『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第10章  アキレスとヘクトル  3

2008-01-31 08:48:10 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パトロクロスの遺体をミュルミドンの将兵たちに運ばせるためにメネラオスもアイアースも防戦一途である。ようやく、アンチロコスが見つかった。
 『アンチロコスっ!ここに来いっ!急げっ!パトロクロスがやられた!このことをアキレスに伝えろ!急げっ!』
 これを聞いたアンチロコスは、一瞬呆然とした。破竹の勢いで戦場を駆ける、その姿をアキレスと思っていたのだ。彼は、アキレスの陣営に急ぎ駆けつけた。
 『アキレス!パトロクロスがやられた!』
 『何っ!』
 『パトロクロスがヘクトルにやられた。鎧も奪われた。今、彼の裸の遺体を奪われまいと、メネラオスとアイアースが防戦の真っ最中だ。』
 思っても見なかった、この凶報を聞いたアキレスの心は乱れた。彼は、いても立ってもいられない衝撃を心身に受けた。
 戦場では、アキレスの鎧を身に着けたヘクトルが猛り狂って、軍団を励まし、連合軍を押しまくった。連合軍は、押され押されて、防衛柵の内側に逃げ入った。

第10章  アキレスとヘクトル  2  誤字の訂正

2008-01-30 08:26:10 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
誤字がありました。訂正いたします。恥ずかしい限りです。お詫びします。
  ヘクトルの口を就いてでた言葉は、
  ヘクトルの口をついてでた言葉は、   に訂正させてください。
                     
                            SI HIPOKRASON

第10章  アキレスとヘクトル  2

2008-01-30 08:14:50 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『ヘクトル!貴様の死もすぐそこだ!』
 パトロクロスの身体は、刀槍の鋭刃に裂かれて息絶えた。
 ヘクトルの口を就いて出た言葉は、
 『何っ!俺が死ぬ。馬鹿な、そんなことあってたまるか!』
 彼は言って捨て、パトロクロスの着ていた精巧無比のアキレスの鎧をはぎとり、身にまとった。一国を統べる将としてやるべきことではなかった。
 メネラオスの率いる一隊が闘いの場に着いたが、ときすでに遅かった。ヘクトルに鎧を剥ぎ取られ、無惨に裂けた屍が陽光と戦場の砂嵐にさらされていた。
 敵が群がってくる。メネラオスは、丸い大楯をかざして屍体を奪われまいとする。その周りで干戈が交わる。パトロクロスを背後から槍で刺し貫いたエボルボスが来る。メネラオスが剣合数合で、これを切って捨てた。
 メネラオスに敵が群がる。アイアースが駆けつけた。戦いの流れを変えたパトロクロスであったが、ここに到っては、元の追い詰められた連合軍になろうとしている。
 メネラオスは、この悲報をアキレスに、いっときも早く伝えねばと、戦場の中に、アンチロコスを捜し求めた。

第10章  アキレスとヘクトル  1

2008-01-29 06:50:49 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 パトロクロスは、率いてきた軍団と離れすぎたことに気がついた。そのときは、腹背に敵をうける寸前であった。舞い上がる砂塵の中からヘクトルが現れた。パトロクロスとわずかの手勢は、敵に包囲された。戦車から降り立ったパトロクロスは、右手に角ばった大石を、左手に槍で身構えた。ヘクトルの戦車が投石の射程距離に入った、ヘクトルめがけて大石を投げつけた。狙いははずれ、手綱を取っていたケブリネオスの顔面をとらえた。もんどりうって落車するケブリネオス、彼の双眸に闇が訪れた。
 ヘクトルの眼中には、目の前のアキレスしかない。戦車から降りて立ったヘクトル、二人は、眼差し鋭く対峙した。穂先鋭い槍を右手に持ち替えて起つパトロクロスのアキレス、ヘクトルの槍の横なぎの一閃は、パトロクロスの兜をはねとばした。背後に迫っていたエボルボスの槍の一突きは、背から胸を貫いた。二人の攻撃は同時であった。ヘクトルは、男の顔を見た。アキレスではなくパトロクロスであった。パトロクロスは、前後の敵に一撃をと槍を突き出したが、弱弱しく力が無かった。ヘクトルは、渾身の力でパトロクロスの下腹部を槍で貫いた。
 噴き出す鮮血、遠のく意識、死に向かう意識は、ヘクトルに向けて言葉を吐いた。

第9章  戦闘再開  40

2008-01-28 08:10:47 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスとの約束が、パトロクロスの頭中から、すっかり抜け落ちていた。彼を突き動かして、いるものは何なのか。人智の及ばない力の働きか。身に着けている軍装のなせる業か。迫り来る死の運命の力なのか。闘い、争いの恐怖が心身のいずこにも無く、彼の容姿容貌は、戦場の中にあって輝いていた。彼は、干戈を交えながらトロイ軍を押しさげていった。
 生命の危機を脱したヘクトルは力を回復していた。小高い丘の上から戦場を見渡していたヘクトルは、船陣での敵との激戦を思い起こし、退き下がって来る自軍を見つめて無念の唇を噛んだ。戦いの風景の中に、ひときわ煌びやかな軍装で槍を奮い、戦車で駆けてくる将を目にした。
 『アキレスではないか!』 目を見張ると同時に、彼の心の炎が燃え上がった。
 『奴を倒す!』 率いている軍団と戦車との間隔が開いてきている、時は今だ。ヘクトルの決断は、素早かった。アキレスに見えたパトロクロスの手勢はわずかである。自軍の将兵に軍団に当たるよう指示したうえで、ヘクトルは、倍する手勢を引き連れて、パトロクロスのアキレスに挑んでいった。

