『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  222

2010-05-31 06:55:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 外壁の内側には回廊が造られ、その下は宿舎と倉庫に、砦内には、150人くらい収容できる宿舎3棟と統領の館が造られた。
 砦の機能は、迎撃に関しては陸上の敵よりも海上からの敵に備えた構えとして、宿舎機能に重きをおいて構築されていた。
 敷地面積は、南面及び北面が約90メートル、東面及び西面が約60メートル、5400平方メートルといった大きさである。南面は海に面し、北面は原野を開いた耕作地が門前に広がっていた。
 水利に関しては、砦の東南約1キロの海岸近くに小さな淡水湖があり、砦の東約600メートルのところを北から南に向かって、湖に注ぐ川が流れていた。そのようなところに砦が位置していたのである。まさに、好立地の地点に建設した砦と言えた。

第2章  トラキアへ  221

2010-05-28 05:31:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 砦について少し触れる。
 砦の造りは、トロイの城壁に比らぶべきはない。まさに簡易造りそのものである。しかし、この土地に来たトロイ人たちにとって必要欠くべからざる砦であったのである。とにかく短時日の間に造り上げるべき砦であった。
 砦の外壁に使用する木材は、浜頭のトリタスとの打ち合わせにより、砦建設地の北東約5キロの地点の森から伐りだすことになり、トロイ人全員参加で伐りだした。
 直径30センチ位の丸太20000本が伐りだされ、外壁材としたのは10000本であった。それらの丸太が8メートルくらいの長さに切りそろえられて、地中に2メートル、地上高6メートルくらいで外壁が構築された。
 砦構築に当たり南面と北面に3000本、東面と西面に2000本、この方形の砦の4隅には高さ12メートルくらいの櫓が造られた。門は東面西面は中央に1門、南面と北面には2門づつ設けられた。

第2章  トラキアへ  220

2010-05-27 08:03:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 皆が集まってくる。どの顔もどの顔も陽に焼けている。そして、どの顔も活き活きとしていた。アエネアスは、砦を背に高みに立って皆を見つめた。
 『諸君っ!おはよう、毎日ご苦労う。砦も宿舎の方も仕上がりが8分ぐらいのところまでこぎつけた。あともう少しだ。今朝、浜へ向かう途中のことだが、その場所から振り返って砦を見上げた。その姿は『素晴らしい』の一語に尽きる。まさに素晴らしい出来栄えである。私は、その姿にうたれ、感動した。さあ~、あと一息だ、仕上がりまで力いっぱい仕事に、作業に励もう。私も今日、只今より、完成を見るまで諸君たちとともに作業に取り組む、宜しく頼む!』
 歓声があがった。アエネアスの言葉が続く。
 『ところで話が変わる。昨夜のことだが、蚊やりのいぶし草を試してみた。なかなかいい効き方をした。おかげでぐっすり眠った。原野から採集するについて草の見本を渡す、希望する者は私のところまで取りに来るように、以上だ。さあ~、皆で砦と宿舎の完成を目指そう!』 一同が、どっと沸いた。

第2章  トラキアへ  219

2010-05-26 07:32:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうっ!砦!俺の思いをはるかに超えている。いい姿だ。なかなかいい!』
 アエネアスは、目にした砦の姿に感激した。今、我々が造っている砦か。簡易な造りの砦にしては、人々を感動させずにおかない姿であった。三人は、しばし、たたづんで砦を見上げていた。
 森から伐りだした丸太10000本を連ねて構築した外壁の砦は、堂々とした威容をかもし出していた。
 『いいっ!思ったよりはるかにいいっ!水浴に行こう』
 三人は向きを変えて海に向かった。
 朝の水浴は気持ちがいい。三人は、昨夜の蚊の刺しあとを互いに見やった。
 『夕べはぐっすり眠った。蚊の刺しあとも少ない。統領、昨夜のあの草、蚊やりの効き目があるようです。統領から皆に話してやっていただけませんか』
 『判った。そうしよう』 
 三人は海からあがった。
 作業開始の時をめがけて人が集まってくる。イリオネスは形が整い始めている砦の門前に皆を集めた。

