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表紙素材は、mabotofu様様からお借りしました。
「天上の愛地上の恋」二次小説です。
作者様·出版社様とは一切関係ありません。
両性具有·男性妊娠設定あり、苦手な方はご注意ください。
二次創作·BLが苦手な方はご注意ください。
ルドルフがアルフレートと出逢ったのは、幼少期を共に過ごした恋人に去られ、更に親友同然の存在だった愛犬を喪い、自殺未遂をした後療養の為に滞在したトリエステにある港だった。
「皇太子様がどちらにもいらっしゃらないぞ!」
「城内を隈なく捜せ!」
「あぁ、一体どちらに行かれてしまったのか・・」
慌てふためく使用人達がルドルフを捜している頃、当の本人は港で海を眺めていた。
冷たい潮風が時折頬を撫でるのを感じながら、ルドルフは手に巻かれた真新しい包帯を見た。
あの日からまだ何日も経っていなかったが、ルドルフは未だにあの日の事を夢に見てしまう。
「・・っ」
この身を引き裂かれたかのような悲しみを、ルドルフは未だに引き摺っていた。
ルドルフは、まるで死神に手招かれるかのように、水中にその身を投じた。
同じ頃、海の底にある王国では、華やかなパーティーが行われていた。
その中で、黒髪の人魚―アルフレートだけが浮かない顔をしていた。
「どうしたの、アルフレート?」
「ううん、別に・・」
「もしかして、あの人の“予言”の事を気にしているの?」
「そ、そんなんじゃないよ・・」
ローザが言う“あの人”とは、王国の外れにある洞窟に棲んでいる、ベルトルト=バーベンブルクの事だった。
蛸の人魚である彼は、黒魔術や占星術に長けており、その噂を聞きつけた悩める人魚達が彼の元へ来て彼と“契約”をして、自分の願いを叶えているという話を、アルフレートはローザ達から聞き、興味本位で彼の元へと向かった。
「やぁ、アルフレート。漸くわたしの元へ来たね。」
バーベンブルクはそう言ってアルフレートに微笑んだ。
「あの、占いに来て貰いました・・僕の、未来について。」
「わかったよ。」
バーベンブルクは、アルフレートを占った後、彼に向かってこう言った。
「お前はもうすぐ叶わぬ恋をするよ。」
「叶わぬ、恋?相手は、誰なのですか?」
「それは教えない。さぁ、ここへは来ない方がいいよ。」
(僕が叶わぬ恋をするなんて、馬鹿げている。僕は・・)
アルフレートがそんな事を思いながら海の中を泳いでいると、突然派手な水音がして、一人の男が彼の前に“現れた”。
重そうな、それでいて高級そうな黒貂の毛皮に身を包んだ長身の男は、気を失っていた。
“人間に近づいてはいけない”と、幼い頃から大人の人魚達からうるさく言い聞かせられて来たアルフレートだったが、その時は無意識に男を抱き締め、そのまま彼を岸まで運んでいった。
「大丈夫ですか?」
アルフレートがそう言いながら男の頬を叩くと、彼は金褐色の睫毛を微かに震わせて呻いた後、蒼い瞳でアルフレートを見た。
「お前が、わたしを助けてくれたのか?」
「あ、あの・・」
アルフレートは、男の美しい蒼い瞳に吸い込まれそうになった。
「お前、名前は?」
「僕は、アルフレートですけれど・・」
「そうか・・」
アルフレート男は暫く見つめ合っていると、遠くから複数人のものと思われる足音と声がこちらに近づいて来る気配がした。
「わたしは、これで失礼します。」
「待て!」
ルドルフの手を離し、アルフレートは再び海の中へと入った。
ルドルフの掌には、アルフレートが零した涙―真珠が載せられていた。
「ルドルフ様、ご無事でよかったです!」
「誰か、ヴィーダーホーファー博士を呼べ!」
ルドルフを捜していた兵士達と女官達は、彼をミラマーレ城へと連れて行った。
「脈拍には異常はありません。しかし真冬の海水に長時間浸かっていたので、お風邪を召されておいでなので、少し休ませた方が良いでしょう。」
「は、はい・・」
寝室に一人残されたルドルフは、黒髪の人魚が残した真珠を飽きる事なく見つめていた。
「ルドルフ、ロシェクから聞いたが、お前真冬の海に飛び込んだんだってな?」
ヨハン=サルヴァトールが、ルドルフが入水自殺未遂をしたという知らせを受け、ルドルフの元へと向かうと、ルドルフは虚ろな瞳で窓の外に映る空を見ていた。
「大公、わたしは人魚に会った。」
「は?」
「人魚が、わたしの命を救ってくれた・・」
「ルドルフ、お前・・」
“彼”に去られて、ルドルフは気が違ってしまったのだろうか―そんな事をヨハンが思っていると、ルドルフが徐に寝台の近くにある引き出しを開け、その中からある物を取り出してヨハンに見せた。
「これは何だ?」
「人魚からの贈り物だ。」
ヨハンがルドルフの掌に載っている真珠をよく見ると、それは極めて純度が高いものだった。
「大公、この真珠でカフスボタンを作って欲しい。」
「わかった。」
「あの人魚は、“彼”に似ていた・・」
「そうか。」
お伽噺でもあるまいし、人魚なんてこの世に居る訳がないと思ったヨハンは、ルドルフの言葉を鼻で笑った。
しかし、彼はルドルフの快気祝いのパーティーが行われた船上で、人魚の姿を目にした。
その人魚は、ルドルフの心を“殺し”去っていった彼の恋人と瓜二つの顔をしていた。
「お前は・・」
(嗚呼、ここへ来ては・・あの人に会いに来てはいけなかったのだ。)
アルフレートは、ルドルフに“叶わぬ”恋をしてしまった。