私にとって
夏は 戦争の季節
あの夏の夜 アメリカ海軍の艦砲射撃を受けた
梅雨明け間近かの
昭和二十年七月十七日の深夜だった
ピカッ! 閃光が走った
学校のすべての窓ガラスが 閃光に脅えて鳴った
ビリビリッ! ビリビリッ!
続けて ドッカーンと大砲の音
「これは爆撃ではねえ!艦砲射撃だ!」
誰かが叫んだ
「山へ逃げろ!」
土砂降りの雨の中 私たちは走った
母は 弟の手を引いた
私は 妹を抱っこした
ひたすら 走った
閃光の明かりを頼りに ひたすら走った
走った 走った 走った
行く先は 山のトンネル
多くの人々が すでに逃げ込んでいた
どこかで 子供が泣いた
「泣かすなー!」
大人が怒鳴った
蚊帳を身にまとった男が 震えていた
誰も笑わなかった
みんなから 笑う気力が失せていた
次の朝 少しだけ事態が分かった
被害を受けたのは 日立市の軍需工場だった
その二日後 私たちの町は 焼夷弾爆撃を受けた
町の大方が 燃えてしまった
私にとって 夏は 戦争の季節
国民学校五年生の夏だった
別館として、写真俳句ブログの「ひよどり草紙」を開いてます。
ご覧いただけると嬉しいです。
→ こちら