トランプ大統領を倒せる民主党候補。元NY市長ブルームバーグ氏“電撃参戦”でどうなる?
大統領選ウオッチャー”町山智浩氏が解き明かす 大混戦が予想されているアメリカ大統領選の民主党候補者指名争いに、満を持して元ニューヨーク市長のブルームバーグ氏が“電撃参戦”することとなった。ブルームバーグ氏といえば、金融情報会社「ブルームバーグ」の創設者で、世界富豪ランキング12位となる618億ドル(6兆8000億円)もの個人資産を保有することでも知られる人物。
マイケル・ブルームバーグ(78)/前ニューヨーク市長
全米がテレビに釘付けとなる2月2日に開催された「スーパーボウル」でも、わずか60秒のスポットCMに1000万ドル(約10億8500万円)のポケットマネーを投じたことでも話題となったが、19日にはネバダ州の党員集会に先駆けて開かれたテレビ討論会に初登壇。ほかの民主党候補者から、経営者時代にあったとされる女性従業員に対するセクハラ発言問題や、ニューヨーク市長時代に行った黒人やヒスパニック系を狙い撃ちにした治安対策が槍玉に挙げられるなど、集中砲火を浴びることとなった……。 だが、ブルームバーグ氏が立候補を表明したことで、民主党候補者指名争いが面白くなったことは間違いない。初戦のアイオワ州党員集会では、投票結果をアナウンスするために作られたスマートフォンアプリに不具合が見つかるなど甚大な集計トラブルに見舞われたものの、最終的に38歳の俊英・ブティジェッジ氏が大金星を挙げた。
ピート・ブティジェッジ(38)/前インディアナ州サウスベンド市長
続く2戦目のニューハンプシャー州予備選は、ブティジェッジ氏を僅差で振り切った「本命」サンダース氏が勝利。22日に行われた3戦目のネバダ州の党員集会もサンダース氏が順当に勝ち星を重ねるなど、「打倒トランプ」を目指す民主党の候補者たちが、3月3日の「スーパーチューズデー」に向けて熱いデッドヒートを繰り広げているからだ。 果たして、誰がトランプ大統領の対抗馬となるのか? 今回、カリフォルニア州を拠点に「大統領選ウオッチャー」として精力的に取材を続ける映画評論家の町山智浩氏に話を聞いた。 ――最新の世論調査を見ると、サンダース氏が頭ひとつ抜けているが。 町山:サンダース氏を支持しているのは民主党支持者ではなく、民主党も共和党も嫌いな「インディペンデント」と言われる無党派層です。サンダース氏とトランプ大統領はイデオロギーの部分で対照的に見られますが、2人とも大統領選に出馬するために入党したにすぎず、「米国を支配してきたエスタブリッシュメント(既得権益層)を潰せ!」という主張はほぼ同じ。
これは、米国の二大政党制はもはや過去のもので、共和党と民主党の違いがほとんどなくなっていることを如実に物語っています。当初、支持率トップをキープしていたバイデン氏が失速したのも、前回大統領選で敗れたヒラリー・クリントン氏と同様、国民からそっぽを向かれた民主党主流派の旧態依然とした政治をそのまま引き継いでいるからにほかならない。ギャラップ社の昨年の世論調査によれば、現在の民主・共和両党の支持層はそれぞれ28%。これに対し無党派層は41%と最大勢力になっており、バイデン氏が失速するのは目に見えていた。
バーニー・サンダース(78)/上院議員
――初戦で波乱を巻き起こしたブティジェッジ氏の支持が思いのほか広がっていない。 町山:サンダース氏やウォーレン氏を支持する層は、あまりに極端に進んでしまった格差社会の解消を望んでおり、具体的政策としては富裕層と法人への課税強化を求めている。ところが、ブティジェッジ氏は富裕層への課税の累進性を高めるとは言っているものの、今の政治に不満を抱く人々を救うような経済政策を強く打ち出せていない。 ほかの候補者からも攻撃されているが、ブティジェッジ氏は世界的コンサルティング会社・マッキンゼー出身の超エリートで、ウォール街のステークホルダーそのものだからです。ただ、今のままでは「重鎮」と呼ばれる年寄りがのさばったままになってしまうので、若い彼に一定の支持が集まっているというのが実情でしょう
2人の候補者が唱えている「GAFA解体論」
