アエネアス暦4月6日の朝が明ける。
緊張気配のイリオネスの朝は早い、星を頭の上にいただいて朝行事をすます、今日、明日の為すべきことを考える。
浜に立って、船長役務の者らの起きだしてくるのを待つ、まず、パリヌルスが顔を見せる、オキテスが来る、続いて、オロンテス、アレテスが朝行事をすませて来る、四人がイリオネスを囲む。
『軍団長!おはようございます!いい朝です』と四人が口をそろえての朝の挨拶である。それに答えるイリオネス。
『おう、おはよう!いい朝だ。昨日は一日留守にした。パリヌルスにオロンテス、昨日の浜事情はどうであった?』
オロンテスが答える。『日々の食糧であるパンのの状態から報告します。ただいま手持ちのパンが今日の朝食と昼食でなくなります。今日一日と明日の午前中はパン焼きに専念して業務を行います』
『パリヌルスのほうはどのような予定でいる?』
『私が担当しての業務は、午前中は、浜頭と船の構造についての話し合いです。それと船団の手すきの者を集めて武闘の訓練を行います』
『解った。打ち合わせは一件である!この浜における停留は明日の午前中までだ。いいな。段取りは、明日、昼を早めに済ませて、プトロトウムに向けて出航する!いいな、その予定で業務を遂行してくれ。出航の準備を万全に整えること、航路については、オキテス、アレテスの知るところだ。明日の航海では、オキテスの二番船が先導役を務める。オキテス、それで戦列を整えるのだ、いいな。以上だ』
『了解しました。今日、明日、その予定にもとずいて動きます』
船長役務担当の四人が集まる、打ち合わせを行う。
『俺は午前中、浜頭のほうへ出向くが早々に用件を済ませて戻る。明日、船をつけるプトロトウムの港、浜の状態はどんな具合だ?オキテス、話してくれ』
オキテスがプトロトウムの港や浜の様子について語る。『そういうわけで、停留には、まあ~だが、いい条件といえるのではないか考えている』
『解った。ところで例の二人の印象はどうであった?』
『おう、その事か』と言ってオキテスは、ヘレノスとアンドロマケのプトロトウムにおける二人の印象について話す。
イリオネスが四人の話の場に来る、パリヌルスに声をかける。
『パリヌルス、お前、浜頭のところに行くと言っていたな。一緒に行こう。浜頭に事情を話しておきたい』
二人は立ちあがる、連れ立って浜頭の許へと歩を運んで行く。
『ケラニス浜頭、おはようございます』
『お~お、おはよう!プトロトウムのほうはいかがでしたかな?』
イリオネスは、プトロトウムでのヘレノスと故ヘクトルの妻女アンドロマケについての事情を話す、次いで、船団が明日の昼の頃合いにプトロトウムに向けて出航する件を伝える。
そして、ケルキラ島のコリッシオイの浜に停留して、大変に世話になったことに丁寧に礼を述べる。
浜頭も船の試し乗り、船の構造の件で大変に世話になったと礼を言う。
『イリオネス軍団長殿、隣国のタラントウムに向かわれる時には、是非、この浜にたち寄っていただきたい、このコリッシオイは航路の道筋です。このままの別れで終わりたくはありませんな』
『その折には、必ず浜頭の浜に寄らせていただきます。よろしく願います』
二人は別れを惜しむ、固く手を握り合う。
『おう、パリヌルス、俺はこれで船団の浜に戻るが、浜頭の聞かれたことに丁寧に対応してくれ』
『解りました。昼には船団の浜に戻ります』
『おうっ!』とパリヌルスの言葉を受けて、イリオネスが場を去っていく。
残ったパリヌルスは、浜頭と膝をつき合わせて、船に関する質問に対して細やかに話す。
浜頭も船に関して、なかなかに詳しい、話し終えて別れ際に浜頭がパリヌルスに話す。
『パリヌルス殿、私は、小船の造船所を手掛けています。このたびは船の構造に関して詳しく理解しました。ありがとう!心から礼を言います。実を言いますと私の造船所を見てほしいのですが、この浜を離れた遠いところの浜にあります。描いていただいた舵構造の図面を大切にします。この恩は忘れません』
二人は手を握り合う、別れを惜しんだ。
ケルキラ島停留の最後の一日が終わり、夜を過ごす。
出航の日の朝を迎える、時間経過が飛ぶ矢のごとく速い、船団の出航する頃合いとなる。
浜頭らが手掛けて製造している干し魚を船団の者ら全員にと大量にくれる。
船団の一同が船上から浜頭らに丁寧に低頭して礼をする。
イリオネスが浜頭に停留の礼を述べて、オキテスが船長役をしている二番船に乗る、すかさずオキテスが出航の令を飛ばす、船団が停留して過ごした浜を離れいく。
浜頭らが手を振って見送る。船団は浜に沿って、南東に向けて波を割った。