連休に孫に準備していた“お風呂セット”を片付けようとして、ふとブリキの金魚ジョーロに手が止まった。
10年程前に雑貨屋さんで見付けて、懐かしくて買ってきていたものである。
4才の頃の記憶だが、私は髪を洗われるのが嫌いだった。
お湯をドバーッとかけられると息が出来なくて怖かったのである。
ある日、母はどこからかブリキの金魚ジョーロを買ってきた。
これでチョロチョロ流してくれて、やっと怖がらなくなったのだ。
両親は旅回りの浪曲師だったから、私も金魚のジョーロも一緒に旅をした。
もう70年近くも昔の話である。
大きなトランクを提げた父に負ぶって貰ったり、母と手をつないで峠越えをしたことなどが思い出される。
母は目が不自由だったから、子育てしながらの巡業はどんなにか難儀だったろう。
そういえば、母は晩年「私は好きなことで苦労したんやから良いけど、あんたたちには苦労かけたねえ...。」
と、しみじみ語ったことがある。
その時「まあ、お母さんこそ、目が悪いのに良く育ててくれたやんね。」
と、サラリと返したんだけど、もっともっと感謝の気持ちを伝えればよかったと、今になって悔やむのである。
ブリキの金魚はそんなことまで次々と思い出させてくれるのです。