BELOVED

好きな漫画やBL小説の二次小説を書いています。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。

薔薇と白百合 2

2025年02月01日 | 天上の愛地上の恋×ベルばら クロスオーバー二次創作小説「薔薇と白百合」

表紙素材は、湯弐様からお借りしました。

「ベルサイユのばら」「天上の愛地上の恋」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

「お帰りなさいませ、お嬢様。」
「ただいま。」
馬車から降りたオスカルは、慣れないドレスの裾を摘みながら自室に入ると、そこには彼女の帰りを待っていたアンドレの姿があった。
「お帰り、オスカル。」
「アンドレ、寝ないでわたしの帰りを待っていてくれたのか?」
「あぁ。舞踏会はどうだった?」
「どうもしないさ。それよりもアンドレ、用が無いなら出て行ってくれ。」
「わかった。」
アンドレが自室から去った後、オスカルは溜息を吐きながら、ドレス姿のまま長椅子の上に横たわった。
「オスカル、入るぞ。」
「アンドレ。」
オスカルは、アンドレが様々な菓子が載ったワゴンを押して部屋に入って来るのを見た。
「それは何だ?」
「舞踏会では、あんまり食べられなかったんだろう?だから、こうして菓子を持って来たんだ。」
「そうか、ありがとう。」
オスカルはそう言うと、アンドレが運んで来た菓子のひとつをつまみ、それを口に放り込んだ。
「美味いな。」
「良かった、チョコのマカロン、初めて作ったからオスカルの口に合うかなと思っていたんだが・・気に入ってくれてよかった。」
「ありがとう、アンドレ。もうひとつ、くれないか?」
「あぁ、いいが・・それよりも先に、着替えないのか?コルセット、苦しいんだろう?」
「全く、女の格好は窮屈で動き辛いし、苦しくてかなわん。」
オスカルはそう言った後、結い上げた髪を解いた。
「コルセットを外すのを手伝ってやるよ。そんな窮屈な格好じゃぁ、菓子の味見が出来ないだろう?」
「そうだな、頼む。」
アンドレに鎧のようにきつく己のウェストを締め付けていたコルセットを緩めて貰ったオスカルは、解放感の余り思わず溜息を吐いてしまった。
「もう二度と、こんな物は着ない。」
「オスカル、そんな事を言ったら、ばあちゃんが嘆き悲しむぞ。今夜の舞踏会で、やっとお前にドレスを着せる事が出来たって喜んでたのに・・」
「ばあやには悪いが、わたしはもうドレスは着ない。」
オスカルはそう言った後、マカロンの隣に並べられてあったエクレアを一個摘むと、それをそのまま頬張った。
「うん、美味い。」
「ドレスを汚してばあちゃんに怒られる前に、早く着替えろ。」
「わかった。」
オスカルの部屋から出て行ったアンドレと入れ替わり、部屋に入って来た侍女達に手伝って貰いながら着替えを終えたオスカルは、寝室に入るとそのまま寝台の上に横になって泥のように眠った。
その後、彼女は不思議な夢を見た。
『撃て~!』
夢の中の自分は、軍の指揮官だった。
暫く指揮を執り、攻撃を続けていたが、オスカルは敵軍に撃たれ、その若い命を散らした。
―隊長、バスティーユに白旗が!
誰かがそう叫ぶのを聴いた後、オスカルは夢から覚めた、
頬を伝う涙が枕を濡らしている事に気づいた彼女は、手の甲で乱暴に涙を拭うと、寝癖を手櫛で整えた。
「おはようございます、お嬢様。」
「おはよう、ばあや。アンドレは?」
「アンドレなら、先程買い物に出掛けて、すぐに戻って来ますよ。」
「そうか。」
オスカルがばあやことマロン・グラッセとそんな話をしていると、アンドレが息を切らしながら二人の前に現れた。
「オスカル、ただいまっ!」
「アンドレ、‟オスカル様“とお呼び!」
「どうした、アンドレ?そんなに息を切らして・・」
「いや、さっき買い物の帰りに、途中で寄った店でこんな物を見つけてな、買って来たんだ!」
そう言ってアンドレがオスカル達に見せたものは、大きな箱に入ったケーキだった。
「何だ、これは?」
