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ポケミス読者よ信ずるなかれ/ダン・マクドーマン

2024年08月12日 | もう一冊読んでみた
ポケミス読者よ信ずるなかれ 240812

ダン・マクドーマンの『ポケミス読者よ信ずるなかれ』を読みました。

ぼくにとっては、「面白いミステリというより、面白いミステリ読本」でした。
面白い挿話が、てんこ盛りに満載です。

「ぼくはつねに最善を尽くしています。いいセリフがあります。“このような卑しい街を、卑しくない男が歩いていかねばならない”」
「なんです、それは」
レイモンド・チャンドラー。私立探偵は高潔な人間でなければならないと言っているんです。もっとも、本人はそのような人物ではなかったけど。ダシール・ハメットはそのような人物だった。考え方も大きくちがっていた。


 先ほどは押しが強すぎたのではないか、余計なことを話しすぎたのではないかと自問自答している。自分が答えられない質問をするのを控える弁護士とちがって、探偵というのはその職業上の特性と必要性からときには推測したり挑発したりしなければならない。マカニスはときおり思う。自分はどんな獣か潜んでいるかわからない巣穴を俸切れで突つく愚かな子供のようなものではないかと。
 あなたは主人公の今朝の自己憐憫ぶりに少し驚いていて、じつのところ彼の二日酔いは肉体的なものであると同時に精神的なものでもあるのではないかと思っている。弱みにつけこみ、信頼を裏切り、秘密をあばきたて、裸で淫らに身悶えする姿を人前にさらすための行為が晴神的な重荷になっているのではないだろうか。さらに言うなら、計算ずくの不貞を働いたことに対しても心穏やかならぬものがあるかもしれない。この時代、死罪に値するようなことではないにせよ、自責の念に駆られることがあったとしても不思議ではない。


アガサ・クリスティーの『秘密ノート』には、殺人事件のさまざまな法医学的解釈が多様な手口とともに俎上に載せられ、その斬新さと有効性が検討されたあと、いくつかは小説のなかで採用され、いくつかは破棄されている。クリスティーはいっとき薬剤師の助手として働いていたことがある。とすれば、毒殺が彼女のお気にいりの手口のひとつになるのはさほど驚くべきことではない。アメリカではFBIが殺人の手口に関する報告書を定期的に作成していて、そこには残虐行為のカタログではないかと思うくらいのおぞましい犯行例か列挙されている(それ以外は、人間に対する憎悪ゆえに創意工夫に満ちた犯罪の数々。クリスティーか直感的に見抜いていたように、毒薬が女性がよく使う殺害の手口であることは、FBIの統計によっても裏づけられている。逆に、女性を殺害する(加害者はたいてい夫か恋人)方法としては絞殺が一般的であることも、同じ統計によってあきらかになっている。これらふたつの客感的事実の相違が示唆しているのは、家庭内でのジェンダーや権限や暴力に関する荒々しい現実であり。男たちが何世紀にもわたって女たちを愛し、憎み、殺してきたドアの後ろの秘密である。
 探偵小説のなかでもっとも詩的な殺人はドロシイ・セイヤーズによってもたらされたといっていいだろう。
鐘の音だけを使って、ひとを殺す方法を見つけだしたのだ。


  『 ポケミス読者よ信ずるなかれ/ダン・マクドーマン/田村義道訳/ハヤカワ・ミステリ 』


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