表紙素材は、装丁カフェ様からお借りしました。
「バチカン奇跡調査官」「天上の愛地上の恋」二次小説です。
作者様・出版社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。
「皇妃様、皇太子様とフェリックス司祭の事を詳しくお聞かせ願えませんでしょうか?」
「アルフレートは、わたしと同じバイエルン出身なのよ。わたし達がイシュルで避暑を過ごしたとき、ルドルフが突然アルフレートを連れて来たの。ウィーンに連れて来て一緒に暮らしていた頃は余りアルフレートとルドルフは仲が良くなかったようだったけれど、アルフレートがメルクに行った後、毎日ルドルフはあの子からの手紙が届くのを楽しみにしていたわ。」
エリザベートは朗らかな声でそう言うと、紅茶を一口飲んだ。
「わたしは余りウィーンに居ないから、あの二人がどこまでの関係なのかは知らないけれど、まぁ、二人は“そういう関係”なのではないかしら?」
「はぁ・・」
ロベルトはエリザベートの言葉に相槌を打ちながら、隣に座っている平賀の方を見ると、彼は何故か頬を赤く染めていた。
「平賀、どうしたんだい?」
「いいえ、何でもありません。」
「顔が赤いけれど、熱でもあるのかい?」
そう言ってロベルトが平賀の額に手を当てると、そこは少し熱かった。
「平賀、昨夜はちゃんと眠れたのかい?」
「いえ、この前の実験レポートを仕上げた後、ローレンとネットで対戦をしていていつの間にか朝を迎えていました。」
「夜更かしはしたら駄目だとあれ程言ったじゃないか・・申し訳ありませんが皇妃様、彼は熱を出していますので何処かで休ませないと・・」
「まぁ、それだったらアルフレートの隣の部屋を使いなさいな。」
「いえ、そのような事をなさらなくても・・」
エリザベートの言葉を聞いたロベルトは、流石に宮殿内の部屋に泊まる訳にはいかないので、彼女の申し出を固辞しようとした。
だが彼女は勝手にロベルト達が滞在する部屋をアルフレートの隣に用意してしまい、結局二人は暫くそこで滞在することになった。
「すいませんロベルト、わたしの所為です・・」
「君の所為じゃないよ、平賀。今から熱を測るから、じっとしていてね。」
「はい。」
ロベルトが自分の脇の下に体温計を挿し込むために前かがみの姿勢になったのを見た平賀は、何故か胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「やっぱり熱があるね。最近君は無理をし過ぎているから、ゆっくりと休むといい。僕は厨房にでも行って君が食べたい物を作ろうと思うんだが、何が食べたい?」
「何も食べたくありません。」
「そんな事を言わないでくれ。君は僕にどうして欲しいんだい?」
ロベルトは少し困ったような顔をして平賀を見た。
「何処にも行かないでください、ロベルト。わたしの傍に居てください。」
「わかった。」
ロベルトは平賀が眠るまで、彼の手を握った。
ベッドの上で寝息を立てる平賀の黒髪を優しく梳いたロベルトは、部屋から出てアウグスティーナ教会へと向かおうとすると、フェリックス司祭がランプを持って何処かへと向かおうとしている事に気づいた。
彼に気づかれぬよう、ロベルトが彼の後を尾行すると、やがてフェリックス司祭はミヒャエル門をくぐり、スイス宮の中へと入っていった。
(どうしてフェリックス司祭がスイス宮に?)
ロベルトが、フェリックス司祭が消えたスイス宮の中を探ろうとした時、不意に彼は強い視線を窓の方から感じて頭上を見た。
すると、闇の中で美しく煌めく蒼い瞳が、ロベルトを睨みつけるかのようにカーテンの隙間から見つめていた。
その瞳の主は誰でもない、ルドルフ皇太子だ。
ロベルトはスイス宮に背を向け、踵を返した。
「ルドルフ様、どうかなさったのですか?」
「いや、何でもない・・ただ、猫を見つけただけさ。」
「猫、ですか?」
「ああ。癖のある茶色の毛をした、わたしと同じ色の瞳をした猫だ。」