「みんなには悪いが、おとうちゃんは先に保健所経由で天国に行く
八郎、おまえに、もう一度聞いておくが、
乞食と金持ちはどっちがエライと思てるんや」
「そら乞食や。まずファッションがかっこいいし、住んでる家もレトロやしな。
だいいち、おとうちゃんは、金持ちになりたいくせに、実際に金持ちになったことが無い。
そんなバーチャルな金持ちの話を、おとうちゃんから聞かされても信用できへんし、
おとうちゃんが精一杯努力した結果が今の状態やとしたら、
一生がんばってもずーっと貧乏のままやで。
なんで、その事に気がつかへんねん」
「お、親に対して、な、なにを生意気なことを言うてるねん。
持ってる株も土地も換金したら一億万円になるんやぞ」
「けど、今から保健所で毒殺されたら、その金、使う暇も無いなあ」
「くそっ、この期に及んで、自分の子供にまでバカにされるとは。
じゃあ、七郎、兄貴の七郎は、京大に行って官僚になってくれるんやな」
「いや、僕は、京大なんか行かへんで。
さっき、グヤトーンのエレキギター買うてきてん。
僕はイギリスに行ってビートルズになるねん。」
八田四郎は自分が毒殺されようというのに、息子たちときたら、
どいつもこいつも救いようのないバカばかりだと思った。
今年はいつもより季節の移り変わりが速いのか、
庭の沈丁花がかすかな春の気配を漂わせていた。
八田四郎は保健所の毒まんじゅうが、粒あんで甘ければいいのにな、と思った。
八郎、おまえに、もう一度聞いておくが、
乞食と金持ちはどっちがエライと思てるんや」
「そら乞食や。まずファッションがかっこいいし、住んでる家もレトロやしな。
だいいち、おとうちゃんは、金持ちになりたいくせに、実際に金持ちになったことが無い。
そんなバーチャルな金持ちの話を、おとうちゃんから聞かされても信用できへんし、
おとうちゃんが精一杯努力した結果が今の状態やとしたら、
一生がんばってもずーっと貧乏のままやで。
なんで、その事に気がつかへんねん」
「お、親に対して、な、なにを生意気なことを言うてるねん。
持ってる株も土地も換金したら一億万円になるんやぞ」
「けど、今から保健所で毒殺されたら、その金、使う暇も無いなあ」
「くそっ、この期に及んで、自分の子供にまでバカにされるとは。
じゃあ、七郎、兄貴の七郎は、京大に行って官僚になってくれるんやな」
「いや、僕は、京大なんか行かへんで。
さっき、グヤトーンのエレキギター買うてきてん。
僕はイギリスに行ってビートルズになるねん。」
八田四郎は自分が毒殺されようというのに、息子たちときたら、
どいつもこいつも救いようのないバカばかりだと思った。
今年はいつもより季節の移り変わりが速いのか、
庭の沈丁花がかすかな春の気配を漂わせていた。
八田四郎は保健所の毒まんじゅうが、粒あんで甘ければいいのにな、と思った。