■コードネーム・ヴェリティ/エリザベス・ウェイン 2018.6.4=その1
2018年版 このミステリーがすごい!
海外篇 第11位 コードネーム・ヴェリティ
スパイとしてナチスに尋問されるイギリス人女性が情報として綴った手記に秘められた謎!
この小説は、
第1部 ヴェリティ p11~p289
第2部 キティホーク p292~p457
の2部構成になっていますが、第1部で謎を追っても分かり難い。
少なくとも、ぼくは分からなかった。
筋を追ってもどこに行き着くのか見通しが立たず、そのことにこだわると面白くない。多分途中で投げ出してしまうのではないかと思われます。
我慢して、続けて、やっと2部では少しは分かりやすくなったと感じました。
読んで思ったことは、「自分のしていることが、歴史の片隅のどの部分に貢献しているのか分からない割には、払わされる犠牲が大きすぎないか。」ということでした。
自分も係わった人々にも、何と大きな悲しみと犠牲を強いることになるのだろうか。ということ。
この小説は、筋を追うのではなく、場面、場面を楽しまないと先に進めない。
彼が立ち去るとき、私は声をかけた。「ジュ・ヴ・スエットゥ・ユヌ・ボンヌ・ニュイ」----「よい夜をすごされますように」と。彼がよい夜をすごすことを願ってのことではない。
ヴェルコール作『海の沈黙』----フランス人の果敢な抵抗を描いた、レジスタンス精神あふれる文学----なかで、ドイツ人将校が宿の主人である断固とした消極的抵抗をするフランス人に毎晩かける言葉だからだ。
ヴェルコール作 『海の沈黙』 は、岩波から出ています。
若い頃、読んで感動しました。 懐かしい思い出です。
「海の沈黙」は、この小説の数カ所で言及されています。
これ以外にも文学、芸術に触れるなど、なかなか教養豊かな作品なのです。
アマデウス・フォン・リンデン……ナチスの親衛隊大尉
豊かな教養と残忍な仕事に手を染めることの人間性の矛盾。
(それはワーグナーが書いた、死にゆくトリスタンの歌曲のひとつだ。すべてをはっきりとは覚えていないけれど)
彼の声は明るい鼻にかかったテノールで、とつも美しかった。叩かれるよりもずっと辛かった。彼の人生の皮肉を見せられるのは。そして、わたしの人生、わたしの人生の。そう、わたしの人生の。
彼はヴェルコールの小説を読んでいる----フランスのレジスタンス文学を、わたしの薦めにしたがって! なぜそんな----?
彼はそのことで厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。わたしは当惑した。それは彼も同じだろう。
ヒトラーのこんな一面を今まで、ぼくは知らなかった。
彼女は仕事中に煙草を吸うことが許されていない。明らかにアドルフ・ヒトラーは煙草を敵対視していて、堕落した忌まわしいものと考えており、自分の軍警察や部下たちが勤務中に煙草を吸うのを禁じている。これがかなり厳格に実行されているとは思わないが、ここはアマデウス・フォン・リンデンみたいなとんでもないやかまし屋が指揮をとっているから別だ。実のところ、フォン・リンデンは間違っている。敵の諜報員から情報を引きだすのが仕事なら、火のついた煙草は格好の小道具になるのだから。
戦争の忌まわしさ、拷問のまがまがしさを見事に表現した文章です。
少し長くなりますが、引用しました。
ホテル用家具のぼんやりした輪郭----スチールの椅子やテーブルやキャビネット----ぐらいで、いかにもまがまがしいものは何もなかった。それにしても、ああ、あれほどむかつく不快きわまる悪臭は、かいだことがない。トイレそっくりだけど、それだけじゃなくて、アンモニアや、腐った肉や、焼けた髪や、へどや----ダメ。とても言い表せない。書いてると、また吐きそうになってしまう。そのにおいのなかでジェリーが七週間もすごさなければならなかったことについて考えたのすら、あとになってからだった。ペンと会う前の彼女を石鹸でごしごし洗ったのも、うなずける。とにかく、あたしたちは窒息しないよう、なるたけ早くそこから出ることしか頭になかった。コートを引っ張りあげて鼻をおおい、ジェリーが監禁されていた部屋のドアをこじあけ、そこに閉じこめられてた戸惑う捕虜を引きずるようにして、ひどい部屋を通り抜け、廊下へ出た。
戦争のなかで、人は何を見るのか。
わたしは眠れなくても、ひもじくても、長いあいだ背中をまっすぐにさせられていても、ショーツ姿でさえなければ、かまわなかった。ショーツはかなりくさかったし、ときどきは濡れてしまったし、そんな格好でいるのは、とにかく恥ずかしい。フランネルのスカートとウールのセータが与えてくれる温かさと威厳は、いまのわたしにとって愛国心や誠意よりもはるかに価値がある。
夢のなかで、わたしは捕まった当初に戻り、また拷問を受けていた。彼らがほかのだれかにする行為を見なければならないことの副作用だ。彼らからどんなことをされるか予期すると、それが現実に起ころうとしているときと同じように、夢のなかでも実際に胸がむかむかする。
「きみが知らないわたしたちのことが何かあるかな、キティホーク? わたしたちはきみの秘密を守り、きみはわたしたちの秘密を守る。<不注意な会話は命を奪う>だよ」
この物語の随所で、”夜と霧”が言及されています。
いま、彼は知っている。
ナハト・ウント・ネーベル、”夜と霧”。エヴ・ザイラーは地獄で焼かれるだろう。
夜と霧/wikipedia
親友ができるのは、恋に落ちることと似ている。
『 コードネーム・ヴェリティ/エリザベス・ウェイン
/吉澤康子訳/創元推理文庫』
2018年版 このミステリーがすごい!
