ゆめ未来     

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「あなたを愛してから」  口を動かした----愛・し・てる。

2018年09月24日 | もう一冊読んでみた
あなたを愛してから/デニス・ルへイン  2018.9.24

 レイチェルにわかるのは、母親が不幸な女性で、したがって自分も不幸な子供だということだけだった。

本書は、主人公レイチェル・チャイルズの半生を描いたミステリです。
愛すことの出来ない母親、心から信頼できない人間関係、離婚と結婚、先が見通せない展開。
「このミステリは、どんな結末を迎えるのか?」 そのことが、本書を読み進める原動力になりました。
手が離せませんでした。

 ブライアンは、現状維持か、少なくとも善人には幸福が訪れるということを再確認できる音楽や、映画や、本が好きだった。かといって、考えの甘い人間でもない。青い眼のなかに、二倍の歳の人間の共感と知恵を持っていた。世界の悪い部分も知っているが、意志の力でそれを避けられると信じることを選んだだけだった。
 「きみは勝つ」レイチェルはもう数え切れないほど言われていた。「負けることを拒むことによってね」
 それに対して、彼女は一度ならずこう答えた。「負けるのを拒むことによって、負けることもあるわ」
 けれど、いまはブライアンのそういう一面が必要だった。


 レイチェルはずっとまえに気づいて尊敬し、苛立ちもしたが、ブライアンはとにかく落ちこまなかった。絶望したり、悲観主義を気取ったり、泣き言を言ったりもしない。ブライアンは目的、戦略、打開策の人だった。決して希望を捨てなかった。
 一度イライラしたときに、彼から「なんだってできる」と言われたレイチェルは、言い返した。「いいえ、ブライアン、できないわ。世界の飢餓をなくすことはできない、腕を羽ばたかせて飛ぶこともできない」

 メリッサもまねをして首を傾げた。「わたしはあの人のこと知らないもの」と広げた手を胸に当てて言った。「あなたの花婿はたしかにハンサムで、魅力的で、おもしろくて知的だけど、彼が立ち去ったあとかならず、結局何も話してないじゃないって思うのよ」

 「ぼくがきみに恋したのは、死ぬときに見ていたい顔を持つ女性に出会ったときには、恋に落ちるものだからだ。人は恋に落ち、落ち続ける。もし本当に運がよければ、相手もいっしょに落ちて、もといた場所にはぜったい戻らない。なぜなら、もといた場所がすばらしければ、最初から落ちる必要なんてないから。でも、ぼくが恋に落ちたときには、一気に落ちた。......神様は本当にいる、と一瞬思わされた。きみは去り、ぼくは通りに飛び出してきみを探した」

 改めて彼を失ったのだと感じた。以前そんな気がしたように、人生とは離ればなれになることのくり返しではないかと感じた。登場人物が舞台に出てきて、何人かはほかの人より長くそこにとどまるが、結局みな退場する。

 いつの日か、何かの理由で彼のことを憶えている人間も、みな地上からいなくなる。

 怪物よ、と母親が話してくれたことがあった。レイチェル自身も長年の人生で学んでいた。怪物は怪物らしい服を着ない。人間のような格好をしている。さらに奇妙なことに、彼らが自分は怪物だと気づくことはめったにない、と。

 辛抱強さを示してやるべきときに、すぐ怒ってばかりだし、はっきり言いすぎてしまう。かわいそうに、娘は無愛想な還元主義者といっしょに育ってしまった。しかも父親はいない。それがあの子の中心に穴を作ってしまった。

 「“バーテンダー以外の何か”なんて訊く人は、なりたいものになれる人だけよ。残りのあたしたちはただのアメリカ人」

 「男というのは、自分語りの物語でできているんだけど、その大半は嘘なの。あまりまじめに取り合っちゃいけない。嘘を暴けば、彼だけじゃなくてあなたも恥をかく。たわ言を受け止めて生きていくのがいちばんよ」

 「男を骨の髄までしゃぶる。善良な男を。おまえは疫病神だ」

ここまでの文章を読むと “恋愛小説?” と思われるでしょう。
でも、ご安心下さい。面白いミステリです。
作者は、デニス・ルへインですから。

 『 あなたを愛してから/デニス・ルへイン/加賀山卓朗訳/ハヤカワ・ミステリ

コメント
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