素数の全体は、2,3,5,7,...のように無限に続く数列を構成している。そして、n番目の素数を計算できたとき、それまでに得られた素数を用いて、n番目の素数+1から順に素数か否かを判定でき、n+1番目の素数を計算することができる。このように、n+1番目の素数は、有限回の演算によって計算可能である。
また、数字の0,1で始まり、各項はそれぞれ前の2つを足し合わせた数にすると、フィボナッチ数列ができる。すなわち、0,1,1,2,3,5,8,13,...である。各項をフィボナッチ数という。n+1番目のフィボナッチ数は、n-1番目とn番目の同数値から容易に計算できる。
このような計算可能な数列に対して、その数列を答えとする方程式が必ず存在することは、ロビンソンやマティヤセヴィッチによって示されている。ということは、理論上、すべての素数を導き出す数式が存在するはずである。フィボナッチ数列についても同様である。
ジョーンズは、フィボナッチ数の集合が、負でない整数を変数域とする次の多項式の正値の集合に等しいことを示した。
2xy4+x2y3-2x3y2-y5-x4y+2y
この多項式において、x=0,y=0とすると多項式の値が0、x=1,y=1とすると同値が1、x=1,y=2とすると同値が2、x=2,y=3とすると同値が3であることが分かる。
そこで、y=x+nと置き、n>0とすると、多項式は、
-x5+nx4+3n2x3-n3x2-3n4x-n5+2(x+n)
で表現できる。
x>nでなければならないことが分かる。x=3,n=2;x=5,n=3;x=8,n=5を多項式に代入して値を求めてみると、それぞれ5,8,13を得る。
何のことはない。n番目とn+1番目のフィボナッチ数を代入して、n+1番目のフィボナッチ数そのものが求められるだけである。一杯食わされた。x,yにこれ以外の正整数を入れると、値はすべて負になるということである。
素数については、次の結果が得られている:正整数の係数をもつある多項式が存在し、負でない整数の集合を変数域とするとき、素数の集合はこの多項式の正値の集合と一致する。
ジョーンズ、サトウ、ワダおよびウィーンズは、26個の変数a,b,c,...zをもつ多項式を示した。この多項式は、次の形式をしており、-[ ]2の項が14個もある。
(k+2){1-[ ]2-[ ]2...-[ ]2}
この多項式から直観的に得られる結論は、-[ ]2の項がすべて0になるとき、k+2が素数を示しているということである。しかし、k+2が素数の場合でも、-[ ]2の項がすべて0になるとは限らないので、素数については、-[ ]2の項がすべて0でなければならないという厳しい条件が課せられる。逆に、k+2が素数以外の数であるとき、-[ ]2の項のすべてが0にはならず、多項式の値は、負となる。
この多項式から得られる結論は、何ともばかばかしいものである。例えば、k=0とすると、k+2=2は素数であるが、-[ ]2の項をすべて0にするような変数a,b,...zの負でない整数解が存在することを確かめるのは容易ではない。
そうすると、この多項式は、素数を計算するという実用的な意味をもつものではなく、ただ素数を解とする方程式が存在することを示しているだけのように見える。しかし、数学的により重要なのは、このような多項式を示したことではなく、素数の集合は、ディオファントス方程式と呼ばれる方程式の解になっているという結論の方のようだ。
ディオファントス方程式とは、(x1,x2,...,xn)を変数とする不定方程式であって、整係数の多項式
P(x1,x2,...,xn)=0
を満たす負でない整数解を求めることを主旨とする。
上記のフィボナッチ数を生成する多項式は、fをフィボナッチ数とすると、多項式-f=0が負でない整数解を求めることを意味しているから、ディオファントス方程式の一つである。
素数についても同様であり、上記の多項式は、a,b,...zを変数域とするディオファントス方程式
P(a,b,...z)=-[ ]2...-[ ]2=0
を満たす負でない整数解が求められたとき、素数はk+2で与えられることを意味している。
ここで、素数を表す上記の多項式を用いて実際に素数を求める計算をしようとすると、重大な問題に遭遇する、ということを認識したい。そのディオファントス方程式を満たす整数解を計算機で計算するものとする。k+2が素数であるようなkが与えられていれば、計算機は、いつかは整数解を導き出し、結果を出力して停止するだろう。しかし、k+2が素数でなければ、計算機は、整数解を得ることはなく、無限ループに陥ることになる。すなわち、k+2が素数か否か知られていない任意の数であるとすれば、整数解が得られるか否か、整数解が得られるとしてもどれだけ長い間計算すれば得られるのか、分からないということになる。つまり、任意の数について、整数解の存否は、決定不可能ということになる。これは、ゲーデルやチューリングが言う「決定不可能な命題」ということになるのであろう。
上に見た通り、素数の数列は無限に続くが、n番目までの素数を計算できれば、n+1番目の素数が計算可能である。しかし、上記の数式により、素数を理論上、有限個の項をもつ多項式の中に閉じ込めることはできたが、その代償として、もはや計算可能性を保証するものではなくなったように見える。
素数を導き出す数式という通俗的な興味からこの道にエントリーしたが、数学がもつ深遠な世界をのぞき見たような気がしてきた。
参考文献:
ソートイ著「素数の音楽」(新潮社)
リーベンボイム著「素数の世界 第2版」(共立出版)
『離散的有理数の組み合わせによる多変数関数』の『存在量化確度方程式』と『存在量化創発摂動方程式』の帰結の風景を3冊の絵本で・・・
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