“数学では最初に若干の公理前提を置いて、あとは論理に従って前提の中に含まれているものを分析し、分析したものを組み立ててゆくのであるが、我々の言語に依って考えを運んでゆく過程もかなりこれと似た所がある。勿論、数学の公理や論理は極めて簡単明瞭であり、使用される概念も明確に制定されているに反して、言語による思考の場合では、これらすべてのものが複雑に多義的であるから、一見同様な前提から多種多様な結論が生れ出るように見える。しかし実際の場合に前提の数が非常に多いから全く同一な前提群から出発するという事は実はあり得ないのである。” 寺田寅彦 (寺田の引用は全集から)
「積分」 integral
積分と称されるものは数多いが,2種類に大別される.
第1は微分の逆演算を定める積分で,不定積分がこれに当る.例えば時刻0からt までに動点が進む道のりF(t)を,動転の速度f(t)から求めることは,F(t)の微分がf(t)であるから,微分の逆演算である.微分方程式を解くことを「積分する」というのもこの見方の例である.
第2の積分は,微小な量の「無限個の和」を求める操作であり,定積分と呼ばれる.例えば,2次元の図形を無限個の線分の集まりとみなして面積を求めることが,それに当る.正値関数のグラフ
y=f(x)と直線x=a, x=b, y=0 で囲まれた図形の場合,線分{(x,y)|x=t,0≦y≦f(t)}の長さがf(t)であるから,その面積は積分
である.歴史的には,ギリシア時代のアルキメデスによる球面積の公式の導出などにこの考え方は現れている.ちなみに,積分の記号∫は和(sum)を表す s を縦に長くのばした形である.
これら2種類の積分が同じものであるということが,微分積分学の基本定理であり,その発見によって,面積などを組織的に計算する方法が確立し,微分積分学が成立した.定積分は,リーマン積分として厳密な形で定式化される.また,微分積分学の基本定理は,その多次元版である微分形式の積分とストークスの定理に一般化される.
物の「密度」(微小な部分にある物の量)が各点で定まっているとき,その総和を求めることも積分である.これは密度積分と呼ばれる.関数f(x)の重み付き積分∫f(x)w(x)dx やスティルチェス積分∫f(x)dF(x)はその例である.この見方は,測度および測度に関する積分に発展した(ルベーグ積分).ここからは,測度に関する微分(ラドン-ニコディム微分という)の概念なども誕生しており,微分積分学は別の方向へ拡張される.