河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

三途の川で立ちつくす

2016年02月07日 | ZIZY STARDUST
もう、すでに作者は主人公が八田次郎だったか四郎だったかわけがわからなくなっていた。


ダストシュートの底のコンクリートの床にたたきつけられた八田四郎は動かないままだった。

「ウイーーーン、ウイーン、ドナウドナウ、ウイーン」

八田四郎の補助原子炉エンジンが再稼働を始めたのだ。

「けけっ、わてはアンドロイドや。毒饅頭なんかで死ぬわけないがな」

あたりは真っ暗だった、周囲には、前の人々の物と思われる骨が散らばっていた。
暗闇になれてくると、三方向に明るい出口があるのに気づいた。
道案内の看板まで設置されていて、その下にちゃんと係員まで座っていた。
そこは水路のようで小さな舟が波に揺れていた。

「あんたはここで焼かれて灰になるよ、そして、
真っすぐ行くと『斎場』家族とか引き取り手のいる場合はそっちだ。
左に行くと『ホームセンター』高品質の人骨は肥料として高く売れる。
孤独で値打ちの無い骨は右の『無縁仏の集積墓場』に行く。
着ている服は東南アジアに輸出するよ」

「三つに分かれているから『三途の川』というのやな
わてはどこに行けばいいのですか」

「まあ、『無縁仏の集積墓場』だね、でも金しだいじゃ、行き先変更も可能だよ」

「くそっ、死んでからの価値も金しだいなんやな
株券や土地の権利書でもいいですか」

「そりゃ、だめだね、それは生きてる人間にだけ有効なものだ、
ここを渡るには、最低、六文銭は必要だ」

「わてはそんな古い貨幣は持って無いで」

「胸元に手を入れてみろ、あんたの生きた価値分だけの一文銭が入ってるはずだ
音がしないところをみると、あんたの胸はたぶん空っぽだな」


四郎の胸には何も無かった。毎日早起きしたのに三文の得にもならなかった。
つまり生きた価値はゼロだったということだ。
格安人生でもなかった。無の人生だった。
四郎の心はビッグバン以前の宇宙と同じ状態だったのだ。

ホームセンターの前にたこ焼きの屋台が出ているのか、
ほのかなソースの匂いがこの三途の川の渡し場まで流れてきていた。

保健所饅頭

2016年02月07日 | ZIZY STARDUST
保健所の係員は極めて冷静に説明した。

「じゃあ、八田さん、このよもぎ饅頭か、甘酒饅頭か、好きなほうを食べてください。
どちらかを食べると苦しみながら死にます。もういっぽうを食べると笑い死にします」

「わては、少年の頃は夏を追いかけていたんや。だんだん高くなる九月の空。向かい風の秋の匂い。
まだ九月なら全速力で走れば、夏に追いつけると思っていたし、確かに夏を追い越すこともできた。
でも、今は違う、いくら走ったところで夏には追いつけやしない。
わてはもう40歳になってしまった。このスニーカーの速度では夏に追いつけないことを知った。
だから、今、わてはすごく悲しいんや、泣けてしまうんや」

「涙がたくさん出るという事は、それだけの量の幸福が、あなたの心に中に今まで、
貯まっていたということです。ここに来られる60歳以上の方はたいてい無表情な顔をされておられます。
悲しさの量と幸福の量は同じですから、悲しくない人は幸福でもなかったのです。
さあ、とっとと饅頭を食べてあの世へ行ってください」

「くそっ、こうなったら両方食べてやるー」


うげげげー、うひゃうひゃー、ぐるしいー助けてくれー、おもろすぎるギャハハー、グエー


苦しみと笑いを織り交ぜながら、そうして八田四郎は気を失った。

「きょうのやつは簡単だったな」

係員はそう言うと、地下へ続くダストシュートへと八田次郎を放り入れた。



(なんなんだ、だんだん一貫したストーリーになってきてるぞ)