「昨日、話していたザッハートルテだ。いやぁ、いつも行列が出来ている店で、今日に限って空いていて良かった・・」
「そうか・・」
オスカルはアンドレからケーキが入った箱を受け取り、その蓋を開けると、美味しそうなチョコレートケーキが入っていた。
「まぁ、美味しそうなケーキ!さっそく頂きましょう!」
マロン・グラッセはダイニングテーブルの中央にケーキの箱を置くと、いそいそとした様子で厨房へと消えていった。
「頂きます。」
オスカルは、皿に載せられたザッハートルテをフォークで一口大に切り、それを頬張った。
「どうだ?」
「しっとりとした味わいでいい、気に入った。お前が作ったガトー・オー・ショコラには負けるがな。」
「お前が喜んでくれて良かったよ、オスカル。」
アンドレがオスカルに笑顔を浮かべた時、ジャルジュ邸の前に、一台の馬車が停まった。
「どうしたのかしらねぇ、こんな朝早くに。」
「さぁ・・」
ダイニングテーブルでオスカルがアンドレとザッハートルテを食べていると、そこに突然、オスカルの父・ジャルジュ伯爵が現れた。
「オスカル、早く支度しろ!」
「何事ですか、父上?」
「ルドルフ皇太子様がお前に会いたいとおっしゃっている、早くわたしとホーフブルク宮殿へ向かうぞ!」
「わかりました、すぐに参ります。」
オスカルはダイニングルームから出て自室に戻り、身支度を済ませると、ジャルジュ伯爵と共に、ハプスブルク家からの迎えの馬車に乗り、ホーフブルク宮殿へと向かった。
(一体、ルドルフ皇太子様がわたしに何の用だろう?)
一方、ホーフブルク宮殿内にあるスイス宮では、ルドルフが寝台の中で黒髪の天使、アルフレートと睦み合っていた。
「ルドルフ様、もうわたしは行きませんと・・」
「まだ大丈夫だ。」
「ですが・・」
「ルドルフ、開けろ!」
ドンドンという乱暴なノックの音が扉の向こうで聞こえ、アルフレートに口づけしようとしたルドルフは舌打ちをして彼から離れた。
「何だ、大公?朝からうるさいぞ。」
「ルドルフ、早く支度しろ、客人が間もなくホーフブルクに来るぞ!」
「客人?」
「お前、とぼけるのもいい加減にしろ!その格好はなんだ、さっさと着替えろ!」
「あぁ、わかった・・」
ルドルフはそう言った後、寝台の中で自分を見つめているアルフレートの額にキスをすると、寝室から出た。
身支度を済ませ、ルドルフがスイス宮の廊下をヨハン=サルヴァトールと歩いていると、一台の馬車がスイス門の前に停まり、中から一人の正装姿の‟男性“が降りて来た。
光り輝く金色の髪をなびかせ、堂々とした足取りでルドルフ達の方へと向かって来た‟彼“は、夏の蒼穹をそのまま写し取ったかのような美しい蒼の瞳で二人を見た。
「本日はお招き頂き、ありがとうございます、皇太子様。わたしは、レニエ=ド=ジャルジェ、そしてこちらは我が末娘、オスカルでございます。」
「お初にお目にかかります、皇太子殿下、サルヴァトール大公様。」
オスカルがそう言って俯いた顔を上げると、そこには長身の貴公子の姿があった。
―オスカル・・
何処からか、‟彼女“の声が聞こえて来たような気がしてオスカルは周囲を見渡したが、そこには誰も居なかった。
(気のせいか・・)
「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。」
オスカルは我に返り、ルドルフの顔を見た。
すると、彼女は‟ある事“に気づいた。
ルドルフの何処かに、‟彼女“―マリー=アントワネットの面影を感じられるのだ。
「さてと、ここで立ち話もなんですから、お茶でも飲みながら話しましょう。」
「はい。」
「では、こちらへ。」
ルドルフ達と共にスイス宮の中へと入ったオスカルは、丁度階段から降りて来た一人の青年司祭と目が合った。
美しい闇夜のような艶やかな黒髪を揺らした彼は、翠の瞳でオスカルを見つめた。
(まるで、神がこの地に遣わした天使のような美しい人だ・・)
「オスカル殿、紹介致します。わたしの友人の、アルフレート=フェリックスです。」
「アルフレート=フェリックスです。」
「オスカル=フランソワ=ジャルジェだ、よろしく。」

