■背中の蜘蛛/誉田哲也 2020.10.26
『背中の蜘蛛』 を読みました。
途中まで、物語の全貌がよくつかめなくて苦労しました。
題名は、「背中の蜘蛛」 なのだが、
目次 第三部は、「蜘蛛の背中」 になっている。
これも不思議。なにか意味があるのか?
この物語の内容が、そのうち分かってくる。
携帯、ネットなど地球上を飛び交うすべての情報の盗聴。それも警視庁総務部情報管理運用第三係が極秘裏に行っている。
公が犯罪を取り締まったり、解決するために自由に利用するのは許され、それを警察のためにと思って私的に活用するのは違法なのか。この情報収集、そもそも違法ではないのか。
警察の正義感も呑み込んでしまいかねない電子技術の進歩の早さとすさまじさ。便利! これを利用して何が悪い。
巻き込まれ、もてあそばれ、悩み苦しむ関係者たち。
殺人事件では、身内が犯人というケースが非常に多い。だが多いからといって、決して慣れるものではない。
親か子を殺す。子が親を殺す。夫が妻を、妻が夫を殺す。祖父か、祖母が、孫が、兄弟、姉妹が身内を殺す。そういう犯人は逆によく喋る。冷静に、かつ遠回しに、一聴するとまるで筋が通っているかのように、自分が犯人ではないことを主張する。
警察官だってそんなものは見たくないし、聞きたくない。
防カメ映像に便り過ぎ、従来の泥臭い、足を使っての捜査に警察は弱くなっている。刑事は弱くなっている。などとは考えたくない。思いたくはない。
だが、本宮にはどうしようもない。
「あたし、どっかいきたい……遠くにいってみたい」
「旅行?」
「じゃなくて、いっちゃうの、ずっと、東京じゃないところに。海の見える町の、食堂みたいなお店で働いてみたい。涼太は……涼太も、連れてってやるか。あいつは、なんだろ……果樹園の手伝いとか、そういう感じかな」
果樹園。なぜ。
「海の見える町なら、男は漁師の見習いとか、バイトするにしたって、漁協とかだろ、普通」
「駄目。涼太、乗り物酔いすごいし、生きてる魚は触れないし、力仕事も向いてないと思う。昔は、ゲームのプログラマーとか、カメラマンになりたいとか言ってたけど、もうね……今からじゃゲームオタクにもなれないでしょ」
港町の食堂で「いらっしゃいませ」と声を張り上げる、エプロン姿の幹子。店の前のベンチに座り、ときおり思い出したように、カメラを構える涼太。レンズを向けるのは海だ。被写体は船か、カモメか、弧を描く海岸線か。
悪くない。ぜひとも、そうしてもらいたい。
涼太はもしかしたら怖いのかもしれない。
安藤光雄という庇護者の下でしか生きたことのない涼太は、それ以外の世界を見ることが、怖くて堪らないのかもしれない。
確かに、この世界は歪んでいる。どうしようもなく汚れ、荒み、壊れかけている。
でも、それを「捨てたもんじゃない」と俺に教えてくれたのは、お前なんだよ、涼太。
今度は俺が、お前に、人生を諦めるのはまだ早いってことを、教えてやりたいんだ。
駄目かな。俺の言ってること、間違ってるかな。
なあ、明与。
「馬鹿だな、お前……人の秘密を暴く側の人間か秘密を持ったら、その時点で負けなんだよ。秘密も機密も、漏れたらただの弱味だ。秘密なんてもんは、持たないに越したことはないんだよ」
正しさが強さの一つであることは認める。だかそれだけで社会か守れるのか。本当に守りきれるのか。
海のみえる食堂で声を張り上げるエプロン姿の幹子、カモメにカメラを向ける涼太、田辺の話が切ない。 こんな世でも、捨てたもんじゃないと.......