海外篇 第11位 コードネーム・ヴェリティ
スパイとしてナチスに尋問されるイギリス人女性が情報として綴った手記に秘められた謎!
この小説は、
第1部 ヴェリティ p11~p289
第2部 キティホーク p292~p457
の2部構成になっていますが、第1部で謎を追っても分かり難い。
少なくとも、ぼくは分からなかった。
筋を追ってもどこに行き着くのか見通しが立たず、そのことにこだわると面白くない。多分途中で投げ出してしまうのではないかと思われます。
我慢して、続けて、やっと2部では少しは分かりやすくなったと感じました。
読んで思ったことは、「自分のしていることが、歴史の片隅のどの部分に貢献しているのか分からない割には、払わされる犠牲が大きすぎないか。」ということでした。
自分も係わった人々にも、何と大きな悲しみと犠牲を強いることになるのだろうか。ということ。
この小説は、筋を追うのではなく、場面、場面を楽しまないと先に進めない。
彼が立ち去るとき、私は声をかけた。「ジュ・ヴ・スエットゥ・ユヌ・ボンヌ・ニュイ」----「よい夜をすごされますように」と。彼がよい夜をすごすことを願ってのことではない。
ヴェルコール作『海の沈黙』----フランス人の果敢な抵抗を描いた、レジスタンス精神あふれる文学----なかで、ドイツ人将校が宿の主人である断固とした消極的抵抗をするフランス人に毎晩かける言葉だからだ。
ヴェルコール作 『海の沈黙』 は、岩波から出ています。
若い頃、読んで感動しました。 懐かしい思い出です。
「海の沈黙」は、この小説の数カ所で言及されています。
これ以外にも文学、芸術に触れるなど、なかなか教養豊かな作品なのです。
アマデウス・フォン・リンデン……ナチスの親衛隊大尉
豊かな教養と残忍な仕事に手を染めることの人間性の矛盾。
(それはワーグナーが書いた、死にゆくトリスタンの歌曲のひとつだ。すべてをはっきりとは覚えていないけれど)
彼の声は明るい鼻にかかったテノールで、とつも美しかった。叩かれるよりもずっと辛かった。彼の人生の皮肉を見せられるのは。そして、わたしの人生、わたしの人生の。そう、わたしの人生の。
彼はヴェルコールの小説を読んでいる----フランスのレジスタンス文学を、わたしの薦めにしたがって! なぜそんな----?
彼はそのことで厄介ごとに巻き込まれるかもしれない。わたしは当惑した。それは彼も同じだろう。
ヒトラーのこんな一面を今まで、ぼくは知らなかった。
彼女は仕事中に煙草を吸うことが許されていない。明らかにアドルフ・ヒトラーは煙草を敵対視していて、堕落した忌まわしいものと考えており、自分の軍警察や部下たちが勤務中に煙草を吸うのを禁じている。これがかなり厳格に実行されているとは思わないが、ここはアマデウス・フォン・リンデンみたいなとんでもないやかまし屋が指揮をとっているから別だ。実のところ、フォン・リンデンは間違っている。敵の諜報員から情報を引きだすのが仕事なら、火のついた煙草は格好の小道具になるのだから。
戦争の忌まわしさ、拷問のまがまがしさを見事に表現した文章です。
少し長くなりますが、引用しました。
ホテル用家具のぼんやりした輪郭----スチールの椅子やテーブルやキャビネット----ぐらいで、いかにもまがまがしいものは何もなかった。それにしても、ああ、あれほどむかつく不快きわまる悪臭は、かいだことがない。トイレそっくりだけど、それだけじゃなくて、アンモニアや、腐った肉や、焼けた髪や、へどや----ダメ。とても言い表せない。書いてると、また吐きそうになってしまう。そのにおいのなかでジェリーが七週間もすごさなければならなかったことについて考えたのすら、あとになってからだった。ペンと会う前の彼女を石鹸でごしごし洗ったのも、うなずける。とにかく、あたしたちは窒息しないよう、なるたけ早くそこから出ることしか頭になかった。コートを引っ張りあげて鼻をおおい、ジェリーが監禁されていた部屋のドアをこじあけ、そこに閉じこめられてた戸惑う捕虜を引きずるようにして、ひどい部屋を通り抜け、廊下へ出た。
戦争のなかで、人は何を見るのか。
わたしは眠れなくても、ひもじくても、長いあいだ背中をまっすぐにさせられていても、ショーツ姿でさえなければ、かまわなかった。ショーツはかなりくさかったし、ときどきは濡れてしまったし、そんな格好でいるのは、とにかく恥ずかしい。フランネルのスカートとウールのセータが与えてくれる温かさと威厳は、いまのわたしにとって愛国心や誠意よりもはるかに価値がある。
夢のなかで、わたしは捕まった当初に戻り、また拷問を受けていた。彼らがほかのだれかにする行為を見なければならないことの副作用だ。彼らからどんなことをされるか予期すると、それが現実に起ころうとしているときと同じように、夢のなかでも実際に胸がむかむかする。
「きみが知らないわたしたちのことが何かあるかな、キティホーク? わたしたちはきみの秘密を守り、きみはわたしたちの秘密を守る。<不注意な会話は命を奪う>だよ」
この物語の随所で、”夜と霧”が言及されています。
いま、彼は知っている。
ナハト・ウント・ネーベル、”夜と霧”。エヴ・ザイラーは地獄で焼かれるだろう。
夜と霧/wikipedia
親友ができるのは、恋に落ちることと似ている。
『 コードネーム・ヴェリティ/エリザベス・ウェイン
/吉澤康子訳/創元推理文庫』
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