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薔薇と白百合 1

2025年01月06日 | 天上の愛地上の恋×ベルばら クロスオーバー二次創作小説「薔薇と白百合」

表紙素材は、湯弐様からお借りしました。

「ベルサイユのばら」「天上の愛地上の恋」二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

1878年、ウィーン。

この日、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子・ルドルフの成人を祝う皇帝主催の舞踏会がホーフブルク宮殿で開かれていた。
だが、その主役のルドルフは、少し浮かない顔をしていた。
というのも、この舞踏会の目的が、自分の“花嫁探し”だという事に彼は気づいたからだった。
成人してから、ルドルフは周囲から結婚を催促される事が多くなったなと感じ始めていた。
ルドルフは現在19歳、結婚適齢期といっても過言ではない。
ルドルフ本人はまだ結婚などしたくないと思っているのだが、彼はオーストリア=ハンガリー帝国の、唯一の後継者なので、‟帝国の跡継ぎ“を儲ける義務があった。
さっさと舞踏会を抜け出して、愛しい天使の元へと向かおうとルドルフがそんな事を思った時、突然大広間の入口付近が急にざわつき始めた。
「まぁ・・」
「素敵な方ね。」
ルドルフが何事かと入口の方を見ると、そこには一人の女性の姿があった。
首にダイヤモンドを鏤めたチョーカーをつけ、白いドレスを纏った金髪碧眼の女性が、異国風の扇子で顔を扇ぎながら、人気のないバルコニーへと向かってゆくのを、ルドルフは見た。

(暑いな・・それに、人が多過ぎる。)

オスカル=フランソワ=ジャルジュは、人と熱気で溢れたホーフブルク宮殿の大広間をそう思いながら見渡した後、人気のないバルコニーへと移動した。
夜の冷気が自分の頬を心地良く撫でるのを感じた彼女は、暫くそこで休む事にした。
フランスの大貴族の末子として生を享け、女でありながら軍人としてその名を馳せて来たオスカルだったが、5年前にナポレオン3世が崩御し、それに伴いオスカルが所属していた軍隊は解散し、彼女達家族はパリからウィーンへ移住し、日々新たな生き方を模索していた。
そんな中、オスカルは父から一通の招待状を手渡された。
「父上、これは?」
「舞踏会の招待状だ。皇太子様の成人祝うの舞踏会に招待されるのは光栄な事なのだから、必ず出席するように。」
「はい、わかりました・・」
そう言ったオスカルだったが、余り舞踏会に行くのは乗り気ではなかった。
しかし、オスカルの姉達や乳母は朝から何故か張り切り、ドレスの採寸や試着を何度もさせられ、舞踏会が始まる前にオスカルは不機嫌になっていた。
「オスカル、いい加減機嫌を直してくれないか?ばあやが困っているぞ。」
「コルセットでウェストを締め付けられて、ニコニコと笑えるか。」
自室の長椅子の上に座ったオスカルは、そう言って幼馴染であり恋人のアンドレを睨んだ。
「まぁそう言うな。舞踏会が終わったら、ザッハートルテをたらふく食わせてやる。」
「ザッハートルテ?何だそれは?」
「ウィーンっ子が夢中になっている、ガトー・オー・ショコラのようなものだ。」
「そうか、楽しみだな・・」
オスカルはそう言うと、笑った。
そして現在、彼女はホールブルク宮殿で注目を集めていた。
(さてと、そろそろ戻るか・・)
オスカルがバルコニーから大広間へと戻ろうとした時、丁度楽団がワルツを奏で始めたので、彼女は入口まで戻れなくなってしまった。
(困ったな・・)
『麗しの方、どうぞわたしとダンスを踊って頂けませんか?』
困っているオスカルの前に現れたのは、金褐色の髪をなびかせた軍服姿の青年だった。
『はい。』
―まぁ、お似合いのお二人ね。
―皇太子様と踊っていらっしゃるのはどなたなのかしら?
―素敵な方ね・・
『助けて下さってありがとう。』
『また、お会いしましょう。』
ホーフブルク宮殿を後にするオスカルの姿が見えなくなるまで、ルドルフは彼女を見送った。
ルドルフはオスカルと別れた後、そのまま大広間には戻らず、ある場所へと向かった。
そこは、彼が心から愛してやまない天使が居る場所だった。

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