――民主社会主義を標榜するサンダース氏やウォーレン氏は、GAFAの解体まで訴えている。 町山:2人の候補者が唱えている「GAFA解体論」はシンプルで、独禁法違反だから法に則って解体しろと言っているだけの話。GAFAに名を連ねるのはテック企業のプラットフォーマーばかりだが、ここに属していないテック従事者のほうが圧倒的に多く、彼らは特にウォーレン氏を支持している。 一方、ウォール街など投資筋は、GAFAが解体されれば株価を押し下げるため批判的に見ており、なかでも、株価下落でもっとも困る一人が最後に手を挙げたブルームバーグ氏です。彼の出馬理由は、第一に自由経済を蔑ろにし国家の品位を傷つけるトランプの打倒。第二に、同様に自由経済を脅かす社会主義者・サンダース氏を阻止することとしているが、本音の部分は、自らが保有する膨大な金融資産を守るために出馬したと見ていい。
エリザベス・ウォーレン(70)/上院議員
――ブルームバーグ氏に勝算はあるのか。 町山:彼の強みは富豪ランキング700位以下のトランプ大統領を遥かに上回る圧倒的な資金力と、これまでビジネスで培ったマーケティング能力。スーパーチューズデーの直前に参戦したのは、ここ何回かの民主党候補者指名争いを分析して、初戦のアイオワから戦っても意味がないことを理解しているからでしょう。 また、民主党候補でありながら、党とは距離を保ち第三極的なポジションにいるのも、民主党も共和党もプロパーの支持者が激減しているので、この層を取りにいくのは利口ではないし、ネガティブな民主党のカラーが自分についてしまうのを避けている。選挙戦略では莫大な資金を背景に空中戦を展開しており、スーパーボウル以外にも、ローカルニュースが放映される夕方5時半から7時までの間はブルームバーグ氏のCMが繰り返し流されています。
ジョー・バイデン(77)/前副大統領
――本選で戦う相手は、現職のトランプ大統領になるのは間違いない。 町山:サンダース氏やウォーレン氏の支持層は、格差が拡大するなか貧困に陥ってしまった人々で、前回、トランプ大統領に投票した層と重なる。そして、この層が現在の米国のマジョリティなのです。だから、トランプ大統領がこうした無党派層をうまく取り込んで勝利したように、民主党候補も本選に勝つには同じことをやるしかない。 つまり、今後はブティジェッジ氏やブルームバーグ氏が、サンダース氏やウォーレン氏が訴える政策をどの程度採り入れることができるかにかかってくる。ただ、ブティジェッジ氏にはその余地があるが、社会主義者を民主党から排除する目的で出馬したブルームバーグ氏には難しいでしょうね。 トランプ大統領に勝てる候補はいるのか? 雌雄を決すると言われる3月3日の「スーパーチューズデー」を見届けたい。
町山智浩氏
サンダース氏に猛追するブルームバーグ氏に注目
2月19日に開かれた候補者討論会に参加するには、民主党が指定した4つの世論調査で10%以上の支持率を得ることが条件だったが、ブルームバーグ氏はこれをクリア。18日にNPRが実施した世論調査では支持率31%で、トップを走るサンダース氏に次ぐ2位だった(19%)。今後、どれだけ差を縮められるかがカギになりそうだ。
<民主党候補>
バーニー・サンダース(78)/上院議員/支持率28.6% ピート・ブティジェッジ(38)/前インディアナ州サウスベンド市長/支持率10.3% ジョー・バイデン(77)/前副大統領/支持率17.6% エリザベス・ウォーレン(70)/上院議員/支持率12.3% マイケル・ブルームバーグ(78)/前ニューヨーク市長/支持率15.9% ※「Real Clear Politics」2/12~18調べ
<2020年 アメリカ大統領選>
【予備選】 2月3日 アイオワ州党員集会 2月11日 ニューハンプシャー州予備選 2月22日 ネバタ州党員集会 3月3日 スーパーチューズデー 7月13~16日 民主党全国大会 8月24~27日 共和党全国大会 【本選挙】 9月29日~10月22日 民主・共和両党大統領候補者による討論会(3回) 11月3日 大統領選投開票