ゆめ未来     

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「微笑む人」 事故なら天罰、殺されたのなら自業自得

2018年06月04日 | もう一冊読んでみた
微笑む人/貫井徳郎  2018.6.4=その2 

物語の内容は、以下のHPをご覧下さい。

      実業之日本社

連続殺人事件の疑いがあるのではないかと、作家である主人公が関係者に尋ね歩くという内容で、そう派手なストーリーのミステリではない。
ただ、「第二章 疑惑」の梶原啓二郎など、実際に自分の職場でもよく目にする意気好かない人物が出てくる。
どこにでもこんな人物がいるのだとなあとしみじみ思ってしまう。
学生時代の梶原と彼を支えた女性の話などは、酒場で酒を飲みながら問わず語りに聞く噂話のように面白かった。

 それならそこで別れちゃえばいいのにとあたしなんかは思うんですが、A子さんはそう考えなかったんですね。梶原さんのために自分がなんとかしなくちゃと、そういう発想をする人だったんです。どうしたかと言えば、また夜の生活に逆戻りですよ。昼はOL、夜はキャバクラ嬢という二重生活で、学生の梶原さんを支えたんですって。尽くす女は男からすると理想でしょうけど、女のあたしが聞くともどかしくて腹が立ちますよ。男に言いなりの女って、たまにいるんですよね。そういう女の人に限って頭がよかったりするから、不思議なんですけど。

 稼いだお金は梶原さんのために使って、就職を機に辞めたのにやっぱりお金が足りないとまた夜の世界に戻られせおいて、自分が社会人になったらもう用済みなんて、ひどすぎるじゃないですか。あまり腹が立って、目の前がくらくらしそうですよ。ホントに信じられない。
 こんな男はろくな死に方をしないと、正直思いましたね。だから実際、湖で白骨になってたと聞いて、罰が当たったんだとみんな言いましたよ。事故だか殺されたんだか知りませんけど、事故なら天罰、殺されたのなら自業自得でしょう。誰が殺したのかはともかく、
殺した側にあたしは同情しますね。きっと、もっともな理由があったんですよ。


 でね、悟ったんです。馬鹿にされたくなければ、他人を馬鹿にするくらいの人間にならなくちゃ駄目なんだ、って。舐めるか舐められるか、ふたつにひとつなんですよ、世の中は。女だったら、綺麗に生まれついてりゃ他人を馬鹿にできるんです。でも年を取ってだんだん相手にしてくれる男のレベルが落ちてくると、もっと若い女から馬鹿にされちゃうんです。おばさんのくせに派手な格好をしてるとか、男出入りの激しい中年はみっともないとか。悔しいでしょ。

 みんなで寄ってたかって悪口言うんだから、さぞや無念でしょうねぇ。あたしが代わりに言い返してやらなきゃ、成仏もできないじゃないですか。あたしはね、あの子のたったひとりの味方なんですよ。誰がなんと言ったって、あたしにとってあの子はいい子だったんです……。

「第5章 真実」は、証言が真実なのかそうでないのか、虚言癖の女性を絡ませるなど取材の虚々実々の駆け引きめいたところなど、興味をそそります。
ぼくは、この章が一番面白かった。

      『 微笑む人/貫井徳郎/実業之日本社 』



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