第9章  戦闘再開  39

2008-01-26 08:11:37 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、手勢の将兵を集め、軍団を編成した。パトロクロスは、アキレスの鎧、兜を身にまとった。陣立てを終えた軍団は、春の日ざしの下、出陣の儀式を終えた。
 軍団は、武具が触れ合うくらいに緊密に密集隊列を組んで、戦車上の人となったパトロクロスに従った。
 軍団は、船陣で闘っているトロイ軍の側面に猛然と襲いかかった。パトロクロスは、敵将ビライメスを槍の一突きで血祭りにあげて、自軍を励ました。
 この光景を目にしたトロイ軍は、目を見張った。アキレスが戦線に出てきたと思い恐れおののいた。将兵たちは青ざめた。トロイ軍は、蹴散らされ、またたくまに姿を消していく、叫喚と潰走でごったがえし、防衛柵の外に退いていった。
 パトロクロスの率いる軍団は、濠を渡ったところで、敵将サルペドン率いるリキュア隊と交戦に及んだ。サルペドンが戦車で向かってくる、パトロクロスは、戦車から降りて身構えた。戦車の馭者を槍を奮って突き落とす、即、戦車から降り立つサルペドン、二人の目線から火花が散った。槍を投げるサルペドン、楯ではじき避けるパトロクロス、すかさず投げる槍、陽射しに煌めいた槍は、サルペドンの分厚い胸壁を貫いた。サルペドンは、一声おめき声をあげて、こときれた。
 この戦場の光景を目にした両軍は驚いた。『アキレス!』『アキレス!』の喊声が味方の軍からも轟いた。パトロクロスの意気は揚々と上がった。彼は、昂ぶる意気に、アキレスとの約束を忘れた。

第9章  戦闘再開  38

2008-01-25 07:51:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、返事を渋った。彼の思いは、幼いときからともに過ごしてきた友パトロクロスを失いたくはなかった。アキレスは、生きている限り、その日常の中にパトロクロスのいない風景など考えてもいなかった。残り少ない自分の人生を友とともに過ごしたかった。彼の腕の中で最後のときを過ごす自分を、心の中に描いていた。
 『パトロクロス。お前の考えは判った。しかし、それをやるからには、俺の言うとおりににしてくれ。君と俺のためなのだ。敵を深追いすることは許さん!いいな。平原まで押し返したら、ただちにここへ戻るのだ!このこと、しかと心して行け!判ったな。約束だ。いいな!』
 アキレスは、くどいくらいに念を押した。パトロクロスは約束した。
 アキレスのしくじりは、彼につける副官に、このことを命じていなかったことであった。

第9章  戦闘再開  37

2008-01-24 08:25:03 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 その頃、アキレスの陣営では、パトロクロスは、アキレスに話し続けていた。心が、感情が昂ぶってくる、抑えがきかない、一語一語、昂奮のゆえに吐く言葉が激越になっていく。パトロクロスの目は血走っていた。聞いていたアキレスは、短く言い放った。
 『それは、奴等の愚かさゆえだ。』
 『愚かさのせいではない。アキレス、君を侮辱した男も自分のしたことを悔いているのだ。』
 パトロクロスの胸中に、ネストルの言った言葉がとぐろを巻いていた。
 『君が戦いに戻らないのなら、君の鎧や楯、武具一式と戦車を貸して欲しい。そして、将兵も貸して欲しい、俺にゆだねてくれ。兵数は、三分の一の1500人でいい。敵の錯覚を誘い、戦いの流れを変える。』
 パトロクロスは、強く言い切った。

第9章  戦闘再開  36

2008-01-23 09:48:40 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 将兵たちは、攻め来る敵を防ぎながら、ヘクトルを安全な地帯へと運んでいった。トロイがヘクトルを必要としている限り、運命は彼を見放しはしなかった。安全な地帯には、軍医が待機していた。ヘクトルに活をいれた、細いながらも息を吹き返してきた。内部の出血が息を詰まらせているようだ。口から、勢いをつけて黒い血が吐き出された。それとともに目が開いて、落ち着き無く何かを見ている。ヘクトルの双眸に光が見えてきた。生気がもどる、ざわめきが聞こえる、あたりを見廻した。歓声が彼を包む、抱き起こされて、彼は大地に起った。
 ヘクトルは、身を運んでくれた兵から、ここに到った顛末の始終を聞いて納得した。そんなヘクトルを何かが突き動かすのであった。

第9章  戦闘再開  35

2008-01-22 08:06:56 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『おおっ!オデッセウス、よく言ってくれた。良き謀い、良き戦略の持ち主は、遠慮せずに言ってくれ。俺は聞く。評議の上、皆の意思を統一して、トロイを叩きのめす!』
 これを聞いていたデオメデスは、すかさず、強く言い切った。
 『統領、貴方は前が見えないのか、情けない。その者は、貴方の前にいるではないか。敵に負わされた傷のことを言っている場合ではない!将兵を励まし、彼等に戦いをさせて、厚き恩賞で報いてやるのだ。必ずいける。諸君。起ち上がって、戦場に行こう!』
 彼等の目には、勝利が見え隠れしている。勝利の日が来るのか。その日が近いのか、遠いのか、それが気にかかる難解な状況であった。
 オデッセウスは、その日を近づけるという事を課題にして、トロイとの戦役を考えていた。