第2章  トラキアへ  218

2010-05-25 06:39:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜は明ける。満天の星が姿を消していく、朧な残月が西の空に消え残っている。
 『おい、ギアス、どうだった。蚊は来たか』
 『それは来るに決まっていますよ。多いか少ないかです。なんとなく少なかったように思われます。隊長のところへはどうでしたか』
 『う~ん、いつもより少なかったかな。統領の方はどうでしたか』
 『そうだな、いつもより少なかったように思う。君たちはどうだった』
 『少々、少なかったように思えます。統領、朝の水浴に行きましょう。ところで、夢はどうでしたか』
 『う~ん、切実な夢だった。それはいい、当面の課題ではない。朝食のときにでもちょっぴりだが話してやる』
 『他人の夢の話って、そりゃあ~、面白いですよ。是非、聞きたいものです。まいりましょう』
 三人は浜へ向かった。地表を照らし始めた太陽、今日の暑熱が思いやられた。
 朝陽が砦の東面を照らしている、三人は申し合わせたように同時に振り向いた。彼らが目にしたのは、にわか造りに似せない堂々とした砦の姿であった。
 アエネアスは、思わず声をあげた。彼の想像を超えた砦の姿であった。

第2章  トラキアへ  217

2010-05-24 06:03:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ねえ~、貴方、どうしていらっしゃるの。私、貴方に抱かれたい。貴方と私の愛し子、アスカニウスはどうしていますか。ね~え、聞いて私の声を、、、。貴方は、広い太洋を渡り、最後にたどり着くのはトロイを遠く離れた西の国ヘスペリア(イタリアのこと)です。そこにたどり着く苦労を避けることはできません。そこは大地を耕す人のいる豊かな国です。大きな河が流れています。貴方は、そこに一国を建設します。貴方は、私に代わる王妃を得ます。アスカニウスをつれて、そこへ向かって、、、、。貴方の大切な使命は、苦難ののち、必ず叶います』
 『クレウーサっ!』 彼は、霧の彼方へ消え去ろうとしている彼女を大声で呼んだ。
 『統領っ!』 これは夢の中の声ではなかった。
 彼の耳元で声がする。目を開けたアエネアスは、アレテスとギアスの顔を目の前に見た。
 『統領、大きな声を出されましたが』
 アレテスは、心配そうにアエネアスに声をかけた。
 『う~ん、夢だった。訪問者があった。ヘクトルが来て、クレウーサが来た。二人とも何かを言って霧の中に消えた。夜明けはまだだな、二人とも休んでくれ。大きな声を出して起こしてしまったな。すまなかった』
 彼は手短かに謝った。身体全体が汗でぐっしょりであった。股間に異変を感じたアエネアスは手を伸ばした。そこはぬめった液体でぬれていた。

第2章  トラキアへ  216

2010-05-21 07:38:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスは、蚊やりの効果については半信半疑ながらその草をいぶした。その草はそこいらの草をいぶすのとは少々違っていた。なんとも言われぬ匂いが漂った。効き目は夜が明けてみなければ判らない。三人の寝つきは早かった。
 夜半は過ぎた。アエネアスに訪問者があった。
 目の前に男が立っている。男は涙を流している。顔は、血のりと埃でどす黒く、脚には皮ひもを引きずっている。深く傷を負ったヘクトルが目の前に立っているではないか。アエネアスは、ためらうことなく声をかけた。
 『ヘクトル、どうした。血で固めたウロコのような髭でどうしたというのだ』
 アエネアスは、夢の中のヘクトルをひっしと抱きしめた。
 『俺がこんな姿の君を見ようとは、、、』
 アエネアスの眠りは深く、虚空を抱いているとは気がつかない。夢の中のヘクトルが口をきいた。
 『アエネアス、判っているのか、お前。トロイは、トロイの運命を君にゆだねていることを。建国は君の使命なのだ。民を引き連れて、新しい大地を求め、漂泊流浪の末、一国を立てるのだ。頼んだぞ、アエネアス』 と告げて、ヘクトルは去っていった。
 続いて、また、アエネアスと呼ぶ声が聞こえてくる。それは聞き覚えのある優しい声であった。禁欲の日々が続いているアエネアスの体の一部がむっくりと起ちあがる気配が身体を貫いた。

