河童アオミドロの断捨離世界図鑑

ザスドラス博士の弟子の河童アオミドロの格安貧困魂救済ブログ。

小豆島への旅 復活編

2016年02月21日 | ZIZY STARDUST
「七郎ちゃん、大丈夫だったの」

「かあさんこそ、無事で良かったよ」

「富岡製糸工場もかあさんのパソコン工場も山の上だったから助かったんだね
今度の大地震で日本中が海になってしまったね。
そういえば、二郎おじいちゃんと八郎はどうなったんだろうね」

「安心しなさい。二郎おじいちゃんは戦争を生き抜いてきた人ですから、きっと大丈夫ですよ。
二郎おじいちゃんは長崎の原爆を口でくわえて被害を最小限に抑えた人です。
だから口がカッパになってしまった。そういう理由があったのです。
八郎はもともと存在感が希薄な子だから、きっと、無視しても大丈夫ですよ」

はるか西の空を見ると、黒い雲のようなものが、こちらに向かって来るのが見えた。

「かあさん、あれ、何だろう、渡り鳥の群れかな
いや、違う、小さな虫だ、家に居た、キノコバエの家族達だよ」

キノコバエたちは上空で静止した。
一匹一匹が微妙に位置を変え何かの模様を作りだした。

「なんだろう、わ、わかったよ、QRコードだよ。
僕はこの目のおかげでQRコードが読めるんだよ」

「七郎ちゃん、あれは何て書いてあるの」

「UTF-8の文字コードで『Kホに注意』て書いてあるな。
何のことだろうね」


キノコバエたちは力を合わせて口にオリーブの枝をくわえていた。
それは、ハエたちが来た方向にまだ陸地があるという証拠だったのだ。

「そうだ、小豆島行こう」

八田七郎は唐突に思いついた。

振り向けば長崎 完結編

2016年02月21日 | ZIZY STARDUST
「八田二郎さん、こんにちは、どうされましたか、
紹介状を読まなくてもわかりますよ。
その頭のてっぺんのカッパの皿をはずしたいのですね」

「い、いや、これは自分の頭皮です。髪の毛が円形型に無いだけです。
先生、私はこの、カッパの口をなんとかして治したいのです」

「ほう、いまどき珍しい人ですね。
芸能界じゃあ、アヒル口とかカッパ口の女性タレントは大人気ですよ。
桐谷美玲とか大ブレイクじゃないですか」

「俺は女性タレントじゃないし、口だけがカッパだったとしても、
何の人気にも、収入増にもつながらないんだよ。
物事にはバランスってものが必要なんだ。
世間知らずの大学の先生には何もわかっちゃいないんだな」

「あのー、八田さん、ここは実験室じゃなくて、
実験室までの構内送迎バスの待合室だよ。
俺たちはバスの運転手だし」

「まぎらわしいじゃないか、
なんでバスの運転手がみんな白衣を着てるんだ」

「時々、実験の助手とかやるんでね、
今日は大型動物のホルマリン標本を作るらしいので、
それも手伝わないといけないからね」

「バスってことは、実験室までは遠いんですか、
ていうか、実験じゃなくて、俺は治療に来たんですけど」

「ああ、浦上天主堂の地下にあるから、けっこう遠いね。
ついでに教えてやろう。封筒に書いてある『Kホ』という記号は
『国民健康保険』のことじゃなくて『カッパ捕獲』だ」


「それーーっ、こいつを取り押さえて、麻酔を打て。
早く実験室まではこぶんだーー、みんな急げーー」


部屋に居た白衣の運転手たちが一斉に俺にとびかかってきた。

おれは尻にキシロカインを注入されて、あっと言う間に気を失なった。

薄れゆく意識の底で、振り返ると窓越しに春の稲佐山が見えた。

なんだか、景色がひどく揺れているようにも見えた。


「なんだー、この揺れは、大地震だー。みんな逃げろー」


ほとんど意識の無くなった八田二郎の目には、世界中が海に沈んでいく幻覚が見えた。

俺や世界が今、海の底に沈んだとしても、また何億年かすれば、

この宇宙には次の八田二郎が現れて、また何かやらかすに違いない。

そう思うと、八田二郎の魂はやっと救われる気がした。


振り向けば長崎。今、全世界は消えかけているけれど、

それでも残った何本かの桜には、

また、たくさんの花が咲くに違いない。


真っ暗になった八田二郎の視界には、ただ、淡い桜の香りだけが漂っていた。