く、それで心が紡がれていく。絆ができていく』
 『話す相手が持っているもの、自分はそれを持っていない。相手の持っているものを共有する。それが喜びでもあります。たまに、持ちたくない荷物もありますが。隊長、酒杯を手にしてください。酒を注ぎます』
 『おう、ありがとう』
 『お前も杯の酒を飲みほせ!俺が注ぐ!』
 『ありがとうございます』
 二人は注ぎ合って酒を口に運ぶ。そこに一人が加わり、また一人が加わる。ギアスが顔を見せる。
 『おう、ギアス、よう来た。お前もそこに座れ!』
 『はい!』
 『ギアス、海戦の話を聞かせろ!』
 ギアスが海戦の話をし始める。周りの者らは酒を飲むのも忘れてギアスの話に聞き入る。気づいた時には、20人余りがギアスの話に耳を傾けている。
 パリヌルスが周りにいる一同に酒を注いでやる、焼けた肴を手渡してやる。
 『わあ~、隊長!馳走になります』
 『おう、気にするな。飲んで食べてギアスの話を聴け!今している話は、俺に報告していない話だ、まさに武勇談というところだ』
 『ギアス艇長のとっておきの海戦談義ですか』
 集まっている者らの数が増えている、聴衆といえる、海戦の勇者の話に耳を傾けている。
 飲むほどに、酔うほどに、彼らはギアスの話に心酔している。
 祝宴の各所に人が集っている。
 オキテスも場にできている人の集いの中にいる。海戦を戦った者の一人を呼んで話を語らせている。
 あちこちにある人の集いが歓声をあげる、その都度、杯の酒を飲みほしている。
 統領と軍団長は、スダヌス浜頭の語り口に心を酔わせている。
 彼らが楽しんだ祝勝の宴が終宴の時に到ろうとしている。小島の連中が引きあげていく、彼らを見送る、また飲み始める、勝利した海戦談義を語らせる、その語りに酔う、羨望を心に湧かせる、海戦に参加している気分になる、祝宴は人間模様を描きながら幕を閉じようとしている、一人去り、また、一人去りと場に集った者らが去っていく。
 セレストスらが場の後始末にとりかかる、酔いつぶれた者の始末もする。
 彼らが見あげる夜空には、夏盛りの月が澄んだ風情で光を投げ落としていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1077

2017-07-19 06:35:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜に集っている一同が彼らを拍手で迎える、彼らは両手を振りあげて、歓迎にこたえて場に就く。
 場に集う者らの心が同調する、場の興奮が高まってくる、大歓声が沸きあがる。
 浜にしつらえられた50か所余りの焚火の島が、夏の暑さをさらに熱くとガンガン炎をあげて燃え盛る、集う者らの気持ちの高揚を促した。
 パリヌルスが場に設けた台上に立つ、祝宴の開始を告げる。代わって統領が台上に立つ。
 全員が手にする酒杯に酒が注がれていく、一同の目線が台上の統領に集中する、場を見廻す、一同の目線にうなずく統領、口を開く。
 『新艇の完売!海戦の勝利!乾杯っ!』
 統領の声が場に轟く、一同が酒杯を呷る、杯の酒を飲みほす、杯を宙に放りあげる、宙に舞う、一同の歓喜がここに極まった。
 パリヌルスが台上に立って告げる。
 『これより、新艇納入航海時において海戦を展開し、勝利した彼らの表彰をする』
 場に大歓声である。
 統領が軍船の船長役を務め海戦の主役を務めたギアスの前に立つ。
 『ギアス船長、よくやった!』
 短く一言を告げて、リナウスが手渡す月桂樹の冠をギアスの頭にかぶせる、彼の手を力いっぱい握る、強く握り返すギアス。
 統領は、次に隣にいる隊長役の任を果たしたテナクスにもギアスと同様の行い方で月桂樹の冠を贈り、彼の手を強く握った。
 海戦参加者90余名に対する栄誉の月桂冠の戴冠を軍団長、パリヌルス、オキテス、オロンテスが行う。
 統領と軍団長は彼ら全員に栄誉授与の心を込めた握手をした。それを終えて、オロンテスがデザインして焼き上げたスペッシャルパンが副賞として彼ら一同に手渡された。
 そのパンを手にした彼ら一同は、勝利の月桂冠をかむり、副賞のスペッシャルパンを両手で高く差し上げて、歓びを場の全員に伝えて感動を沸かせた。
 次の表彰は、オキテス隊長と案内役を務めたスダヌス浜頭である。二人の姿が台上にある。
 統領から特別製の月桂冠を戴冠してもらい、栄誉の言葉と副賞のスペッシャルパンが贈られた。
 海戦勝利の栄誉表彰の儀が終わる。祝宴の場は全員が起こす大歓声で沸きあがった。
 彼ら全員の顔が、西の空と海を輝かせるギンギンの茜の大日輪に映えている。
 祝宴はたけなわである。海戦の話に花が咲く、語り手、聞き手、話と酒とうまい肴が心を紡いでいく。
 浜に夏の宵がおとずれる。