ゆめ未来     

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悪魔はいつもそこに/ドナルド・レイ・ポロック

2023年06月12日 | もう一冊読んでみた
悪魔はいつもそこに 2023.6.12

悪魔はいつもそこに 』を読みました。

狂信と暴力のノワール。
登場人物は、ほとんどが悪人ばかり。
しかも何かの想いに取り憑かれている。
すぐ人を殺し、そして、みんな殺されていく。
悪人説教師ロイが、娘のレノラに最期に会いたいとの思いが切なかった。悪人だとしても。
そのレノラは、自らの命を絶っていた。ロイは、そのことを知らない。



 「週末だけにして、ウィラード。週末だけ」シャーロットはいった。彼女にいわせると、宗教を信じすぎるのは、信じないのと同じくらい悪い。ひょっとすると信じないより悪いかもしれない。でも、夫の性格には中庸というものが欠けていた。

 この四年あまり、カールはヒッチハイカーがいちばんだと確信するようになっていた。しかも、当時はいくらでも路上にいた。カールは妻を“餌”と呼び、サンディーは夫を“狩猟者”と呼び、夫妻はヒッチハイカーを“モデル”と呼んだ。まさにその夜、夫妻は若い下士官をだまし、ミズーリ州ハンニバルのやや北にある湿気と蚊に覆われた森に連れ出し、拷問し、殺した。車に乗せてやるとすぐ、その若者は親切にもジューシーフルーツを夫妻に勧め、奥さんが休みたいならしばらく運転を代わると申し出た。「くそ殊勝な心がけだ」カールがいった。サンディーは夫がときどき使う皮肉を込めた口調に天を仰いだ。路上で見つけた獲物より、自分の方が高級なクズだとでも思っているかのような口調だ。夫がそんな風に振る舞うたびに、高級なクズだとでも思っているかのような口調だ。夫がそんな風に振る舞うたびに、車を停めて、後部席の哀れなまぬけに、手遅れにならないうちに降りなさいといいたくなる。いずれきっとやってやる、と彼女は胸に誓った。ブレーキを踏んで、大物気取りの夫に一、二発、いいのを喰らわせてやる。
 でも、今夜ではない。


 「祈りの木」アーヴィンがいった。蚊の鳴くような声だった。
 「何だって? 祈りの木?」
 アーヴィンはうなずき、父親の遺体を見つめた。「でも、祈りは聞き入れてもらえなかった」


 『 悪魔はいつもそこに/ドナルド・レイ・ポロック/熊谷千寿訳/新潮文庫 』


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