河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

振り向けば長崎

2016年02月17日 | ZIZY STARDUST
「俺は誰なんだ、これからどこへ行こうとしてるんだ
なぜ、宇宙の始まりの無が自分の中に存在してるんだ」

「そうだ、大学病院でホルマリン漬け標本になるんだった」

浜口町から長崎大学病院までの60段の年輪のような石段を昇りながら、俺は考えた。

人生に善悪も成功失敗も金持ちも貧乏も無い。

その人生に満足できたかどうかだ。

最後に、きれいなホルマリン標本になれるかどうかなのだ。

納得できたかどうかなのだ。

その事を、八田二郎自身は、

「N得人生」と名付けてみた。

「N徳人生」のほうが人徳が感じられて良いかもしれない。


振り向けば長崎、浦上天主堂が夕陽を受けて赤く輝き、

港のあたりで出会った女達はいつものような胸騒ぎ、

始めチョロンギ、中カッパ、カモメ鳴いても蓋取るな、

稲佐山のロープウェー乗り場も改修されて、

葉加瀬太郎のテーマソングも寂しく響く、夜景がにじむ白内障だった。


「そうだ、ガンジス川行こう」

八田二郎は遠く南シナ海に向けてつぶやいた。


八田家は途方に暮れる

2016年02月17日 | ZIZY STARDUST
「ただいまー」

「七郎、どうしたの、血だらけじゃないの」

「は、墓場で、とお、しょお、小学生の群れに襲われたんだよ。
大丈夫だよ。たいしたことないから」

「何言ってるのよ、片目と片手が無くなってるじゃないの
さあ、早く、そのギターをきれいに拭いて、楽器屋に売ってきなさい
もっと大変な事になったのよ」

「えーっつ、僕のケガより大変な事が・・・」

「おとうさんのアンドロイド遺族年金が打ち切りになったのよ。
夢の年金生活は、もう、泡と消えたのよ。
つまり、おとうさんは人間だったってわけ。
今日、ジェームス山のホームセンターに行ったら、
『ウルヴァリンのすべて』っていうイベントをやってて、
骨格標本が展示してあったのよ。それが、猫背で足が短いところとか、
体形がうちのおとうさんにそっくりだったのよ。
それで調べてもらったら、その骨は普通の人間のもので、しかも、
うちのおとうちゃんの骨だったのよ」

「えーっつ、じゃあ、このアンドロイドの目玉は誰なんだ」

「七郎、何をわけわからないことを言ってるの
もう、ビートルズになる夢は捨てて、富岡製糸工場で働きなさい
これからは富国強兵の時代なのよ」


富国強兵の時代には音楽などの芸術は不要とされるのだった。
時代の波にほんろうされ続けた八田一家は途方に暮れていた。
時は2300年の春。時代は大きく移り変わろうとしていた。