オサムちゃん ごめん 海 行けなくなった
『 背中の蜘蛛/誉田哲也/双葉社 』
『背中の蜘蛛』 を読みました。
途中まで、物語の全貌がよくつかめなくて苦労しました。
題名は、「背中の蜘蛛」 なのだが、
目次 第三部は、「蜘蛛の背中」 になっている。
これも不思議。なにか意味があるのか?
この物語の内容が、そのうち分かってくる。
携帯、ネットなど地球上を飛び交うすべての情報の盗聴。それも警視庁総務部情報管理運用第三係が極秘裏に行っている。
公が犯罪を取り締まったり、解決するために自由に利用するのは許され、それを警察のためにと思って私的に活用するのは違法なのか。この情報収集、そもそも違法ではないのか。
警察の正義感も呑み込んでしまいかねない電子技術の進歩の早さとすさまじさ。便利! これを利用して何が悪い。
巻き込まれ、もてあそばれ、悩み苦しむ関係者たち。
殺人事件では、身内が犯人というケースが非常に多い。だが多いからといって、決して慣れるものではない。
親か子を殺す。子が親を殺す。夫が妻を、妻が夫を殺す。祖父か、祖母が、孫が、兄弟、姉妹が身内を殺す。そういう犯人は逆によく喋る。冷静に、かつ遠回しに、一聴するとまるで筋が通っているかのように、自分が犯人ではないことを主張する。
警察官だってそんなものは見たくないし、聞きたくない。
防カメ映像に便り過ぎ、従来の泥臭い、足を使っての捜査に警察は弱くなっている。刑事は弱くなっている。などとは考えたくない。思いたくはない。
だが、本宮にはどうしようもない。
「あたし、どっかいきたい……遠くにいってみたい」
「旅行?」
「じゃなくて、いっちゃうの、ずっと、東京じゃないところに。海の見える町の、食堂みたいなお店で働いてみたい。涼太は……涼太も、連れてってやるか。あいつは、なんだろ……果樹園の手伝いとか、そういう感じかな」
果樹園。なぜ。
「海の見える町なら、男は漁師の見習いとか、バイトするにしたって、漁協とかだろ、普通」
「駄目。涼太、乗り物酔いすごいし、生きてる魚は触れないし、力仕事も向いてないと思う。昔は、ゲームのプログラマーとか、カメラマンになりたいとか言ってたけど、もうね……今からじゃゲームオタクにもなれないでしょ」
港町の食堂で「いらっしゃいませ」と声を張り上げる、エプロン姿の幹子。店の前のベンチに座り、ときおり思い出したように、カメラを構える涼太。レンズを向けるのは海だ。被写体は船か、カモメか、弧を描く海岸線か。
悪くない。ぜひとも、そうしてもらいたい。
涼太はもしかしたら怖いのかもしれない。
安藤光雄という庇護者の下でしか生きたことのない涼太は、それ以外の世界を見ることが、怖くて堪らないのかもしれない。
確かに、この世界は歪んでいる。どうしようもなく汚れ、荒み、壊れかけている。
でも、それを「捨てたもんじゃない」と俺に教えてくれたのは、お前なんだよ、涼太。
今度は俺が、お前に、人生を諦めるのはまだ早いってことを、教えてやりたいんだ。
駄目かな。俺の言ってること、間違ってるかな。
なあ、明与。
「馬鹿だな、お前……人の秘密を暴く側の人間か秘密を持ったら、その時点で負けなんだよ。秘密も機密も、漏れたらただの弱味だ。秘密なんてもんは、持たないに越したことはないんだよ」
正しさが強さの一つであることは認める。だかそれだけで社会か守れるのか。本当に守りきれるのか。
海のみえる食堂で声を張り上げるエプロン姿の幹子、カモメにカメラを向ける涼太、田辺の話が切ない。 こんな世でも、捨てたもんじゃないと.......
オサムちゃん ごめん 海 行けなくなった
『 背中の蜘蛛/誉田哲也/双葉社 』
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