かわたれどきの頁繰り

読書の時間はたいてい明け方の3時から6時頃。読んだ本の印象メモ、展覧会の記憶、など。

【メモ―フクシマ以後】 原発・原爆についての言表をめぐって(44)

2025年01月30日 | 脱原発

2017年2月18日

 ネットでは、大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に格安で払い下げられた話題が飛び交っている。話題の中心は、地価の10分の一ほどの価格ということと、その学園がその土地に「安倍晋三記念小学校」を作るとして寄付を募っていたこと、名誉校長は安倍晋三の妻であることなどで、国会でも取り上げられ、検察、マスコミがしっかりしていれば大疑獄事件に発展するような大事件である。
 その学校法人は幼稚園も経営していて、戦前の教育勅語を暗唱させたりしているという。また、父兄に中国人や韓国人に対するヘイト文書を配っていたとして問題視した大阪府の聴取を受けたということだ。
 アメリカの社会学者、イマニュエル・ウォーラースティンは、「史的システムとしての資本主義は、以前にはまったく存在しなかった差別(oppressive humiliation)のためのイデオロギー装置を発展させた。すなわち、今日いうところの性差別と人種差別にかんするイデオロギーの枠組が成立したのである」 [1] と主張している。第2次世界大戦後、国連の枠組みで大々的に人種差別や男女平等に関する取組が行われたが、たいした成果を上げずにいるのは、世界が資本主義に邁進しているためだということなのだ。
 人種差別は、資本主義である以上避けがたいと言うのである。だとすれば、人種差別、ヘイトクライムに反対するには、資本主義に反対するしかない。などと私が書き、これを読む人がいると、彼らは資本主義に反対している、昔の共産党のように革命を企てている、などと公安が認定すると即逮捕、共謀罪成立後にはそんな道筋が見えてくる。
 書いたものを読んだだけでは共謀罪は成立しにくいと思うが、集会で話して一人でも拍手などしたら、それこそ公安警察の監視下にあれば、かなり危険だろうと思う。そんな未来を作ってはならない。

[1] 植村邦彦『ローザの子供たち、あるいは資本主義の不可能性――世界史システムの思想史』(平凡社、2016年) p. 151。



2017年3月17日

 東京出張から仙台に戻る車中で、読書に飽きてスマホでニュースを見ていたら、「原発避難者訴訟 東電と国に賠償命じる 前橋地裁」という毎日新聞の速報記事と「原発避難訴訟 国に初めて賠償命じる判決 前橋地裁」というNHKのニュース記事があった。
 NHKの記事は、国と東京電力の責任について次のように述べていた。

 17日の判決で、前橋地方裁判所の原道子裁判長は、平成14年7月に政府の地震調査研究推進本部が発表した巨大地震の想定に基づき、国と東京電力は、その数か月後には巨大な津波が来ることを予測できたと指摘しました。
 また、平成20年5月には東京電力が予想される津波の高さを試算した結果、原発の地盤を越える高さになったことを挙げ、「東京電力は実際に巨大な津波の到来を予測していた」としました。
 そのうえで、東京電力の責任について、「事故の原因の1つとなった配電盤の浸水による機能の喪失を防ぐため、非常用の発電機を建屋の上の階に設けるなどの対策を行うことは容易だったのに行わなかった。原発の津波対策は、常に安全側に立った対策を取らなければならないのに、経済的な合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応で、今回の事故の発生に関して特に非難するに値する」と指摘しました。
 また、国の責任についても、「東京電力に津波の対策を講じるよう命令する権限があり、事故を防ぐことは可能だった。事故の前から、東京電力の自発的な対応を期待することは難しいことも分かっていたと言え、国の対応は著しく合理性を欠く」として、国と東京電力にはいずれも責任があったと初めて認めました。

 東京電力ばかりではなく国の責任を認めたことは、東電の旧経営陣3人の業務上過失致死傷罪についての刑事裁判や、全国18か所での1万2000人に及ぶ集団訴訟にとってきわめて重要な意味を持つことだろう。
 しかし、137人が15億円の補償を求めていたのに、62人に3800万円の賠償を命じた判決は、あまりの過小評価で、「一部勝訴」と判断するしかない中途半端なものだ。故郷を奪われ、家を奪われ、つまりは生活の基盤を丸ごと奪われた人間が受け取る賠償がそんな少額というのはどんな人間観、経済観なのか、私には理解できない。

 帰りの新幹線の中で、もう一つ、とても気になる記事を見つけていた。ジャーナリストのまさのあつこさんの「IAEA勧告すら無視した「原子炉等規制法等改正案」の審議開始」という記事だ。
 2013年に日本政府は、原子力及び放射線安全に関する日本国内の規制の枠組みに対するIAEA(国際原子力機関)による総合評価サービス(IRRS)を受けることを決め、2016年にIAEAから日本政府にIRRS報告書が提出された。IRRS報告書は13項目の勧告。13項目の提言から成っている。
 まさのさんによれば、勧告の肝は「事故が起きたときの「緊急避難計画」も同様かそれ以上に重要で、もし機能する「緊急避難計画」がないなら、原発再稼働は断念すべき」という点にある。つまり、「日本政府は、オンサイト(原発)とオフサイト(周辺区域)については、役割分担をしていると言っているが、その対応がバラバラではダメである」ということだ。
 いま、国会に上程されて審議が始まった「原子炉等規制法等改正案」は、けっしてIAEA勧告を取り入れたものではない。改正の目玉は、原子力規制委員会(原子力規制庁)による原発の抜き打ち検査ができるように改正することだと主張しているが、これはIAEAから2007年にすでに勧告されているもので、規制庁は周回遅れの法改正を行おうとしていて、今次のIRRS報告書によるIAEA勧告からの乖離ははなはだしいとまさのさんは主張されている。
 たしかに、IAEA勧告にも関わらず、川内原発も伊方原発も玄海原発もことごとく避難計画がずさんなまま規制委員会は新規制基準に合格したと認めている。原発の安全基準は明らかに世界基準からはるかに低いレベルにあるのは間違いない。どの口が「世界最高の安全基準」などと言うのだろう。
 さて、原子力規制庁が発表したIAEAのIRRSミッション報告書は131ページものpdf文書なので、いちおう保存はしておくのだが、さていつ読み終えるのか、ほんとうのところ心もとないのである。


 

街歩きや山登り……徘徊の記録のブログ
山行・水行・書筺(小野寺秀也)

日々のささやかなことのブログ
ヌードルランチ、ときどき花と犬、そして猫



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。