井頭山人のgooブログ

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

私の方程式はなぜ私より賢いのか?

2019年12月23日 19時17分33秒 | 数学と哲学

  以前にも同様のタイトルで、10年ほど前にヤフーブログで書いた記事があるが、全て消えてしまったので、もう一度、思いだしながら、その主旨を書いてみたい。この言葉はイギリスの物理学者P・ディラックの言葉であると、彼の伝記か手紙を書いた本の中にあったと思う。仮にこのテーマを(ディラツク方程式は自然の必然性と出会えるか?)としても、云おうとしている事柄は同じである。方程式の様な感情を抜きにした、一種の公理的合理は意外な物を示唆する事が有る。自然の物事と云う物は、多くは対称的な性質を持ち、そのような原則で法則も構成され出来上がっており、片務的な現象は希である。-の電子の他に+の電子が有れば自然は対称性を持つ事に成る。この様にして自然が構成されて居る事を知る時では生物の世界はどうか?という疑問が浮かび上がるのはごく自然なことだろう。純粋な物質世界はこの様な対称性に基づいた構成の原理に拠って創られているが、では生命体はどうであろう。

生命という自己保存と増殖のサイクルを持たない、いわゆる物質は対照的な構成原理を下敷きに出来上がっており、当然だが生命体の構成の原理とは異質の物の様な気がする。とは言え同じ構成の原理が働いて居る事も事実なのだ。「生命体を構成するの素材から生命体が創り出せるか?」という大きな問題が提案された事がある。あるいはその基礎を手持ちの理論から構成してみたいという試みである。それは、未だ遺伝情報の実体であるデオキシリボ核酸の構造が発見される前の事だが、ド・モルガンは「生命現象の物理学的基礎」と称する本を書いた。それ自体は生命体では無い、つまり自己保存と自己増殖を持たない物質を基礎として、生命現象の本質を何とか突き詰めて見たいという希望だろう。ド・モルガンの展望は、その後形態発生学の分野で開始されることになる。形態発生は驚くような仕組みで出来て居る。必ずしもDNAが全てを決定する訳ではない。ここの所が面白いところなのだが、DNAは構成の原理のほんの一部を任されているに過ぎない。形成された部分は独自に何らかの(この部分が今も分からない)指導原則に基づきその後の発生現象を支配する。


人間のゲノムの全てが読み込まれたのは何年か前の事だが、それで遺伝子が含む情報の意味が解明された訳ではない。核酸情報が生命体の全てを決定するとしたら、その後の神経細胞の発達や大脳の情報処理などの、より進んだ構成発達の現象が説明できない。いまこの21世紀の初めの20年間に進められる事柄は、人という哺乳類生物に関していえば、思考過程と脳科学で有ろう。そこには明らかに理論的な基礎としての数学が欠けている。今迄この様な分野の応用数学が弱いというより発達していない。無いといっても過言ではない。こういう分野はより細分化された概念を掘り続ける純粋数学とは異なり、外的自然の対象を解析分析する応用数学である。せっかくDNAという遺伝情報の物質的実体が明らかに成ったのだから、是からはその遺伝情報という言葉の意味を追求し、より生命の遺伝的な側面を予想する理論的な数学が必要になるのだろう。それを創る為に突破口を開くアイデアが今ほど必要な時はない。

自然科学の永い歴史の中では、書き下した方程式を自然なままではなくその時点の認識や要請に従い、意図的に何らかの項を付け加えたり、また引いたりした為に、最終的に示していることを見逃す事態も起こることがある。物理の方程式は数学の定理とはすこし性質が異なり、あくまでも目の前の現象を捉え、今は未知だがその知られざる、在り得る状態を説明しようとする物であって、物理の方程式は数学に比べれば恣意的な面もあり、いわば応用数学である。こっちの応用の方が好きという人も多いだろうと思います。私たち人間かんの交信には普通は言葉を使うが、人間同士の心の交流や感情の表現には言葉で十分なのですが、事、自然現象を突き詰めるには、どうも言葉による考察と云う物は、余りに定性的で厳密性に欠ける面があり、それを補完するのが数式という分野です。で、最終的に何を云いたいかと言えば、正しい方程式を立てる事が出来て、それを解くことが出来れば、人はことばで考えるよりも可成り先を見通すことが出来るという事です。これは現在の時点では人の持つ最良かつ最強の方法論だと言えることです。もっとも、将来にはこの方法以外に、もっと強力で確実な方法論が生み出される可能性は必ずあると思います。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本近現代史 | トップ | 思考の道具としての母語 »

コメントを投稿

数学と哲学」カテゴリの最新記事