第2章  トラキアへ  215

2010-05-20 07:07:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、何を言っている。完成したら、俺はずっとここにいる』
 『あ~あ、そうでした。統領の宿舎の仕事、オロンテスに言って急がせます。砦のことばかりにかかりきっていて宿舎のことについては少々遅れていました。オロンテスもまた、畑地耕作のことにかかっていて、宿舎の内部造作が遅れていたのです。』
 『俺の思いだが聞いてくれるか、イリオネス。砦と宿舎の完成だが、同期完成でいかないか。皆、揃って一緒にここに根をおろそう。それが俺の望む形だ。完成の少々の遅れはかまわない、どんなものだろうか、考えてくれるか』
 『判りました』
 同席している皆は、その言葉にうなずいた。工事進展の段取りは決まった。六人の話は雑談も入れて、和やかに終わろうとしていた。
 『アレテス、ところで、この草は何か』 とパリヌルスが訊ねた。
 『あ~あ、この草か、それは今は言えない。結果を見てから、また、皆に話す』
 この話を聞いていたアエネアスは、くすくすと笑いをこらえて聞いていた。

第2章  トラキアへ  214

2010-05-19 06:55:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスは、言葉を続けた。
 『そのように統領から言っていただけると軍団長も胸を張って喜びます。さきほど、ギネスをともなって水浴びに行ったのですが、途中で振り返って夕映えの砦を見上げていました。いや~、感動しました。皆が力を合わせて建設に懸命に励んでいる、完成まであと一息の砦。見ほれました。』
 『そうか。そんなに見栄えがいいか。よしっ!明日は俺も見てみる』
 『ギアス、来たか』
 『今日のおかずは何だ』
 『うまそうですよ。今日、浜衆たちから魚の差し入れがあったそうです。この魚、なかなかいけそうです。魚の名前は私にはわかりませんが。どうぞ、統領』
 『お~お、うまそうだ。アレテス、ギアス、さあ~食べよう』
 『う~ん、こいつはいける』
 『魚はうまい!しかし、パンの焼け具合はいまいちだな』
 彼らは舌鼓を打った。
 『統領、よくぞおいでになりました。ギアスに聞きました。完成まで、こちらにおいでになると聞きましたが』
 イリオネスが来た。パリヌルスもオキテスも姿を見せた。

第2章  トラキアへ  213

2010-05-18 06:40:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 水浴を終えたアレテスとギアスが帰ってきた。アレテスは、アエネアスの姿を目にして声をかけた。
 『統領、どうされました』
 『アレテスにギアス、今夜から完成までの間、皆と起居を共にする。宜しく頼む』
 『統領、蚊の襲撃が並じゃないですよ』
 『な~に、そんなことかまうもんか。蚊については俺に名案があるのだ。まあ聞け、実はだな、集落の長老に聞いてきたのだ。そこに積んである草で蚊をいぶす。その草は蚊やりに効き目があるそうだ。今夜やってみようと思っている。アレテス、いぶし役はお前に頼む、引き受けてくれ』
 『判りました。やってみましょう。それはそうと、ギアス、食事のことだが、統領の分も頼む』
 『判りました』
 『アレテス、砦もここまで仕上がったら見れるな。お前たちが帰ってくるちょっと前まで物見櫓にのぼって風景を見ていたのだ。なかなかいい、この砦の立地、気に入った』
 『統領にそのように言っていただけると、この仕事にたずさわっている者たちが喜びます』