雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

すみれ

2012年04月05日 | ポエム



 すみれ

 遅い春が、その遅れを取り戻そうとするかのように、春はいつも駆け足でやって来る。
 野山や街中のあちらこちらに花が咲き、様々な色と香りが満ち溢れる。
 高校生の頃、ガールフレンドとデートしていたときに、彼女が教えてくれた花。ニホイスミレ。
 車社会の現在、木蓮や桜などの大きな木と違って、路傍の小さなスミレは、人知れず咲く。
 霜に打たれ、雪に埋もれ、ほとんど枯れたかと思われる草が、かすかな春の訪れを感じて新芽を出し、美しく咲く姿は可憐である。
 ニホンスミレの可憐で清楚な花を見つけると、ガールフレンドのことを思い出し、ささやかなチクチクとした痛みをともなった、しかし今となっては幸福な気持ちになる。(思い出は多い方がいいな。)
 自宅の近くを散歩しているときに、毎年のようにコンクリートのブロック塀とアスファルトの道路に挟まれた、わずかな土に、ある日突然、その薄紫の小さな花を見つけて立ち止まる。
「ああ、そうだったね」
 それは、他の季節には忘れ去ってしまう、秘密の宝箱のようだ。
(1984~2012.4.5)
見出し画像は、スミレではなく、今頃咲く、庭のサギゴケです。
やはりふだんは地味な存在で、うっかり雑草と間違えてぬきそうになります。



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